仮面ライダー。それは一部で囁かれていた戦士達の名称。時には人を守り時には人を傷付けると言われていた。多くのものは特殊なベルトとバイクを使いこなすとも。彼等は何百年も前から世界の裏で暗躍し時には人に笑顔を、時には涙を流させた。
「ひゃあ、色んな仮面ライダーがいるんだねぇ」
クサカベ家のリビングでケンジは図書館から借りた都市伝説の本に書かれた『仮面ライダー』についての記載を読む。その横には洗濯物を畳むナツメがいた。
「仮面ライダー?」
「うん、人知れず戦うヒーローだよ! 四百年以上前からいるんだって」
「そんなに昔から……」
ケンジは嬉し気に語る。ナツメは自分がベルトを渡され変身した時のことを思い出す。エマさんや私が変身したそれは仮面ライダーなの? と……。
(エマさんにはただ私の指示に従って、と言われたけど……私、あの時変身したのよね?)
自分が変身した事実をナツメはまだ信じられなかった。
「お母さんどうしたの? つかれてる?」
「え? そう見える?」
ケンジはナツメの様子がおかしい事に気づく。
「? なんでもないよ」
ナツメは笑顔で悩みを隠すのだった。
「お父さんって今日どこでお仕事してるの?」
ケンジは日曜出勤の父、ヒデオについて触れる。彼は漁師で今日は市場に魚を配達しに行っている。
「アクアリウムの市場だと思うわ。五時くらいになったらお父さんを迎えに行く?」
「うん行く!」
二人はヒデオを迎えに行くことにした。
※
ネオマリーナシティの真下にはもうひとつの都市がある。地下いや海中に拡がる『アクアリウム』と呼ばれる地域で巨大かつ特殊なガラスで覆われその中にビルや街並みがあった。空は無く見上げればガラス越しに海中の風景が拡がって、魚や亀、時には鮫が泳いでいる。それは水族館の大水槽を見ているように思えて、水槽の中にいるのは住人達であった。ダイゴは今日、仕事のためにそこに向かう。
「出来れば船でここ行きたかったぜぇ」
バイクで自動車専用のトンネルを走るダイゴはそう思っていた。バイクは加速したままどんどんと海中の街に向かっていく。
※
「ギガメガ久しぶりの『アクアリウム』だぜ!」
ダイゴは到着するとアクアリウムの街並を見る。
巨大な水槽の中に海上のネオマリーナシティほど大きくはないが、古くも美しい街並が見える。彼はそこに懐かしさを覚える。
「――レガシー!」
「!」
ダイゴは苗字で呼ばれる。彼を呼んだ赤黒く短い髪でダイゴのに近いゴンドリエーレ制服を着た女をダイゴは知っていた。
「土井垣(どいがき)!」
土井垣頼子(どいがきよりこ)。ダイゴと同じゴンドリエーレ、いや女なのでゴンドリエーラである。彼女は三年前まで共に見習いとして研修していたダイゴの同期である。
「相変わらず元気そうだねぇ~、ノリカちゃんは?」
「アイツも元気にしてるぜ。俺の今日の仕事の相手はどこだよ?」
ダイゴが今日アクアリウムに来たのは彼の歌をリクエストした者がアクアリウムに来ているからだ。
「あたしが案内するよ。バイクに乗せて」
頼子はダイゴが再びバイクに乗るのを見て彼から予備のヘルメットを借りて被り自分も乗る。
「しかし贅沢な客だよ。ダイゴの歌聴きたいだなんて」
頼子はそう思うのであった。
「なんでだよぉ。それだけ俺の歌が評判良いって事だろ! ギガメガ光栄だぜ!」
「あんた確かに歌だけは評価高かったもんねー」
「だけってなんだよ! だけって!」
他愛無い話をしながら、ダイゴと頼子は目的地に行くのであった。
※
