「兄ちゃん、今日は夜勤?」
「おー、だからメシはお前でやっててくれ」
自宅で朝食を取りながらダイゴはノリカに言った。焼き鮭と白米と味噌汁とどれもノリカの好物である。
「わかったー。兄ちゃん、また会えるといいね」
「? 誰とだよ?」
「イザナって人」
「ブフッ」
ノリカの発言にダイゴは牛乳を吹き出す。
「な、なんでだよ!?」
「兄ちゃんの歌褒めてくれたっしょ? 歌ったらまた聴きにくるんじゃない?」
「ゴンドラ乗らない奴に聴かせてもしかたねえだろ! 営業妨害だっての!」
ダイゴは少し慌てるのだった。
※
エマの投資している会社のひとつに『姫坂コーポレーション』というネオマリーナシティを本社におく企業がある。450年前に出来たインフラ設備や建築技術、AIシステムを提供する企業で地球が400年前に海に沈んでからの世界を支えた組織のひとつである。
エマは姫坂コーポレーションの使われていない来客室にいた。彼女の交わした取引は表向きにできないものだ。本社ビルの裏から専用のパスで入りそこにいた。
「どうだった? クストーデの仮面ライダーは?」
エマの目の前のソファに座っている男、カラン・カトウは問う。彼こそがエマを仮面ライダーにし、アーカイブを回収させようとしている人物で、姫坂コーポレーションの専務にして現社長の孫である。
「結構強かったです。ただのゴンドラ乗りかと思ったけど戦闘に慣れてたよ。それに、クラーケンもやばいと思いました……やっぱりアレを頼んでもいいですか?」
素直な感想をエマは言いつつ、エマはカランに頼みを申し出る。
「ああ、やっぱり必要になったね。君の戦闘と回収をサポートするためのもう一人の仮面ライダーが……うちの社員から目ぼしい人をリストにしておいたよ」
カランはエマにタブレットを渡す。姫坂本社に所属している適性のある人物たちのデータをエマは見る。老若男女、既婚未婚問わず様々な人物がいた。
「君がよさげだと思う相手を選んでいいよ」
「ああ、ありがとうございます。一人一人どんな人か見ていきたいのでちょっと時間かかりますけど」
「拘るねぇ」
「世界一の宝石のためです。妥協なんてできません」
「そうだったね」
エマの宝石に対する欲望はカランを内心ほくそ笑むのだった。
※
「支部長、ミキヤさんのベルトまだメンテ終わってないんすか? ギガメガ呑気すぎません?」
ゴンドラステーションでの書類作業中、ダイゴはスズキにミキヤのベルトについて問う。
「俺は大丈夫ですけど、ダイゴだけじゃ負担も多いですもんね」
その隣にはミキヤもいた。
「確かにな。ダイゴ一人じゃさすがにキツイって連絡したけど、まだだって言われたよ」
スズキもミキヤのベルトがまた戻ってこないことをぼやく。
「ベルト開発した奴が結構曲者らしいんだよ」
「??」
スズキの溜息の意味をダイゴはわからなかった。
「それより、また追加業務になるんだが……」
「なんすか?」
「モンスターキーの回収とそれを使って怪物になった人間との戦闘もうちの業務に正式に追加されたぞ」
スズキは浮かない顔で追加された業務を語る。モンスターキーを使ってアンロッカーになった人間との戦闘もダイゴやミキヤの仕事になったのだ。
「一応訊いておくがお前ら、いいか?」
スズキはダイゴとミキヤに問う。ダイゴとミキヤの答えは決まっていた。
「ギガメガもちろんっすよ! お得意さんだけじゃなく船を漕ぐ海を守るのも、ゴンドラ乗りの仕事ですから!」
「そうですよ。危険なのは海に関わる仕事を選んだ時点で覚悟できています。それが少し増えただけです」
「お前達……」
二人の思いをスズキは知り、少し圧倒される。
「そうだったな。それを聞けてよかった」
※
夕方になるとダイゴとミキヤはゴンドラを漕ぐ。夕方は小学生達が何人かが集団下校する時間帯であり、その小学生達を自宅近くの停留所まで送るのも二人の仕事だ。彼らを乗せて各自仕事をこなす。
「――お兄ちゃん達じゃあねー!」
