転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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031 鏡像はx / 変身と変心

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黒色の左半身『イービル(黒井あかね)』。

無色の右半身『エクストリーム(黒井瑠璃)』。

瞳は彼らのそれと同じ『クリスタルサーバー』を宿した透き通った虹色だ。そして、両腕に纏うは黒と白の稲妻紋様。

それが彼女たちの『仮面ライダー』としての姿だった。

 

 

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「2人とも」「頼んだぜ」

 

 

パパとママの言葉を背に受けて、わたしたちは頷く。

 

 

『『うん』』

 

 

瞬間、脚に力を込めて跳んだ。あり得ないくらいの跳躍力で、今までのわたしだったらそれに困惑してた。けど、おねえと一体化した今のわたしには、おねえの経験が知識として身についている。だから、超人と化したこの身体能力にもすぐに適応できる。

 

 

『合わせるよ!』

『うん!』

 

ーーブンッーー

 

 

その一声だけで、次にしたい動作が分かった。身を翻し、横へ薙ぐような蹴りを金色の『マスカレイド』に向けて放つ。予備動作の少ない攻撃。けれど、その攻撃は簡単に避けられてしまう。

 

 

『……紛い物の『W』か。この世界の異物であるあの男の娘と人間擬きらしい姿だな』

 

『うるさいッ』

ーーぐっーー

ーーブンッーー

 

 

再び脚に力を溜め、間を詰める。一撃、二撃、三撃。反撃の隙を与えない乱打を繰り出し、ガードを崩す作戦だ。

 

 

『……速さも力も並』

ーーグンッーー

 

『『!?』』

 

 

押し戻される。『マスカレイド』の力が増しているんだ。

 

 

『この程度で俺を倒せるとでも思ったか。思い上がるな、紛い物』

ーーバキッーー

 

『っ』

 

 

『マスカレイド』の拳を左手でガードするも、その威力に後退る。

 

 

『大丈夫?』

『余裕!』

 

 

咄嗟に稲妻を纏わせて、攻撃を和らげた。戦闘経験を詰んだ分、おねえの判断は早い。それに『エクストリーム』に至った『W』、その能力はこちらの方が上。それでも戦闘経験と応用力では、あちらの方が圧倒的に上。

それでもーー

 

 

『負けられない』

 

『当たり前!』

 

 

ここで負けたら、全部終わる。

あの人は、わたしたち家族だけじゃなくて、この世界自体を滅ぼすつもりなんだ。それほどに彼の憎しみと絶望は強い。

 

 

『…………おねえ』

 

『あいつのことを私は知らない。だから、任せるよ、瑠璃』

 

『うん、ありがと』

 

 

再確認して、もう一度構える。

 

 

『終わりか?』

 

『『ーーまだまだぁ!!』』

ーーバチッーー

 

 

間合いを両腕から発生させた黒い稲妻で無理矢理詰めて、今度は渾身の右ストレート。ガードはされた。けど!

 

 

『『らぁぁっ!』』

ーーバヂンッーー

 

『ぐっ!?』

 

 

防御の上から放った拳先から、更に稲妻が射出する。黒雷が『マスカレイド』の肉体を走り、一瞬動きが止まった。

 

 

『今だッ!』

『うん!』

 

『イービル マキシマムドライブ』

 

 

スロットにメモリを装填して、エネルギーを右拳に集めていく。防御不能の『マキシマムドライブ』。これでまずは動きを止めーー

 

 

ーーぞわっーー

 

『っ、待ってッ』

 

 

急に感じた悪寒。その原因は頭上にあった。

 

 

ーーズズズズズズッーー

 

『え!? なにあれっ!?』

『っ、あれはまずい』

 

 

巨大な『穴』。落ちてきたらこの辺り一帯を飲み込めるほどの規模の『穴』だった。それを見た瞬間に、頭の中に情報が入ってくる。あれは『ホール』の能力だ。しかも、限界まで力を引き出されたメモリ能力をすべて解放した攻撃。

 

 

『気づくのが遅れたな。既に『穴』は墜ち始めている。あれは俺を殺しても止まらない。終わりだ』

 

『『ッ』』

 

 

どうするっ!? 必死で接続して策を練る。けど、あんな攻撃、止める術は思い浮かばない。

 

 

『…………っ』

 

 

脚が止まる。思考も止まる。

 

 

『瑠璃ッ!』

 

 

止まりかけたわたしの時間を裂いたのは、おねえの声。そして、おねえの思考がわたしに流れ込んできて。

 

 

『跳ぶよ!!』

『うんっ!!』

 

 

既に迷いはない。それはおねえが『穴』へと向かうパパとママを見ていたから。2人なら、きっとどうにかしてくれる。だから、わたしたちは目の前の『マスカレイド』を倒すことだけを考えるんだ。

 

 

『『はぁぁぁぁぁっ!!』』

 

 

駆ける。『マスカレイド』との距離を一瞬で詰めることができた。そのまま全力で殴る。ただ、それも予想の内だったのようで、彼に慌てた様子は全くなく、わたしたちの拳は受け止められてしまう。

