転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
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「黒井雫っ、なぜお前がここにいるッ」
「貴方がかけた呪いを解いてもらったからです……よっ!」
ーーぶんっーー
ママは止めていた拳を振り払い、吉川を退かせた。
「立てますか、秀平くん」
「ハッ、かっこよすぎるだろ、雫ちゃんっ」
「秀平くんには及びません」
言葉を交わした後、パパの『沼』を通って、2人は私達の近くに移動してきた。
「っ、パパっ! ママっ!」
そんな2人に私は抱きついてしまう。戦闘中だってことも分かってるけど、止められなかった。
「うぎぃっ、あかねちゃんんっ、ストップぅぅ。俺、腹に穴、穴空いてるからぁぁ」
「あっ……ご、ごめん、パパ」
パパの絶叫で反射的に体を離す私と痛い痛いと言いながら、メモリ能力でその穴をゆっくりと治すパパ。
むぅ、感動の再会だっていうのに、ちょっとは我慢してほしいんだけど……いや、仕方ないけどさ。そんな風に思わず抱きついてしまったのを誤魔化すように、ブツブツと呟いていると、
「あかね」
「……ママ」
「大きくなったね」
ーーぎゅっーー
「~~~~っ、うんっ」
抱きしめてくれたママを抱きしめ返す。
……うん、うんっ、ママの匂いだ。
「瑠璃も……辛い想いをさせて、ごめんね」
「………………」
私をぎゅっとしながら、ママは近くの瑠璃の頭も撫でていた。それでも、瑠璃は反応しない。私と瑠璃。2人を愛おしそうに撫でてくれるママに、私は言葉を送り続ける。
「ずっと……ずっとぉ、会いたかったよっ、ママっ」
「ごめんね、心配かけて」
「ううんっ、ママが生きててくれてっ、よかったよぉ」
「っ、うんっ、ママもあかねと瑠璃が生きててくれて嬉しい」
さっきまでザワザワと騒がしかった心が落ち着いていくのが分かる。このままずっとくっついていたい。だけど、うん、分かってる。意を決して、私はママから離れて。
「あかね、『イービル』メモリを貸して」
「うん」
言われた通り、私の持つ『イービル』メモリを渡す。『イービル』はママのものだって前に万灯が言っていたのを思い出した。そうして、ママはそのメモリに静かに語りかけた。
「……ありがとう、『イービル』さん。娘を守ってくれて」
額にメモリを当てて、独り言のように呟いた言葉。それに、
『………………おう』
応える声があった。それは瑠璃からしたあの声だ。
「え…………?」
『ここだ、雫。瑠璃の持ってるメモリだ』
「っ、ちょっとごめんね、瑠璃っ」
ママは瑠璃の上着のポケットからそのメモリを取り出した。壊れているのか、そのメモリの外装にメモリ独自のイニシャルは刻まれていない。けど、確かにあの声はそのメモリから響いていた。
『よう、久しぶり』
「~~っ、なんでっ!? あの時消えたはずなのにっ」
『さぁな? でも、あたしが目覚めた時には、瑠璃の近くにいたんだ。そんで、雫の強い想いも感じてた。あかねと瑠璃を守って……ってな』
これは後から聞いた話だけど。
吉川と戦ったママが『ミラー』メモリに囚われる瞬間に願ったことーー私と瑠璃を守るって想いにメモリが応えたのではないかって、フィリップさんは言ってた。1つしか存在しない『イービル』は、メモリ本体と『イービル』という人格に別れて、私達の元に来たんだろうって。
ともかく、
「…………一緒に戦ってくれる? 『イービル』さん」
『ああ? なに、当たり前のこと聞いてるんだよ、雫!』
「もう、終わったぁ? 見せつけられてて、気分悪いんですけど~」
家族や相棒との感動の再会に水を差すようなことを言うのは、もちろんあの女。ボロボロになりながらも、どうにか立ち上がって、ママにイヤミを言っていた。そんな人にも、ママは微笑む。
「フーカさん……ありがとう、娘を守ってくれて」
