ようこそクズヒモ男の教室へ 作:妄想癖のメアリー
大変遅くなりました。テストに課題にバイトが重なって死にそうになりながら書いたので、誤字が多いかもしれません。
この話は主人公である斎藤の過去話(前世の話)になります。よう実の要素は全くないのでご了承ください!
────いつだっただろう。自分が普通とは違う家庭で育ってきたと自覚したのは。
「お母さん! みてこれ! 学校で作ったの!」
小学校一年生の時だっただろうか、学校で折り紙を作る授業をしたのを覚えている。たしか、俺が作ったのは髪飾りだったはずだ。
あまりそっち方面で器用ではなかった俺の作品は、紙を折って作ったぐしゃぐしゃの花を、安いヘアピンにテープでくっ付けたお粗末な出来だった。
「……」
母は夜の仕事をしていたためか、昼間はずっと眠っている。
普段は起こさないよう静かに本を読んでいる俺だったが、その日は自慢の作品を母に見せたかったのだろう。
住んでいた築数十年は経っているであろう安いボロアパートに、男児特有の高い声が響き渡る。
「ねぇ、おきてよっ! お母さ「うるさいっ!」うっ……」
そんなヒステリックな叫び声と共に、頬に衝撃が走る。
そのまま突き飛ばされた俺は、部屋に乱雑に置かれていたお酒の空き缶に倒れ込む。そしてガラガラとした音が辺りに響いた。
ぐったりと倒れ込む俺を見下ろしながら、母は声を震わせながら語る。
「……お母さん疲れてるの。ご飯ならテーブルにお金置いとくから」
「で、でも……分かった」
もう30年近く前の事だ。当時どんな心境だったかなんて覚えていないが、何となく想像はつく。
叩かれたことによるショックではなく、母の睡眠を邪魔してしまった自責の念が大きかったのだろう。当時の俺はそんな子供だった。
布団を頭から被り眠りについた母の枕元に、くしゃくしゃになった髪飾りを置き、そのまま俺は部屋を後にした。
────部屋を出て俺が向かった先は、徒歩数分ほど歩いた先にあるコンビニ。何か食べるものを買いに行ったわけではなく、とある人との『待ち合わせの為』だ。
預けられた子供用携帯を片手に、一週間前から楽しみにしていた約束に胸をはせていた。
「早くこないかなぁ……あ!」
駐車場で待っていると、黒い高級車が目の前に止まる。
おぼつかない足取りで助手席の前へ向かうと助手席の窓が開き、タバコの煙特有の匂いが漂った。
そしてその奥。運転席に居座っていた人物から声を掛けられる。
「久しぶりだな。ほら、早く乗れよ」
「うん!」
中でタバコをふかしているスーツを着た金髪の男。見るからに怪しい見た目をしているが、俺の実の父親だ。
ドアを開けて助手席に乗り込むと、そこからは煙の匂いだけではなく、大人の女性が使う様な香水の匂いがした。
「これから仕事じゃないの?」
「今日は休み。だから好きなとこ連れてってやるよ」
「ほんと! じゃあ……マック行きたい!」
「マックだぁ? ……まあいいけど、もっと他にないのかよ。高級焼肉とか。金ならいくらでもあるぜ?」
母と違って、父は羽振りの良い人だった。
事あるごとに『女に貢がせてるんだぜ』と自慢していたのは良く記憶に残っている。
そう。この見た目からわかる通り、父の仕事はホスト。それも最近独立したため自分の店を運営している経営者だ。
「友だちがねっ、ハッピーセットのおもちゃ見せてくれたんだ! だから僕も欲しいの!」
「ハッピーセットねぇ……まあいいや。持って帰るにしてもちゃんと隠しとけよ? あいつにバレると面倒くさいからな」
『あいつ』というのは母の事だろう。当時は何故隠さなければいけないのか分からなかった。
だがバレたら父と会えなくなると言われていた俺は、学校のランドセルや使っていないタンスの奥の方に貰ったものを隠していた。
