転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
感謝感謝です。
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結局、その日は雫ちゃんと晩飯を食べて、解散となった。
俺といることが多いせいだろうが、雫ちゃんもまあまあ『ドーパント』に遭遇する。化け物を見た後で、晩飯を普通に食べる程度には胆力がついてきたようである。
それから数日後、俺は再び雫ちゃんを誘って、ジミー中田が路上ライブをしているというストリートに来ていた。
……残念ながら雫ちゃんは用事があるらしく、断られてしまったが。
辺りを見渡すと、様々な表現者たちがいて、ここはそういう人たちが自分の世界を表現する場所になっているようだった。
その中に……いた、ジミーだ! 彼の前にはオーディエンスもいるようで、今から一曲披露してくれるようだった。
「さて、まずは聞かせてもらおうか」
俺もおもむろに近づいていく。まるで俺が来るのを待っていたかのようにギターを鳴らし始めた。勿論、曲は彼の代表曲『風都タワー』だ。
ふむ、いい。いいなぁ……。
彼の演奏……いや、魂を堪能し終えた(終えるなんてことはないんだが、まぁ、一区切りという意味で使わせてもらおう)俺は、ジミーに話しかけようとして、その女性が目に入った。
「ジミーくん、今日もよかったわ」
「ありがとう」
30代のOL風の女性だ。ジミーのファンらしく、彼の歌を絶賛しているようである。
……あの女性、なかなかに分かっているな。
うんうんと頷く俺。是非とも彼のスピックについて語り合いたいところだったが、
「また明日も来るわね」
「あぁ! 待っているよ!」
「…………」
「ん?」
去り際、すれ違った時に見えた彼女の表情がどうにも気になった。
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それから数日間、俺はストリートにいた人達からジミーのファンの女性の話を聞いて、その動向を探った。
端から見たら、いや、自分としてもストーカーのようで気は引けたが、どうしても気になってしまったのだから仕方がない。ただひとつ心配なことがあって……。
「げ……左翔太郎っ!?」
その日、俺は彼女が働く工場にて、その男を目撃した。すぐに物陰に隠れたから見つかりはしていないが、どうやら彼らも例の女性に用があるようで。
何を話してるんだ? 聞き耳を立てていると、
ーーフラッーー
「なっ!?」
突然のことだ。左翔太郎たちの目の前で、あの女性は倒れてしまい……。
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運び込まれたのは、まさかの井坂内科医院であった。
偶然、だよな?
しばらく待っていると、例の女性が物凄い剣幕でどこかへ走っていく。そして、それを慌てて追う探偵。俺もその後を追った。
辿り着いたのは、廃工場。そこにーー
『よいしょっ』
フーティックアイドルの会場で見たあの『ドーパント』がいた。その『ドーパント』に女性はカバンから出した大金を手に詰め寄る。
「お金を持ってきました! これで次もお願いっ」
「『ドーパント』にジミーくんの合格を頼んでいたのね」
『そう。この『電波塔の道化師』様にね』
は?
その会話に俺は耳を疑った。こいつにジミーの合格を頼んでいた? 一体何を言ってやがる?
俺の頭の中に、はてなが次々と浮かぶ中でも展開は進む。『ドーパント』は女性が手にしていた金を叩き上げた。宙に金が舞い、落ちた金を拾う女性に向け、『ドーパント』は吐き捨てる。
『全然足りねぇんだよっ! そんな金額じゃあ、この間の2週目の合格だって足りやしない!』
「お願い、お金は必ず用意するからっ! だから、あと1週っ」
そう言って『ドーパント』にすがり付く女性。人生舐めるなと『ドーパント』は彼女に言い放ってーー
「お前こそ舐めんなぁ!!」
ーー左翔太郎に蹴りを入れられた。その声色、彼は相当頭にキているようで、懐からダブルドライバーを取り出し、変身する。同時に『仮面ライダーアクセル』も現れ……。
「……ふぅ」
そこまで見届けた俺はひとつ息を吐いた。『仮面ライダー』が来たのだ。これで解決するだろう。
物陰に隠れ直し、改めて考える。
今までの会話から、ジミーの合格はあの『ドーパント』によってでっち上げられたものだという。だが、そこが分からん。そんなことをしなくても、ジミーは合格するだろうに。
ーードゴォォォッーー
「っ」
爆音に意識がそちらへ引き戻される。どうやら『ドーパント』と『仮面ライダー』が建物の外へ出たようだ。
……一応、見届けるだけ見届けようか。
俺は抜き足差し足で、彼らの戦闘が見える場所に隠れ直した。
見れば、今まさにメモリブレイクしようというタイミングで、
「待って! その人を倒さないで!」
彼女がまるで『ドーパント』を庇うように、『仮面ライダー』たちの間に割り込んできた。
って、おい!?
