転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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021 sの憧憬 / 悪対悪

ーーーー秀夫視点ーーーー

 

 

「さて、秀夫くん。『あれ』をどう攻略しようか」

 

「…………」

 

 

僕たちが見据える相手は、勿論『ブラキオサウルス』だ。裕に僕たちの5倍はあろうかという相手。あれを倒せなければ、産み落とされた『ボーンズ』によって、戦力差は広がるばかり。ただでさえ薄い勝ち目がさらに薄くなってしまう。

 

 

「『ブラキオサウルス』の弱点は骨と骨の間、体節でよかったね?」

 

「はい。通常の『ブラキオサウルス』であれば、それを叩くのが定石でしょう。『ボーンズ』を出した数と本体の耐久度も反比例するはずなので、それを待つのも1つの手ではあります。けど、それだと……」

 

「あぁ。本体に辿り着く前に、我々が力尽きる」

 

 

僕も万灯さんも、長くはメモリを使えない。『ボーンズ』を出させ、脆くなるのを待つ耐久戦は不可能だ。僕たちには短期決戦しかない。

 

 

「道は作ります」

 

「あぁ、信頼してるよ」

 

「……はい」

 

「では、方針も決まったことだし、いこうか、秀夫くん」

 

「はい、万灯さん」

 

 

『オーロラ』

 

『オールド』

 

 

共にメモリを起動して、肉体に直挿しする。

 

 

「ぐぅっ」

 

 

ドライバーを使っていた時と違う、メモリが肉体に入ってくる異物感。気持ちが悪い。

『オールド』……『老い』のメモリ。これを僕にあてがうんだ。黒井秀平は相当に性格が悪い。終わったら必ず酷い目に遭わせてやろう。そんな逃避じみたことを考えている間にも、変身が完了する。

 

 

『……うぅぅ』

 

『大丈夫かい、秀夫くん』

 

『…………はい、どうにか』

 

 

ーーザッ、ザッ、ザッーー

『…………』

『…………』

『…………』

 

 

息を整える間もなく、あの巨体から落とされた『ボーンズ』がこちらに向かってくる。それに対して、僕は、

 

 

ーーゾゾゾゾゾゾッーー

 

 

『オールド』の能力を発動する。『老い』が付加された精神干渉波『オールドクリーク』は、地面を覆っていく。それに触れた『ボーンズ』は、ボロボロと崩れた。

『ボーンズ』はあくまでも『ブラキオサウルス』の体組織から生まれた存在だから、『オールド』による老化が効くはずという黒井秀平の読みは当たっていたようだ。悔しいが、これなら……!

 

 

『万灯さん!』

 

 

『ボーンズ』が崩れたのを見て、万灯さんは『ブラキオサウルス』へと既に駆け出していた。あの巨体だ。体の下が死角になるのは、他ならぬ僕が一番理解している。だから、『ボーンズ』で足元を固めるのも想定済み。

 

 

ーーゾゾゾゾゾゾッーー

 

 

指向性を持たせた『オールドクリーク』を展開し、万灯さんの行く手を阻もうとする『ボーンズ』へと放つ。

順調だ。奴の足元ががら空き。あとは万灯さんが『ブラキオサウルス』の体を駆け上がり、『オーロラ』で『ブラキオサウルス』の体節を破壊すれば!!

 

 

『行ける!』

 

 

ーーキィィィィィィンーー

 

 

勝利を確信したその瞬間、その音は響いた。金切り音……いや、これは『叫び』だ。音の出所を確認しようとする暇もなく、僕はーー

 

 

『ーーアァァァァァァァァーー』

ーーキィィィィィィンーー

 

『!?』

 

 

ーー『スクリーム』の攻撃を受けた。『叫び』が僕を包んでーー。

 

 

『……え?』

 

 

時間にして、数秒間。『叫び』は聞こえなくなった。辺りを見回すが、『スクリーム』の姿はない。何が起きたんだ?

 

 

ーー風華視点ーー

 

 

「貴女たち、何者?」

 

『…………』

 

 

私の質問に、目の前の『スクリーム』は答えない。ただじっとこっちを見つめてくるだけ。

 

 

「うげぇ、キモいなぁ……」

 

『…………』

 

「意志がないわけ? ますますキモい」

 

 

私の言葉にはなんの反応もない。意志薄弱で、私が昔作った複製兵士の人形を思い出す。こいつ、命令を実行するだけの人形に近い気がする。

 

 

「ま、いいや。そっちが何者でも私には関係ないし。一応、シューへイくんが聞き出せって言うから、私は従っただけ」

 

『…………』

 

「答える気がないなら、別にいいし。答えられないなら、尚更。とにかく倒してから考えればいっか」

 

 

私はポケットに入れてあったメモリを取り出す。これは私がシューへイくんといるために、手に入れた私の意志。陰からシューへイくんを見守る(ストーカーする)ために手に入れた力だ。

 

 

『シェード』

 

 

メモリを額に挿し込み、変貌を遂げる。

色はシューへイくんとお揃いの黒。余計な装飾を一切排除して、身体のラインだけが出る肉体。そして、顔には閉じられた瞳だけが存在する。そんな私に似合わない地味な姿の『ドーパント』。だけど、その本質は私にぴったりだって思ってる。

 

 

ーードプンッーー

 

 

瞬間、私の身体が消える。

 

 

『!』

 

 

私が一瞬で消えたことで、今までほぼ無反応だった『スクリーム』も辺りをキョロキョロと見渡している。

フフッ、愉快愉快♪ ま、そんなに見渡しても無駄なんだけど~♪

 

 

ーーズズズッーー

 

『ここだよ』

 

 

