転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

24 / 122
第24話 贈られたF / 『贈り主』は誰なのか

ーーーーーーーー

 

 

「ああ、ありがとうございます。ありがとうございます」

 

 

その男は自宅に贈られてきた『それ』を高く掲げ、感謝の言葉を叫んだ。差出人不明の封筒をビリビリと破り、中身を確認する。

 

 

「あ、ぁぁ……」

 

 

感嘆の声。今、やっと手に入れた『それ』は鈍い銀色に光っており、今まで彼が持っていたものとは一線を画するものだと肌で感じていた。

早く挿してしまいたい。だが、慌ててはいけない。まずは一緒に同封されていた機械で自らの肉体と『それ』を合わせる必要があるのだ。

 

 

ーーカチャリーー

 

「……ぁぁぁ、挿入る。挿入ってくるぅ」

 

 

恍惚の表情を浮かべながら、男はそれを自らの右腕に打ち込んだ。数秒で処置は終わり、男の身体に銀色の『それ』が馴染んだのが分かった。

早速使いたい衝動に駆られる。今ならば、きっと男が街にばらまいたメモリを持つ奴らが暴れている頃だ。きっと『仮面ライダー』はそちらと対峙しているはずで。

 

 

「ヒヒッ、今なら使ってもーー」

 

ーーピンポーンーー

 

「!」

 

 

呼び鈴が鳴った。なにかが届くような予定はない。男は苛立ちを見せながら、インターフォンを確認する。

 

 

「…………おまえ」

 

「よう、鈴木くん」

 

 

映っていたのは、男の同僚・黒井であった。顔見知りではあり、言葉を交わす程度には関わりがある。だが、友人と呼べるほどではない関係だ。そんな人間が自宅まで来るのは……。

 

 

「無視だな」

 

 

あまりにも怪しく、鈴木は無視を決め込む。はずだったのだが。

 

 

「こんにちはー! 鈴木くーん!! 遊びに来たよー!! いないのかなぁ!! 鈴木くーん!!」

 

「………………」

 

「す・ず・き・くーん!! おいしいお酒も持ってきたよー!!」

 

「っ」

 

 

あまりにもうるさく、アパートの他の住人がなんだなんだと出てきており、これ以上は無視できない。そう判断した鈴木はドアを急いで開けた。

 

 

「お、やっぱりいたじゃないか」

 

「……何の用だ」

 

「んー? 言った通りだよ、酒を持ってきた。旨い酒をな」

 

 

そう言って、彼は手に持っているものを鈴木に見せた。そこにあったのは、鈴木がメモリ犯罪で前科のある男に贈ったはずのメモリだった。

 

 

「おまえっ!」

 

「残念ながらもう1本の方は回収できなかったけどな。そっちはお前の思惑通り『仮面ライダー』が対応中だよ」

 

「っ、くそっ」

ーーダッーー

 

 

黒井を押し退けるように、鈴木は逃げ出した。

 

 

「ちょっ、待てよっ!」

 

 

ーーーー回想ーーーー

 

 

『犯人は僕たちの依頼人である鈴木という男だ』

 

 

電話口でフィリップがそう告げる。というか、翔太郎にその写真を見せてもらったことで、俺の方でも気づいた。

 

 

「まさかケースを奪われ、殺されたと言われてた張本人がそのメモリをばらまいてたとはな」

 

『メモリを渡されていた人間はみな未成年。その中で、彼だけが成人男性であることは気になってたんだ』

 

「まぁ、情報を共有してやっとハッキリしたって感じだがな」

 

『恐らくだが、敵組織の実験的な側面があったんだろう。『バード』事件のときと同じだよ。未成年にメモリを渡し、その経過を見るため。そんなところだろうね』

 

 

『贈り主』さえ分かってしまえば、あとはその彼の動向を探れば、まだ見つからないメモリの場所も特定できるだろう。フィリップはそう言う。

 

 

「一介の密売人がこの計画を立てたとは思えねぇ」

 

『あぁ、恐らくそれを指示していたのは、組織の幹部かそれ以上の人間だろう』

 

「…………うーむ」

 

 

霧彦の話通りって訳だな。

今回の黒幕は園崎琉兵衛。鈴木を使って、贈り物をさせたのだ。

事件のあらましが分かれば、あとはこっちのものだ。2人の探偵に刑事もいる。事件は収束に向かう。

 

