転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
ーーーーside『S』・制御室ーーーー
「主様、準備が整いました」
『裏風都』の中心に聳え立つ塔の制御室。そこでモニターを通して、『街』を眺めていた俺に、ミズハが声をかけた。振り向くと、彼女はいつも通りの穏やかな表情で俺の返事を待っている。
「悪いな、ミズハ」
「悪いなど仰らないでください。この身は一度死んだ身です。貴方様に救われた私の身体のすべては、貴方様のためにあるのですから」
「…………それでも『リアクター』はお前の身体を蝕んでるんだろ。もし、辛いのなら止めてもいい。俺は最初からそう言ってたはずだ。だから、今止めたってーー」
「………………いいえ」
俺の言葉を否定するミズハ。こういう時だけは俺のいうことをちっとも聞いてくれないんだよな。頑固なところは、少し雫ちゃんに似てるよ。
「私にはもったいないお言葉です」
「…………頼む」
「はい。主様と……雫様のために、持てる力の全てを尽くします」
ーーーー外苑ーーーー
「メモリはお気に召したか。千葉秀夫」
「……黒井秀平」
「あぁ、ドライバーがないのは不便だが、それでも助かるよ」
秀夫は俺を警戒しているようで、こちらを睨み付けたまま。万灯は相も変わらず飄々と俺に答えた。
彼らの手にはそれぞれメモリが握られていた。万灯は元々持っていた『オーロラ』メモリ。そして、秀夫が持っているのは俺がこの『街』で見つけたとあるメモリだった。
「……本音を言えば、このメモリは扱いづらくて嫌ですが」
「あ? 文句を言うなよ、エロガキ」
「…………万灯さんに免じて生かしていますが、この件が終わったら覚悟しておいてほしいものです」
本当に以前からこのガキとは意見が合わねぇ。そもそも昔、雫ちゃんにしようとしたこと忘れた訳じゃねぇからな、このエロガキが!
秀夫といがみ合っていると、不意に万灯が口を開く。
「何度も言うが」
「あ?」
「我々は戦力に考えない方がいい。私も秀夫くんもメモリの毒素に長くは耐えられない」
「分かってる」
だからといって、『奴』と戦うにはこちらは戦力が足りねぇんだ。猫の手も借りたい状況で、利害の一致してるこいつらを使わない選択肢はない。それに、こいつらも『奴』を前にしては、黙って見ていられる訳がないだろうし。
「戦力が足りないのなら、万灯さんの言う通りに、黒井あかねを覚醒させればいいでしょう」
「…………同じことを言わせるな。フィルデオ・ヘルスタイン」
「………………」
「あー、止め止め。ここで言い争っても意味はねぇんだ」
一瞬、血が登りかけた頭を軽く叩き、クールダウンする。こいつらがそれを企もうとも、既に状況は進んでる。
「ともかく頼むぜ、万灯雪侍」
「あぁ、恩人の頼みとあらば、喜んで」
ーーーー塔外・螺旋階段ーーーー
「おい、風華」
ーードプンッーー
「はーい♡ なぁに、シューへイくん?」
俺の呼び掛けに応じて、すぐに俺の影の中から現れた風華。
はぁ、やっぱり俺の影の中にいやがったか。いつからいたのかと訊ねると、俺が塔から出た瞬間だと言う。俺を見つけた時に、塔の上から落ち、影に飛び込んだと。どおりでさっきから妙に背筋がぞわっとする訳だ。
「お前にはあの2人の監視を頼んだはずだが?」
「勿論今だってしてるよ。私の『ハイドープ』能力、知ってるでしょ」
「……そうだったな」
正直、彼女の能力をあまり深くは知らない。だが、今のこいつが俺に協力してくれていることは事実。俺に不利益になることはしないだろう。