「べつにぃぃ? あんたの娘じゃなくて、シューヘイくんの言うことを聞いてただけだし?」
「はいはい」
「~~っ、なに余裕ぶってるワケ!? こっちはねぇ、あんたがいないうちにシューヘイくんとあーんなことやこーんなことをーー」
ーーげしっーー
「黙りなさい。雫様に失礼ですよ、ストーカー女」
暴走する奴を止めたのは、シスターだ。どうやらこの人がママをこの場に連れてきてくれたらしく、ママは彼女にもありがとうを伝えていた。
「状況は決して変わっていない」
そんな風にわちゃわちゃとしていると、万灯が重々しく口を開いた。
パパの『マスカレイド』とママの『イービル』。それからシスターの『リアクター』と女の『シェード』。それらを合わせても、吉川のメモリには勝てない。そう万灯は言う。
「そんなことはっ!」
「まぁ、そうだな」
私の言葉を遮り、万灯の意見に賛同するのは、自分の治療を終えたパパだった。パパ曰く、あの吉川って奴のメモリは、パパと同じでありながらランクの違うものだという。その上、ママは病み上がりで、シスターももう一度メモリを使う余力はないという。
「ならば、君の能力でここを離脱すべきだろう」
「それを許す奴じゃねぇのは、お前も分かってるだろ?」
「万事休す。この紛い物の『街』と心中などしたくはないが、それしかないのだろう?」
そんな……せっかくパパもママも助かったのに……。
曇りかけた心。それを否定したのは、
「いいえ」
ママだった。どうやって、と訊ねる万灯の言葉を受けて、ママは『あるもの』を私に渡してきた。
「これ、は…………っ」
ーーーーside『S』ーーーー
「よう、待たせたな、吉川」
「…………どこまでも不快だ、黒井秀平」
奴は壊した『ミラー』をどうにか体内で繋ぎ合わせていたようだ。そのおかげで家族団欒の時間ができた。
「家族団欒をやっかむなよ。友達できねぇぜ?」
「それは持つ者の驕りだ。転生してすべてを手に入れたお前には分かるまい」
「あぁ、知らねぇよ。転生して、自分の不幸にしか目のいかねぇ馬鹿野郎の気持ちなんてな!」
「…………話は平行線だ」
『マスカレイド』
吉川はメモリを起動して、自らに直挿しする。瞬間、奴の姿は変わる。黄金の骸骨を宿した『マスカレイド』へと。
『結果は変わらない。メモリ自体は同じだ。あとはメモリのランクが勝敗を分ける』
「ハッ! ランクがどうした!! こっちは家族を守るために、家族と一緒に戦ってんだよ! 負ける訳がねぇだろうがっ!」
俺の啖呵を受けて、彼女が隣へ出てくれる。
「秀平くん」
「あぁ、行こうぜ、雫ちゃん」
『マスカレイド』
『イービル』
俺達の姿が変わる。
俺は銀の『マスカレイド』へ。雫ちゃんは白髪の『イービル』へ。
『おい、秀平。油断すんなよ』
『分かってる。『イービル』も雫ちゃんに傷負わせるなよ?』
『誰に言ってやがる!』
言い終わるが早いか、2人で駆ける。俺達は『奴』を左右から挟む形で仕掛けた。
ーーズズズズズッーー
『『イービル』!』
『あぁ!』
攻撃を防ぐ『穴』には許容量がある。『イービル』は力を溜め、俺は『ライトニング』を解放した。幾本もの雷が『穴』に向かい、吸い込まれていく。だがーー
『今だ!』
『おらぁぁぁぁっ!!』
ーーバヂヂヂィッーー
『ッ』
本命はそっち。『穴』が揺らいだ一瞬を狙い、黒い稲妻を纏った拳で『穴』ごと殴る『イービル』。さらに連撃。
『変わりますっ』
攻撃のインターバルを埋めるように、『イービル』から雫ちゃんへと人格をスイッチし、今度は蹴りを叩き込んでいく。稲妻を纏わなくとも、格闘術を修めている彼女の攻撃は重い。『奴』は体勢を崩す。
『らぁぁッ!!』
そこへ叩き込むは『ジャイアント』で肥大化させた拳だ。『エコー』も付与された攻撃は防御しても無駄。内側から『奴』の体を破壊する。
『ぐ、うぅぅっ……無駄なことをッ』
ーーブゥゥゥンーー
たまらず『奴』は『グリフォン』の翼で周りを薙いだ。範囲は広いが、破壊力は大してない。防御してすぐに反撃を……っ!?
