転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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新章『Y』編、開幕。

仕事多忙のため、久々更新。
明日も更新予定です。


第34話 Yの喜劇 / 妹襲来

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「妹が来る?」

 

「……あぁ、そうなんだ」

 

 

珍しく困った表情の霧彦の言葉を反芻する。

……って、別に困ることじゃないんじゃないか?

確かに原作では霧彦の妹が絡むエピソードはあった。霧彦が園崎冴子に殺された直後、彼女はこの風都にやって来た。そして、霧彦の訃報を知り、仇である冴子を殺害しようとした。

『イエスタデイ』なんていう使いにくいメモリを使って。

 

 

「別に歓迎してやりゃいいじゃねぇか。お前は状況が状況だし、外連れ回すのなら俺が代わりに行ってやるよ」

 

 

日頃、飯を作ってもらってたり、いろいろ助けてもらったりしてるから、このくらいはな。そう思って、そんな提案をしたのだが、どうやら霧彦の様子がおかしい。何かを恐れているようにも見える。

もしかして……?

 

 

「お前……妹に今の状態を話していないのか?」

 

「っ」

 

 

ビンゴらしい。彼は今の状態ーーつまり、会社を実質クビになったことを妹に伝えていないようであった。

 

 

「なんで?」

 

「…………私と妹は仲がよくてね。何かと妹は私のことを頼りにしてくれたんだ。結婚するときも喜んでくれたよ」

 

「なるほどな。会社をクビになり、園崎冴子とも実質離婚状態。できる兄像を崩したくなかった訳か」

 

「……うぅぅ、その通りだよ」

 

 

うなだれる霧彦。普段は完璧超人、料理もできるモテモテなイケメンである彼の弱みを見た気がしたんだ。

……あ、そういやこいつ、俺ですらまだ雫ちゃんに名前で呼ばれてないのに、こいつは霧彦さんと呼ばれてたなぁ……ふむ。

 

 

「ふ、ふふ……」

 

 

俺の中の悪魔が微笑んだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「…………」

 

 

風都タワーのすぐ側の公園。時間通り、彼女は現れた。キョロキョロと辺りを見渡し、誰かを探していることは明白だ。

俺はすぐに彼女に声をかけた。

 

 

「須藤雪絵さん、ですね」

 

「……あなたが、黒井さん?」

 

「えぇ、はじめまして」

 

 

彼女・須藤雪絵は俺の名を呼んだ。霧彦から連絡は受けていたようで、話はすんなり進む。

霧彦は急用でこの時間には来れないこと。

代理で友人である俺が来たこと。

そしてーー

 

 

「行きましょうか。霧彦くんとその奥さんが待っています」

 

 

自宅に連れていくと野郎と共同生活していることがバレる。流石に妻がいるのに、それはないだろうということで、街の裏路地にある人の少ない喫茶店で合流することにしていた。

 

 

「お待たせしました、霧彦くん」

 

「っ、あぁ……」

 

 

張りついた笑顔の霧彦。そして、その隣にいるのは、

 

 

「こんちはー! 霧彦の嫁のアイナでーす!」

 

「…………は?」

 

 

アイナちゃんであった。

霧彦の嫁さんが女子高生のギャルとかいう面白展開。心の中では大爆笑。まだだ、まだ笑うな。

勿論、これは俺の仕込みであり、嘘っぱちである。いつもはスカした霧彦がほどよく慌てふためいたらネタバラシをするという趣向である。

 

 

「兄さん……」

 

「いや、違うんだ、雪絵!」

 

「えー! 霧彦くぅん、早くしょーかいしてよー! 妻のアイナでーすって」

 

「……っ」

 

 

ブフーッ!! アイナちゃんがノリノリで楽しすぎる。

いいぞ、アイナちゃんを霧彦の相手役に選んで正解だったぜ。

 

 

「兄さん、この人、本当に兄さんの結婚相手なの!? こんな、頭の軽そうなっ!」

 

「霧彦くん、妹さんチョー怖い! ウチいじめられちゃうかもぉ」

 

「はぁ? 貴女のような品のない人、私が相手をするわけないでしょ! そもそも兄さんが貴女のような人とーー」

 

「くっ、ぶっ……っ」

 

「っ、黒井くんっ」

 

 

言い争いが過熱する。

その一方で、俺の名を呼び、必死に助けを求めてくる霧彦。まぁ、十分笑わせてもらったしな。この辺で止めておくとするか。

 

 

「あー、その雪絵さん、実はーー」

 

「ハァ? 品がないぃ? 若くないよりマシじゃん。こんな怒りっぽいおばさんよりマシでしょ~」

 

「っ、おばっ!? まだ24よっ!」

 

 

お、おやおや?

