転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
ーーーーside『A』ーーーー
『裏風都』の廃教会。
それには5人の人間がいた。パパと私、それから眠ったままのママ。そして、パパの部下であろうシスターともう1人の女。
ここに来てから、パパはシスターのことをメモリ能力で治療していた。それが、許せない。
「納得できるかッ!!!」
そう言って、私はパパに殴りかかった。それを止めるのはシスター。
「お止めくださいっ、あかね様っ」
「止められるかっ! なんでっ、なんで逃げたんだよッ!」
「…………」
質問に答えないパパ。だから、私もヒートアップしていく。
「吉川零次とかいう男はあの場で殺さなくちゃならなかったんだ! だって、瑠璃を殺したッ!! なんで退かなきゃいけないんだよっ!!」
「主様もお気持ちは同じですっ」
「なら、なんでッ!!」
「はぁぁ、分かんないカナァ……せっかくシューヘイくんの血を引いてるのに、頭はそこでのうのうと寝てる女に似て悪いね」
「あ"ぁ"!?」
地べたにだらしなく座っている女にそう言われて、余計に頭にくる私。そんな私に怯むことなく、その女は続ける。
「私もそこのおっぱいも戦えない。その上、その女が寝てる部屋にも敵が迫ってた。戦略的撤退を選んだシューヘイくんの判断は正しい」
「っ、でもっ!」
「…………見たでしょ? 黒井瑠璃は死んだ。死人の敵討ちで全員死ぬなんてアリエナイでしょ」
「~~~~~~ッ」
言葉にならない。悔しくて、悲しくて。
でも、この嫌な女の言うことは真実だ。瑠璃は死んだ。だからーー
「風華、言い過ぎだ」
「うっ……でも、事実じゃん……」
「…………」
「うぅぅ…………シューヘイくんに従いますぅ……」
「あぁ。ミズハも……あかねちゃんを放してやってくれ」
「……かしこまりました」
パパの言葉で女は口を閉ざし、シスターは私のことを解放した。その瞬間に、私は一歩踏み出してーー
ーーバギィッーー
「シューヘイくんッ!?」
「主様っ!?」
ーーパパの顔面をおもいっきりぶん殴った。よろめき、膝をつくパパ。鼻血も出て、馬鹿みたいな顔になってる。
「くっ!」
「コロスッ」
「待て、ふたりともっ!」
私を再び拘束しようとしたシスター達を制したのはパパ。手のひらを2人に向けたまま続ける。
「殴られて当然だ。長い間、2人のことを放っといて、挙げ句の果てに、奴に瑠璃ちゃんを奪われちまった」
「奪われたッ!? 違う! 殺されたんだッ、全部パパのせいだっ!!」
「あぁ、ごめん。俺のせいだ」
「そうっ、パパのせいだよっ……パパの……っ」
ーーぎゅっーー
「ごめんな、不甲斐ないパパで」
「っ」
悔しくて、悲しくて、憎くて。瑠璃のために戦わなきゃならない。
なのに、こうしてパパに抱きしめられて安心してしまった自分が本当に、
「っ、わぁぁぁぁぁんっ」
許せなかった。
ーーーーーーーー
「落ち着いたか、あかねちゃん」
「……うるさい」
隣に座るパパへぶっきらぼうにそう答える。膝をきゅっと抱え、顔を伏せる。今はパパに顔を見られたくない。
「……あかねちゃん、ひとつだけ聞いてくれ」
「うるさい、黙れ」
「瑠璃ちゃんは生きてるよ」
「……………………は?」
いきなりのパパの衝撃発言に、思わず顔を上げてしまった。そのくらい驚いたから……って、待って!