今となっては、それがどういう意味なのか、分かるようになってしまったが。
「きょうね、学校でかみかざり作ったんだよ。お母さんにプレゼントしたの!」
そして話題は今日の授業のことへ。
「ほーいいじゃねえか。どんな反応してたんだ?」
「……でも、寝てるの起こしちゃったから叩かれちゃった……」
叩かれた頬を撫でながらそう語ると、父は額に手を置きながらため息をついた。
「かーっ! 終わってんなぁマジで。ヒス起こしすぎなんだよあいつは。第一、浮気した時だってちょっと魔が差しただけなのによー」
「昔は強くていい女だったんだけどなぁ……」と小さく語る父。先ほどのテンションはどこへやら、俺は窓から流れる景色をボーっと見つめていた。
母との昔の話をされるのは嫌いだった。薄っすらと残っている昔の優しい母や、温かい家庭を思い出して寂しくなるから。
その温かい家庭が壊れた原因が自分にあると、薄々気が付いていたことも嫌いな理由だったのだろう。
それから俺は陽が沈むまで父と様々な場所を巡って遊んだ。途中知り合いだという身なりの整ったおじさんや、派手な服装をした女の人とも話をした。父が『こいつが言ってた俺の息子』というと、皆頭を撫でて可愛がってくれた。
お酒を飲んで談笑していた彼らの話を、当時の俺は半分も理解できなかったが、不思議と父が彼らから好かれていたことには気が付いていた。
「うえっ……随分飲んじまったわ。わりぃな新島、送迎頼んじまって」
「いえ、もう慣れっこなので」
「はっ、なんだそれ」
父の経営するクラブで働いているドライバー・新島さんがそう返すと、父は嬉しそうに笑って返した。
「次は坊ちゃんのご自宅でよろしいですか?」
「坊ちゃんはやめろ坊ちゃんは。んで俺がそんな大層な扱いうけねぇといけないんだよ。なぁ?」
「う、うん……よくわかんないけど」
そんな困惑していた俺の頭を、父はわしゃわしゃと雑に撫でる。丁寧さの欠片もない雑な撫で方だったが、俺は父に撫でられるのが好きだった。
「お前も不思議な奴だよなー。あいつのとこじゃなくて俺のとこに来ればいいのに」
「でも、僕が居なくなったらお母さんひとりぼっちになっちゃうし」
俯きながらそう返すと、父は頭をぼりぼりと掻いた。
しんみりとした空気を打ち消すように、父は俺を膝の上に乗せて語る。
身長180㎝はあるであろう父の膝の上に、俺の体はすっぽりと収まった。
「よっと……じゃあ○○。今から俺の言う事をよく覚えとけよ?」
そのまま向かい合う様に俺を支えると、父はいつもの飄々とした様子とは違う、強い意志の籠った瞳をこちらに向けてきた。
「お前は俺たちの息子にしては優しすぎるからな。ちょっとは非道な人間になっても誰も文句は言わねえ」
「知りませんよ。そんなこと言って」
「お前は黙ってろ……ったく。でな? 1つ聞くけど、お前、俺の事格好いいと思ってるだろ?」
新島さんの呆れたような呟きを一蹴して、父はニヤニヤと子供っぽい表情で聞いて来た。
「うん! カッコいい!」
「よし。じゃあカッコいい父ちゃんから、一個アドバイスだ」
────そして、父は俺に一つの『呪い』をかけた。
「『
「……?」
いまいち要領の得ない様子の俺に対して、父はニヤリと笑った。
「今はまだ分かんねぇだろうけど、必ず自分のやりたいことが見つかるはずだ。それを邪魔する奴は全員消しちまえばいい。ちゃんと捕まんないように工夫してな」
当時は分からなかったが、父と一緒に飲んでいた身なりの良いおじさんは、この町一帯を拠点としているヤクザの偉い人だったらしい。
父がその地位まで上り詰めるために何をしたのか、それを察すことは容易だった。
そしてそこから同じような日々を送り、数年が経ったある日のこと。
────父は突然連絡を返さなくなった。