「ありがとねー!」
「おっー! 足元とクラーケンに気をつけて帰れよ!」
停留所に到着しゴンドラから降りた小学生達をダイゴは見送る。ミキヤも見送っていた。
「あの子達えらいな。毎日船に乗って通学してて」
「そりゃ俺達の街じゃ当たり前っすから」
「当たり前、か……」
「? ミキヤさん?」
ミキヤの表情がどこか浮かないようにダイゴには見えた。
「いや、モンスターキーがああいう子供達の手にも渡ってしまうのかもと少し思ってな」
「あ! そうだ! ギガメガ可能性ありますよね!」
「ダイゴが助けた男といい、出所がわかればいいが……」
二人がそう話していると、
「わあああっ!!」
「きゃああ!!」
悲鳴が聞こえた。
「な、なんだ? クラーケンか?!」
「でも注意報も警報も出てないぞ」
ダイゴとミキヤはゴンドラから降りて悲鳴が聞こえる方向に走る。
「! あれは!?」
近くの広場に行くと、そこにはクラーケンではない存在がいた。
大きなカマキリのような人間がいる。
「あれが、モンスターキーを使って怪物になった人間?!」
「スズキ支部長! Gエリアの広場にモンスターキーを使ったと思われる人間がいました」
驚くダイゴと驚きつつもスマートフォンでスズキに連絡するミキヤ。
『出やがったか。ダイゴ、変身して決めてくれ。モンスターキーで怪物、アンロッカーになった奴は仮面ライダーの装備での攻撃じゃないと人間に戻せねえ』
ミキヤは電話口で対処方法を伝える。
「あれ人間かよ!?」
ダイゴには怪物、カマキリ・アンロッカーが元は人間だったとは思えなかった。
「ブシャあああ!!」
カマキリ・アンロッカーは火を噴いて周囲の木々を燃やす。それを見て周囲の人間は驚き逃げ出す。
「なんでカマキリが火噴くんだよ! みんな逃げろ!」
ダイゴは周囲の人間達に叫び誘導する。
「放置してたらギガメガにやばいぜ! ミキヤさん、避難誘導を頼みます!」
「ああ!」
ミキヤは周囲にいる逃げ遅れた人々を誘導する。
ダイゴはベルトとフロッピーディスクを取り出し、ベルトを装着しディスクを差し込む。
「変身!」
ダイゴはアテランテに変身する。ハープーンを出し、カマキリ・アンロッカーに向かっていく。
「俺達の海、荒らしてんじゃねえぞ!」
ダイゴはカマキリ・アンロッカーを止めるべく交戦する。カマキリ・アンロッカーは両手の鎌でハープーンを受け止め、ダイゴとカマキリ・アンロッカーは打ち合いになる。
「これって倒したら変身した人間はどうなるんだよっ?」
そう思っていると、スズキからの通信がライダースーツに直接入る。
『心配するな、怪人状態で仕留めれば体内からモンスターキーは出てきて使用出来なくなる。ただの攻撃じゃ動きすら止められないと報告もある、思いっきりやれ!』
スズキはダイゴに指示する。
「あざっす支部長! ギガメガ本気で仕留めます!」
ダイゴは素早く動き、一旦カマキリ・アンロッカーから離れる。ダイゴはベルトのフロッピーディスクを取り、裏返しに刺しなおす。これが必殺技の条件だ。
『アテランテ・ファイナルアタック!!』
ダイゴの周りに水が出現し、噴水のように高く上がりダイゴを持ち上げる。
『アテランテ・マリンスプラッシュ!!』
「仕留めてやるよ!」
ダイゴはそのまま、カマキリ・アンロッカーに向かってキックを決める。
――ドシャアアアア!!
「ブシャああああ!!!」
カマキリ・アンロッカーはダメージを受ける。ダイゴが地面に着地すると同時に、カマキリ・アンロッカーからモンスターキーが出てきて、それは使用不能になる。アンロッカーだった存在は元の普通の女性に戻る。女性はそのまま倒れる。
「大丈夫ですか!?」
それを見てミキヤは女性に駆け寄り保護する。ダイゴは地面に落ちたモンスターキーを拾う。
「これが俺達の海を荒らしてるのか……」
ダイゴはベルトを外し変身を解除する。使用者を怪物にするだけでなく、周囲の人間にも被害を及ばせるそれは警戒するしかない。
続く