転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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新章開幕。
1日で3話更新するとは自分でも思わなかったです。


最弱と脈動
第15話 Wに気をつけろ / 日常に潜む狂気


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「雫ちゃんは紅茶でよかったかな」

 

「ありがとうございます、霧彦さん」

 

「…………」

 

 

我が自宅。

自然に溶け込む雫ちゃんの姿がそこにはあった。幸いなことに、いつも俺に敵意を向けてくる愛犬・チャッピーは女子高生に預かってもらったらしく、俺の足は無事である。

 

 

「えぇと、雫ちゃん」

 

「な、なんですか、黒井さんっ」

 

「…………」

 

 

ふぅむ。

なぜ俺は名字で、霧彦は下の名前なのだろうか。一応、最初に知り合ったのは俺のはずなんだがなぁ。

 

 

「あ、あの……黒井さんっ」

 

 

少々納得がいってないが、まぁ、いい。雫ちゃんの呼びかけに答える。すると、彼女はある提案をしてきた。

 

 

「病院に行きませんか?」

 

「病院……?」

 

 

彼女の口から発せられたのはそんな一言だった。

一瞬なぜ、とは思ったが、考えてみれば自然なことではある。彼女は俺がかなり酷めの腹痛持ちだと思っている。ならば、病院に行こう、となるわけだ。

 

 

「病院……病院なぁ」

 

 

少し首を捻りながら、霧彦に目をやると、霧彦も困った顔をしていた。彼女の性格を思えば、俺がガイアメモリを使っていて、そのせいで体調不良になっていることを伝えても問題はないだろう。

だが、それをするのはもう少し時間が経ってからだ。

ガイアメモリのいざこざに巻き込まれたばかりの雫ちゃんにそれを伝えるのは、流石の俺でも憚られる。それは霧彦も同じようで、

 

 

「彼はもう病院に行っていて、薬ももらっているんだよ」

 

「そうなんですか?」

 

 

ナイスだ、霧彦!

咄嗟に誤魔化してくれたその嘘に俺も乗る。

 

 

「あぁ。ただ、薬がいまいち体質に合わないようでな。たまに体調を崩すんだ」

 

「……え、それって」

 

「それでも飲み続けなけりゃいけないのは辛いが、まぁ、たまのことだ。我慢するさ」

 

「…………」

 

 

よし、これでいいだろう。これなら彼女に心配をかけることもないよな。

 

 

「黒井くん、君って人は……」

 

「ん? なんだ?」

 

「いいかい? それでは逆にーー」

 

 

何故かこっそりと耳打ちしてくる霧彦。だが、それを聞き終わる前に、

 

 

ーーバンッーー

「黒井さんっ!」

 

「は、はいっ」

 

 

いきなり机を叩いた雫ちゃん。いつもの静かな彼女とは違う姿。

ん? なんだかチャッピーが『ドーパント』になった時の必死さに通ずるものがあるような……? 気のせいかな?

 

 

「わたし、いい病院を知ってるんですっ。紹介しますからっ」

 

「あ、はい」

 

 

そうして、俺は彼女に連れられて、病院に向かったのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

井坂深紅郎。

 

『仮面ライダーW』の原作に登場する人物で、『ウェザー』メモリの所持者だ。

彼を一言で表すならば『狂気』。

ガイアメモリに魅入られて、より強力な力を求め、他人の命を犠牲にすることも厭わない恐ろしい人間性をもっている。

そして、『仮面ライダーアクセル』ーー照井竜の家族を殺した怨敵でもある。

 

そんな彼の表の顔は、風都で井坂内科医院を営む開業医だ。

表では穏やかで人当たりのいい医師を演じているのが、なんともまたおぞましい。

 

さて、なんで今、そんな人物のことを語ったかと言うと……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「……井坂、内科医院っ」

 

 

雫ちゃんに連れられてやって来た病院。それが奴の病院であった。

 

 

「いや、雫ちゃん……俺、ここはちょっと……」

 

「だ、だいじょうぶですっ、わたしも、わたしの友達もここの先生にお世話になっていて……とってもいい先生ですから、ね?」

 

 

いやいやいやいや、この先生はとっても悪い先生ですから!

というか、そのお友達、もしかしてメモリ関係者じゃない!?

……そんなことは口が裂けても言えないが、とにかくここだけは回避しなくてはならない。

奴はガイアメモリの研究をしている。しかも、相当優秀な部類の人間だ。そんな人間に身体を見られてしまえば、一目でバレる。しかも、体調を崩すとはいえ、メモリを複数本使っている俺だ。万が一、興味を持たれてしまったら……。

 

 

「っ」

 

 

考えただけでも寒気がする。よし、どうにか難癖をつけていち早くここから離脱だ!!

そう考え、難癖の内容を組み立て始めたその時であった。

 

 

「おや、そちらにいらっしゃるのは……」

 

 

穏やかそうに聞こえる男の声。振り返るとそこにいたのは、

 

 

「あっ、井坂先生」

 

 

井坂深紅郎、その人であった。

目の前の邪悪な人物に警戒するあまり、俺は一瞬固まる。そのうちに、雫ちゃんは話を進めてしまって。

 

 

「実は、この方を見ていただきたいんです。そ、そのお忙しかったら……」

 

 

そうだ、忙しいだろう!

表の人間からの評価だけはよさそうだしな。

そうだ。働け、働くんだ、井坂深紅郎!

 

 

「構いませんよ。さぁ、中へ」

 

 

にこやかな笑みで奴はそう答えた。

助けて、助けて、助けて。

 

 

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