転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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第22話 贈られたF / 人とメモリは惹かれ合う

ーーーーーーーー

 

 

「……あぁ、ありがとう」

 

 

とある同僚に礼を言って、電話を切る。

 

 

「どうだった?」

 

「あぁ、同僚の1人が『ファクトリー』のメモリを扱ってたらしくてな。確認してみたんだが、販売はしていないそうだ」

 

「販売『は』?」

 

「……その同僚、殺されたってよ。メモリのケースもなくなってたらしい」

 

「なるほどね」

 

 

『エコー』の事件とは逆だ。今回は密売人を襲うことではなく、ガイアメモリを奪うことが目的の襲撃。つまり、犯人はメモリを奪い、その中の『ファクトリー』をアイナちゃんに送った。そう考えれば筋は通る。だが……。

 

 

「なぜだ?」

 

 

そう。理由が分からない。

もし強いメモリを求めていたのなら自分で使えばいいし、金にするためならば贈り物をする意味がない。

彼女への贈り物……純粋にプレゼント? にしては、万人受けなど到底しないものだ。

 

 

「あーっ! 訳が分からねぇ!」

 

「…………」

 

 

頭を抱える俺の横で、霧彦はなにやら考えを巡らせていた。

 

 

「おい、霧彦。何か心当たりでもあるのか?」

 

「……いや、そういうわけじゃないんだが」

 

「?」

 

 

いまいち煮え切らない返事が返ってくる。

 

 

「なぁ、黒井くん。もしその人物……仮に『贈り主』とするが、その目的がガイアメモリ自体を配ることだとしたらどうだろうか」

 

「……ガイアメモリを配る?」

 

「あぁ、ケースごと配られているのならば、恐らくこの1本だけが贈られたと考えるのは無理がある。行為自体は不自然きわまりないが、自然に考えれば、襲って得たメモリをすべて誰かに贈っていた、としたらどうだい?」

 

「ふむ」

 

 

贈り物は1本だけではない。

奪われたメモリすべてが、アイナちゃんのような誰かの元へ贈られている、か。なるほど、なくはない。

……いや、待てよ?

そんなことをやりそうな人物に心当たりがある。しかも、2人ほど。

 

 

「2人候補がいる」

 

「! それは一体誰だい?」

 

「1人は井坂深紅郞」

 

「あの男か! ガイアメモリの研究者という話だったね」

 

 

そう、あの男ならやりかねない。自ら力を得るために、有用なメモリは残し、それ以外をばらまき成長させる。

 

たしか『過剰適合者』といったか。

特定のガイアメモリとの適合率が異様に高く、その能力を100%を超えて引き出せる人間。その分、危険性も高く、下手をすると命を落とすこともあるという。

井坂深紅郞は、持ち主が死んだ後、十分に成長したメモリを自分の物として取り込んできた。そういう顛末があったはずだ。

だから、奴はこういうことをやりかねない。

 

 

「もう1人は誰だい?」

 

「……あぁ、シュラウドという女だ」

 

「シュラウド? 初めて聞く名前だが」

 

 

それはそうだろう。原作で彼女が登場するのは、霧彦の死後だ。知っているはずがないのだ。

何を隠そう、彼女の正体は園崎琉兵衛の妻・文音。彼女は園崎家を捨て、ミュージアムを滅ぼすことを目的として暗躍する人物で、『W』や『アクセル』を影から支援している。

だが、今の彼女は復讐に取り憑かれており、目的のためならば手段を選ばない思考に陥っているはずだ。だから、メモリを市民にばらまき、ミュージアムを滅ぼせる人間を探している。そんな可能性もないとは言い切れない。

 

 

「とにかく俺が思いつくのは、その2人だな」

 

「十分さ。早速、その2人を調べるとしようか」

 

「あぁ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

一度会っているとは言っても、霧彦を井坂に会わせるのは良くない気がする。それにシュラウドは神出鬼没で、会おうと思って会える相手ではない。

だから、必然的にーー

 

 

「また会いに来ていただけるとは……嬉しいですねぇ」

 

『…………』

 

 

俺は井坂の声を聞きながら、『マスカレイド』の姿で触診を受ける。

 

 

