ようこそクズヒモ男の教室へ 作:妄想癖のメアリー
もうすぐ終わるので次回はもう少し早く投稿できると思います!
それから密かに話し合いは続き、時は期末試験が終わった翌日へと移る。
今回は堀北たちを呼ばず、オレ一人で坂柳の部屋にお邪魔していた。
「本当にその作戦で行くのか? 正直言って無理があるぞ。紡が気付かないわけがないと思うんだが」
そして坂柳から提案された作戦が決行されようとしていたが、どうにもそれが成功すると思えなかったオレは苦言を述べた。
「紡君は意外と馬鹿なので大丈夫ですよ。あなたも堀北さんが襲われた時の彼の様子を見たでしょう?」
「それはそうだが……」
「だったら不安がる必要はありません。思いっきりやっちゃってください」
上機嫌に笑いながらオレの背中を押す坂柳。正直これから行うことを考えれば、彼女の様子は正気の沙汰とは思えない。
そんなオレの考えが伝わったのか、坂柳は先ほどより落ち着いたトーンで神妙に語る。
「あまり気を重くする必要はありませんよ綾小路君。そもそも悪いのは紡君なので、私たちはそれに応えただけと考えましょう」
「……そうだな」
今から行う作戦は、自分が大切に扱われていると確信している坂柳だからこそ提案できたものだろう。既に堀北の件でやらかしているオレには到底できない芸当だ。
だが、紡の抱えている『何か』を知るのに、これ以上に効果的な方法はない。
「楽しそうだな、坂柳」
「当たり前です。これで、ずっと私が知りたかったことが知れるのですから」
本来、笑顔というのは攻撃的な意味を含むらしい。
昔紡が坂柳に関してはその傾向が非常に強いと語っていたが、どうやらそれは正しいようだ。
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そして時は現在へと戻る。
斎藤が目を覚ましたのは気絶させられてから15分ほどが経過した後だった。
「うっ……」
「起きたか」
「その声……清隆君?」
まだじんじんと痛む頭を上げてその姿を見ようとするが、目隠しをされているためその姿を見ることは叶わない。
「これをお前が? ……一体どういうつもりだ清隆君」
その事実に気が付くと同時に、斎藤は自身の両手が後ろ手に結ばれている事に気が付いた。
手から伝わる感触から、相当きつく締められている事は容易に想像できる。
そして倒れた時に見た綾小路の姿。それだけで、斎藤はこの騒動の中心に綾小路が居ると断定した。
「どういうつもりだって? それはこっちのセリフだ」
「は?」
身動きの取れないまま、それでも身を乗り出して問い詰める斎藤に、綾小路は感情の見えない声で返す。
その言葉の意味を理解できなかったのか、呆けたように声を出す斎藤。
そんな斎藤に、綾小路は淡々と説明を続ける。
「お前がオレの父親と接触したことは既に知っている。これは、お前の真意をはっきりさせたかったから仕組んだことだ」
「清隆君の……?」
そう。斎藤には全く心当たりがないのだ。
坂柳や綾小路自身から聞いた話でどんな人物かは想像できるが、到底斎藤が協力するような人物ではない。
「あくまでも白を切るか……なら、こちらにも考えがある。立て、坂柳」
「こんな事をして、何の意味が「騒ぐな、早くしろ」きゃ!?」
そこで斎藤の耳に入ったのは坂柳の声。
考えてみればそうだろう。斎藤は囚われた坂柳の写真を見てここまで来たのだ。おいそれとそれを仕組んだであろう綾小路が逃がすわけもない。
むしろ、綾小路にとっては
「今からオレの質問に答えてもらう」
「質問……?」
しかし拘束されている以上下手に逆らうのは悪手。そう判断した斎藤は荒げた声を収め質問を受けることにした。
「まず1つ。お前はいつからオレを退学させようと行動していた」
「……意味が分からない。一体何の根拠で俺が清隆君を退学させようとしてると思ったんだ?」
「そうか」
綾小路が残念そうに呟いた次の瞬間、ドスッという鈍い音と共に坂柳がせき込む声が斎藤の耳に入った。
「っ!? う゛っ……」
苦悶の声を上げ、地面に倒れ込む坂柳。
綾小路が拘束した坂柳の腹を蹴り込んだのだ。
「……は?」
予想もしていなかった綾小路の凶行に、呆けたような声を上げる斎藤。
