転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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第14話 迫り来るI / 体調は悪いが得たものもある ☆

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『くっ!?』

 

 

『偽俺』の攻撃に反応し、避ける。『エコー』の時のような特殊な攻撃ではなく、物理的かつ直線的な攻撃だから『ドーパント』にさえなってしまえば、避けるのは難しくない。勿論、『マスカレイド』程度の能力では簡単とはいえないが。

 

 

『ガウゥッ』

 

『っ、ふんっ!』

ーーブンッーー

 

ーーバキッーー

 

 

カウンターの要領で、突っ込んできた『偽俺』の顔面に拳を喰らわせる。

……偽物とはいえ、自分の顔面を殴るのは複雑な気分ではあるがな。それでも効果はあったようで、『偽俺』は俺から一歩分、後ずさった。

 

 

『ウゥゥゥ……』

 

『来るなら来い!』

 

『ガルゥァッ!!』

 

 

嘘です! 来ないで!!

最悪の展開だけは回避しなくてはいけない。ダメージを軽減するために、身を屈めて攻撃に備える。だが、俺の覚悟は空振りに終わった。

いつまで経っても攻撃が、

 

 

『来ない……?』

 

 

顔をあげると、既に『偽俺』の姿はどこにもなかった。数秒辺りを警戒した後、俺は変身を解いた。

確かに攻撃は奴の顔面にもろに入ってはいた。だが、

 

 

「あの程度の一撃で引くのか」

 

 

そこに違和感を感じた。

『マスカレイド』の攻撃を受ければ、そこまで能力が高くないメモリだということは分かるはずだ。にもかかわらず、一撃で引いた。いや、逃げた。

あの動きや行動原理、人間というよりは動物のそれに近い気がする。

 

 

「ん?」

 

 

ふとあるものが視界に入った。近づいて、それを拾ってみる。

 

 

「これは、犬の毛……?」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「可能性はある。ミュージアムでも動物にガイアメモリを使用した例もあるからね」

 

「……そうか」

 

 

我が家に戻った俺は、霧彦からの答えを聞いて納得した。

思い出してみれば、『スミロドン』や『ケツァルコアトルス』のメモリは動物に使用していた。だから、あり得ることなのだ。

 

犬が『ドーパント』になることも。

 

 

「それにしても、また『ドーパント』に襲われるとはね。メモリに関わる者は惹かれ合うと聞くが」

 

「止めてくれ。そういうのはウンザリだ」

 

「フフッ、それ以上に君もスミに置けないな。女性とデートし、その娘を助けるためにガイアメモリを使うとは……まるでヒーローじゃないか」

 

 

あの後、彼女・雫ちゃんと連絡をとり、無事を確認することができた。巻き込んでしまって申し訳ないと謝罪すると、無事でよかったと泣かれてしまった。そもそもが俺のせいだから、申し訳なくて泣き終わるのを待って。

結局、今度また出かける約束をして、どうにか落ち着いてもらったのだが。

いや、それはいい。今は俺を狙う『偽俺』の正体を暴くことが先決だ。

 

 

「なぁ、霧彦。使用者の外見を変えるガイアメモリに心当たりはあるか?」

 

「ふむ。君の外見を真似する『ドーパント』だと言ったね」

 

 

腕を組み、しばし考えた彼は指を2本立てて、答える。

 

 

「私の記憶から思い当たるメモリは2種類だ」

 

「1つは『ダミー』。だが、あれを使いこなすにはそれなりの知能が必要だ」

 

「とすれば、考えられるのはもう1本の方だろう。その名はーー」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

数日後、雫ちゃんとやり取りをした俺は彼女を呼び出していた。場所は風見埠頭。彼女の愛犬の散歩コースの1つだ。

 

 

「く、黒井さんっ、こんにちは」

 

「……? あぁ」

 

 

なぜか前よりも上擦った声を出す雫ちゃん。しかし、彼女もお洒落だな。ファッションのことは正直よく分からないが、犬の散歩のためなら適当な格好でもいいだろうに……って、あれ?