「しかし、こんな出来損ないのメモリを使うことだけは理解できない。君は『ライアー』メモリも手に入れたと聞きましたが」

 

『…………耳が早いな』

 

「ここにはメモリに関する情報が集まります。巷に流れる噂話からその根幹に関わることまで」

 

『……園崎冴子、か?』

 

「ふふっ、医者には守秘義務というものがありましてね、それを漏らすわけにはいかないのです」

 

 

守秘義務、なんてマトモな医者みたいなことを言い出す井坂。まぁ、俺の情報がどこから漏れているかなんて話はいい。今はそれよりも、例の話を聞き出さなくては。

 

 

『ここ数日、メモリの密売人が殺され、ケースが奪われたのは園崎冴子から聞いてるだろ。それが街の人間に贈られていることも』

 

「……えぇ」

 

『それ、あんたじゃないのか?』

 

「…………」

 

 

駆け引きは苦手だから、単刀直入に訊ねる。井坂は答えず、俺の言葉を黙って聞き続ける。

 

 

『『過剰適合者』……そういう人物にメモリを贈り、能力を引き出させてから、あんたが使うために、今回のことをしでかした…………違うか?』

 

「………………」

 

 

しばらくの沈黙。その後、井坂は薄く笑った。

 

 

「残念ながら君の推理は外れだ。確かに私は『過剰適合者』の使用したメモリを集めています」

 

「だが、それはあくまでも私のメモリ『ウェザー』をより強化するため。雑多なガイアメモリをばらまくなど……ふっ、あり得ませんね」

 

 

なるほど。

こいつを信用するなど到底考えられない。だが、今の言は筋が通っている。狂人の筋、ではあるがな。

 

 

『……シュラウドならばどうだ?』

 

「! 君は本当に……どこまで知っている」

 

『さぁな』

 

「……あの女ならあり得ない話ではない。私はそう思いますがね」

 

『…………』

 

 

狂人から見ても、復讐鬼ならばやりかねない。そう判断できるようであった。

ならば、俺が次にするべき行動は……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

売人であった頃の伝手を辿って、霧彦は調査を進めていた。指名手配をされている都合で、大っぴらには動けない彼ではあったが、彼はやはり有能だ。調査を進める内に、アイナ同様にガイアメモリが家に届けられた人間が多数いることを突き止めていた。

 

 

「回収できたものが4本。メモリ自体は強力なものは少ないが……」

 

 

街の中心から少し外れた公園にて。

ベンチに座り、回収できたメモリに目を落とす。

『スリープ』に『ウェーブ』、『スワローテイル』、『シャーク』。

4本とも未成年に贈られていたことを思い出し、霧彦の腹の内に沸々とした怒りが込み上げてくる。彼には珍しい激情にも似た感覚だ。

 

 

「子供たちはこの風都の未来だぞ。この『贈り主』は一体なにを考えているっ」

 

 

少し日も落ち始めており、他には人もいない。吐き捨てるように呟いた声は誰にも聞かれていない、はずだった。

 

 

「……園崎霧彦」

 

「っ」

 

 

不意に名前を呼ばれ、霧彦は顔をあげた。そこにいたのは、顔に包帯を巻いた黒づくめの女だった。一瞬身構えて、思い至る。彼女の姿は、まさに黒井から聞いていた人物の特徴と一致していた。

 

 

「貴女が……シュラウド」

 

「……えぇ」

 

「初めて会って早々だが、お聞きしたい。ガイアメモリを街の人間に送りつけている『贈り主』がいるのはご存じかな」

 

「えぇ、知っているわ」

 

「……その『贈り主』は貴女か」

 

「いいえ」

 

 

霧彦の質問に、彼女は首を横に振り、即座に否定する。

 

 

「私が今、目をつけているのは『仮面ライダー』だけ。もう二度とあんな怪物を生み出すつもりはない」

 

「?」

 

 

彼女の返答の意味は分からなかったが、それ以上追求しても恐らく話は広がらない。そう判断した霧彦は質問を変える。

 

 

「『贈り主』について、何か知っていることがあれば教えてほしい。私はその正体を探っているんだ」

 

「子供をも実験に組み込む人間。貴方はそんな人物に心当たりがあるでしょう」

 

