エマはある女を尾行していた。自分の戦いをサポートさせる人物の候補である女を。カランに提示された人物達を一人一人を見て選びたいのだ。自分が求める宝石を手にするために。
「えっと、あれは……ナツメ・クサカベって言うのね」
ビルの多い地区を歩くナツメ・クサカベという女からやや離れて歩くエマ。眼鏡をした妙齢のどこにでもいるように見える女だが、エマは気になってしまう。数日彼女を追うことにした。
※
ゴンドリエーレにも休息の日はある。ダイゴの場合、休日はギャラクシアガイに纏わる事に使っている。今日は数量限定かつ店頭のみでしか扱わないギャラクシアガイのフィギュアを買いにホビーショップにいた。いつもの制服ではなく黒シャツに赤いジャケットに茶色のズボンという私服姿だ。
「今日のフィギュアはネットじゃ買えねえのと、もう生産予定が無い種類だからなぁ……あ! あったっ!」
ぽつんと台に置かれたお目当てのフィギュアの箱を見つける。それに手を伸ばそうとしたのはダイゴだけではなかった。
「「あっ」」
ダイゴと手が重なったのは小学校低学年くらいの少年だった。
「「……」」
ダイゴと少年は静かに睨み合った。そして……その手を退けた。
「ほら、取れよ」
「う、うん」
フィギュアは少年のものになった。
※
ダイゴはフィギュアを購入した少年と店を出る。ダイゴは少年のリュックにあるギャラクシアガイのストラップを見る。
「! なあ、それどこに売ってるんだ?」
「姫坂のビルの近くのコンビニのガシャポン。シャドウが出ないからまた今度行くんだ」
「シャドウってエメラルド・シャドウ?」
「うん」
エメラルド・シャドウとは『ギャラクシアガイ』に登場するもう一人のヒーローでこちらも人気のキャラクターだ。
「お兄さんはギャラクシアガイ好きなの?」
「おう! お前もか?」
「うん! あ、でもガイよりシャドウのが好きだよ」
少年はエメラルド・シャドウの、右手を高く上げ素早く降ろし目の前の相手に指を差すポーズを取る。
「『我が激情は惑星をも砕く!』」
「おお! それシャドウのポーズとセリフか! うまいな!」
ダイゴもギャラクシアガイの、くるりと周り歌舞伎のようなポーズを取る。
「『大銀河の神が俺をこう呼ぶ! ギャラクシアガイと!』」
「お兄さんもうまいね!」
ダイゴと少年は店の近くの広場のベンチに二人して座る。
「シャドウはね、普段はそっけないけどいざって時は強くてかっこいいんだもん!」
「確かになー! あれはギガメガツンデレだぜ」
「26話でガイが負けて落ち込んだ時は黙ってそばにいてくれたとこが好きなんだ」
「そうなんだよ! お前若いのによく見てるなぁ!」
互いにシンパシーを感じた少年とダイゴはギャラクシアガイとエメラルド・シャドウについて長く語り合う。
「――そういやまだ名乗ってなかったな。俺はダイゴ・レガシー。お前は?」
「ボクはケンジ。ケンジ・クサカベ。小学一年生」
「その年でギャラクシアガイを知ってるってなかなか通だな。十年も前の作品だぜ?」
「去年やってた映画見て好きになったんだ~。こないだテレビでもやってたの」
「俺もあの映画も好きだ! 新規にはあれがぴったりだな!」
これがダイゴと少年、ケンジ・クサカベとの出会いだった。
※
ナツメ・クサカベは姫坂コーポレーションの受付嬢だ。本社ビルに来る来客を案内したり電話を取ったりと一般的な事務作業が中心だが時には本社ビルを出て最寄りのゴンドラの止まる停留所まで行き来客を迎えに行くこともある。今がその時だった。
「確かお客さん、まだゴンドラで向かってる途中だよね……?」