「誤魔化したり嘘をついたりしたら、その都度坂柳に一発ずつ制裁を加える。こちらは裏が取れているんだ。今お前に残された選択肢は、大人しく計画の全てをオレに話すことだけだ」
「何で……! どうしてこんな事するんだよ!? 俺がそんなこと……清隆君を退学させるつもりでいたなんて、本気で思ってんのか!?」
「オレだって信じたくはなかった。だから、せめてお前の口から話を聞いておきたい」
「……ふざけんな。やってないことを答えられるわけないだろ!」
何故か斎藤が父親と協力していると確信している綾小路と、身に覚えが全くない斎藤。
このまま話が平行線になるかと思いきや、ふと綾小路が呟いた。
「お前は知らないと思うが、つい先日オレの父親が接触してきた。卒業まで外部との接触が許されないこの学校でだ。これがどういうことか分かるか?」
実際のところそんな話は全くしていないのだが、それを確かめる方法はない。
綾小路はそのまま話を続ける。いつもは平坦な彼の声色が揺らぐのは珍しいことだった。
「そこで言われたんだよ。『斎藤紡は俺の協力者』だってな。楽しかったか? 友人ができて喜ぶオレを見るのは。お前にとっては随分と滑稽だっただろうな」
「違う! そんなっ、俺は本気でお前の事友達だと……!」
そう叫ぶ斎藤だったが、頭の中では何故綾小路がこんな凶行に至ったかを考えていた。
斎藤からすれば、この件は綾小路の勘違い。彼の父親と接触なんてしていないし、もし綾小路を退学させれば何かしらの報酬を与えると言われても受け入れるはずもない。それほど斎藤にとって綾小路という人間は大事な友人の一人なのだから。
しかし、綾小路を取り巻く人間たちの思惑から、ただの勘違いと断定することはできなかった。
(清隆君の様子から、どうしてかは分からないが確信を持っているはずだ。『俺が清隆君を退学させようと動いていた』という確信が。……クソッ、理由が分かんねぇ。茶柱先生に何か吹き込まれたのか……?)
しかし、そんな斎藤の思考は綾小路によって止められることとなる。
「ぎっ!? ……あ゛あ゛ああぁぁ!?」
バキッという乾いた音と共に、再度聞こえてきた坂柳の悲痛な叫び声。
今まで聞いたことの無い坂柳の声、しかもその原因が自身を親友と言ってくれた綾小路という事実は、いつもは鋭いはずの斎藤の思考をぐしゃぐしゃにしていた。
「何……で、どうして……こんなっ!」
「これで2回目だな。次は薬指の骨を折る」
その言葉から先ほどの嫌な音の正体が分かってしまった斎藤が飛び掛かろうと体を起こす。
しかし両手を繋がれているためそれは叶わない。
「クソが! ぶっ殺してやる! 清隆ぁ!!」
「……」
激情に駆られ、口汚く罵りながら両腕をガンガンと引きずる斎藤。
金属の配管が揺れる嫌な音が、コンクリート張りの冷たい部屋に響き渡る。
その様子を、綾小路はじっと見つめていた。特に何を言うわけでもなく、ただ静かに。
────斎藤の脳裏には、幼いころから見続けてきた坂柳の姿が浮かんでいた。
頭が良く、常に自分よりも大人であろうと背伸びをするが、結局は年相応の所が見えるような……そんな子供だった。
そんな坂柳に対し優しく、時には厳しく……そのように
体の弱い彼女を支え、時には支えられて斎藤は二度目の人生を送ってきた。……もっとも、斎藤にとっては支えられっぱなしという認識が強かったが。
「紡、君────」
そんな坂柳が、苦しそうに自身の名を呼んでいる。
今まで数えきれないほど呼ばれ、聞きなれたその声が、目の前の男のせいで辛そうに歪められていた。
「────助……けて」
その声を聞いた瞬間、斎藤の頭は真っ白に染まった。
────────────────
「あ゛あ゛あああぁぁああ!!!」
声にもならない叫び声をあげ、紡が前のめりになりながらこちらへ向かって来る。
……恐ろしい迫力だ。隣にいる坂柳も驚いた表情をしている。坂柳も見たことがない紡が本当にキレた瞬間なのだろう。
拘束しておいて良かった。暴れられたら抑えられる自信が無い。
そう思っていたが、バキバキと何かが割れるような音と共に、紡の手を結んでいた金属の配管が外れ始めた。
「おいおい……嘘だろ」
コンクリに直接ボルトで付けてるんだぞ……紡はゴリラか何かか?
