追記2022.11.17 AIピカソに描いてもらった挿絵を追加しました
Prologue・ある人の記録
西暦2050年の春先にそいつらは現れた。
地底には独自の文明と住人がいたことを地上の人類達は知らなかった。地底世界からの民『グランテ』は地上世界に突如として現れ、地上を制圧していった。
グランテの当時の皇帝は彼らの科学技術の結晶にして悪魔の兵器『アンデルセン・アーカイブ』の力で地上の世界を塗り替えた。
「アーカイブよ! 地上の民達に力を示せ! この星を海に沈めよ!」
皇帝はそう叫ぶと、地上の水位が急上昇し大陸が沈み人の立てる大地は減っていった。地球の大陸の多くが沈み星の97%が海と化した。
地上の人類はグランテと戦いつつも、自分達の文明を継続させていった。海底や上空、海上に都市や国家を設置し人類は生き抜いていった。多くの犠牲を払いながらも……
それから400年の月日が経過しようとしていた……
――とある男の手記から
Act.1 水の都を守る者
西暦2450年。水位上昇により大陸のほとんどが海に沈み、地球は「水の惑星」となっていた。人類は海上、上空、海底に都市を建ててそこで生活していた。400年の経過でグランテの影響力は低迷していったがまだまだ警戒されていた。
ネオマリーナシティ。かつて日本のあった海域にある海上と海底に設置された大都市。海にビルや家が浮かんだような街並みが広がる『星下区』と海底に作られた地域『アクアリウム』でという二か所で構成されている。『星下区』にはある職業があった。
星下区は海の上に建物が建設されているがゆえに道路や歩道がほとんど無く、代わりに運河があり、住人らは船で移動していた。建物同士を繋ぐ橋があったり低い建物の上に道路はあるが、移動手段としてはそれが多かった。彼はその船を漕ぐ者の一人だ。
青い髪をした彼はゴンドラを漕ぐ。そこには子供が数人乗船していた。その時、強い風が吹き、そのうちの一人の少年の被っていた帽子がふわりと宙を舞った。
「わっ!」
少年の帽子は水の上に浮かんだ。ゴンドラを漕ぐ彼はそれにすぐ気づき、ゴンドラを止めオールの先で帽子を救い上げた。
「よっと!」
帽子はオールに当たりまた宙を舞い、落とした少年の頭にストンと戻ってきた。
「わぁ……ありがとうお兄ちゃん!」
少年はゴンドラを漕ぐ彼に礼を言った。
「おう! この辺は時々強い風が吹くから気をつけろよ!」
ゴンドラを漕ぐ彼、ダイゴ・レガシーは少年に笑いかける。彼は星下区の生命線である船ゴンドラを操縦する者、ゴンドリエーレの一人だ。
「おっし、着いたぜ。もう降りていいぞ!」
「「はーい!!」」
目的地の小学校近くの停留所に止まると少年達は降りて小学校に向かっていく。ダイゴはそれを見ていた。
「よっし! 次はBエリアで……」
「ダイゴー!」
ダイゴが次の現場に向かおうとすると、別のゴンドラがやってきた。
「あ、ミキヤさん! お疲れ様っす!」
別のゴンドラに乗っている男の顔をダイゴは見る。ゴンドリエーレの一人、ミキヤ・アオヤマだ。
「到着しました」
ミキヤは自分のゴンドラを停留所に止めて女性客達を全員降ろす。
「よかったねぇ」
「ミキヤさん、素敵だったわ!」
女性客らはそう言って降りて行った。
「ミキヤさん相変わらずギガメガ人気ですよね!」
ダイゴはミキヤのほうを見る。ミキヤは容姿端麗で確かな腕前で、ゴンドリエーレとしての女性人気が高い。
「俺は当たり前の仕事をしてるだけだよ」
「それが良いんじゃないですか」
「俺も次はBエリアだ」
「じゃあ一緒に行きましょ!」
二人はそれぞれのゴンドラを漕ぎ、次の現場に向かう。