『避けろ、雫ちゃんっ!』
『っ、はい!』
紙一重でそれを避ける。この判断は正解だ。翼の通った軌跡には、
ーーズズズズズッーー
『穴』が空いていた。『グリフォン』の翼に『ホール』の能力を付与させた……まぁ、俺にできることはこいつにもできるよな。
『それだけだと思うな』
ーーキュィィィィィーー
『『!!』』
『穴』が輝き出す。こいつは『エンジェル』の光線かっ!?
『俺の後ろに!』
光は避けられない。そう判断した俺は咄嗟に『リバース』を展開した。避けずに『反転』させる。その判断を読み取ってくれた雫ちゃんはすぐに俺の後ろへ。
ーーキュィィィィィィィンッーー
『ぐ、ぅぅぅぅぅっ!!』
『穴』から発せられる光線を『反転』させていく。だが、あまりにも数が多い。それを見て、
『変われ、秀平ッ!!』
俺の前に出た『イービル』。同じ光である黒雷で光線を相殺していた。
『長くはもたねぇぞっ』
『あぁ、助かる!』
一瞬の判断で、俺は次のメモリ能力を引き出した。『スコップ』で俺達の前の空間を削り、光を止める。その隙に、俺は『バード』で翼を生成し、『イービル』を抱いて上空へと離脱した。
『っぶねぇな、あいつ!』
『あぁ。ここから更に息を合わせるぞ、2人とも』
『あぁ』
『はい!』
ーーバヂヂヂィィーー
2人の作り出した黒い雷は、俺を囲うように広がる。
『これで少しはあの光線を防げる。その隙に、懐に入り込めよ!』
『あぁ、さんきゅ!』
的はデカくはできねぇ。『ジャイアント』のような押し潰す能力は止めて、『ジュエル』の硬度と『コックローチ』の速さで『奴』を確実に削る!
『その雷で打ち落とせないものは、わたしが全部防ぎますから!』
『頼りにしてるぜ、雫ちゃんっ!!』
ーーグンッーー
彼女の言葉を信じ、俺は突っ込む。『穴』から撃たれる光線は全て周りの雷が、『奴』が放ってくる『ソード』の斬撃は雫ちゃんが全て弾いてくれる。時間にして2秒後には、俺は『奴』の懐に飛び込んでいた。
『歯喰い縛れッ!!』
ーーバギィィィンッーー
最速×最硬で、俺は『奴』の顔面をぶん殴った。回避や防御をする隙はないし、手応えもあった。だが、
『無駄だと言ったはずだ』
『チッ、化物がよぉぉ!』
『奴』は少し仰け反った程度。
『どうやって防ぎやがったっ』
『基本性能が違う』
『ハッタリこそ無駄だぜっ! いくらランクが高くても『マスカレイド』は『マスカレイド』……種も仕掛けもあるだろっ!』
『マスカレイド』の力を底上げしている他メモリがあるはずだ。じゃなきゃ俺の渾身の攻撃が通用しない訳がーー
『秀平くんっ!』
『秀平ッ! なに腑抜けたことやってやがるっ!』
『は? 俺は全力で……っ』
『そんなわけねぇだろ! へなちょこな攻撃しやがって!』
2人の声が届く。腑抜けた攻撃だ? 俺は思いっきりぶん殴った。目の前の、俺の家族を壊そうとした憎むべき相手をぶっ飛ばしてやろうって感情は何よりも強い…………感情……っ、そうかっ!