「矢沢孝元(やざわこうげん)。矢沢重工の社長で彼が所有しているアーカイブは『フェアリーフラワー』になります」
リヴートスターズのガレージにシズクは来ていた。彼女はイザナ達にアーカイブを所持する人物につきて説明する。
「仮面ライダーでもないのにアーカイブ持ってても意味ないっしょ?」
矢沢の説明をされ、サトルは問う。
「確かに。ですが、彼はアーカイブだけでなくモンスターキーも所持しています」
「キーとアーカイブって何か関係あるんすか?」
ヘータもシズクに問う。
「もちろんです。アンロッカーになれる者は、アーカイブで強化する事もできます」
「戦闘でアーカイブを使えるのは、僕達だけでないんですね」
イザナは内容を閉める。
「はい。ですのでくれぐれもお気をつけて」
シズクは三人に忠告する。
※
矢沢孝元はアクアリウムにいた。仕事の都合でネオマリーナシティに来て間もない若い社長、それが矢沢だ。彼に指名されアクアリウムに来たのがダイゴだった。
「本日はご指名いただきありがとうございます」
「ああ、こちらこそありがとう。君の歌は評判良いと聞いてね。一度頼んで見たかったんだ」
ダイゴが指定された停泊所に行くと矢沢は既に運河に浮かんだゴンドラに座っていた。アクアリウムにも海上のネオマリーナ同様、運河が流れている。頼子はそこでゴンリエーラを勤めている。
「レガシー、失礼の無いようにねー」
「うるせえ。ギガメガわかってるっての!」
ダイゴが乗船するのを見ると、頼子はゴンドラを見送る。ダイゴはオールで動かす。徐々に頼子の姿は見えなくなる。
「……彼女が君を呼んだのか?」
「そうですよー。矢沢さんが俺を指名してくださったので」
ダイゴは矢沢を見る。
「早速一曲お願いしたい。とっておきのを……」
矢沢は歌を求める。
「それでは一曲お聴きくださいっ!」
ダイゴは一度ゴンドラを止めて歌い出す。
――静かな青の中 眩しい光を見つけた それに触れたら 夢の中に入れるのかな?
――夢の中で泣いていたら 君は手を伸ばして立ち上がらせてくれるかい?
――あの時君が言った言葉の意味も 知らないんだ
澄み切った歌声が静かな運河の水面に響く。水面はスピーカーのように歌を乗せて離れた場所にいる人間達の耳にも入る。
ダイゴと矢沢のゴンドラ周囲だけではなく、アクアリウム中に響く。
「お! レガシーが歌い出したね」
停泊所にいる頼子の耳にも入る。
――君がいる緑の中 私も歩いてみたいけど それは許されないみたいだね それでも
――あの日見つけた一番星 届くまで追いかけていきたい 例えそれが間違いでも 止まることなんてできないんだ
――どうしても その笑顔 見せてほしい
ダイゴの歌をじっと、矢沢は何かを確認するかのように聴いていた。笑みはあるが影もある。
「……綺麗な声だ。とても素晴らしい」
矢沢はダイゴを褒める。
「でしょう! 俺昔から歌だけは一流もんですから!」
ダイゴは誇らしげになる。
「この歌声は間違いないな」
「?」
矢沢は黒い笑みを浮かべる。
「――二人きりの時間、もっと楽しもうか」
矢沢は急に立ち上がる。そして、奇妙な物体を見せるように取り出す。その一つはモンスターキー、もう一つは……ダイゴ達仮面ライダーのベルトに似たそれだ。
「!? それってモンスターキー!?」
「ああ」
矢沢はベルトを装着しその鍵穴にキーを差し込む。
『アンロック、レオン』
ベルトがそう鳴ると、矢沢の姿は獅子に似た野獣の姿に変わる。
「! アンロッカー!?」
「君の持つアンデルセン・アーカイブをもらうよ」
矢沢もアーカイブを探す者であった。
続く