私が潜んだのは影の中。

『シェード』は『陰』の記憶をもつメモリ。影の中を自由自在に行き来できる能力。

 

 

『ふっ!』

 

ーードゴッーー

 

『ッ』

 

 

そのまま殴り、再び影の中へ。

 

 

『…………』

 

ーードゴッ、ドゴッーー

 

『?』

 

 

『スクリーム』は私が潜んだ自分の影を攻撃する。だけど、そんなのムダムダ。

 

 

『こっちこっち!』

 

ーーガッーー

 

 

また背後から飛び出して、蹴りを『スクリーム』の首へ放つ。そして、再び影へ飛び込む。

 

 

『………………』

 

 

私が影に潜んで攻撃しているのを理解したみたいで、『スクリーム』は地面に這うように四つん這いになった。

ふーん、まぁ、確かにそれなら『スクリーム』の影は、完全に体で隠されていて、下からは飛び出せない。けどさ~♪

 

 

『ムダだってッ!』

 

ーーガシッーー

 

『!?』

 

 

『スクリーム』の後ろ側、ただの地面から私は飛び出して、『スクリーム』の足首を両手で掴む。

そこは影もない場所だと思っていたでしょ? それは正解。普通なら、私は活動できない場所だ。けど、ここは『裏風都』……日の射さない『陰』だらけの『街』だから。

 

 

ーーグッーー

 

『どこでも行けるんだ、私!』

 

ーーびたーんっーー

 

 

持ち上げ、地面へ叩きつける。

 

 

『クスクス……抵抗できないまま、やられちゃえ』

 

 

影に入り、飛び出して攻撃。たまに他の陰へ入り、不意打ちで掴み、叩きつけ攻撃。それを繰り返す。繰り返す。意識していないところからの攻撃には無防備で為す術がなくて、可哀想かも?

 

 

『ま、そんなこと1ミリも思ってないけどぉ♡』

 

ーーキィィィィィィンーー

 

『え……?』

 

 

甲高い音が聞こえた。次の瞬間、

 

 

ーーーーーーアァァァァァァァァァーーーーーー

 

『か、は……っ!?』

 

 

私は影から打ち上げられていた。

『スクリーム』は『叫び』による全方位攻撃を行える。シューへイくんがそう言っていたのを不意に思い出した。『叫び』は地面の中にも響き渡り、私を打ち上げた。

……これが、そうなんだ。警戒をしなきゃ。意識を切り替えるよりも早く、

 

 

ーーガシッーー

 

『っ』

 

 

脚を掴まれる。ちょ、これじゃあ影に入れないっ!?

 

 

『にぃぃぃぃぃぃ』

 

ーーゾワッーー

 

 

焦りを感じた私に向けて、『スクリーム』は笑いかけてきた。本当に不気味な笑みで、寒気がする。

 

 

ーーぐっーー

 

ーーびたーんっーー

 

『が……ッ』

 

 

背中に強い衝撃と強烈な痛み。叩きつけられたのだと理解するより前に、さらに、

 

 

ーーびたーんっーー

 

『ッ』

 

 

今度は体の前側、顔面と胸、腹に激痛が走る。それを

 

 

ーーびたーんっーー

ーーびたーんっーー

ーーびたーんっーー

ーーびたーんっーー

 

 

繰り返される。意識が……飛ぶ……。

メモリが排出された私を、『スクリーム』は足首を掴んだまま、逆さ釣りにして観察してくる。キモい……本当に、キモい……。

 

 

『?』

 

「……はっ…………は……」

 

『にぃぃぃぃぃ…………すぅぅぅぅぅぅ…………』

 

 

ーーキィィィィィィンーー

 

 

薄れ行く意識で、『スクリーム』が思い切り息を吸い込むのが見えた。同時にあの金切り音。

 

 

『ーーアァァァァァァァァーー』

 

ーーキィィィィィィンーー

 

 

至近距離で響く轟音。激痛。私の身体すべてが振動する。

時間にして1秒。身体が破裂しようとしている感覚が、私の脳を支配してする。『叫び』は終わらない。

 

 

「死、ぬ……」

 

 

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。死にたくない。死にたくないよ。

『叫び』に簡単にかき消されるほど小さな声で、私は呟いた。

 

 

「たす、けて……」

 

 

助けは、来ない。

当然かな。たくさん悪いことしたから、その報い。わかり切ってたことなのに。

シューへイくんのヒロインは、私じゃない。

だから、私を助けてくれるヒーローも、王子様もーー

 

 

 

ーーバギィッーー

 

『ガッ!?』

 

 

もう痛みすら感じなくなった体に、突然感じた浮遊感。そして、

 

 

ーーギュッーー

 

 

誰かに抱き止められる感覚。今は目を開けるのも辛い。けれど、この匂い、この体つき、この暖かさ。それを私は知ってる、知り尽くしてる。

なら、助けてくれたその人の姿を、私はちゃんと見なきゃいけない。じゃなきゃ、一生後悔するだろうから。

 

 

「あ…………ぅ……」

 

 

声は出ない。呼吸をするので精一杯な私に、彼は告げる。

 

 

「改めて言うが、お前を許すつもりはねぇし、好きになるつもりも一切ねぇ。俺がお前を選ぶことは絶対にない」

 

 

知ってるよ。だけど、こうして来てくれたじゃん。

 

 

「だけど、ミズハが倒し損ねた『ロード』から、雫ちゃんを陰から守ってくれてたのは知ってるからな」

 

 

……あーあ、バレてたんだ。絶対バレてないと思ってたのに。

 

 

 

「その分はキッチリ守ってやるよ、風華」

 

 

 

そう言って、私の王子様は笑った。

私の大好きなガラの悪い笑みで。

 

 

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