転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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026 鏡像はx / 存在意義の肯定と否定

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「そうか、彼女は死なないのか。残念。前提が覆ったなら、私の計画も総崩れだ」

 

「……万灯雪侍」

 

 

自分が普通の人間ではないことを知り、茫然自失になる瑠璃のことなど気にせず、万灯は口を開いた。計画が狂ったという割には、その声色は冷静そのもので、吉川はそちらへと気を配る。

 

 

「お前は……黒井秀平に借りがあるんだろう。にもかかわらず、この娘を殺そうとした……一貫していないな」

 

「よく知っているね。まぁ、その話はもういいだろう? 既に叶わぬ目論見なんだ。私の最終目標は変わらず、この『街』の崩壊さ」

 

「……この『街』は必要だ。壊されては困る。お前はこのままここで『終わり』まで監禁させてもらう。幸いなことにお前も千葉秀夫も、もうメモリはない」

 

 

吉川の言う通り、万灯も秀夫も先の戦いの中でメモリを破損していた。戦うことはできないのは自明の理。

 

 

「まぁ、それはそうだ……ともかくひとつ聞きたい。この紛い物の『街』を作った理由をね」

 

「………………」

 

「元々は我々の『街』だったんだ。『街』の使用料として、君の目的くらい教えてくれてもいいんじゃないかな?」

 

「お前に何も語ることはない」

 

 

吉川はそう言って、話を切り、その場を立ち去った。吉川は誰も信じないし、気を抜くこともない。全ては目的のために、不安要素は排除するし、人を人とも思わない合理的すぎる判断をする人間だ。自らの敵である万灯に情報を漏らすことなどない。

 

 

「…………さて、秀夫くん。生きてるかい?」

 

「はい、万灯さん」

 

「彼の思念波は?」

 

「残念ながら遮断されました。彼の目的は分かりません。ですが、思念波自体は、その……黒井秀平に近いものがあります」

 

「……そうか」

 

 

思い当たる節があるのか、万灯はそこで思考する。だが、情報が足りない今、これ以上の考察は意味がなく、次の手を打つべきだろう。そう判断した万灯は、口を開いた。

 

 

「黒井瑠璃。聞こえているかい?」

 

「……………………」

 

「君が持っているガラケーを渡してくれるかな。それは特別製で、向こうの街と連絡がとれるはず」

 

「……………………」

 

「黒井瑠璃」

 

 

万灯の言葉に反応を示さない瑠璃。彼はひとつため息を吐き、秀夫に指示を出す。それに応じた秀夫は瑠璃に思念波を送り、無理矢理彼女の持つガラケーを部屋の外、3つの監禁部屋を繋ぐ通路へと放った。万灯は少し手を伸ばして、それを拾う。

 

 

「……さて」

 

 

ガラケーに登録されている番号を確認した万灯は、そのうちのひとつに電話をかけた。

 

 

ーーーーside『A』ーーーー

 

 

「その答えを聞いて安心したぜ。流石はあかねちゃん。天使な雫ちゃんの血を引くレディだな」

 

ーーくしゃりーー

 

 

瑠璃の心臓がなんかよく分かんない石で動いてる。そんな話に対して返した一言を聞いて、パパは私の頭を撫でた。記憶通りの安心する撫で方と笑顔。

ま、女の子の髪を崩すくらいの力加減なのは、ほんとないと思うけど。あ、あと……。

 

 

「ちゃんづけキモイから止めて」

 

「え……」

 

「あとママのこと、娘の前で天使とか言うの止めなよ、キモイし」

 

「あ……あぁぁ……」

 

 

心底ショックを受けた顔で溶けるパパ。その表情にちょっと笑っちゃう。これを狙ってやってるんだとしたら、パパの作戦は見事成功だ。

 

 

ーーprrrrーー

 

「!」

 

 

ほっこりしていると、私のもつガラケーが鳴った。画面を見ると、そこにはとある人物の名前が記されていた。というか、ここに登録されてる人は2人しかいない。ひとつ息を吐き、通話ボタンをタップした。

 

 

「…………瑠璃?」

 

 

瑠璃が持っていたガラケーからの着信だ。相手は恐らく……。

 

 

『やぁ、黒井あかね』

 

「万灯っ!? なんでお前が……っ、瑠璃はっ!! 無事かっ!!」

 

『彼女なら私の近くにいるよ。それに無事ではある。話の通じない状態だけれどね』

 

「っ」

 

 

それを聞いて察する。たぶん瑠璃も心臓のことを聞いたのだ。くそっ、今すぐに瑠璃のところに行ってやりたいのにっ!

