転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
ーーーーーーーー
『ナイトメア』メモリは中々に特殊なメモリである。
使い辛いメモリであるが故に、生成数自体が少ない。需要が低くければ、高価になる。その結果売れない。
だから、『ナイトメア』を売れるのは相当に腕の立つ密売人だ、というのが霧彦の見解であった。
その方針に従い、俺は休日ながらディガル・コーポレーションに出社していた。勿論、『ナイトメア』を売った密売人をデータベースにかけて探すためである。
「お、黒井じゃん!」
そんな俺の後ろから声がかけられる。振り返ると3人の男。
えぇと、確か……。
「佐藤と田中と吉田」
「佐山と田岡と吉川だ。いい加減覚えろ」
惜しい。一文字違いだった。仕方ない、全員モブ顔なのが悪いのだ。
「どしたん? なんか熱心にパソコンとにらめっこしてたみたいだけど」
「急ぎの仕事か?」
チャラめな口調で俺のパソコンを覗き込んでくる田岡。さっき名前を訂正してきた吉川はトーンを変えずに、聞いてくる。そして、
「なんだったら、あたし達が手伝ってあげてもいいわよぉ♡ 勿論、代金は黒井ちゃんのカ・ラ・ダでぇ、支払ってくれれば構わないわよぉ♡」
そっちの気がある佐山が言ってくる。
語尾に♡をつけるな。カラダを狙うな。
「達は止めろ。俺は忙しい」
「あんら、ま~たノルマぁ? 吉川ちゃんは仕事熱心ねぇ」
「しかたないっしょ、吉川はオレらとは違うからな! 現段階で一番、社長の婚約者に近い男だもんなぁ!」
「…………そんなものに興味などない」
俺を巻き込む形でやり取りを繰り広げるモブ顔3人。
こいつらはそれなりに成績がよかった記憶がある。ふむ……少々、探ってみるか。
「なぁ、ちょっと聞きたいんだが」
「ん? どしたー?」
「実はあるメモリを売った奴を探してるんだ」
「んー? なによ、あるメモリって?」
「………これ、なんだが」
俺は3人の表情が見えるようにして、『ナイトメア』のデータが映し出された画面を見せた。
「『ナイトメア』ぁ? こんなの売れる訳ないじゃん!」
「……いや、この間警察に捕まった男が使っていたのが『ナイトメア』だったらしい。少なくとも1本は販売した人間がいるはずだろう」
「んー、そういえばこの間、このメモリを持ち歩いてた人間がいたような……」
「!」
見せてよかった! 早速ビンゴだ。
佐山の肩を掴み、聞き出す体勢に入る。
「おい、佐山!」
「いやんっ、ダメよぉ♡ 黒井ちゃん……人が見てるわぁ♡」
「うるせぇ! 頬を赤らめるな! いいから『ナイトメア』を持ち歩いてた人間を教えろっ!」
「んっ、ちょっとさすがに痛いわよ……っ」
ここで聞き出さなくては! そんな気持ちが先行して、焦っていたのだろう。乱暴になりかけたところを田岡に止められる。
「ちょ、待てって! 本当にどうしたんだよ、黒井! なんかお前、変だぞ」
「……黒井、お前、それは職務に関することか?」
さらに吉川にそれを問い詰められる。
密売人には守秘義務がある。会社自体がそもそもアウトだし、顧客情報を扱う時にはさらに細心の注意を払わなくてはならない。
だから、勿論、メモリに関することを個人的に使うことは許されないのだ。吉川はそれを危惧している。
くっ、仕方がない。
「……実は社長からの勅命でな。組織の皆には内緒だよ?」
「「「!」」」
小声でのその一言が効いたのだろう。3人は一瞬で静かになってくれた。その間に俺の出任せフルコースは続く。
「ここだけの話なんだがな。その逮捕された『ナイトメア』の一件に、どうやら園崎霧彦が絡んでいるようなんだ」
「……なるほど。組織の金を持ち逃げしたっていうあの園崎霧彦か」
「あぁ、社長様の怒り様はお前らもご存じだろうが……俺は奴が雲隠れする前に、奴と仕事をしていてな。そのせいで、俺に社長様直々のご命令が下ったんだよ」
「ほえー! なんだよ、黒井も大変だなぁ」
……ふむ、なんとか誤魔化せたか。
ありがとう、横領犯の霧彦くん!
