転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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023 sの憧憬 / 私はただ守りたいのです

ーーーー回想ーーーー

 

 

私は虐待を受けていました。

私を産んで亡くなった母の代わりに我が家に入った若い義母は、それはそれは酷い方で、父親の出張でほぼ家を開けているのをいいことに、毎晩遊び歩き、家のことはすべて私がやっていました。それだけなら、まだいいのです。義母は若い男たちを家に連れ込み、挙げ句の果てに私をその男たちに売ろうしました。それが嫌で逃げ出す私。ほとぼりが覚めた頃に家に戻ると、機嫌の悪い義母に殴られる。その繰り返し。

 

高校2年の夏。

限界を迎えていた私は、風都タワーの立ち入り禁止の通路にフラフラと足を運び、非常階段へ。1段1段階段を上がり、これ以上は上へ行けない踊り場まで行き着きました。手すりにゆっくりと登り、私はその身をーー

 

 

「た、たすけてくれぇぇ……」

 

「え……?」

 

 

その声は私の下から聞こえてきました。視線を下げると、そこにいたのは1人の男性。見れば、どうにか手すりに掴まり、今にも落下しそうな状況で。

 

 

「し、しぬぅぅ……」

 

「え、あっ、えっ……えぇ!?」

 

 

突然の出来事にパニックになりながらも、私はその人をどうにか引っ張り上げました。よく見れば、彼はボロボロで、それでも笑っていました。その直後、上から怪物が降ってきて。

 

 

「やべぇっ!? おい、君、走るぞっ!!」

 

「え、えっ!?」

 

「いいからっ!!」

 

 

そう言って、彼は私の手を引いて、逃げ出したのでした。あまりの非日常に困惑する私は、死のうとしていたこともすっかり忘れ、彼に手を引かれながら全速力で逃げて。

 

 

「逃げろ逃げろ! やべぇ奴からは逃げるのが一番だ! ハーッハッハッ!!」

 

「っ」

 

 

そのとき、笑いながら、全力で逃げる彼の言葉で、私の中の何かがカチッとはまる気がしました。

 

 

「…………たすけて……っ」

 

「あ? 助けてほしいのはこっちなんだがっ!?」

 

「っ、うわぁぁぁんっ」

 

「え、えぇ!? な、なになになに!? なんで泣いてんのこのJK!?」

 

 

走りながら、泣きながら、私は彼に助けを求めたのでした。

 

怪物が『仮面ライダー』によって倒された後、私は彼にすべてを告白しました。今思えば、見ず知らずの怪物に追われていた人に話すのも、変な話ではあると思います。けれど、結果的に知り合いに警察官がいるということで、その人に相談して、私は保護されました。

ここまででお分かりでしょう。

怪物に追われていた男性こそが主様。

そして、私を助けてくれた警察官が雫様。

そう。私はお二人に救われたのです。

 

………………。

「シューヘイくん、なにもしてなくね?」

そう言う愚か者もいますが、それでも私の中で逃げるという選択肢を与えてくれた主様は、やはり私の救世主なのです。

 

 

保護された私は、その後も何度か彼の元へ足を運びました。事案だから来るなとか、こっちは妻子持ちなんだから、いろいろ危ないとか言われながらも、彼は私のことを気にかけてくれていました。

 

そして、私が主様に救われた翌年のことです。雫様が眠りにつきました。それはまるで呪いのように根深く、現代医療ではまったく治療できるものではありませんでした。

主様は雫様を救う手立てを見つけるため、2人のご息女を親友に託し、旅に出ました。私はその道中に勝手についていくことを決めたのです。

旅の中で銀色の『マスカレイド』メモリと再び巡り合ったり。

あのストーカー女が付きまとってきたり。

そして、元凶である者を特定したり。

 

私達はそうして、この紛い物の『裏風都』に辿り着きました。ここは元凶である人物がメモリ能力を駆使して作り出した場所。目的自体はまだハッキリとはしていませんが、この場所を破壊する。そうすれば、ここを維持したい人物は、それを防ぐために現れるはず。そんな思惑があり、私達はこの巨大な『街』を拠点にしたのです。

 

勿論、その道中は非常に危険で、死と隣合わせ。『ロード』が蔓延る塔までの道を確保して、上級ドーパントのいる塔を占拠。その中に雫様が安全に眠ることができるスペースを確保する。

ここまでで1年。

何の力もない私の仕事は、雫様を見守り続けること。

塔で私がただ雫様を見ている間も、主様は『街』を壊し続けました。雫様をお守りすることが大事な使命であることは分かっていました。けれど、一人、傷ついていく主様を私は見ていられませんでした。

 

だから、『リアクター』と巡り合ったのは運命と言えるでしょう。その力は強大で、『街』を破壊するのは私の役目になったのです。これはそう、私にしかできないこと。主様と雫様の幸せを守る番人である私にしか……。

だからーー

 

 

ーーーーーーーー

 

 

『2人の邪魔を…………するなァァ!!』

 

 

極限にまで溜めたエネルギーを有象無象へと放ちます。蒼い炎は『ロード』や『ボーンズ』に命中し、焼き尽くしていく。

 

 

『はぁ……はぁ……』

 

 

主様の言う通り、『リアクター』のエネルギーを極限まで高めるのは、私自身にも負担がかかる。それでも、今のでやっと3分の1程度を減らしただけ。

 

 

『『ブラキオサウルス』が倒れれば……』

 

 