 

『黒井秀平』

 

「ん? なんだ?」

 

『僕達は万が一のことを考えて、贈られた2本のメモリを見つけ出し、対処する』

 

「あぁ、頼んだよ。俺には力がないからな」

 

『……後日、翔太郎を通して、伝えよう。それでいいかい?』

 

 

その提案に俺は頷いたのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

で、今がその数日後だ。俺は逃げ出した鈴木を追っていた。

探偵たちに任せず動いた結果である。

別に俺がどうしても鈴木を許せねぇとか、そう言う話では決してない。鈴木は直に捕まるだろうし、フタを開けてみれば、友人である雫ちゃんにもアイナちゃんにも被害はなかった。

結果オーライ。あとは待つだけ。

 

 

「だったんだがなぁ」

 

 

奴を追って辿り着いたのは、近くの廃工場だった。

というよりも、そこへ俺が誘導したのだ。彼の指示によって。

 

 

「やぁ、久しぶりだね。鈴木くん」

 

「はっ、はぁっ……お前は、園崎霧彦っ!」

 

 

俺は許しても霧彦はどうかな、とそう言う話だ。

 

 

「……園崎、か。もうその名字は捨てたよ。私はもう園崎の人間ではない。名乗りたくもないね」

 

「そんなことはどうでもいいっ! おれになんの用だっ!」

 

「……未成年へのメモリの販売と譲渡は禁止されている。君はルールを破った」

 

 

静かに告げる。だが、分かる、伝わってくる。

霧彦の怒りが。

そんな怒りに気づいているのか分からんが、鈴木は吠える。

 

 

「ルール? こっちはボスからの指令で動いているんだぞ! 言ってしまえば、おれがルールだ!」

 

「…………忠告だ。今すぐ出頭したまえ」

 

「そうだそうだー!」

 

 

霧彦の最後通告。それに俺も乗っかる。

 

 

「落ちぶれた元エリートとただの雑魚密売人が、このおれに指図するなっ!!」

 

「おれはお前らとは違う! 選ばれた人間だっ!!」

 

 

そう言って、鈴木は銀色のメモリを見せつけるように取り出した。イニシャルは『A』。

 

 

「シルバーメモリ……準幹部級のメモリか」

 

「ああ、そうさ! おれは選ばれた。もうこんな雑魚メモリも必要ない!」

ーーガシャーー

 

 

鈴木は懐から出したもう一本のメモリを投げ捨てる。それが俺の足元まで転がりーー

 

 

「ハハハハッ、見せてやるよ! このおれの力を!」

 

『アルケミー』

 

 

奴はメモリを右腕に挿入し、その姿を変えていく。フラスコ型の頭部。そのなかには紫色の謎の液体がグツグツと沸き立っていた。纏ったローブのせいで肉体の詳細は分からないが、その手には身の丈ほどもある巨大な杖が握られていた。

 

 

「『アルケミー』……錬金術師のメモリ。厄介なメモリを手に入れたようだな」

 

『そう! この力でおれはっ!!』

ーーブンッーー

 

ーージュワッーー

 

 

杖を降る『アルケミー』。この先から硫酸が吹き出し、足元のアスファルトを溶かしてしまった。

 

 

「黒井くん、少しの間だけ頼めるかい?」

 

「あぁ」

『エコー』

 

 

『エコー』メモリを起動して、『エコー』へと変身し、身構える。

 

 

『ふんっ!』

ーーブンッーー

 

『っ』

ーードッーー

 

 

硫酸弾に音波を当て、相殺させる。それを繰り返す、しかない。

 

 

『くっ……!?』

 

『ほらほらっ、どうしたっ! 黒井! 全然攻撃できてないじゃないかっ!』

 

 

煽る鈴木。悔しいが、その通りだった。

ガイアメモリには相性がある。俺では『エコー』の力を十分に引き出すことができていないのだ。

その点、『アルケミー』と鈴木の適合率は悪くはない。流石は園崎琉兵衛が選んだ代物だ。

 

 

『負け犬がぁぁ!!』

ーージュッーー

 

『くぅっ!?』

 

 