「そういうことなら力になるわ。黒井ちゃんがあの女王様に処罰されちゃうのはイヤだもの♡」
「……あぁ、助かる。ウインクを止めろ」
それから佐山は思い出すように語ったのだった。
ーーーーーーーー
「おい、霧彦! 『ナイトメア』を持ってる人間が分かったぞ!」
『……あ、あぁ』
『ナイトメア』の持ち主であろう人物の元へ向かう途中、スマホを片手に霧彦と連絡をとる。だが、どうにも霧彦の様子がおかしい気がする。
「どうしたっ!」
『……いや、問題ない。それよりどこに向かえばいい?』
「雫ちゃんのアパートだ! 犯人はそこにいるはずだ!」
『なんだって?』
そう言っている間にも現着。出来るだけ早く来てくれと霧彦には伝え、通話は切ってある。
その一室のドアを開け、そのまま立ち入っていく。中にいたのは、
『あ? おい、血相変えてどうしたんだよ?』
「……っ、チャッピーはどうしたっ!!」
『……いや、あたしがこんな状態だから、ええと……アイナって女に預けてあるぜ?』
「っ」
しまった! やられた!!
なら、アイナちゃん家に今からでも乗り込むしかない。
『そうは言っても、あたしはアイナの家知らねぇぞ?』
「くっ」
先手を打たれたという訳か。
その後、合流した霧彦に事情を話して……。
「『ナイトメア』は現実で見つけ出しさせすれば脅威じゃない。だが……」
「あぁ、夢の中では無敵だ」
原作でもそうだった。あの照井竜ですら夢の中では敵わない。その悪夢の中では『ナイトメア』は思い通りに夢を改編できるのだから。唯一の手段はフィリップのように、他人の夢の中に入り込むことだが、そんなことをできる奴なんて、ここには…………ん?
「おい、『イービル』」
『あ? なんだよ?』
「お前って意志があるタイプのメモリなのか?」
『……ん? あー、雫が眠っている間に勝手に出てこれるんだからそうじゃないのか。知らねぇけど』
「…………ふむ」
「黒井くん……何を考えている?」
「霧彦、お前はアイナちゃんを探してくれ。恐らくチャッピー……いや、『ナイトメア』もそこにいる」
「君はまさかっ!」
現実世界はこれでよし。霧彦ならば『ナイトメア』程度に負けはしないだろう。あとは……。
「おい、『イービル』」
『だからなんだよっ! 言いたいことがあるなら一回でーー』
ーードンッーー
「うるせぇ、黙って俺に使わせろ」
時間がねぇんだ。うだうだと説明してる暇はない。
俺は『イービル』を壁に追いやり、そう告げる。反抗しても構わない。その時は無理矢理でも使ってやる。こっちは愛しの彼女の命が懸かってるんだ。
とそんな意気込みだったのだが、『イービル』は意外にも素直で……。
『ひゃ……ひゃい……っ』
頷いてくれたのだった。
ーーーーーーーー
「さぁ、旅立とうか。夢の世界へ!」
『てめぇっ!! ぜってぇあとでコロすぅぅ////』
霧彦を送り出した後、俺は雫ちゃんの部屋で横になっていた。無論、『イービル』を俺に使った状態で眠ることで、『イービル』を『ナイトメア』と対等な状況に立たせるためだ。
……なのだが、何故かぶちギレる『イービル』。ってか、素直に使わせてくれたのに、なんだよ。女心と秋の空ってやつか?
『うるせぇ、シネッ!!』
「……うるさいのはそっちだ。俺は一刻も早く眠らなきゃいけないんだよ」
『~~~~~~ッ////』
雫ちゃん、待っててくれよ。
隣で眠る雫ちゃんの手を握りながら、瞼を閉じる。やがて、ゆっくりと意識が遠退いていき……。
ーーーーーーーー
彼女にするとしたら……。
-
雫ちゃん(おどおど系清楚黒髪ロング)
-
イービル(オラオラ系白髪えっちお姉さん)