『ボーンズ』を生成している『ブラキオサウルス』の相手をしているのは、主様が招き入れた2人。『オーロラ』と『オールド』。メモリの相性は悪くないはずで、もう少し耐えれば、『ブラキオサウルス』は撃破され、『ボーンズ』は消えるはず。

だから、優先すべきは『ロード』。

 

 

『はぁぁぁぁ……』

 

 

もう一度、エネルギーを溜めていく。今度は先程よりも短くていい。威力は弱まるが、それでも理性のない『ロード』相手になら十分です。

 

 

『グガァアッ!』

『グォォ!』

『グゴァァ!』

『ゴオォォ!』

 

 

塔の頂上にいる私へ向けて、4体の『ロード』が道を作り、迫ってくる。動きは直線。ならば、

 

 

『ふっ!!』

 

ーーゴォォォォォーー

 

 

タイミングを図って、炎を私を中心に球状に展開する。勢いを殺しきれない『ロード』は、目論見通りにその炎のドームに突っ込んできました。触れ、そのまま炎上し、落ちていく『ロード』たち。

これです。これを続ければ、いずれはーー

 

 

『おい、ミズハ! 大丈夫か!?』

 

『っ、主様!』

 

 

不意にかけられた声。振り向くと、そこには『マスカレイド』ーー主様がいた。『マスカレイド』に記憶された能力で、浮いているのでしょう。この戦火の中飛んでここまで来てくださった。

 

 

『少し休め。限界近いんだろ!』

 

『っ、ありがたきお言葉ですが、私はまだやれます』

 

『……いや、むしろ頼みたいことがあるんだ』

 

『頼みたいこと、ですか?』

 

『あぁ、雫を守りに行ってほしい』

 

 

雫様を?

そう訊ねると、主様は頷き、続ける。

 

 

『敵が雫のいるところへ向かってる。しかも、大量にだ。対多数に一番向いてるのは、ミズハだ。守ってやってほしい』

 

『……分かりました』

 

 

確かに多数を相手するのは、私が最適でしょう。そう思って、私は炎のドームを解きました。

 

瞬間に感じる違和感。

疲労で頭が十分に回っていない状態でも、なにかがおかしいと私の中の直感が警鐘を鳴らす。

……そうだ、そうだっ、主様は雫様のことを呼び捨てになどーー

 

 

 

『その瞬間を待ってたぜぇぇ』

 

ーーグニャリーー

 

 

『ッ!?』

 

 

背中を駆け抜ける悪寒。何かが逆転するような異常な感覚。

振り払うように、腕でその者を薙ごうとするも、既にその者は私から距離を取っていました。

 

 

『あなたはっ、何者ですッ!!』

 

 

問う。目の前にいる主様のフリをした不届き者に。

 

 

『俺は『嘘つき』だぁ』

 

 

答えになっていない答え。苛立った私は、再び炎を放とうと右腕に力を込めました。

 

 

ーーパキッーー

 

『なっ!?』

 

 

けれど、炎は出ません。むしろ腕が凍りついていて。

 

 

『『反転』だよ、『反転』。炎を発するほどの高熱が『反転』して、凍結するほどの超低温になった。それだけだぁ』

 

『リバース』

 

 

ガイアウィスパーと共に、その『ドーパント』はメモリを取り出す。同時に、姿が変わりました。『マスカレイド』から主様の姿へと。

 

 

『…………悪趣味です。その姿を止めなさい』

 

『おぉ、怖いっ……でも、止めねぇよぉ? ガワだけの偽者でも、黒井秀平の姿じゃ戦いにくいだろ?』

 

 

ドライバーを見るに、さっきの『リバース』はメモリ能力を『レイズ』させていて、今の姿を偽装するのが本来の能力でしょう。ならば、戦闘能力は低い!

 

 

『はぁぁぁぁ!』

ーーパキッーー

 

『くっ』

 

『ハーッハッハッ! 傑作だぁ、いくら強いメモリでも能力を使いこなせなければ、ただの見かけ倒し!』

 

 

上手く炎を繰り出せない私を馬鹿にしたように笑う偽者。その姿で嘲笑われるのは少々堪えますが、所詮は偽者です。主様とは違い、品位の欠片もなく、私の想いも理解できない。

 

 

『はぁぁぁぁぁっ』

ーーパキッ、パキッ、パキッーー

 

『無駄だ無駄だァ! 感情の強さで『反転』を覆せる訳がない! このままお前はここで死ねェ!』

 

『アームズ』

 

 

偽者は叫びながら、『アームズ』メモリをドライバーへ入れ、右手をガトリングガンに変える。銃口は私を捉え、

 

 

『死ねェ!!』

 

ーーパァァァンッーー

 

 

凶弾は放たれた。その弾は『リアクター』の装甲の薄い腹部を貫き、

 

 

『く……」

 

 

痛みで一瞬意識が飛びます。そのせいでメモリは体外に排出されて、人間態に戻ってしまいました。

この高さです。人間のままでは死ぬのは間違いありません。もし運良く助かったとしても、人喰いの『ロード』がうじゃうじゃといるのですから、生きたまま喰われて終わりでしょう。

 

一度は死んだ身。けれど、主様に救われた。

主様のために戦って死ねるならば本望です。思い残すことなどーー

 

 

「まもら、なくては……」

 

「主様を……雫、様を……まもらなくては……っ」

 

 

落ちていく私の声は、

 

 

 

ーーぐしゃっーー

 

 

 

誰にも届かない。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

私はただ守りたかった。

私に逃げていいのだと教えてくれたあの方の人を小馬鹿にしたような、けれど、ただただ明るいあの笑顔を。

 

 

それは私には叶わなかった。

 

 

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