中学生になった俺は、休日ではあるが特に理由もなく街をふらふらと歩いていた。
家に居れば常に罵声が飛んでくるため、それを避けてのことだ。
「はぁ……ったく。ナンパでもすっかなー」
いつも通り高校生や大学生に声をかけ、ご飯を奢ってもらいながら時間を潰そうかと考えていた。
まともな大人であれば心配の方が勝るだろうが、生憎と東京の繁華街を出歩いているような人間にそんな奴は少ない。
父のことなど、とうの昔に忘れていた。
「ん……?」
だから、その姿を見たときに思い出せたのは奇跡と言っても過言じゃないだろう。
髪は黒色、派手な色のスーツではなくラフな服を着ていた。しかし不思議とそれを疑いはしなかった。
「お父さん……?」
すれ違った背中にそう呼びかける。
「ん?」
そして振り返った男の顔をよく観察する。
細かいしわ等から加齢を感じられたが、そこには確かに幼い頃憧れていた父の姿があった。
「お父さんだよね! 連絡してくれないから心配してたんだよ?」
「あー……○○か。久しぶりだな」
俺は中学生男子とは思えない程、無邪気に声を上げ父に駆け寄った。
大して父はあまり再会を喜んでいない様子。
「せっかく会ったんだからまた昔みたいにご飯連れてって────」
俺の言葉を遮るように父の携帯が着信を知らせた。
「っと悪い」
画面を確認した父は、一瞬表情を嬉しそうに緩めて携帯を耳に当てる。
「もしもし? ……分かってるって、すぐ帰るから。ちょっと昔の『知り合い』と会ってな。夜ご飯までは帰るから心配すんなって」
電話越しに誰かと話す父はとても楽しそうな様子だった。そんな父の姿は一度も見たことがない。
「……今の、誰? 何夜ご飯って」
通話を終えた父に対して、俺は無意識に質問を投げかけていた。
そんな俺に対し父は気まずそうに頭をポリポリとかいて答える。
「あー……まあ、何だ。ここじゃアレだし詳しい説明は飯でも食いながらでどうだ? 昼飯、食ってねぇんだろ?」
「う、うん」
そして父が向かったのは、高級焼肉店でもレストランでもなく普通のファミレス。
席に案内され注文を済ませると、父は右手をせわしなく動かしながら、ここ数年で何があったかを語り始めた。
「悪かったな。連絡返せなくて」
「……まぁ、心配はしたけど別に良いよ」
嘘だ。本当はただの強がり、父は当時の俺の支えと言っても過言ではなかった。
「そうか」
それを最後に父との間に気まずい沈黙が流れる。
明朗快活で生き生きとしていた父の様子は、今や見る影もなかった。
「……それで、さっき電話してた人って誰なの?」
俺としては絶対聞かなければいけない質問だった。
のし上がることだけを目標としてきた父が、あれだけ朗らかに笑っているのは見たことがない。それに、『夜ご飯』というワードも引っかかった。
────何となく、分かっているつもりだった。隠すように机の下に置いた左手、そして無くなっていた父の店から、状況を推察するのは容易だった……そのはずだった。
「
「そう、なんだ。……おめでとう」
最後の言葉は、ぐちゃぐちゃになりそうな気持ちを抑え、やっとの思いで絞り出した言葉だった。
この頃になると、母が段々と荒んでいった理由が、目の前の男にあるということは理解していた。それでも会いたくなるのが人間というものなのだろう。
そして、その男は家庭を作って幸せそうに暮らしている。思うところが無い訳はなかった。
「でも久々に会えてうれしいよ。色々話したいこともあったからさ。次はいつ頃会えそうなの?」
ただ、幸せな人間の足を引っ張るのは良くない。
夕食を家族と食べる約束をした父を長く留めておくわけにはいかないと、そう提案したときだった。
「あー……悪ぃな。俺、多分だけどもうお前とは会えないわ」
「……は?」