ゴンドリエーレとは、星下区の運河を行き来し、市民の交通や荷物の運搬を補助するゴンドラの漕ぎ手達のことだ。彼ら無くして海上の市民の生活は成り立たない。
「そういや中央のほうで車道の建設、もう工事が終わってるですよね?」
「ああ。救急車や急ぎの荷物を積んだ車を走らせないといけないからな」
「俺なんだか複雑っすよ。便利になるのはいいですけど、俺達ゴンドラ乗りのいる意味が無くなっていくみたいで……少し寂しいです」
ダイゴは漕ぎながらぼやく。ミキヤはそれに頷き、語る。
「確かにな。海は豊かさと美しさをくれるが、時には人の道を阻むものにもなる。スズキ支部長がよく言っているだろう?」
「そっすわなぁ。人命や生活には代えられないですよね……」
ダイゴは星下区の生活を愛していた。船が無いと生活がままならない日常も、運河の入り組んだ街並みもゆるやかに流れる時間も。
「年々水位が上がっているからそれに合わせた生活に変えないとな」
「はぁい」
ミキヤとダイゴはそのまま次の仕事場に向かっていった。
※
「ただいま戻りました」
「Bエリアの荷物運搬、ギガメガに終わらせてきましたっ!!」
Bエリアでの仕事を終えると、ミキヤとダイゴは自分達のいる支部のゴンドラステーションに帰還し事後報告をする。そこにいたのは支部の代表である男、タツヒコ・スズキだ。
「お帰り。思ったより速かったね」
スズキは細い目で二人に笑いかける。
「俺達にかかればすぐっスから!」
「ダイゴくん、相変わらずだね」
ダイゴにスズキは笑いかける。
「あ、そうだ! 『ドライバー』の整備終わってます? 本部の人に治してもらってたの!」
「それならさっき来たよ」
スズキは赤いケースを取り出し、開く。そこには特殊なベルトがあった。
赤と白、そして金の彩色が施されたバックルが中央にあるそれをダイゴを手に取り、眺める。
「おおっ! さすが本部! あざっす!」
「もう壊すんじゃないぞ。装備壊したりで叱られるのは私もなんだから」
そのベルトはダイゴ達ゴンドリエーレの仕事に重要なものだった。
「スズキ支部長、俺のドライバーはまだですか?」
ミキヤはスズキに問う。
「ああ、悪いがミキヤくんのはまだメンテナンスが終わっていないんだ」
「いつ『奴ら』が出るかわからないので少しは急いでほしいです……」
ミキヤもそのベルトを使う者だった。
「『アンデルセン・アーカイブ』を使えるようにする改良には時間がかかるみたいだな」
「ミキヤさん、大丈夫っすよ! 俺がいますから!」
ダイゴはミキヤに笑いかける。そうやっていると……
――ビーッ! ビッー!!
サイレンがゴンドラステーションの建物内に響く。
『Dエリア14に中型のクラーケン出現! 仮面ライダー出動要請!』
AIのアナウンスが響く。それはシティ内に怪物が現れた知らせだ。
「要請来たか」
「俺が出ます!」
スズキが呟くとダイゴはベルトを持って出る。そのままダイゴはステーションの建物を出ると、愛用の赤いバイクに乗りエンジンをかける。それと同時に運河の中から、バイクの走る車道が運河を割るように現れる。それは緊急時にのみ現れる道だ。ダイゴはその道をバイクで爆走し、怪物、クラーケンのいる現場に向かう。
※
「きゃああ!!」
「逃げろー!!」
ネオマリーナシティでは数少ない広い歩道のあるDエリア14にいた人々はそのおぞましい怪物、クラーケンに怯えた。巨大な大凧のようなそれは人々に向かってうねるように歩き、その足で殴りかかろうとする。
「きゃあ!」
一人の幼い少女が倒れる。それを見たクラーケンは呻きながら長い足を少女に伸ばし殴りかかる。
「きゃああああ!!」
少女は殴られると悟り、悲鳴を上げる。
――バシンッ!!