……って、協力ねぇ。信じられねぇ話だぜ。前世では俺を監禁までした上に、この世界にまでつけ回し、挙げ句の果てに雫ちゃんとの仲を引き裂こうと画策してやがったあのストーカー女が、雫ちゃんを助けるのに協力してるとはな。
「今でもあの女はキライ。死んじゃえばいいと思ってる」
「あ? てめぇーー」
「だけど、それじゃあ、シューへイくんは幸せになれないんでしょ」
「………………あぁ」
「なら、協力するよ。あの女が起きるまで、だけど」
その後はまたあの女と争うよ。シューへイくんを奪うためにね。風華はそう言って、不敵に笑う。
「正直さ、お前のことは許してないし、信用もしてねぇ。だけど、なんか……変わったな、お前」
「変わった? 魅力的になったってことぉ?♡♡」
「勝手に言ってろ」
「うん♡」
この15年で、こいつもこいつなりに変わっているんだ。
もう俺もいいおっさんだ。なぜか外見の変わらないこいつは、俺以外の相手を見つければいいものを。
「今度、いい男でも紹介してやるよ」
「え? なんでそんなことするの? 私がアイシテルのはシューへイくんだけなんだよ? そんなことしたら、その男八つ裂きにするよ?」
「ひえっ……」
あ、ダメかも。やっぱりこいつ、変わってねぇや。
ーーーー1時間後・制御室ーーーー
「全員、準備はいいか」
マイク越しに全員に話しかける。
塔の外にいる万灯と秀夫。
塔の外側に設置された螺旋階段から下を見下ろす風華。
そして、塔の頂上に立つミズハ。
全員が俺の言葉に頷いたのを確認してから、俺はミズハに合図を出した。
「始めます」
『リアクター』
ミズハはメモリを起動して、露出させた胸元へと挿し込んだ。途端に体が変わっていく。蒼い炎を肉体から吹き上がらせる『リアクター』へと。そして、『リアクター』は力を、熱を溜め始めた。
『ぐっ……』
少しよろける『リアクター』。
無理すんじゃねぇ! 少し休んでもいい。
そんな言葉をどうにか飲み込む。ミズハの覚悟を俺は知っている。ならば、ここは彼女を止めてはならない。
『あぁ……っ、うぁぁっ』
苦しみながら、『リアクター』は熱を溜め、自らの頭上に集める。『リアクター』の生み出した蒼い炎は膨れ上がっていき、やがて『リアクター』の十数倍もの火球となる。日の当たらないこの『街』ですら明るく照らし出す太陽のようなエネルギー。
それを放って、この『街』を破壊する。そうすれば、『奴』は必ず現れるはずだ。
そのためにも、もう少し……もう少しだけ頑張ってくれ、ミズハ!
『シューへイくんっ』
「!」
ミズハの姿に注目していたせいで、気づくのが遅れていた。風華の声のおかげで、俺はすべてのモニターに目を移す。俺の目に飛び込んできた光景はーー
「……来やがったなッ」
空に穴が開く。『ビゼル』によって、時空が裂け、風都とこの『街』が繋がる前兆だ。穴は広がっていく。
そして、現れる『ドーパント』の軍団。
うじゃうじゃと『ロード』共が湧いてやがる。そいつらの後ろから現れるは『ブラキオサウルス』と『スクリーム』。そして、『リバース』。
「全員、聞こえるか。案の定、おいでなすったぜ。俺達共通の敵だ。大将である『奴』以外は各々の判断で撃破、排除しろ!」
あいつらも敵を捕捉したんだろう。万灯と秀夫、風華がメモリを起動するのが見えた。それを確認し、俺はミズハに指示を送る。
「ミズハ!!」
予定通りだ。『奴』らが来なければ、『街』を破壊するはずだった巨大エネルギー弾。『リアクター』は俺の声に応じるように、それを有象無象ーー『ロード』や『ボーンズ』共に撃ち出した。
そう。それが開戦の合図だ。
「さぁ、全面戦争と行こうじゃねぇかッ!」
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