ナツメは急ぎ足で向かう。その時、視界にあるものが入った。
「!?」
一人の少女が運河に落ちて浮かぶ帽子を取ろうとして、歩道から身を乗り出そうとしている。柵を掴んでいる手は今にも外れそうだった。そしてその手は外れた。
「あ、危ない!」
危険を感じたナツメは少女に向かって走り、近寄りその腕を掴み少女が運河に落ちるのを止めた。彼女を全身で受け止め、仰向けに倒れる。
「あば!」
ナツメは、少女を助けた。
「あ、あなた大丈夫!?」
「う、うん。ごめんなさい……」
ナツメと少女は立ち上がる。
「危ないでしょ身を乗り出したら!」
「だって帽子が」
ナツメが少女に注意すると同時にそこにゴンドラの長いカヌーが伸びる。そこには少女の落とした赤い帽子がかかっている。
「あ、これ……」
それは少女の帽子だった。
「この帽子であってますか?」
カヌーを伸ばしたのはゴンドラに乗ったミキヤだった。
「うん! ありがとう!」
少女はカヌーの帽子を取り被る。
「よかった。その人にもお礼言うんだよ」
ミキヤはナツメに視線を送る。
「ありがとう、それから、危ないことしてごめんなさい……」
少女はナツメにも礼を言い謝る。
「えっとっ……今度から気をつけてね?」
礼も謝罪も予想してなかったナツメはやや戸惑う。少女はそのまま帰っていった。
「すみません、お手数をかけてしまって」
ナツメは柵越しのミキヤに頭を下げる。
「いえいえ。知らない子に注意出来る人なんてなかなかいないですよ」
「そ、そうでしょうか……」
ミキヤはナツメを立てる。ナツメはまだ戸惑ったままだった。
それを、エマ・タカハシは離れた場所からじっと見ていた。
――判断も動くのも速いわね。しかも度胸もある……アイツがいいかも
エマの中である事が決定した。
※
「うあああ……」
数時間後。姫坂コーポレーション本社ビルの受付窓口にナツメはいた。仕事でのアクシデントで深く落ち込んでいた。下を向いて両手で顔を塞いでいた。
「あんた、何してるのよ?」
「お客様を迎えに行くのに遅れて、怒られちゃいました……」
問われた質問にナツメは返す。停留所に迎えに行った来客と上司に遅れたことを叱られ、ナツメは落ち込んでいた。事情を知るミキヤがフォローをしてくれたが、引きずってしまう。
「って、え?」
ナツメは話しかけてきた人物の顔を見ようと自分の顔を上げる。目の前に一人の女、エマ・タカハシがいた。
「……えっと、ご用件は?」
ナツメは客人だと思い、眼鏡を直し切り替える。
「アンタの名前、ナツメ・クサカベよね?」
「? そうですけど、私に何か?」
「アンタにちょっと要件があってね」
「私に? あのお名前は?」
「エマ。エマ・タカハシ」
エマはナツメに名乗る。
「アンタに私の仕事をちょっと手伝ってほしいのよ。よっと!」
エマはあるものを取り出し、ドンとナツメに見せる。それは、仮面ライダーのベルトだった。
「? ベルト?」
「そうよ。これ、あんたに使ってほしいのよ」
ナツメはエマが何を自分にさせたいのか、わからずにいた。
※
「ミキヤ! お前のベルトがやっと戻ってきたぞ!」
同時刻のゴンドラステーション内。スズキはミキヤにベルトの入ったケースを渡す。
「ようやく来ましたか!」
「今日ダイゴ非番だったからどうなるかと思ったよ」
ミキヤは渡されたケースを開く。そこにはダイゴの使用するアテランテのベルトと同じ性能を持つオレンジ色のベルトがあった。
「よかったです」
ミキヤはベルトを確認し、ポケットから自分の白いフロッピーディスクを出す。それが彼の仮面ライダーの証だ。その時、警報が鳴った。
