「じゃあなダイゴ」
「おー! また乗ってくださぁい!」
ゴンドラの停留所にゴンドラを止めるとダイゴは初老の男性を降ろす。男性は挨拶をすると歩いていく。その時、ゴンドラに置いてあるラジオからアナウンスの電子音が流れた。キャスターの話が流れる。それはある事件の追悼を意味していた。
『本日4月2日はグランテが地上を制圧を開始。世界が海に沈むきっかけとなった事件からもう400年が経過しました』
グランテを名乗る地上世界の住人達が戦争を巻き起こし、その被害で世界が変わり海に沈んでいった。
『そして8月4日以降、グランデのもたらした兵器により水位は上がっていき、地面や草木は無くなり地球は海の惑星へと変わっていきました』
「そっか、400年前って天然の島とか山とか普通にあったんだよな」
淡々と流れるアナウンスをダイゴは聞いていた。ダイゴは植物の生えた地面や島国のある風景等、西暦2000年代まで当たり前にあったもののことは知らない。海底の都市や人工の島が当たり前の世界で生きていた。だから400年前の世界の出来事がまるで御伽噺のようにしか思えない。そんな風に黄昏ていると、ダイゴの仕事用のスマートフォンに連絡が入る。
「はい、俺です」
『今後の業務のことでちょっと話がある。戻ってきてくれ』
スズキからステーションに戻る指示が入った。
※
「グランテの連中が街で悪さしているんすか?」
「ああ」
ゴンドラステーションに戻ったダイゴはミキヤと共にスズキから新たな業務について聞かされている。
「年々グランテの影響力、軍事力は無くなっているんだがまだ残党が残っていてな。その残党がネオマリーナに潜伏し街全体を乗っ取ろうとしているみたいなんだ」
グランテ。地底世界から来た人間に似た種族による帝国。かつては地上の全てを乗っ取り、アンデルセン・アーカイブの力で世界を海に沈めたが、400年かけて地上の人間達との対立の中で影響も軍事力も衰退していった。かつて世界を掌握したものの、時間の経過や変化により自然とその力は無くなっていった。
「どんな大国もいつかは栄光を無くすが、残党はいつまでも残ることが多い。でな」
スズキはタブレットにある画像を出す。鍵の形をした装置、モンスターキーだ。そして、キーの力で怪物、アンロッカーに変身した人間の画像も。
「人間がこんな風になるんですか」
ミキヤはアンロッカーの姿を見て驚く。
「連中はこのモンスターキーで怪物になって人を襲うこともあるそうだ。今後はこいつらとの戦いも私達の業務になる。気を引き締めていけ」
「わかったっす!」
「了解」
スズキの説明にダイゴとミキヤは頷く。
「俺達の海が余所の連中に荒らされるなんて、させませんよ!」
「支部長、グランテはもう国家としては機能していないというのは本当ですか?」
意気込みを見せるダイゴの横でミキヤが問う。
「ああ、国民が国を捨てて地上の人達として生きることを選んでいったことで実質王族とそこに直接関わる者達しか残っていない状態だ」
スズキは本部にあたるゴンドリエーレの組織「クストーデ」から聞かされた情報を語る。
※
「リーダー、ただいまですー! あれ?」
イザナ、ヘータ、サトルのアジトであるガレージにサトルは買い出しから帰ってきた。イザナ本人と彼のバイクが無く、ヘータしかいないのにサトルは気付く。
「リーダーは?」
「星下区まで偵察がてら走ってくってよ」
ヘータがイザナの行方を語る。
「なんだよ~、走るんならオレも一緒に行きたかったのに!」
「お前といるとうるさくて気が散って事故るからだろ?」
「うるせえな」
サトルは不貞腐れる。イザナがバイクで一人街の陸橋を走るのはいつものことだ。
「……オレらの探してる人達って、今どうしてんだろ」
「……」
買ったものを古いテーブルの上に置いたサトルが呟いた言葉でヘータは黙り込む。
※
高い位置にある陸橋をイザナはバイクで走っていく。海に沈み運河が覆う街ではバイクの走れる場所は高い位置にある陸橋や数少ない車道のみだ。
「……」
陸橋から降りるとイザナはバイクを止めて、ヘルメットを取る。バイクを置いて少し歩き、運河を跨ぐ橋を歩いてみる。
「今日はあのゴンドラ乗りはいないのか……?」
先日見かけた青い髪のゴンドリエーレ、ダイゴはいないのかと探してみる。彼の澄んだ歌をイザナは忘れられなかった。橋をおりて細い歩道を歩きながらあたりを見回していると、
――ザプッ!
