転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
ーーーー裏風都・教会内ーーーー
「瑠璃ちゃんを殺す…………聞き間違えか?」
万灯の発した言葉を繰り返し、再度聞き返す黒井。その口調は静かだが、一言でも違えれば殺されかねない雰囲気を醸し出していた。その眼光にあの千葉秀夫ですら少したじろぐ。だが、万灯は怯まず続ける。
「君は『奴』を倒して、あの塔で眠り続けている眠り姫を救いたい。私達も、我々の思い出を汚す悪趣味なこの『街』を破壊したい。利害は一致している、と思うが」
「……一応聞いてやる。そのことと瑠璃ちゃん。なんの関係がある」
「君のもう1人の娘に会ったよ。黒井あかね……実に妹思いのいい娘だ」
「…………『イービル』を使うつもりか」
「その通り。あれは負の感情を引き出せば引き出すほどに強大になるメモリ。そして、彼女と『イービル』の適合率は驚異的だ」
万灯はさらに続ける。
「まずは『奴』をこの『街』に誘い込む。同時に、この『街』に連れてきた黒井あかねの目の前で黒井瑠璃を殺し、『イービル』の力を覚醒させる。そうすれば、『奴』を含めたこの汚れた『街』の全てを崩壊させられる」
自らの狙いを提示した万灯。
瑠璃の殺害によるあかねーー『イービル』の覚醒。
それによる『奴』と呼ばれた人物の排除と『街』の崩壊。
それを聞いた黒井は、黙り込む。
「………………」
黒井雫が昏睡状態になっている現状とこの『街』の破壊を同時に成り立たせるポテンシャルが『イービル』にはある。だが、本来の持ち主である雫の意識がなく、使うことができない。だから、雫に並ぶほどに適合率の高いあかねに『イービル』を使わせて、その力を覚醒させる。
策としては最善。だが、
「論外だな」
勿論、黒井はその提案を受け入れない。
「俺は家族で笑い合うために動いてる。雫ちゃんも、あかねちゃんも瑠璃ちゃんも……全員だ。俺達家族の未来を諦める気はねぇよ」
その瞳に迷いは一切ない。夫として、父として、目の前の危険分子を排除する。その決意の元、黒井はメモリを起動した。
『マスカレイド』
「フッ……交渉決裂か。探偵くんたちとのやり取りを思い出す顛末だ」
「万灯さんっ!!」
千葉秀夫の声に反応し、万灯は後ろへ跳ぶ。その刹那、万灯がいた場所の足元が削り取られていた。
『逃げるなよ、殺せねぇだろ』
「空間を削る能力……それも『マスカレイド』の能力の一端か。一体、何本のメモリをその身に取り込んだんだい?」
『……うるせぇ、もう口を開くな』
ーーギュンッーー
『マスカレイド』がかざした右の掌、その延長にあった地面が再び削られる。咄嗟に地面を這い、攻撃を躱す万灯と秀夫。
「間一髪……『ジョーカー』にも負けず劣らず恐ろしいね、『マスカレイド』というメモリは」
「万灯さん、ここは退くべきです」
「あぁ、潮時だ」
ーーズズズズズーー
万灯は秀夫の言葉に頷き、『ビゼル』をかざした。すぐに風都に続く時空の歪みは開かれる。秀夫がその穴を通ろうとした次の瞬間、
ーーバシュンッーー
「ッ!? 道が!?」
「これは……!」
風都への道は閉ざされた。攻撃によるものだと気づいた時にはもう遅い。
「動くな」
「……ッ」
さらに、千葉秀夫の首元にはカッターナイフが突き立てられていた。彼の小さな体のさらに下、さっきまでは何者もいなかったはずの位置に、黒井のストーカー『フーカ』はおり、今にも喉に突き刺そうと狙いを定めている。
「シューヘイくんの言うこと聞きなよ」
「っ」
「相手が子供でも、私は関係ないから」
聞かなければ喉をかっ切る。それが脅しでないことを千葉秀夫は感じ取っていた。
「主様、この2人どうしますか?」
そう訊ねるのは、万灯を拘束したシスター。関節を決め、彼を裕に跪かせていた。