『Dエリア23に中型のクラーケン出現! 仮面ライダー出動要請!』
「おわ! すんごいタイミング!」
スズキはベルトを渡した瞬間に鳴った警報に驚く。
「俺行きます」
「ああ、早速だが行ってくれ」
ミキヤをスズキは見送る。
ミキヤは自分の専用のバイクに乗り走り出す。それと同時に緊急時にのみ上がる車道が運河から現れる。現場に向かって進む。
※
「ぐじゃああ!」
Ⅾエリアでは中型のクラーケンが暴れている。人々はそれを見て逃げ出す。そこに一台のバイクが走り込む。そこにはミキヤが乗っていた。
「それ以上はさせない! その身は海に返してやれ!」
ミキヤはバイクを降りて自身のベルトとフロッピーディスクを出す。
「俺の楽園を荒らすなよ。変身!」
『システムコード・ヒイラギ!』
ミキヤは装着したベルトにフロッピーディスクを差し込む。するとオレンジ色の風が彼を包む。そしてミキヤは白とオレンジの戦士、仮面ライダーヒイラギに変身した。
『エレガント・ヒイラギ!』
ヒイラギになったミキヤは銃や弓矢を出し、クラーケンを打ち抜く。一時的に動けなくなったそれを弓で殴る。クラーケンは足でミキヤを殴る。ミキヤを地面に叩きつける。
「どわ!」
クラーケンはミキヤを投げると運河に向かって動き出す。
「逃がすか!」
ミキヤは弓矢に自分のフロッピーディスクを差し込む。
『ヒイラギ・ファイナルアタック!』
ミキヤは弓を強く引いて大きく鋭い矢を放つ。
『フラワーアーチスプラッシュ!』
矢は花びらをまき散らしながら素早く鋭く、クラーケンを射る。クラーケンは爆破し消滅する。
「駆除完了……」
ミキヤはクラーケンの駆除を確認すると、変身を解除する。
「前よりパワーが上がってたな。メンテに時間がかかるわけだ」
※
「ミキヤさんのベルト、ギガメガパワーアップしてたんすね! 支部長から聞きました!」
翌日。ゴンドラの停留所で非番明けのダイゴがミキヤに問う。
「ああ。前より使いやすくなっていた。やっとまともに戦える」
「助かったっすよ! ここんとこずっと俺一人で大変でしたし」
ダイゴとミキヤはそれぞれのゴンドラを止めて客を待っていると、一人乗り込んできた。
「Fエリアの図書館前まで乗せてくださーい! あ!」
「お、ケンジ!?」
ダイゴのゴンドラに見覚えのある少年、ケンジが乗り込んできた。
「ダイゴ!?」
「知り合いかい?」
ケンジをミキヤは見る。
「おっす、昨日たまたま出会ってギャラクシアガイについて語り合ってました!」
「うん!」
ケンジは笑顔でダイゴのゴンドラに座り、背負っていたリュックを膝上に置く。彼の持っているリュックがダイゴは気になった。
「? ケンジ、それエメラルドシャドウのエンブレムだよな? そのリュックどこにあったんだ?」
シンプルなリュックに目立つ緑の宝石のマークをダイゴは指差す。
「うん! これボクのお母さんに作ってもらったんだ」
「おお! 推しモチーフのリュック作れるとかお前の母ちゃんギガメガすげえ!」
「えへへ」
ダイゴに母を褒められケンジは誇らしくなるのだった。
※
「ただいまー!」
「あら、ケンジお帰りぃ」
その日の夕方。帰宅したケンジを出迎えたのは母のナツメだった。
「今日ね、ボクの友達がお母さんの作ったリュック褒めてくれたんだよー。すごいって」
「え? そうなの?!」
ナツメはケンジに今日の出来事を聞かされ、少し照れる。そこに来たのは、
「ただいま。ナツメちゃん、ケンジ」
仕事から帰宅したナツメの夫でケンジの父、ヒデオだった。
「あ、お父さんおかえりー」
「お帰りなさーい、ヒデオくん」
ヒデオをケンジとナツメは笑顔で出迎えるのだった。
続く