転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
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逃走。
それが園崎霧彦の手によって、『マスカレイド』にされた俺がとった行動であった。
は? その後の俺の立場? そんなもの知ったことか! あのまま、あそこで見張りをしていた方が立場が悪くなる。殺人の見張りだぞ?
それよりも後々、呼び出されて説教された方がいいわ!
あぁ、本当にーー
ーーギュルルルルルーー
「うぅぅぅぅ……」
……最悪だ。
色々なことがあったせいだろう。俺はコンビニのトイレで腹を下していた。
前世のブラック企業でも体を壊さなかったこの俺が、まさか騒動に巻き込まれただけで、こうなるとは思わなかった。まぁ、最終的には死んだんですけどね!!
ーードンドンーー
とほほ、と心の中で肩をすくめていた俺だったが、そのノックの音で現実に戻される。
「……はいってまーす」
弱々しく声を返す。
ーードンドンドンドンーー
だが、ノックの音は止まない。どうやら俺の声が聞こえていないようで、むしろノックはさらに強くなる。声を張るのは少々きついけれど、仕方がない。
「はいってますぅぅ……!」
今度は確実に聞こえるような声量で返した。
……はずだった。
ーードンドンドンドンドンドンドンドンーー
「な、なんだ……?」
激しさを増す騒音。軽く恐怖すら覚えるそれのせいで、俺の腹痛は収まってしまう。そして、徐々に恐怖が戸惑いに、戸惑いが怒りに変わる。
こっちは腹痛で苦しんでるってのに、なんなんだこいつは! そもそもマナー違反だろうが!
身なりを整えてから、俺はその無礼者の面を見てやろうとトイレの扉を開いた。
「うるせぇ! こっちは腹下してんだよ!」
勢いよく開けた扉は外にいたノックの主に……当たらず、トイレ外の壁に当たり、騒音を立ててしまった。扉と壁がぶつかり合う音が店内に響く。
「は?」
外には誰もいない。
その代わりに突き刺さる客たちの視線。そして、
「お客様。他のお客様の迷惑になりますので」
「……ごめんなさい」
俺は怒りを噛み殺した笑顔の店員相手に謝るしかできなかった。
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再びネカフェに舞い戻ってきた俺。
腹痛もどうにか収まり、ソファーに体を預ける。疲労感に襲われながらも少し考える。
これからどうするか、を考えるには少々疲れすぎているな。
それよりもさっきのことか。
怪現象・トイレを叩く透明人間。
ゴシップ誌の見出しだとしても弱いその怪奇現象……『ドーパント』の仕業か? まぁ、一応透明になれるメモリはある。
『インビジブル』のメモリ。だが、あれはそれなりにレアな上に、今は恐らくある人物の元にあるはずだ。もしその人物が持っていたとして、そいつが人が入っているコンビニのトイレをゲキレツに叩くなんてそんなしょうもない真似をするだろうか?
「……いや、ないな」
すぐにそう結論付け、その可能性を打ち切る。だが、そうなると、あれはなんだったんだろう。
いっそのこと、鳴海探偵事務所にでも依頼してみようか?
いや、それこそないな。苛ついたとはいえ、実害はなかった訳だし。
なんなら今、接点を持つのはまずいだろう。俺のことを調べられたら、恐らく俺のメモリ使用にも辿り着くはずだ。そうしたら俺は刑務所送り。それだけは避けたい。それに依頼料だって馬鹿にならなーー
「!!」
そこで俺は恐ろしいことに気がついた。慌ててそれを取り出し、中身を確認する。そして、真実を悟ってしまう。
「金が、ないッ!」
財布の中には3000円だけが入っていた。つまり、ここにはあと一泊ほどしかできない計算だ。
盗まれたとかそういう話じゃない。単純に資金が尽きかけている。
どうする、どうする、俺?
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金欠の俺が出した結論は、会社に戻ること。
幸い俺は下っ端とはいえ、ミュージアムの人間だ。つまり、会社員で、その会社から給料が出る。悪いことをして儲けている組織だ。正直な話、それで金をもらうのはいい気がしないが、背に腹は代えられない。
さて、問題は数日間の欠勤がどう響くか。
というか、思い返すと、園崎霧彦から逃げて後で説教でもされればいいだろう、なんて考えは甘かったかもしれない。
ミュージアムって悪の組織だったわ。
あれ? 俺、もしかしてクビになったら消される?
用済みな下っ端って、もしかしなくても消される運命ですか?
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