転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
第1話 始めのM / 転生したら雑魚でした、たすけて ☆
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俺の名前は黒井秀平。
前世は冴えない成人男性だった。
そう。過去形である。
俺は死んだのだ。覚えている最後の記憶は、職場での徹夜仕事の最中であったから、恐らく過労死というやつだろう。
いつの間にか眠った、もとい死んだ俺が次に意識を取り戻したのはーー
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「ちょっと聞いてるわけ!?」
春先の穏やかな気候の下、俺は何故か女の子に叱責されていた。見覚えがある彼女はーー
「園崎若菜……?」
思わず声を張り上げてしまう。初対面の人間のフルネームを、しかも、敬称も着けずに呼んだのだから失礼なことこの上ない。だが、それも仕方のないことだ。
何故なら。
俺にとって彼女ーー園崎若菜は、架空の人物だからだ。
『仮面ライダーW』。
俺が生きていた世界で、テレビ放映されていた作品だ。
風の街・風都。そこでは『ドーパント』と呼ばれる怪物が市民を脅かしていた。『ドーパント』から市民を守る戦士、それが仮面ライダーWである。それが『仮面ライダーW』という物語。
園崎若菜はそこに登場するキャラクターで、敵組織ミュージアムの幹部のはず。そのキャラクターが今、俺の目の前で、まるで普通の人間のように息をし、喋っているのだから、動揺してしまうのも無理はないだろうよ。
「チッ」
「っ」
その舌打ちで、我に返った。何が起こっているかは分からないが、目の前の人物を怒らせるのは得策ではないことは確かだ。
「申し訳ありませんっ!!」
すごい勢いで頭を下げる。前世で染み付いた社畜根性、条件反射の謝罪であった。
「………………ふん」
俺の勢いに押されたのか、彼女はそれ以上文句を言わずに俺の前から去っていった。それを確認して、顔を上げると、今度は別の人物の顔が俺の目の前にあった。
「災難だったなぁ」
「…………?」
俺の記憶にはない、丸顔の男。タキシードとスーツの中間のような、妙な服装の中年男だった。
「だが、お前が悪いぞ! せっかく若菜姫に話しかけられてるってのに、上の空だったんだからな」
「えぇと、あんたは……?」
距離感の近さを考えるに、親しくない間柄ではなさそうだ。友人かもしくは……。
「はぁ? 何言ってるんだよ、火野だよ。同僚の顔も忘れちまったのか?」
「火野…………あ」
そこで不意に思い出す。というより、顔と名前が一致した。
こいつは園崎若菜に求婚した上に断られ、逆上して襲いかかったが返り討ちにあい、散っていった火野! 火野じゃあねぇか! 一応作中には出ていたが、登場時間ものの数十秒の端役すぎて、存在を忘れてたぜ。
……って、おい。ちょっと待ってくれ。
その端役の火野と同僚ということは、もしかして俺はーー
「ミュージアムの人間、ってことかよ……」
よくよく自分の格好を見てみれば、俺も目の前の火野と変わらない格好をしている。つまりは、そういうことなのだろう。
「……本当にどうした、黒井? 体調でも悪いのかよ?」
「い、いや」
適当に誤魔化す。動揺のあまりしどろもどろになり、誤魔化せているとは到底思えないが。
と、そこで俺はある考えに至り、ごそごそと自分の上着をまさぐった。火野の訝しげな視線など気にしない。
やがて、上着の内ポケットに固い感触を感じ、それを取り出す。
「!」
やはりだ。
俺の手の内には、使用した人間を怪物に変貌させる悪魔の小箱『ガイアメモリ』があって。そこに刻まれた頭文字はーー
「……『M』」
『M』の文字。
それはミュージアム製のメモリの中でも最弱。
戦闘員『マスカレイド』のメモリだった。
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そう。
俺は『仮面ライダーW』の世界に転生し、敵組織ミュージアムの下っ端に成り下がったのである。
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