しかし、少女を痛みは襲わなかった。
「?」
少女が顔を上げてみると、一人のゴンドリエーレの青年、ダイゴがいた。彼がクラーケンの長い足を受け止めていたのだ。
「君、大丈夫?! 立てるか?」
「うん……ありがと」
ダイゴは思い切り足を投げるように退かすと、少女を立たせる。
「走れるか? この先まっすぐ行ったとこのゴンドラステーションに逃げろ。みんなそこに避難してるから」
「うん」
少女は立ち上がって、まっすぐと走っていった。それを見送ったダイゴはクラーケンの方を睨み付ける。
「……俺の海を荒らしたな?」
クラーケンを見ながら、ダイゴは赤いベルトを取り出し腰に装着する。そして、一枚のフロッピーディスクを出す。
「静かに自分の縄張りで生きてるなら口は出さねえ、だが人の縄張りに入って人を狙うなら黙っちゃいられねえな! ――変身!!」
フロッピーディスクを一度高く上げ、勢いよくベルトのバックルに差し込み、それを一回転させる。
『システムコード! アテランテ!』
それは音と光を放ち、ダイゴの姿を変えた。
『カラシウスアウラティス! アテランテ!』
そこにいたのは仮面ライダーの一人、アテランテだった。
仮面ライダー。それはゴンドリエーレの一部に与えられた戦闘システム。シティに現れる海の害獣や異端の犯罪者と戦いシティの市民達を守る者達のことだ。
「ギガメガに行くぜ!」
アテランテとなったダイゴは銛、ハープーンを取り出しクラーケンに向かっていく。ハープーンはクラーケンに突き刺さりそれは苦しみ、抵抗する。クラーケンは足でダイゴに殴りかかるがダイゴは軽々と避けてハープーンで攻撃していく。
ダイゴとクラーケンは互いに攻撃を続けていく。
「うわ! こりゃ大技でしとめないと!」
地道にダメージを与えていては時間がかかると思ったダイゴはベルトに刺さっているフロッピーディスクを取る。その時クラーケンは素早く逃げ出し、広い運河に飛び込む。
「わ! そっちに行くんじゃねえ!」
ダイゴはそれを追って飛び込む。仮面ライダーのライダースーツは潜水用の機能もあるので潜ることも可能だ。そこにダイゴの身体能力も加わり、ぐんぐんと力強く泳ぎ、逃げるクラーケンに追いついた。ハープーンで再び刺し、動きを封じる。
「ギガメガに仕留めてやるよ!」
ダイゴは刺したまま泳ぎ、水上に持ち上げる。クラーケンもダイゴも水上に顔を出す。
ダイゴは水の中でベルトの中で先ほど変身に使ったディスクを裏返しに差し込む。それが必殺技の発動条件だ。
『アテランテ・ファイナルアタック!!』
ダイゴの周りの水がダイゴの身体を高く持ち上げる。
『アテランテ・マリンスプラッシュ!!』
「貫いてやるぜ!」
ダイゴはそのままクラーケンに向けてキックする。
――ドシャアアアア!!
クラーケンは逃げれず、そのキックを喰らい、そのまま水中で爆発し消滅する。
ダイゴはその勢いで広い歩道に出る。
「ふー、駆除完了!」
ダイゴは変身を解除し、いつもの姿になる。
ゴンドリエーレのもうひとつの仕事。それは仮面ライダーに変身し、ネオマリーナシティに現れる海の害獣・クラーケンを駆除し人々を守ることだった。海の上にある街の日々は美しくも過酷だ。だから美しいのかもしれないが……
※
ある少年は高い廃墟ビルの上からネオマリーナシティを見ていた。旧時代の大きなビル街が水没したようなその風景を。
「……」
その金髪の美少年は遠い目でそれを見ていた。
「――すっかり変わったな……」
「「リーダーッ!」」
そう呟いていると、彼の元に長い黒髪の少年と赤茶色の髪の少年が近寄ってきた。
「リーダー、やっぱここにいたんですね。探しましたよ」
「勝手にふらっと一人にならないでくださいよぉ!」
「ああ。悪いな」
二人にリーダーと呼ばれた金髪の美少年は遠くを見つめたままだった。
※
「――問題ありません。それは伸し上がるチャンスです」
あるビルの中のエスカレーターの上。マゼンダ色の髪の女は電話で商談をしていた。彼女の投資している企業の重役との取引の電話だ。彼女の投資した企業の多くは上昇している。彼女の今後の大勝負をまだ誰も知らない。
※
「今日来る予定の人は確か……」
ある会社の受付に眼鏡をした黒紫の髪の女がいた。
「すいません、先程連絡した者ですが」
「あ、はい! ご予約伺っています」
会社に入ってすぐの受付の場で予定を確認する彼女を来客は呼ぶ。彼女は今後来る来客がとんでもないことを知らない。
※
「コイツがアテランテのシステム使っている奴か……」
ある研究所である青年は仮面ライダーアテランテであるダイゴ・レガシーの資料を見ていた。その青年はダイゴに対して淡い興味を感じていた。
※
「ゴンドラ通りまーすっ!」
ある狭い運河。ダイゴは戦いを終えるとすぐにゴンドリエーレの職務に戻ってゴンドラを漕いでいた。前から通る別のゴンドラに注意を呼びかける。別のゴンドラのゴンドリエーレはそれに気付き操縦を止めてダイゴのゴンドラを通す。
市民を船で送り届けることも海の害獣から守ることもダイゴの任務だった。そんな日々が続くのだと、ダイゴはまだ思っていた。
続く