やはり無理だな。

被弾し、右腕に軽く硫酸をかぶる。このままではジリ貧。負けるだろう。

 

 

「黒井くん!」

 

 

……そう。この状況。

霧彦がいなければ、負けていたよ。

 

 

『遅ぇよ、霧彦!』

 

「あぁ、すまない。この失態は働きで返すさ」

 

 

そう言った霧彦の腰には、ガイアドライバーが巻かれていて。

そして、その手には『あのメモリ』があった。

 

 

「さぁ、始めようか」

 

『ナスカ』

 

 

ーーーーーーーー

 

ガイアメモリには格がある。

最弱の量産型『マスカレイド』。

下位から中位に当たる一般メモリ。

その上に銀色の装飾を施されたシルバーメモリ。

そして、すべての上に立つのがゴールドメモリ。園崎家にしか支給されないそのうちの1本が『ナスカ』。

 

シルバーとゴールドには……そう、圧倒的な差がある。

 

ーーーーーーーー

 

 

ーーバシュンッーー

 

 

勝負は一瞬で決まった。

超高速を使いこなした『ナスカ』は、一瞬で『アルケミー』との距離を詰め、一閃。それで奴は崩れ落ちた。

 

 

「な、なんで……おれは選ばれた、人間っ」

 

『君のような信念のない者では私には勝てないさ』

 

「あ、あぁぁっ……」

 

 

地面を這いながらも、排出されたメモリに手を伸ばす鈴木。

その手の先にあるメモリを、俺はおもいっきり踏みつけた。

 

 

「終わりだよ、鈴木くん」

 

ーーガシャンッーー

 

 

こうして、未成年へとメモリをばらまき続けた『贈り主』は逮捕されたのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「なんで使えんの、それ」

 

「……さぁ、なぜだろうね」

 

 

風都署に簀巻きにした鈴木を置いてきた帰り道。

俺は霧彦に訊ねた。だが、その質問はスルーされてしまう。

 

 

「秘密主義かよ、モテねぇぞ?」

 

「君には言われたくないね」

 

「うぐっ!?」

 

 

鋭いブーメランが返ってきてしまった。

秘密主義なのは認めるが、モテないのは……モテないのは……ぐすんっ。

 

 

「しかし、よかったじゃないか」

 

「あ?」

 

「『それ』、だよ」

 

 

心の中で涙を流す俺の悲しみを無視して、霧彦は俺の懐を指差した。

 

 

「……なんだよ、イヤミか」

 

「いいや、人とメモリは惹かれ合うというからね。恐らく『それ』と君は何かしら惹かれあっているんだろう」

 

「……はぁ、そんなこと言うなよ」

 

 

霧彦の言葉にうんざりしながらも、俺は懐から1本のガイアメモリを取り出す。

 

『マスカレイド』。

鈴木が俺に向かって投げ捨てたメモリだった。

元々のメモリではないとはいえ、結局、『マスカレイド』は俺の元へと戻ってきた。

 

 

「惹かれ合う、ね」

 

 

『最弱』が俺の運命のガイアメモリとは。

……悲しくなるね、まったく。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「はぁ、黒井さん……」

 

 

彼女・雫は自室のベッドに身を預けながら、悩ましげなため息を吐く。勿論、彼女の悩みは想いを寄せる男性のことだ。

彼女の引っ込み思案な性格もあるなかだが、どうにか食事やデートも重ねてはいる。だが、思ったよりも進展がなくて……。

 

 

「上手くいかないなぁ……はぁ」

ーーカチャリーー

 

 

そう呟く彼女の指先には『あるもの』があり、手持ち無沙汰な彼女は『それ』を指先で弄る。その弾みでーー

 

 

ーーカシャッーー

「あっ……」

 

 

『イービル』

 

 

ーーガイアメモリが起動してしまった。

 

 

ーーーーーーーー




『アルケミー』は超高校級の切望さんよりいただきました。

ちなみに、察しのいい方はお気づきかと思いますが
黒井くんの元に届けられた『R』
雫ちゃんの持つ『イービル』は今回の事件で贈られたものとは別物です。つまり……?

次回、新章!

主人公・黒井くん。彼には……。

  • 幸せになってほしい。
  • 幸せになってほしくない。
  • いちゃつけいちゃつけ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。