とにかく予想外の事態だ。指示を仰ぐため坂柳に視線を送ると、口パクで何かを言っている。頑張ってください……だと?
「おい」
思わず声をかけてしまったが、坂柳はそれを無視するように寝たふりをしてしまった……おい! 頑張ってくださいってそういうことかよ!?
そんなやり取りをしていると、拘束を外し終えた紡が目隠しを取り地面に投げ捨てた。
「……紡」
「……」
ダメだ完全にキレてる。どうしよう。
とりあえず逃げられるとマズいので、坂柳を後ろの方へ置いておこう。
そう思って寝たふりをしている坂柳に近づく……!?
「触るな」
寒気がしたので頭を下げると、ものすごい速度で何かが飛んできた。そのまま後ろにあった壁にぶつかり、金属が割れるような音と共に地面に落下する。
よく見ると配管を止めていた金属製の金具だった。当たれば頭蓋骨にヒビが入るのは確実だろう。
「殺す気か?」
オレの問いかけに、紡は無言で拳を構えることで返答した。
完全に戦闘モードに入っている。紡もオレを倒さない限りこの場からは逃げられないことを自覚したのだろう。
「言っておくが、オレは強いぞ」
「……!」
距離を詰めて容赦なく拳を繰り出してくる紡に対しながら、オレは彼の不可解な強さについて考えていた。
坂柳が言っていたが、紡は今まで様々な種類のスポーツをしていたとは言えど
となると、
「……ッ!」
こちらから仕掛けようと距離を詰めた瞬間、それを見越していたかのような右の拳が鋭く頬を掠めた。
辛うじて躱すことに成功したが、その隙に紡はオレから距離を取ってしまった。
そしてふと気が付いたが、彼の背後にはオレの後ろにいたはずの坂柳の姿があった。
「なぁ、お前はどこで
ホワイトルームでは多種多様な格闘技の訓練も行う。そこでもオレは武器を持った数人の教官相手に1人で圧勝できるほどの実力を有していた。それぞれの分野で実力者とされている教官相手にだ。
そこでの経験から分かることだが、紡の戦闘能力は
オレに対して劣ることの無い技術と、気づかれる事無く坂柳を守れるような配置に誘導する余裕。その全てが、目の前の男が強者であることを示していた。
「それを教えて何になるんだよ」
……随分と嫌われてしまったようだ。ネタばらしした後に引きずらないと良いんだが……そうなった場合は坂柳に責任を取ってもらおう。
そこで会話は終わり、もう一度オレから距離を詰め蹴りを入れる。完全に不意を突いたつもりだったが、最小の力で右に逸らされる。
その隙に懐へと踏み込んできた紡を肘撃ちで迎撃しようとするも、加速しきる前に左の掌で抑えられてしまった。
何ともやりづらい相手だ。
紡の恵まれた体格から繰り出される拳は、『
予想外の動きに若干押されていたが、それは時間と共に変わってくる。
「!? ……っぐ!」
数発の応報の末、オレの拳が紡の鳩尾に直撃する。
急いで距離を取った紡だったが、その衝撃に耐えられず膝をついてしまった。
「諦めろ。万全の状態ならともかく、そんなボロボロの状態で勝てるわけがない」
恐らく拘束を解いたときに無理な力を使ったせいで、全身の筋肉を痛めてしまったのだろう。
最初こそ興奮から来るアドレナリンで痛みを感じないだろうが、それが落ち着いてきたせいか動きが鈍くなっている。
「……ごほっ、げほっ……諦めたら、逃がしてくれんのかよ」
「それは無理な相談だな」
そう告げると、紡は膝に手を突きながらゆっくりと立ち上がった。
「ああ、そうだよな! ……がっ!?」
発破をかけるように声を上げ向かってくる紡だったが、今になって体が動かなくなったのかバランスを崩して転倒してしまった。
「……終わりだな」
もうこれ以上動かれたら、それが原因で何かしらの障害が残ってもおかしくない、体が冷えた状態からあれだけ動いたんだ。本音を言えば今すぐにでも病院に連れていきたいところだが……
そんなことを考えていると、紡がオレの足首を掴みうつぶせの状態で顔を上げた。
「お前が……お前が、何を考えてんのか知らねぇけど……! はぁ、はぁ……次有栖ちゃんを傷つけたら、その時は、後悔させてやる」
顔を砂や涙でぐしゃぐしゃにし、絶え絶えの言葉発しながら、それでも尚濁らない意志をオレに向けて来る。