『……そういうことかよ』
『マスカレイド』が頑丈になったのではない。俺の力が弱くなったのだ。そう。
『『ユートピア』かッ!!』
『お前の生きる希望を吸った。お前の言う仕掛けとやらは、ただそれだけだ』
『そういうの、効かねぇはずなんだけどなぁっ』
『お前は子を為した。『チート』の一部は既に子に引き継がれている』
ーーバギィッーー
俺を片手で吹き飛ばし、奴はさらに続ける。
『家族を得て……お前は弱くなった』
『…………』
そう言って、高いところから見下す吉川。俺は奴をただ睨みつけるしかできねぇ。そうしている間に、雫ちゃんが俺のところへ駆け寄ってきた。
『秀平くん、大丈夫ですかっ』
『あぁ、問題ない』
『くそっ、あの野郎……秀平、あたしらも攻撃を目一杯溜めて奴にぶつけてやる。だから、その隙にもう一回!』
『…………いや、そいつは止めとけ』
『は!? なんでっ!』
『ユートピア』の能力は、相手の生きる希望を吸いとるものだ。感情はその最たる例。つまり、感情が強ければ強いほど奴に力を与えることになる。
『わたしたちと相性が悪いんですね……』
『あぁ、最悪って言ってもいい。ともかく雫ちゃんたちは飛び道具を打ち落とすのを優先してくれ』
『はいっ』
『っ、けど、なら奴はどうやって倒すんだよっ! お前も奴に近づけないんだろっ!?』
『……そうみてぇだ。奴に触れれば触れるほど奴は力を増し、逆に俺は弱体化する。雫ちゃんたちの黒雷も吸われちまう。ハッ、こりゃあ無理ゲーだぜ』
なら、どうするか……答えはもう出ているさ。
本当は俺達だけで倒しちまって格好つけたかったけどな。
『頼むぜ、あかねちゃん、瑠璃ちゃん』
ーーーー回想・side『A』ーーーー
それは『ドライバー』だった。
『イービル』になった時に使っていた『ガイアドライバーREX』とは違う。機械的な赤色の『ドライバー』。共通しているのは、メモリを2本装填できるという点で。
「これは……!」
「はい。吉川を追っている中で、彼のメモリの危険性は調べがついていたんです。『イービル』1本じゃ対抗できない。だから、シュラウドさんとフィリップさんに頼んで作ってもらいました」
「……だが、これは左翔太郎と園崎来人……彼らでなければ使えない代物だ。メモリに精神を宿せる人間など普通ではーー」
そこで万灯は目を見開いた。何かに気づいたかのようだった。
「なるほど。確かにこれは、彼女たちにしかできないことだ」
「はい」
その場のすべての視線が私達に注がれる。私と瑠璃に。
「あかねちゃん」
「パパ……?」
「ここに来る前に話したことを覚えているか?」
「えっと……」
覚えてる。瑠璃に全部伝えろって。でも、今の瑠璃には、私の声は届かないっ。
「だから、直接伝えるんだ。この『ドライバー』は2人の精神を1つの肉体に移せる」
「!」
それはつまり、
「娘にこんなことを頼むのは、父親として最低だってのは分かってる。だけど、あかねちゃんーー」
パパもママも私を真っ直ぐ……ううん、私達を真っ直ぐ見据えて、そうしてその言葉を口にした。
「ーー俺達と一緒に戦ってくれ!」
「ーー私達といっしょに戦ってくれる?」
家族を助ける。家族を守る。そう言って、ここまで来た。でも、知識も力も足りなくて、ずっと色んな人に守られてばかりだった。
……だけど、そっか。
それが私にしか、私達にしかできないことならばーー
「勿論、『私達』は戦う」
そうして、私はその『ドライバー』ーー『ダブルドライバー』を装着した。
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