「!?」
巨大な蛸のような害獣、クラーケンの長い足が海からあがりイザナを殴る。
――ドズッ!
「だは!」
油断したイザナはそのまま殴られ続け、海に落ちる。クラーケンは興味を失い海に戻ってイザナから離れる。
「ブハワッ!!」
イザナは泳げなかった。変身していればスーツの耐水機能で息は持つが、今は変身が出来ず溺れる。その姿をゴンドラに乗っていたダイゴが見つけた。
「! 誰か溺れてる!」
ダイゴはゴンドラを止めて、上着とシャツを脱ぎ海に飛び込む。
イザナは力が無くなり沈んでいく。意識と酸素が無くなりかける。朦朧とした視界の中で自分に向かってくる人影が見える。
――!?
無駄な動きもなくそれは近付く。
――あれは、人魚……?
イザナは朦朧としたままだった。
※
「ぷはっ!!」
ダイゴはイザナを抱えて水面に顔を出し、ゆっくりと泳いでゴンドラに乗せる。すぐ近くの船の係留場に止めてそこに意識が朦朧としているイザナを上げる。
「ん……んん」
「おい大丈夫か!?」
イザナを仰向けに寝かし胸を押し水を吐かせる。そうするとイザナの意識は戻り、ゆっくりと瞼を開けるのをダイゴは見る。
「……んぐぅ」
「生きてるか!? おい!」
ダイゴはイザナに呼びかける。イザナの胸から手を離し、彼をダイゴは見る。
――子供だよな……? ダイゴはイザナの顔と姿を見る。
金色の髪に紫の丸い瞳に白い肌。誰がどう見ても整っていると言うであろう容姿に小柄な背丈。それを人はこう思うのかもしれない。
――……なんだか、王子様みたいだな
イザナはゆっくりと起き上がり、ダイゴを見る。目の前の上半身裸の男を。
――なんでこの男、上に何も着てないんだ?
自分はこの男に助けられたのはすぐに理解したが、とりあえずそう思った。
――さっき人魚だと思ったのは……まさかコイツか?
人魚に見えたものはただの人間の男だったと気付き少しがっかりするイザナ。
「よかったぁ、生きてたぜ。お前クラーケンに殴られて落ちて溺れてただろ」
「そうみたいだな、すまん」
イザナは少し不満げな表情でゆっくりと立ち上がる。
「あ、おい! 無理に立つなって!」
「気にするな、僕の不注意だったんだ」
イザナはそのまま歩き出し、自分のバイクの置いてある場所に向かっていく。
「待てって!」
ダイゴは彼を止められなかった。
「……なんだよアイツ!」
不愛想な態度を見せられてダイゴはやり場が無くなるのだった。そうしていると仕事用のスマートフォンが鳴る。
「はい、こちらダイゴ!」
『Sエリア13に大型のクラーケンが出た! ミキヤのベルトはまだメンテ終わってないからお前一人で行ってくれ!』
スズキからの連絡だった。
「おっす! 俺一人でギガメガやってやりますよ!」
ダイゴはスマートフォンでバイクを呼ぶコマンドを押す。すると運河からバイクの車道が出てきて、そこを自動操縦で走ってくるバイクを迎える。上着を着てヘルメットを被りダイゴはそれに乗り、Sエリアに向かう。
※
イザナはバイクを見つけ、ヘルメットをしてそれに乗り、陸橋を再び走る。その時、バイクに搭載された通信機に連絡が入る。自分達に指示する女性、シズクからだ。
『――イザナくん、アンデルセン・アーカイブの行方がわかりました』
「! どこですか?」
『今Sエリアに向かっているクストーデのゴンドリエーレが二つ持っています。ヘータくんとサトルくんはもう向かっています』
「はい、すぐ行きます」
イザナは通信を切る。それと同時に、それぞれのバイクに乗ったヘータとサトルがイザナを挟むように走って追い付く。