耳を疑った。そりゃそうだろう。あれだけ良くしてくれた父が、こんなにあっさりと別れを切り出すなんて思えなかった。
しかし現実は残酷で、呆けた様子の俺に父は続けて語る。
「何つーか、俺バツイチなの隠して結婚してるんだよ。だからこんなでけぇ子供いるとかバレたらヤバいんだよな。相手の家も結構そこらへん厳しくてさ」
「……っ!」
「連絡を返さなかったのはそういう理由もあるんだよ。だから「もういいよ」……」
父の言葉を遮り、俺は母の姿を思い浮かべながら質問を投げかけた。
「今、母さんがどんな状況か……父さんは知ってるの?」
「知らねぇよ。養育費だって一括で払ったし、それ以上世話してやる義理なんて無ぇだろ。あんな一回浮気した程度でヒス起こすような女────っ!」
我慢できなかった。……初めて、俺は父に対して怒りを覚えた。
我に返ったとき、目に映ったのは左の頬を抑える父の姿だった。
「……母さんが、母さんがああなったのはアンタのせいだろうが!? 俺が、俺と母さんが、どんな思いで今まで生きてきたと思ってんだ! そんなお前が、新しい家族を幸せにするだって? 出来るわけねぇだろうが!」
怒りのままそう言い放つ。途中店員が止めに来たことにより落ち着きを取り戻した俺は、父の方を睨みながら席に座る。
「はっ。お前、母親そっくりに育っちまったな。……1つ勘違いをしているから言ってやるが、あいつがクソみてぇな生活をしている理由が俺だけにあると、本当にそう思ってんのか?」
「……どういうことだよ」
「今はどうか分かんねぇが、あいつは常に売り上げで一位を取り続けるだけあって、顔も体も一級で頭も良い。そして男を立てるのが上手い良い女だ。……俺と別れた時もまだ20半ば。その気になりゃ貰い手だっていくらでも居る。『お前が居なければ』の話だが」
「……」
売り言葉に買い言葉と言った様子で、苛立ちを隠さずにまくし立てる父。
「いくら美人だからって言って、子持ちのキャバ嬢を貰ってくれる奴なんてどこにも居ねぇんだよ」
「それは……!」
「分かったか? お前は疫病神なんだよ。俺にとっても、あいつにとってもな」
そう言って食事代として5000円を机の上に置き、父は……いや、父だった男はその場を後にした。
「……なん、だよ……それ」
血の繋がった親子なのに、幼い頃はあれだけ優しくしてくれたのに。そんな思いは、涙をこらえて震える俺を、振り返りもせずに出て行ったあいつの様子を見て無くなった。
────結局のところ、俺は父から愛されてなどなかった。いや、愛されていたのかもしれない。
しかし、新しい家族が、子供が出来た父にとっては代替え可能な、そんなちっぽけな愛だったのだろう。
「ママ、パパ、あの人なんで泣いてるの?」
「しっ! 見ちゃダメよ」
「ほら、料理来たんだから早く食べちゃいなさい」
「やったー!」
「うっ……うぅ、ひっぐ……」
休日の真っ昼間。ファミレスには当然たくさんの家族が幸せそうに団らんの時を過ごしていた。
そんな、どうしようもなく幸せそうな彼らを見て、涙をこらえるなんて出来るわけが無かった。
結局俺は、あれだけ嫌っていた父の『呪い』の通り、数多くの女性と交際しては別れてを繰り返していた。
進学も働きもせず、金持ちの娘の家に転がり込んで毎月大量の小遣いを貰ったり、金だけは持っているが相手が居ない女性に体を売ったりしていた。
そうして食い扶持を繋ぎ、日銭を稼いでいたとある日のこと。俺は行きつけの居酒屋にて、とある女性と出会った。
「ねね。お姉さん今暇?」
「……何?」
真面目そうな雰囲気だな。第一印象はそんな程度のものだった。
金曜の夜に1人でこんなところに来る固そうな女なんて、どうせひとり身に決まっている。
「おいクソガキ。テメェまたお客様ナンパしてんのか? いい加減出禁にするぞ」