なんか思った以上にヤバめです?

 

 

「ねぇ、霧彦くん。霧彦くんは~」

「兄さん! 兄さんはっ」

 

「「どっちの味方なのっ!」」

 

 

あれれ? なんだこの展開??

なんか俺、修羅場とか作っちゃいました?

 

 

ーーーーーーーー

 

 

何故かヒートアップしてしまった2人を、俺と霧彦でどうにか引き離して、雪絵さんには事情を説明した。

残念ながらというか、案の定というか……納得はしてもらえず、冷ややかな目で見られてしまう俺。恐らくそっちの方からすれば、ご褒美なのだろうが、俺はそういう感じではない。

……ともかくだ。俺は謝罪ごの意味も込めて、容易に外に出ることのできない霧彦に代わり、彼女の用事とやらに付き合うことになったのだが……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「重……い……っ」

 

「貴重なものなんだから、傷つけないでよ」

 

「人使い……荒すぎねぇか……」

 

「人を騙して笑ってたんだから、このくらい我慢しなさい」

 

「ぐぬぬ」

 

 

風都に来たのも元々、研究で必要なものの調達だったらしく、俺では使い道すら分からない機械を複数持たされる。

そんで、正論すぎて言い返せん。くそぅ、正論は時に暴論よりも人を傷つけるんだぞぉ!

 

 

「そもそも兄さんも兄さんよ! 心配をかけたくないって……いつまで私を子供扱いする気なのかしらっ」

 

「昔から雪絵は心配しなくていいとか、私に任せておけとか……格好つけで、気取り屋で」

 

 

多少収まったはずの怒りが再燃してきたようで、今度はその矛先が霧彦に向く。昔の愚痴が次々と出てくる。俺はそれを黙って聞く、というよりも荷物が重くて突っ込みを入れるどころではない。

歩くこと5分。自宅が目の前に見え、俺の腕もそろそろ限界といったところで、

 

 

「……兄さんは」

 

「あ?」

 

「兄さんは幸せ、だったのかしら」

 

 

不意に、彼女はそう聞いた。いや、もしかしたらそれは独り言のようなものかもしれない。

自宅の方を見上げながら、遠い目をする彼女。俺は荷物を地面に置き、答える。

 

 

「少なくとも俺は幸せそうに見えるけどな」

 

「……でも、愛する相手に裏切られた訳でしょう。それは……」

 

「あいつなりに吹っ切れてるさ。この数ヵ月一緒に過ごしてたからな、多少はわかる。じゃなきゃ『ナスカ』は使えない」

 

「……『ナスカ』?」

 

 

おっと、失言だったな。そういやこの彼女はガイアメモリを知らないんだった。復讐に取り憑かれていない彼女にはそれを伝えるのも野暮だな。知らないままならそれがいい。

原作の彼女を思えば、尚更だ。

 

 

「あー、気にするな。なんでもない」

 

「でもっ」

 

「あんた、今の霧彦は嫌いか?」

 

 

今度は俺が問いかける。

格好つけのメッキが剥がれている今の霧彦は嫌いかと。

その言葉に、彼女は目を丸くしてから、ふっと微笑む。

 

 

「いいえ、好きよ」

 

「……あぁ、俺もだよ」

 

 

流石は、霧彦の妹だよ。風に吹かれて髪を抑えながら、笑うその顔は本当に絵になる。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「え……? 黒井さん?」

「は? 黒井ちゃん?」

 

 

須藤雪絵が『好きよ』と告げて、それに『俺もだ』と答える黒井秀平の姿を目撃した人間が2人いた。

1人は、黒井の恋人・雫。

そして、もう1人は黒井の元同僚・佐山であった。

黒井と雪絵を中心に、対称の位置にいる2人が取った行動は同じ。

 

 

「っ、黒井さーー」

『イービル』

 

 

雫は動揺から『イービル』を自動使用して。

 

 

「むっきぃぃぃ! なによ、その女ぁぁっ!」

『ヤング』

 

 

佐山は先ほど密売人を襲い手に入れた『ヤング』のメモリを使用した。

2体の『ドーパント』がたった今、黒井たちに襲いかかろうとしていた。

 

 

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