「久々にアーカイブの情報来ましたね、急ぎましょう」
「リーダー置いてくなんて酷いですよ!」
ヘータとサトルと共にSエリアに向かう道を走る。
「ああ、行くぞ」
※
「きゃあああ!」
「うわああ! 逃げろ!」
Sエリア13。街の人々は大きなクラーケンを見て叫び逃げる。ダイゴはすぐに到着し、バイクを降りてベルトを出す。
「今日は船漕ぐ以外の仕事多いな! 変身!」
『システムコード! アテランテ』
ダイゴはアテランテに変身する。
『カラシウスアウラティス! アテランテ!』
「ギガメガに仕留めてやるよ!」
ダイゴはアテランテハープーンを振りかざし立ち向かう。クラーケンの力は強く、刺してもダメージにならない。皮膚もいつもの以上に固い。蹴りを入れても手応えがない。
「なんか今日のやつすんげぇ固いな!」
そうこうしていると、バイクに乗ったミキヤが走ってくる。
「ダイゴ!」
「ミキヤさん!」
「俺のベルトはまだだが、少しくらいなら援護させてくれ」
ミキヤはバイクに乗りながら専用の銃でクラーケンを撃つ。
「あざっす!」
「それから、本部からこれが届いた! 使ってくれ!」
ミキヤはダイゴにあるものをバイクに乗りながら渡す。それはアンデルセン・アーカイブのひとつだった。
「これって支部長が前に言っていた……」
「ああ、俺達の新装備になるアンデルセン・アーカイブのひとつだ。これをベルトにスキャンしてみろ」
ミキヤが渡した黄色のMD(ミニディスク)はそれだった。ミキヤは即座に離れる。
「あざっすミキヤさん!」
ダイゴはアーカイブをベルトにスキャンする。
『アーカイブ! リトルファイアー!』
マッチ売りの少女の力を持ったそれはアテランテの上半身を黄色に染める。
「お! なんか熱いなこれ!」
アテランテハープーンから火が出る。
「おっし!」
ダイゴは火を噴き出すアテランテハープーンを振りかざす。クラーケンは火でダメージを受ける。
「やっぱ生き物は火に弱いな」
ダイゴは先程と打って変わって着実にダメージを与えていく。
「そろそろきめっぞ!」
ダイゴはアテランテハープーンにある差し込み口にアーカイブを入れる。
『リトルファイアーハンティング!』
アテランテハープーンは一時的に炎の剣に変化する。ダイゴは大きくジャンプしクラーケンに切りかかる。炎によりクラーケンは真っ二つになり、消滅する。
「よっしっと!」
「やった!」
ダイゴが一仕事を終えるとミキヤも安心する。
「もう一つアーカイブを持って来たんだがいらなかったな」
「え? もう一つあったんすか?」
ダイゴが変身を解除せずにミキヤに近づこうとすると、
――バンッ!
「!?」
光の銃の弾がダイゴの足元に当たる。
「誰だ!?」
弾の撃たれた方向をダイゴとミキヤが見ると、そこには金髪の美少年、イザナがいた。
――! あいつはさっきの!?
イザナのやや後ろにはヘータとサトルもいた。
「お前の持っているアンデルセン・アーカイブ、いただくぞ」
イザナ、ヘータ、サトルはベルトを取り出し、腰に装着する。三人はそれぞれのフロッピーディスクを取り出す。
「お前達、行くぞ」
三人は同時に変身する。
「「「変身!!!」」」
三人はフロッピーディスクをベルトに差し込む。強い光を放つと、イザナはマークイス、ヘータはジキル、サトルはハイドという仮面ライダーに変わる。
「!? どういうことだ!?」
「!?」
仮面ライダーのベルトは現状ダイゴやミキヤにしか渡されていない装備。三人がなぜそれらを持っているのかをダイゴもミキヤも知らなかった。
続く