「えー、出禁は勘弁してよー。俺この店の料理好きだし、成人して初めての酒はここで飲むって決めてるんだからさ」
「……っち。あんまり騒ぐんじゃねぇぞ」
ほぼ毎週1人で来る俺のことを、何となく察していたのかは分からないが、ここの店主はチョロかった記憶がある。
「ごめんね騒がしくて。この人口は悪いけど良い人だから」
「……君、未成年なの? 何で1人で居酒屋なんかにいるのよ」
「まま、それは置いといてさ。俺も一人で暇だし一緒に食べようよ」
「別に、私と話しても面白くないと思うんだけど」
感触としては悪くない。相手も一人で飲んでいるとき、顔の良い男に話しかけられたら気にはなるだろう。
未成年ということがバレてはいたが、そこは程よく回ってきた酔いで何とか誤魔化せてる。
「大丈夫大丈夫。店長! オレンジジュース頂戴!」
「ぷっ、何それ。ナンパして頼むのがオレンジジュース?」
「だって俺17だし、俺だってビールとか飲んでみたいよ」
「ふーん。見た目より若いのね。言われなきゃ未成年だって分からなかったかも」
ぱっと見で未成年だとバレると補導されちゃうからね。身長も高かったし、案外ちゃんとした服装をすればバレないもんだ。
────それから色々と話してみたが、話しかけた女性・
清楓さんは幼くして母親を亡くし、父親と2人で暮らしていたらしい。高校卒業を機に就職し、事務職として都内で勤務しているそうだ。
「私としては大学行きたかったんだけど、お父さんが許してくれなくてさー。酷くない!? 『女は大学なんか行かずに就職しろ!』って! 思考が昭和なのよ思考が!」
「ね。そんなこと言う人今時殆ど居ないのに」
固そうな女だという第一印象は、話して10分ほどで消えてなくなった。
酔いが回っているというのもあるだろうが、話してみると意外とよく喋る。ジョッキに半分ほど入ったビールを一口で飲み干し、ブンブンと上下に振っている。
「せっかく勉強頑張って良い高校通えたのに、友達の中で私だけ進学せずに就職! 進学してたら今頃サークルの皆と楽しく飲み会して、男だって……っもう!」
そしてその内容のほとんどが会社や父に対する愚痴だった。よほどストレスが溜まっているのだろう。
いつもならここで聞こえの良い事を言って慰めるのだが、その前に清楓さんは持ち上げたジョッキをスッとテーブルに下ろし、小さく語った。
「……でも、あんなこと言ったけど。お父さんあれで結構優しいとこあってさ。本当はお金が無いから行けないのに、私が死んだお母さんを恨まないように、わざとああいう風に言ったんだよね」
正直、奨学金等を借りれば進学なんていくらでも出来たはずだ。話を聞く限りそう思っていたのだが、どうやら進学を選ばなかったのにはまた別の理由もあったようだ。
「私のお父さん、家に代々伝わる格闘術?の道場の先生やってるの。お母さんともそこで出会ったんだって。ウケるよね、こんな平成の時代にそんな有名な奴でもないらしいし」
名前を聞いて見たが、初めて聞くものだった。その口ぶりから経営も上手く行ってないことが想像できる。
「だから生活苦しくてさ。私が稼いであげなきゃ!って感じ?」
年上の人間に対して抱く感想ではないと思うが、何と言うか……彼女はとても偉かった。
正直稼ぎは俺の方が倍近くあっただろう。複数の物好きな女性と愛人契約を結び、同世代の学生が行うバイトなんかとは比べ物にならない額の金銭を貰っていた。
────しかし、俺はそのお金を一銭たりとも母に渡すことは無かった。その上知人のコネでアパートの一室を借り、家にはもう一年は戻っていない。
「……凄いね。今はお父さんと暮らしてるの?」
「うん。昔は門限とか凄い厳しかったんだけど、最近は全然口出さなくなっちゃった」
そしておもむろに時計を確認する清楓さん。