「その人を倒したらジミーくんが合格できないっ!」
「なに言ってんの、ユキホさんっ」
「そうだ。こんな奴とっとと倒して、ジミーにはまた挑戦させればいい」
うむ。鳴海亜樹子や『W』のいう通りである。こんな邪魔者はさっさと倒して、早くジミーのCDデビューに備えるべきだろう。彼の実力があれば、そんなこと簡単なんだから。
そんな俺の思いを否定するように、彼女は声をあげた。
「無理に決まってるでしょっ! どれだけ彼を見てると思ってるのっ」
「あの子は、あの子は! 信じられないくらい才能がないんだからっ!」
ーーガシャンーー
理解不能なことを彼女が口にしたと同時に、なにかが落ちる音がした。それはギターの音。
音のした方を見れば、そこには渦中の人物・ジミー中田がいた。
「なぜここにジミーくんがっ!?」
『私が呼んどいたのさ。お前の納期遅れの罰だ!』
「嘘だ……僕は自分の力で……」
そうだよ、大丈夫。ジミーの合格はーー
『悪いなぁ、嘘はお前の合格の方なんだよぉ……ハァーハッハッハッ』
「うわぁぁぁぁっ!!!」
ジミー!!
っ、いや、待て。待つんだ、俺。冷静になるんだ。
『アーッハッハッ!!』
「全部嘘だったっ、僕には本当は才能がないんだぁぁ」
『アーッハッハッハ!』
飛び出して、彼を勇気づけたいところだが、きっとこの事件は原作にもあったはずだ。ならば、きっとこのままじっとしていれば、『仮面ライダー』が解決してくれるはずだ。
バッドエンドはないはずなんだ。
だが、俺の希望とは裏腹に、盤面が変わる。
『赤い仮面ライダーはドーパントだっ』
なんと、奴のその一言をきっかけに、『仮面ライダー』が仲間割れを始めたのだ。それだけじゃない。痺れを切らして、スリッパで『ドーパント』をしばきにいった鳴海亜樹子まで、なぜか近くにあった狸の置物を叩き始めた。
なんだ? 一体何が起きている?
「ジミーくんっ!」
場が混乱している間に、ユキホと呼ばれた女性がジミーに駆け寄り、触れる。だが、それをジミーは振りほどいた。
「さわるなっ! 何が僕のファンだ、スピックの理解者だ……2度と顔も見たくないよっ!」
そう言って、ジミーは涙を流す。そんな彼に『ドーパント』は近づいて、何故かジミーの涙を和紙で拭き取った。それを見ながら、奴は恍惚の声色でとうとうと語る。
『いい色だぁぁ……青春の挫折の色だぁ、たまんないなぁ』
「…………」
いや、大丈夫。
大丈夫だ、きっと『仮面ライダー』がどうにかしてくれる。
『私はねぇ、苦しそうな夢に溺れた若者の涙が見たくて生きてるようなもんなんだぁ』
「…………」
「待ってっ、お願いっ……ジミーくんをもう一回だけ勝たせてあげてっ!」
『駄目だなぁ、私には2度とアクセスできない』
「…………」
大丈夫……だいじょうぶ、だ。
『サヨナラ、才能のない馬鹿にそれを祭り上げる愚か者ぉ、楽しませてもらーー
『おらぁぁぁぁっ!!!』
ーーバギィィィッーー
『ぶぐぅっ!?!』
気づいたら、俺は奴を殴り飛ばしていた。
あぁ、分かっているさ。きっと『仮面ライダー』がどうにかしてくれるってことはな。だから、ここで『マスカレイド』になり、『仮面ライダー』たちの前に姿を現したのは愚策極まりないことだってのも、よーっく分かってる。
だがな、
『推しの涙を笑うような野郎は殴らずにいられるかっ、ごらぁぁっ!!!』
叫ぶ。
魂からの叫びであった。
『な、なんだ、お前はっ!?』
『うるせぇ!!』
ーードゴッーー
『がっ!?』
殴る。こんな下衆の言葉など聞きたくもない。
『おらっ!! ごらぁっ!!』
『ぐ、うぅ!?』
2発、3発と俺の拳が奴の腹に入っていく。
『調子に、乗るなぁっ!』
ーーブンッーー
『あたるかよっ!』
苦し紛れの一発を躱す。距離はとられたが関係ねぇ! すぐに詰めて、ぼこぼこにしたらぁ!!
拳を構えたその瞬間、奴が口元に手を当ててーー
『お前は陸に打ち上げられた魚だっ!』
ーービュンッーー
ーーグサッーー
『っ』
何かが俺の身体に刺さった感触がした。
『ふっ、これでお前もーー』
『はっ、くしゅんっ』
『は?』
『……あ?』
くしゃみをひとつして、構え直す。
『お、お前っ! なんで私の嘘が効かない!?』
『あ? 何を言ってやがる……ごらっ!!』
ーードゴッーー
『っ、ぐぅぅぅ!?!?』
倒れこむ『ドーパント』。
さて、もうこいつに手はなさそうだな。このまま引き摺って、ジミーに謝罪させてやろう。その油断がよくなかった。
『ここは退散だっ』
ーードドドドドッーー
奴はどこからか武器を取り出し、そこから打ち出したエネルギー弾で弾幕を張って、その隙に逃げた。
……逃げられて、しまった。
『くそっ!!』
怒りに満ちた俺の声は、虚しく響くだけだった。
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