込められた力も弱々しく、その手は小さく震えていた。
……もう大丈夫だな。逃げる体力も残ってないだろう。
「……終わったぞ。何時までも寝てないでちゃんと説明してくれ坂柳」
「……は?」
両手を上げこれ以上戦う意思がないことを示しながら、後ろで聞いている坂柳に向けて語る。
自分でも驚くほどのげんなりとした声が出てしまった。
「────はぁ、一時はどうなるかと思いましたよ。ホワイトルームで格闘の訓練を行ってて良かったです」
「なん……で。どうして有栖ちゃんが……?」
「紡君に聞きたいことがあったので。綾小路君には私の指示で動いてもらいました」
「聞きたいことって……そんな、俺が有栖ちゃんに嘘をつくわけ「ええ。今まで嘘をつかれたのは女性関係のことだけですね」」
紡の言葉を遮って語る坂柳。口調こそいつも通りだったが、その声色から内に秘めた激情が見え隠れしていた。
「そんな優しい紡君は、私たちに内緒で何をしようとしてたのでしょうか? ……
「は、ははっ……何だ、そういうことか」
その言葉から事の成り行きを把握したのか、乾いた笑いを浮かべながらゆっくりと壁に寄りかかる紡。
「……で、何が聞きたいんだよ。こんな大層なドッキリを仕組んで。言っておくけど退学を諦める気は無いからね」
「ええ。あなたが一度決めた事を中々曲げない頑固な人だとは、私もよく知っています」
左手を後ろに、右手で持った杖を突いたまま器用にしゃがみ、目線を紡と合わせて語る坂柳。
「ですから、私が聞きたいのはそこに至った理由……つまり、あなたの過去についてですかね」
「……冗談キツイな有栖ちゃん。俺の過去なんて君が一番よく知ってるだろ。そんなことの為に、わざわざ傷つけられた
一瞬の間をおいてそう言い返す紡。その口調は何処か荒々しい。
「あら? いつ私が無傷だと言ったのでしょうか? どうやら紡君は何か勘違いをしているようです。そうですよね? 綾小路君」
「……頼むからそこでオレに振らないでくれ」
「ふふっ、これは失礼しました」
そう言って隠していた左手を紡の前でひらひらと揺らす坂柳。
その手を見た瞬間、紡の表情は面白いほどに歪んでいった。
「!? ……なんでっ! そんな……」
紡の目線は青く、そして痛々しく外側に折れ曲がっている坂柳の小指に向いていた。
「
そう。紡が目隠しをしている間に行ったことは全て本当のことだ。
そしてこれは、
絶望の表情を浮かべる紡に対して、坂柳は先ほどまでの穏やかな表情を消し紡に言い放つ。
「紡君? ────私は本気ですよ。貴方もそろそろ腹を括って下さい」
何よりも坂柳を大事にしている紡にとって、彼女が傷つくことは許しがたいこと。
そして、坂柳が傷つく原因となったのは、他の誰でもなく自分の隠し事のせいだったのだ。さぞかし自責の念で押しつぶされそうになっているのだろう。
坂柳は、
「ああ……。結局、こうなるのか……俺は、いつも……」
何処か諦めたかのような、そんな呟きをする紡。
そして数秒間の静寂が訪れる。
「俺の過去が知りたいんだっけ? 本当に、君が知らないことなんてあると思う?」
「少なくとも、今のあなたの反応を見れば何かあることは分かります。……そんなに、そんなに話したくないんですか? 私は、それを知るに値しない人間なのでしょうか?」
「良いよ。このまま何も言わずに帰してくれそうにないし、君達相手に誤魔化しが効かないなんて百も承知だからね」
「だけど」という言葉を強調し、オレと坂柳の目を一瞥した後続けて語る紡。
「この話がどれだけ信じられなくても、俺は何一つ嘘をついていない。だから信じてくれ」
「……分かった」
オレがそう返事するのを聞いた後、紡はポツポツと語り出した。
呪われているといっても過言ではない、凄惨すぎる過去の話を。
「────
前世バレが嫌だという感想を頂きましたが…ごめんなさい。でも彼のわだかまりを解くにはこれがどうしても必要なんです…
次回は斎藤の前世の話です。
曇らせは好きですか?
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超好き
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好き
-
嫌い