「待ってよ、瑠璃は……死んで……」
「いや、生きてる」
そんなわけない。思い出したくもないけれど、大量の血を流し、目を見開いた状態の瑠璃を私はこの目で見ている。冷たくなった体に触れている。
「信じられねぇ話だとは思うが」
「う、うん」
「瑠璃ちゃんには心臓がない」
「は? え? ど、どういうこと、それっ!?」
「昔、瑠璃ちゃんは一度事故にあってんだ。覚えてないのも無理はないか。今から12年前……あかねちゃんが4歳のことだからな」
パパによると、12年前の家族旅行の日。
4人で沖縄に行ったその日、私は熱を出してしまい、ホテルでダウンしていたらしい。パパも看病しようとホテルに残る予定だったけど、ママが瑠璃に綺麗な海を見せてあげて、と2人を送り出した。
そこで瑠璃は事故に遭ってしまった。心臓に大きな損傷を負い、普通だったら助からない。けど、それをパパはメモリの能力で治療したという。
「いや、『ドクター』の力は使ったけど、正確には治療じゃねぇな。『ある物』を瑠璃ちゃんの心臓の代わりにしたんだ」
「『ある物』……?」
「あぁ。実はその旅行は俺の仕事の一環だったんだよ。照井に頼まれて、探し出した『それ』が謀らずも役に立った訳だ」
『ある物』ってなんなんだ。そう訊ねると、パパは懐から緑色に淡く光る石を取り出した。曰く、その石と同じものが瑠璃の心臓の代わりをしているらしい。
「『ガイアプログレッサー』……こいつは地球の記憶を宿した鉱石でな、これが『心臓』の働きを引き出し、瑠璃ちゃんの肉体を維持してるんだ」
「この石が……?」
「まぁ、正直心臓の代わり、どころじゃねぇけどな。これは宿主の肉体の損傷まで補完するはずだ」
不思議な輝きを放つ石だ。
って、待って。つまり、この石が傷つけられてなければーー
「瑠璃は……生きてる……」
「そういうことだ」
ーーーーside『R』ーーーー
「…………ん」
目が覚める。まだ頭がボーッとして、考えがまとまらない。わたしは……何をしてたんだっけ……?
「起きたかい、黒井瑠璃」
「……その声、万灯雪侍?」
声は聞こえるけど、辺りは暗くて彼の姿は見えない。
「君も捕まったんだね。こちらも残念ながら奴に捕まってしまったよ」
「…………」
少し時間を置いたからか目が慣れてきた。どうやらここはどこかの小部屋みたい。足元に気を付けながら少し歩くと、トイレやシャワーなど、生活するだけのスペースはあるみたい。
「……ここ、どこ?」
「『街』の塔内にあるゲストハウスだよ。ここは我々の『街』にもあった場所だから勝手知ったる……だ。恐らくだが、そちらの部屋はさぞ快適だろう? 人間らしい生活はできるはずさ」
「人間らしい、か」
「っ、だれ!?」
突如として響いた万灯以外の声。低音な男の声だ。目を凝らすと、その姿が見えた。
黒いスーツに身を包んだ男性。体つきはかなりしっかりとしていて、服の上からでも鍛えられていることが分かる。ただそれに反して、顔の印象が薄い。よく言えば塩顔。悪く言えばモブ顔。妙にアンバランスな雰囲気をもった人だった。
「ショックで記憶が飛んでいるのか。自分を殺した男の顔も忘れるとはな」
「…………え?」
ーーザザッーー
「っ」
その人の言葉で、急に頭に痛みが走る。何か思い出したくない記憶の扉が開かれる感覚。次の瞬間、わたしは膝から崩れ落ちていた。
「わたし、あの時死んだはずなのにっ、ど、どうして……生きて……っ」
何かの力で空いたはずの胸の穴も塞がっている。性質の悪い幻覚だった? ううん、少しずつなくなっていく身体の感覚とそれに反して感じた自分の血のあたたかさは、幻覚なんかじゃなかった。わたしは一回死んだはずだ。なのに、生きてる……?
「黒井瑠璃。お前は人間ではない」
「なにを言って……?」
「こうすれば分かるだろう」
ーーゴポッーー
「~~ッ!?!?」
強烈な痛みに声にならない叫びをあげた。痛む場所には、あの時と同じように穴が空いていた。ただし、あの時と違うのは左胸、心臓のある場所に穴が空いたこととーー
「なに、この石……」
穴の中に緑色の石のようなものがあったこと。石とわたしの身体との間には、血管のような管が何本も繋がっていた。
「『ガイアプログレッサー』。心臓を失ったお前を生かす鉱石だ。とある島の地下から黒井秀平が取り出したものが、何の因果かお前の命を繋いでいる」
「…………は、え……」
「『ガイアプログレッサー』が体内に定着している人間は自らの肉体を半自動的に修復し続ける。つまりは、お前はその石がある限り、死ぬことはない。半永久的に生き続けるなど…………人間とは言えないだろう?」
脳が理解するのを拒んでる。でも、嫌が応にも見せつけられる事実。緑色の鉱石は脈動し、わたしに空いた穴を修復していく。その光景は、目の前の人が言っていることが真実であると告げていた。
「…………わたしは、人間じゃない……」
今になって、『イービル』を使って姿を消したおねえの気持ちが分かってしまった。穏やかに過ごしてきた日々が崩れていく。そんな感じだ。自分という存在が日常からかけ離れていく感覚が強くなっていく。
あぁ、なんだ……わたしーー
「ーー『化物』だ」
ーーーーーーーー
『黒井瑠璃』という存在がまるで夢現のように霧散していく。
パパを助ける? ママを救う? おねえと一緒に戦う?
人間でもないわたしが?
…………あれ?
わたし一体、どうしたらいいんだろう。
ーーーーーーーー