 

 

「雫ちゃん、犬は?」

 

「え? あぁ、チャッピーですか? あの子は今、預かっててもらってて」

 

「! それ、もしかしてーー」

 

 

『グルルルッ』

 

 

 

再び現れた『偽俺』。

……いや、もうこいつの正体は分かっている。こいつは……。

 

 

「チャッピー! 止めろ!」

 

「え……?」

 

 

チャッピー。雫ちゃんの愛犬だという子。

 

 

「黒井さん、何を言って……?」

 

「信じられないかもしれないが、この『偽俺』は君の愛犬が変身した姿なんだ」

 

「変身……?」

 

「あぁ、噂で聞いたことはないか? ガイアメモリ……この街の裏側で流通している使用者を化け物に変える悪魔の小箱」

 

「っ」

 

 

その反応、知っているみたいだな。

 

 

「なんで、そんなもの……っ」

 

「君がチャッピーを預けた人物がこの子に使ったんだろうな。理由はよく分からないが」

 

「そんなっ!?」

 

 

話をした霧彦は何かに気づいていたようだったが、いまいち俺にはピンと来なかった。

とにかく今は目の前の仔を落ち着かせるのが先だ。

 

 

「俺は敵じゃない! お前の飼い主のこの子の友達だ!」

 

『グルルルッ』

 

「や、やめて、チャッピーっ」

 

 

そうだ。ここにチャッピーが現れたのは計算外だったが、彼女の声ならば、あるいはーー

 

 

『ガァァァッ!』

 

 

くっ、駄目か。メモリの毒素は動物にも回る。雫ちゃんの声も届かないくらいにチャッピーは狂暴になっちまってるようで。このままでは彼女も襲われかねない。

チラリと雫ちゃんを見る。視界の端の彼女は、必死に愛犬の名前を呼んでいた。大人しそうな娘が、ここまで大声を出すなんて、それだけ愛されているんだろう。羨ましいことだ。

 

……仕方ねぇな、かわいい女の子の前だ。

あれを使うのは最高に嫌だが、ここで逃げたら男が廃る。

 

 

「……雫ちゃん、少しだけ目を閉じててくれ」

 

「……でも」

 

「頼む」

 

「………………っ」

 

「ありがとう」

 

 

 

『エコー』

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

埠頭の少し先、その女は車の中でその様子を窺っていた。

 

 

「フフッ、フフフフッ……これで4回目よ。きっと次こそ馬鹿犬はあの男を傷つけるわ。そうすればーー」

 

ーープルルルルルルーー

 

 

突如として、車内に響く音。それは彼女のスマホの着信音だった。画面を見ると、登録されている番号ではない。

 

 

「非通知? まったく誰よ、今、いいところなのに……はいっ、どちら様っ!?」

 

 

少しキレながら彼女は通話ボタンを押し、非通知の相手に応答する。電話口から聞こえてきたのは、聞き覚えのない男の声。

 

 

『やぁ、君がエリカさんでよろしいかな?』

 

「……あんた、誰よ?」

 

 

雫の散歩友達・エリカは不機嫌な調子を隠さず男に答える。

 

 

『私かい? そうだね、私は君が襲おうとした男の友人さ』

 

「……なんのこと?」

 

『君は、あの雫という娘が黒井くんに想いを寄せていることを知っていた。そして、彼女の愛犬が飼い主を猛烈に愛していることもね』

 

「…………」

 

『そこに目をつけたんだろう。彼女から信頼を寄せられ、その愛犬を預かることもあった君は手に入れたガイアメモリをチャッピーに使った』

 

『メモリの名前は『イミテーション』。使用者の外見を模倣し、変える。それだけの能力だ』

 

『チャッピーは君の目論見通りに飼い主の彼女が愛している黒井くんを模倣し、彼を襲った。動物にも独占欲はあるらしいし、彼を殺せば、彼女の愛情を独り占めできる。そう思ったんだろうね』

 

 

動機は?

エリカは男にそう訊ねた。男が何者かは分からないが、自分の罪を知る人間があれば、

 

 

『君が飼っている犬をコンテストで優勝させるためだろう』

 

「っ」

 

 

黒井が雫とやり取りしている中で、エリカが飼い犬を数々のコンテストで優勝させていることを知った。そして、エリカの犬が、チャッピーが唯一出たコンテストで敗北していることも。

 

 

『下らない話さ』

 

「っ、下らないッ!? 私のカリンちゃんを優勝させることが下らないですって!?」

 

『あぁ、ガイアメモリは人間の進化のための代物。そんなことにガイアメモリを使うなど……不快なことだ』

 