 

 

『さて、残念ながら君に用はない。近くにいる黒井秀平に替わってくれ』

 

「…………」

 

『どうした? 彼に替わるんだ』

 

「っ」

 

 

こんな電話、今すぐ怒鳴りつけて切ってやりたい。けど、瑠璃を救う糸はこの先にしか繋がってない。なら、今は心を殺せ。

 

 

「パパ……これ」

 

「……おう」

 

 

私の会話だけで相手が誰か理解してるようで、パパはさっきまでとは違う引き締まった表情で、ガラケーを受け取った。そのままスピーカーにして、話し始める。

 

 

「万灯、瑠璃ちゃんは無事か」

 

『そちらの娘にも伝えた通り、無事さ。真実を知って茫然自失だが。しかし、君も罪な男だ。真実を知っていたなら、私の計画が意味をなさないことを知っていたろうに』

 

「……方法論じゃねぇ、気持ちの問題だ」

 

『黒井秀平。君は私の恩人だけれど、まったく君の思想とは相容れないよ』

 

「俺もてめぇと主義が合うとは思ってねぇよ」

 

『話は平行線だ。ひとまずこの話は置いておこう』

 

 

話を断ち切り、万灯は本題へと移す。

 

 

『私と秀夫くん、そして、黒井瑠璃は塔のゲストルームにいるよ。生活設備も最低限整ってはいるから今すぐ餓死することはないだろう。勿論、生きる気力があればだがね』

 

「脱出は?」

 

『できるならしているさ。残念ながら我々のメモリはもうない。秀夫くんの思念波もせいぜい物を動かす程度になっている』

 

「…………分かった。くれぐれも瑠璃ちゃんを傷つけるなよ」

 

 

ーープツンーー

 

 

パパは通話を切った。そして、ひとつ指を鳴らした。それに応じるように現れたのは、シスターとあの変な女だ。

 

 

「ミズハ、風華」

 

「うん、シューヘイくん」

「はい、主様」

 

「相手の戦力は削った。瑠璃ちゃんがいる場所も分かった。これから攻め入る。ミズハはここで雫ちゃんを守れ。風華は俺と共に来い。そして、あかねちゃんを守れ」

 

「畏まりました」

「りょーかい!」

 

 

パパの指示に、2人は二つ返事で答える。だから、私は不安になってしまう。だったら、私は何をすればいいの?

 

 

「パパ、私は……」

 

 

私の心中を察したのか、パパはまた私の頭を撫でる。少し強く、不器用な撫で方で。にこりと笑いかけ、パパは私にも指示をくれる。

 

 

「瑠璃ちゃんを頼む。さっき言ってくれた言葉を全力で瑠璃ちゃんにぶつけてやってくれ」

 

「……うん」

 

「それはきっとあかねちゃんにしかできないことだから」

 

 

頼む、とパパはまた言った。その言葉でなぜだか私の気持ちがあがる。

……うん。私が瑠璃を助けるんだ。

 

 

「じゃあ、行くぞ」

 

『マスカレイド』

 

 

メモリを起動した瞬間に、パパの纏う雰囲気が変わる。オーラみたいなものが一瞬見えた気がした。赤、青、黄、紫、白、緑、水色、灰色。沢山の色が混ざって、黒く染まる。

 

『マスカレイド』。

万灯から聞いていた、最弱の『ドーパント』へとパパは変身して、告げる。

 

 

 

『全てを取り返す』

 

 

 

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