 

 

『『穴』を見ても向かってくるか。それは信頼か』

 

『……はい』

 

『………………それを見るのは……不快だ……』

 

 

見た目は変わらない。でも、拳を通して、確かに彼の苛立ちが伝わってきた。『家族』。それは彼が愛していながら、もう手に入らないものだから。たぶんわたしの姿を見て、その思いを強めたんだろう。

 

 

『やはりあの男を否定するには、家族を目の前で消すのが一番いい』

 

 

声は、わたしたちにギリギリ聞こえる小さな呟きだった。けれど、悪感情が膨れ上がって。

 

 

ーーゾゾゾゾゾッーー

 

『『マスカレイド』には、取り込んだメモリを一斉に放てる特質がある。俺の取り込んだメモリは56』

 

『ッ!?』

 

『お前たちの父親には及ばないだろうが、この辺りを消し飛ばせる威力は出る。奴も『穴』を消すのに手一杯で、こちらへは援護もできない。目の前で家族を失えば、あの男のすべてを否定できる』

 

 

暴走した悪感情と56のメモリの毒素。掛け合わせたそれらは考えるまでもなく絶大で、それを喰らってしまったらきっと死ぬ。

 

 

『っ』

 

 

もし失敗してしまったら?

その痛みはどれほどのものなのだろう?

策はあるし、理論はできてる。それでも想像して、一瞬躊躇ってしまう。逃げ出したい。このまま距離をとってしまいたい。そんなわたしの脚を止めてくれたのは、

 

 

『瑠璃』

 

『…………うん』

 

 

大丈夫。信じるんだ、おねえを。

そしてーー

 

 

『すぅぅ……』

 

 

1つ深呼吸をして、意識を底へ。『イービル』メモリの根源を引き出せ。わたしになら……ううん、わたしたちになら、それができるはずだっ!

覚悟を決めて、わたしたちは両腕を開き、攻撃を迎え入れた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ガイアメモリが産み出した怪物・井坂深紅郎。

毒素こそガイアメモリの力であるという彼の信条は、真理を突いており、強いメモリほどその毒素は強い。毒素は使用者の負の感情と結びつくことで、メモリ自体の能力を上げていく。

逆説的に、負の感情さえ抑えてしまえば、毒素を中和することも可能である。勿論、ほとんどのガイアメモリ使用者は負の感情を抑えられず、メモリの毒素に呑まれてしまうのだが。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

『イービル』は悪感情をエネルギーに変える特性を持っている。『エクストリーム』に達した『イービル』には、そのエネルギー変換を外部へと向かわせることもできる。つまりはーー

 

 

『あなたの絶望も、悲しみも、全部わたしたちが受け入れる』

 

『ッ、なにをッ』

 

 

『エクストリーム マキシマムドライブ』

『イービル マキシマムドライブ』

 

 

マキシマムドライブを発動して、放たれた光撃に触れていく。悪感情を受け入れ、浄化する。それが『エクストリーム』に到達した『イービル』のマキシマムドライブ。だけど、決してノーリスクな訳じゃない。触れた箇所から絶望と憎しみが流れ込んでくるんだ。それに抗いながら、わたしたちの力に変換していく。でも、

 

 

『っ、はっはっ……うぅっ、あぁぁッ……っ』

 

 

辛い。辛い。辛い。辛い。

彼の抱えていた深い絶望と強い憎しみの感情に呑まれそうになる。あの時と同じように、自分が抱えていた孤独感と同調してしまって、悪感情に呑まれてしまいそうになる。けれど、今は違う。

 

 

『人の妹にキッツイ感情ぶつけやがってッ!!』

 

 

隣にはおねえがいる。2人でなら大丈夫。この感情の濁流の中でも立っていられる。

 

 

『まだいけるか、瑠璃っ!』

 

『もちろんっ!』

 

 

そう、信じるんだ。

おねえとおねえが信じてくれた自分自身を!

 

 

 

『『はぁぁぁぁぁっ!!』』

 

 

 

……………………

 

 

『『………………はぁっ、はっ』』

 

『っ、俺の攻撃を耐え切ったのか……だがっ!』

 

 

わたしもおねえも息が上がってる。それでもあの光撃に耐え切った。それだけじゃない。

 

 

『メモリの力がっ!?』

 

 

彼の悪感情のほとんどは『イービル』によって浄化された。メモリの力も毒素も感情によって強化される。だから、今の彼に『マスカレイド』の能力を十分に引き出すことはできないんだ。

 

 

『ハッ、当然っ! 自慢の妹の作戦だっての! 行くよ、瑠璃!』

 

『うん!』

 

 

両腕に集中する。集めたエネルギーが巡る。廻る。そしてーー

 

 

『エクストリーム マキシマムドライブ』

『イービル マキシマムドライブ』

 

 

 

『『らぁぁぁぁっ!!!』』

 

ーーバチバチバチバチッーー

 

 

 

わたしたちの思いに、彼の思いも乗せたマキシマムドライブを放ったのだった。

 

 

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