「はぁぁ!? あの馬鹿犬が私のカリンちゃんより優れているなんてあり得ない、許されないのよッ! だから、あの馬鹿犬にあの男を襲わせた! 自分の飼い犬が好きな男を傷つけたとなれば、あの女は絶望してコンテストに出ようなんて思いもわかないでしょう! 上手くいけば馬鹿犬は保健所送りよッ」

 

 

唾を飛ばしながら、エリカは叫ぶ。叫び続ける。

 

 

「見てなさいッ! この後は、私のカリンちゃんを優勝させなかった審査員どもをッ!!」

 

『……フッ』

 

「っ、何がおかしいッ」

 

 

まるでエリカを煽るように、男は笑う。

 

 

『本当に愚かだね、君は。私がしていることはただの時間稼ぎさ』

 

「はぁぁ?」

 

『私との会話に意識を向けすぎだ』

 

 

ーーコンコンーー

 

 

不意に音がした。顔をあげれば、そこにいたのはーー

 

 

 

「風都署超常犯罪捜査課の照井だ」

 

「青井エリカ。ガイアメモリ不法所持及び使用の容疑で逮捕状が出ている」

 

 

 

「な、なんで……?」

 

『私たちは優秀な探偵と知り合いでね。その伝手で君が犯人であることは分かっていたんだ。あとは自白を取らせるために泳がせてもらったよ』

 

「~~~~~~っ!?!?」

 

 

声にならない叫びをあげるエリカ。必死の抵抗で暴れるが、照井竜の前ではなす術もない。

ただ虚しくクラクションが埠頭に鳴り響いたのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「やだよぅ、やだよぅ」

 

 

俺は自宅のトイレで泣いていた。

理由は簡単だ。体調が死ぬほど悪い。吐きそう。

 

 

「よかったじゃないか、彼女もその愛犬も無事なんだろう」

 

 

そう言ってのける霧彦の声が扉越しに聞こえる。

くそっ、他人事だと思いやがって。

 

 

「そんなことはないよ。エリカという女を引き付けるのも、公衆電話から鳴海探偵事務所に電話をしたのも私だよ。あの場に『仮面ライダー』が来てくれなければ、君はやられてたはずだ」

 

「……それについては感謝してる」

 

「そうだろう? それに今回については体調が悪くなっただけ……失ったものだけじゃない」

 

 

ーーピンポーンーー

 

 

自宅の呼び鈴が鳴った。

噂をすれば、だね。そう言って霧彦が玄関へ向かう音が聞こえた後、

 

 

「こ、こんにちは。黒井さん、いますか?」

 

 

彼女・雫ちゃんの声が聞こえた。

あの後、友人が犯人だったことにショックを受けた雫ちゃんだったが、もう一人の散歩友達・アイナの口車に乗せられてしまい、俺が彼女の護衛と散歩の付き添いをすることに決まってしまったのである。

 

 

「あぁ、少々彼は立て込んでてね。お茶でも出そうか」

 

「お、おねがいします……」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「またせたな……」

 

「だ、だいじょうぶですか……?」

 

「あぁ、もちろんだ」

 

 

げっそりしつつも、彼女の言葉に頷く。

まぁ、さっきよりはマシになった。少々カッコ悪いところを見せちまったからな。ここからは挽回させてもらおう。

 

 

「ごほんっ……じゃあ、行こうか、雫ちゃーー」

 

「がうっ!」

ーーガブリーー

 

「いてぇぇぇっ!?」

 

「がうっ! わんっ!」

ーープイッーー

 

「~~~~っ、この馬鹿犬がぁぁぁ!!!」

 

 

こうして、俺の日常に年下の女の子とのお散歩とその愛犬に噛まれるという日課が加わったのだった。

 

 

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ヒロイン追加。
雫ちゃんは気弱な黒髪清楚っ娘。
名字は後ほど。
雫ちゃん挿絵
【挿絵表示】

素敵な挿絵を描いてくださった絵師様作↓
ミルクティー様
https://skima.jp/profile?id=269737&sk_code=sha09url&act=sha09url&utm_source=share&utm_medium=url&utm_campaign=sha09url

チャッピーは茶眉ダックスです。かわいい。

ちなみに、黒髪ヒロインは作者の趣味です。

本日活動報告にて、オリジナルのガイアメモリ募集します。ご助力いただけたら幸いです。
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