「……手荒なことは止めてほしいね。こちらは一般人だよ」
『先に手荒なことをしようとしたのはそっちだろ』
「残念ながら私達には力がないんだ。彼女を覚醒させるしか『奴』に対抗できる手段がない。君も早くしないと手遅れになるのは分かっているだろう?」
「…………」
黒井がこの『街』に入ってから、ずいぶん長い時間が経っている。焦る気持ちがないわけではない。だからといって、手段を間違える気はないが。
『塔の中に連れていく。メモリも没収して手錠で繋いどけば、瑠璃に手出しはできねぇだろ』
「分かりました」
『風華もそれでいいな』
「うん♡ 私はシューヘイくんに従うよ♡」
ーーーーside『A』・霧彦宅ーーーー
瑠璃に連れられ、戻ってきた霧彦宅。霧彦は私が無事であることに喜び、抱きしめてくれた。少しバツは悪かったし、いつもながら鬱陶しかったけど、それでもそれでちょっとだけ安心した自分がいた。
お互い落ち着いた後、霧彦と向かい合い、座る。隣には瑠璃もいて、静かに頷いてくれる。ここに至る経緯を伝えるため、私はゆっくりと口を開いた。
「……ってワケ」
「今まで何をしていたかと思えば、万灯雪侍と『裏風都』に行き、メモリを使って黒井くんを探していた? ありえない……」
信じてくれない霧彦の態度にイラッときた私は、むっとして言い返す。
「あり得なくないし。だって、実際にーー」
「いいや、ありえない話さ」
「だ~か~ら~!」
「『裏風都』は既に『仮面ライダー』たちの活躍で閉じられた」
「へ?」
霧彦の言葉に、呆けた声を出してしまう。
信じていないのではなく『あり得ない』。つまりは私がいたあの『街』はもうないはずの場所だという。
「でも、ここでおねえが嘘を吐く意味はない」
「うん、実際に私は『裏風都』に行った! そこで『リアクター』使いのシスターみたいな奴に会ったり、『ロード』と戦ったりしたんだって!」
「『リアクター』に『ロード』……それは確かにあの『街』で戦った相手だが…………いや、そのメモリが風都に来れば騒動になるはず。なら、本当に……」
「霧彦さん……?」
額に手を当て、唸る霧彦。なにやら考えてるみたいだけど……。しばらくして深いため息を吐いた霧彦は両手を上げた。
「霧彦さんでも分からない?」
「そうだね、お手上げだ。これ以上のことは私には分からない。ここで議論をしても無駄に終わる」
「無駄って……じゃあ、このままパパたちのことは諦めろってこと……?」
霧彦をキッと睨む。けど、私の言葉には首を振り、にこやかに笑った。
「その件については適任者がいる。その人物に協力を仰ぐのがいいと思っただけさ」
「それって、万灯?」
あいつはあの『街』についてよく知っているようだった。協力者としては適任だろうけど、風都に戻ってきてからは姿を見かけない。それ以上に、あいつを信用していいのかどうか……。
「いや、あの男は信用できない。恐らく黒井くんを探すというあかねちゃんの思いを利用して、なにかをしようとしているはず」
「じゃあ、適任者って?」
「あぁ、それは『彼女』のことさ。『彼女』ならば、消えたはずの『裏風都』に……そして、その先にいるであろう黒井くんに近づけるはずだ」
「『彼女』?」
「! その『彼女』って誰なのっ!」
「私達の身近な人物だよ」
身近な人物。
それって一体……?
ーーピンポーンーー
「来たね」
タイミングを図ったかのように、呼び鈴が鳴った。瑠璃がパタパタと玄関に向かい、扉を開ける。そこにいたのは、
「や、来たよ。霧彦。それから、あかねちゃんに瑠璃ちゃん」
「ときめ、さん!?」
鳴海探偵事務所の探偵助手・ときめさんがそこにはいた。
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スランプ中。
助けて。