「っ」

 

 

シュラウドの言葉で、霧彦の脳裏に浮かんだ人物。それはーー

 

 

「園崎、琉兵衛っ」

 

 

霧彦の答えに、シュラウドは静かに頷く。

人類の進化のために今を生きる人間をその犠牲とする。それが実の息子であっても……あの男はそうしてきた。シュラウドはそう続ける。

そこに含まれる感情は今の霧彦には知る由もない。だが、目の前の女が今回の件には関与していないことはハッキリしたように感じた。

 

 

「園崎霧彦……貴方に聞きたい。園崎琉兵衛を倒すつもりはある?」

 

 

不意に投げかけられた問い。

かつての義父で、愛した女性の実の父親だ。それを倒すつもりはあるかと聞かれ、一瞬躊躇う。

だが、愛する風都をただの実験場としか見ていない園崎琉兵衛は、今の彼にとって敵以外の何者でもない。だから、霧彦は答えた。

 

 

「私にそれができるのならば。私は愛する風都を守りたい」

 

 

それが霧彦の本心であった。その答えを聞いたシュラウドは告げる。

 

 

「そう。ならばーー」

 

 

 

ーーーー同時刻・鳴海探偵事務所ーーーー

 

 

「送られてきたっていう4本は回収した」

 

『上出来だね』

 

 

電話越しの相棒の声に、左翔太郎は静かに頷いた。

普段めったに誉めない相棒からのお褒めの言葉だ。いつもの彼であれば、得意気になるとこだが、今はそういう気分にはなれなかった。なぜならば、

 

 

「お前の推理通り、送られた人物は全員未成年だ」

 

『以前の『バード』の時と同じだろう。組織がガイアメモリの実験のために、街にばらまいているんだ』

 

「くそっ」

 

 

苛立ちから声を荒げる翔太郎。子供たちをいたずらに魔の道に引きずり込もうとするその悪意を、彼は許せない。

 

 

『落ち着きたまえ、翔太郎。まだ子供たちがメモリを使ったという目撃証言はないんだろう』

 

「……あぁ。だが……」

 

『分かっている。ガイアメモリの魔力は底知れない。時間の問題、だろうね。何本ばらまかれているかも分からない現状では特に』

 

「っ」

 

『…………翔太郎』

 

 

風都は自らの庭だ。そう自称する彼ではあったが、事ガイアメモリに関しては、己の無知と無力を痛感する。

その感情を感じ取ったのだろう。フィリップはひとつため息を吐き、意気消沈の相棒にある提案をすることにした。

 

 

『翔太郎、ひとつ提案がある』

 

「なんだ……?」

 

『以前、話をした黒井秀平という人物を覚えているかい?』

 

「……あぁ」

 

 

フィリップから聞いてはいた。探偵事務所にかかってきたという電話の相手で、その時は確かメモリの正体を探るように依頼してきた。彼の正体は組織のメモリ密売人だという話だったが……。

 

 

『その彼にコンタクトをとろうかと思う』

 

「っ、相手は組織の人間だぞ!?」

 

『分かっているさ。危険は承知の上。けれど、今回の事件、リスクを背負わなければ解決できない気がする。君の言葉を借りるなら、悪い予感がするんだ』

 

「………………」

 

 

相棒らしくない。翔太郎はそう感じていた。

フィリップは基本的に論理的に物事を考える。リスクと実利を天秤にかけ、危ない橋は渡りたがらない。『ファング』の一件で、多少大胆に動くことも増えてはいたが、それでも悪い予感なんていう曖昧なものでは動かない。それが今回は……。

 

 

「分かった。俺も乗るぜ、相棒」

 

『あぁ、ありがとう。翔太郎』

 

 

その後、控えてあったという黒井の携帯の番号をフィリップから聞き、翔太郎はその電話番号をコールした。

 

 

ーーーーーーーー




『スワローテイル』『ウェーブ』はメモリに憑かれた男さんから
『スリープ』はヴァイロンさんから頂きました。
回収されてしまいました。すみません。

主人公・黒井くん。彼のメモリは……。

  • 強いものを使ってほしい
  • 弱いものを使ってほしい
  • 今、勇気、インフィニティ!
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