転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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第10話 Bの不文律 / 実験

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旨い酒を飲むために、子供たちを助けよう。

 

そうは考えない。

だって、放っておいても『仮面ライダー』が子どもたちを助けてくれるしな。だから、俺がするのはちょっとした情報提供だ。

鳴海探偵事務所と霧彦に、答えに繋がる情報を小出しにして伝え、事件を原作よりも早く解決してもらうだけ。

 

それが今回俺がしようとしていることだった……のだが。

 

 

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「お手柄だ、黒沢くん!」

 

「黒井だ」

 

 

俺が手渡したリストを見ながら、霧彦は声をあげた。もうそろそろ俺は怒ってもいいと思う。そんな俺の心中など知らない霧彦は、さらに言葉を繋げる。

 

 

「このリストによれば、『バード』メモリを取り扱っていた売人は3人。ならば、この3人を虱潰しに当たれば、確実に子供たちにメモリを渡した者が分かるはずだ」

 

「……まぁ、そうだろうな」

 

 

そうだ。霧彦の言う通り、リストを調べれば見えるはずだろう。

売人の中に、メモリを売るのは大人のみというルールを破った者がいないことが。そして、本当に彼女たちにメモリを渡したのが誰なのかを。

 

 

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数日後のことだ。

俺は霧彦に呼び出され、風花町に来ていた。わざわざ呼び出すくらいだから、恐らく真実に気づいたのだろうと思ったのだが、

 

 

「……やぁ」

 

 

そこには傷だらけで、満身創痍な霧彦がいた。その様子だと恐らく、彼は真実を知ったのだろう。その上で、組織のボスに返り討ちにあったのだ。

 

 

「『バード』をあの子たちに渡したのは、他でもないミュージアムだった。『バード』は急速に進化している。そして、いずれ子供たちは死に至る」

 

「……だろうな」

 

「ミュージアムは……いや、園崎琉兵衛という男は、子供たちも風都の人々もデータとしか考えていない……勿論、この私もね」

 

「…………」

 

「もしかして君は、それに気づいていたのか」

 

「あぁ」

 

「君は……一体……?」

 

 

霧彦の問いに俺は静かに頷いた。

気づいていた、というよりは知っていたという方が正確なのだが、今ここでそれを言う必要もないだろう。

 

 

「それで、お前はどうするつもりだ?」

 

「愚問だな。子供たちを救う」

 

 

救う方法はもう聞き出してある。霧彦はそう言って、懐からガイアドライバーと取り出した。

 

 

「このドライバーと私の『ナスカ』メモリを、使用者の体内にある『バード』メモリに共鳴させる。それを『彼ら』にメモリブレイクしてもらう」

 

「なるほどな。だけどーー」

 

 

 

『キシャァァァァッ』

 

 

 

咄嗟に霧彦を伏せさせたその場所を『そいつ』の爪が切り裂いた。間一髪だ。良く反応したと自分を褒めてやりたいね。

 

 

「っ!?」

 

「『こいつ』は連れて行けないだろ?」

 

 

俺と霧彦の目の前には一体の『ドーパント』がいた。

体毛に覆われた体と鋭い爪や牙。まさに獣としか形容のできない『ドーパント』だった。

 

 

「……っ、組織の追手かっ!」

 

「あぁ。『スミロドン』……園崎家のねこちゃんだったっけか」

 

「……君はどこまで……」

 

「今はそんなことを言ってる場合か? 『こいつ』を撃退したら教えてやるよ」

 

「っ、ぜひそうしてほしいね」

 

『ナスカ』

『マスカレイド』

 

 

同時に変身し、臨戦態勢に入る俺達。

 

……さて、ここでクエスチョン。なぜ俺はここまでクールでいられると思う?

『マスカレイド』なんて最弱メモリしか手札がない状態で、ニヒルな笑みを浮かべる理由。その答え合わせといこうか。

 

 

『ミック!』

ーースッスッーー

 

『静かに』

ーーピッーー

 

 

はっ! 俺は原作知識をもった転生者だ。『スミロドン』自体の弱点は知らなくても、元の変身者もとい変身猫であるミックの癖は知っている。

俺が今、名を呼びながら指でなぞったのは、園崎家でミックに特別なごちそうを与える時の仕草。これでミックは大人しくなるはずだ。

 

 

『シャァァァ……』

 

「……ん?」

 

 

『キシャァァァァッッ!!!』

ーーズシャッッーー

 

「なんでっ!?」

 

 

間一髪、俺はどうにか『スミロドン』の攻撃を回避した。

し、死ぬかと思った……。

 

 

『何をやっているんだ! 真面目に戦いたまえ』

 

『くっ、なんで通用しないんだっ!』

 

 

仕草が間違っていたのか? いや、それとも匂いかなにかで園崎家の人間を識別しているのか。もしそうだとしたら、この攻略法、園崎家の人間じゃないと意味がないじゃねぇか!

 

 

『この『ドーパント』に弱点はないのか』

 

『そんなの俺が知るわけないだろっ!』

 

『……今までの余裕はどこにいったんだ』

 

『想定外だったんだよっ!!』

 

『なら、頭を回すんだ! 切り抜ける策を考えなくては私たちはここで死ぬ!』

 

 

どうする!? 現状、『スミロドン』を倒せる戦力はこちらにはない。

『マスカレイド』は論外。可能性があるとすれば、『ナスカ』の『超高速』だろうが、今の霧彦にはそれを使いこなす体力もないし、使えば恐らく体がついていかない。そうなれば、そこでゲームオーバーだ。

……ん? あれあれあれ? もしかすると、これって……?

 

 

『詰みじゃね?』

 

 

弱者から狩ろうという動物としての本能だろう。『スミロドン』の爪はまず俺を切り裂こうとしていた。

『スミロドン』の常識外れの敏捷性と切り裂くことに特化した爪。

あぁ、これはもう助からない。覚悟するしかない。

でも、もし希望があるとすればーー

 

 

 

『た、たすけて、『仮面ライダー』ぁぁ……』

 

 

 

後日、聞いた話によると。

それはそれは、大層情けない声だったという。

 

 

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野郎しかいないこの作品。ヒロインは……。

  • いる! 本編キャラがいい
  • いる! オリジナルも可
  • え? 霧彦がヒロインだろ?
  • いらん!

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