「……って、やばっ! 終電もうないじゃん……はぁ、まあいっか。店長さんお会計お願い!」
そう清楓さんが手を挙げている隙に、手元に置かれた伝票を確認する……結構飲んだな。大分話が弾んだからかもしれない。
「……俺奢るよ。こう見えて結構手持ちあるからさ」
初めてだったかもしれない。自分から食事を奢ると言ったのは。
理由は分からなかったが、何となく清楓さんに払わせるわけにはいかないと、そんな思いがあった。
「ばかっ 子供が格好つけないの! 私が払うから」
「いや、でも「でもも何もありません! このくらい全然平気ですー」……分かった」
結局押し切られてしまった。
そしてそのまま2人で店を後にする。そして少し歩いたところで、清楓さんはおもむろにため息を吐いた。
「はぁ……私何やってんだろ。こんな小さい子に愚痴聞いてもらって」
「いや、別に俺小さくないよ? 背だって180はあるし」
「ぷぷっ、そういう所が子供っぽいって言ってるの」
「……」
普段ならこんなに意地を張ることも、恥ずかしがることもなかっただろう。
しかし、この人と喋ると何故か仮面が剝がされるのだ。『女好きのヒモ男』という仮面が剥がされ、素の自分が表に出てくるようになる。こんな事は初めてだった。
「ま、楽しかったけどね。君と話すの……タクシー代はちょっと痛いけど、これもまた人生! って感じ?」
酒の影響か、頬を赤らめてそう語る清楓さん。そんな彼女がどうしようもなく魅力的に見えたのだろう。気が付けば俺はこんな提案をしていた。
「じゃあ俺の家泊まってく? こっから歩いて5分かからないけど」
「えっ……」
俺だって驚いている。何故なら俺は金持ちの女性としかそう言った関りを持たないからだ。
数千円の居酒屋の支払いですら罪悪感が湧くのに、酒に当てられた影響だろうか。
「あ、あはは……冗談キツイよ君。あんまり大人をからかっちゃメッ、だよ?」
一瞬驚いた様子を見せたが、清楓さんはあくまで余裕を見せながら丁重に断った。目が泳いでいる辺り隠しきれていないが。
そんな彼女の態度に悔しさを覚えた俺は、清楓さんに一歩近づき彼女を見下ろす。
「な、何? 顔、ちょっと怖いよ? ────んんっ!?」
……一応弁明しておくが。これは若気の至りという物だ。流石の俺でも言質を取る前にキスなんてするわけない。
突然だったからか腰が抜けてしまう清楓さんだが、抱き寄せながら腰に手を回すことで支える。
「……君、ホントに高校生?」
「学校は通ってないけど、一応ちゃんと17です。で、どうですか? 俺は本気ですけど」
「……お手柔らかに、お願いします」
────そしてその日から、俺は清楓さんと付き合うこととなった。
約10年後。俺が無残に刺されて死ぬ、その時まで。
めっちゃ長くなりそうなのでいったん切ります。
見ていて思った方もいるかもしれませんが、ホスト時代の斎藤の父親は言動共に龍園にちょっと似ています。彼がはっきりと『嫌い』だと明言しているのには、堀北に対して行ったこと以外にもこのような理由があります。
裏話として、父親の資金繰りのために、幼い頃の斎藤がヤクザのおっさんに体を売る話を入れようかと思いましたが、前後の整合性を取るのが難しかったため辞めました。
前回の話で非常に賛否両論別れましたね…勘違いなさっている方が多いので説明しますが、斎藤の前世によう実という作品はありません。
なので原作の展開を知っている的な展開にはならないので安心してください。
曇らせは好きですか?
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超好き
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好き
-
嫌い