転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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第35話 Yの喜劇 / どろぬま

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『このボケがぁぁっ!!』

『この女ぁぁぁ!!』

 

「!」

 

 

自宅前にて、俺は怒りに満ちた2つの叫び声を聞いた。

1つは知ってる。雫ちゃんっていうか、『イービル』である怒りの形相で俺にめがけて殴りかかってきていた。

もう1つは知らない『ドーパント』だ。

なんだ? 普通の『ドーパント』と比べてかなり小さく、普通の人間の半分くらいの大きさだった。見た目も妙で、おしゃぶりのような頭と幼稚園児が着るようなスモック。まるで『子供』だ。

 

 

「な、なにあれっ!?」

 

「っ、雪絵さん! 逃げるぞっ」

 

 

『イービル』はともかく、もう1体は彼女に向かってきていた。『イービル』が何を考えているかは分からねぇが、向こうは確実に悪意がある。

俺は雪絵さんの手をとり、逃げ出した。

 

 

『ごらぁ、てめぇぇぇっ!!』

『ムキィィィィ!!』

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「……これでよしっ」

 

 

通話を切って、走り続ける。無論、俺の手と雪絵さんの手は繋いだままである。

 

 

「兄さんに……っ、連絡したのっ?」

 

「あぁ、これでいい。あんたの兄さんが助けてくれるはずだ」

 

 

そう言いながら、後ろを振り返る。2人との距離はまだ詰まってないが時間の問題だろう。だが、霧彦が来てさえくれれば!

 

 

「っ、はぁっ、はっ……」

 

 

俺は大丈夫だが、雪絵さんは限界か。

俺は意を決して、近くの公園に逃げ込んだ。子供がいるかもしれねぇが、だとしても『イービル』は止まってくれるはず。俺と『イービル』がいれば、霧彦が来るまでは保つだろう。

 

 

「ここに入るぞっ」

 

「っ、でもっ!」

 

 

有無を言わさず、公園に駆け込む。そして、身を翻した。2人と向かい合うと、どうやら俺の目論み通り、『イービル』の方は少し冷静になってくれたようで……。

 

 

『……おい、てめぇ、なんで逃げる』

 

 

走るのを止め、ゆっくりとこちらに歩いてくる『イービル』。

説明はするから話をする前に、隣の『ドーパント』をどうにかするぞ!

そう言うと、『イービル』はそこでどうやら初めて気づいたようで、横にいた小さな『ドーパント』に向き直った。

 

 

『んだ、てめぇっ!』

 

『貴女は……この間の小娘ッ! 前は邪魔をしてくれてェェ、喰らいなさいっ!!』

ーーゾゾゾゾゾゾッーー

 

 

地面を這うように蠢く泥。いや、その緑色の泥はただの泥じゃない。あれはヤバい! 理屈ではなく本能がそう言っていた。

 

 

「っ、あれは……『テラーフィールド』ッ!?」

 

『あ? なんだよ、それは』

 

「避けろっ、『イービル』!!」

 

 

ーーゾゾゾゾゾゾッーー

 

 

遅かった!?

緑色の泥は『イービル』を飲み込んだ。俺は『マスカレイド』を使い、駆け寄ろうとするが、泥の動きは速い。足から胴、腕、首、そして頭まで包む。

 

 

『っ、雫ちゃん!』

 

ーーグッーー

 

 

泥に包まれた『イービル』の手を握り、引っ張る。意外なことに泥から彼女の身体を引っ張りあげるのはとても容易かった。まるで、子供を引っ張り出したような感覚で……。

 

 

『は?』

 

「…………っ」

 

 

気を失って、髪色も雫ちゃんのそれに戻っていた。だが、一瞬俺は彼女を彼女と認識することができなかった。なぜならば、

 

 

『この幼女は……雫ちゃん、なのか?』

 

 

俺の腕の中にいたのは、子供だった。5歳くらいの幼女である。

面影は確かにあったけれど……。

そんな混乱する俺の耳に、あの『ドーパント』の高笑いが聞こえてきた。

 

 

『見なさいっ! これが『ヤング』メモリの能力よっ! これで貴女は黒井ちゃんとイチャつけないワぁぁぁ!!』

 

 

『ヤング』メモリ?

……そうか! 原作にも出てきた『オールド』メモリの逆、つまり、あの泥に呑まれた人間は若返るってことかよっ!

 

 

『っ、雪絵さん!』

 

「え、えっ? あなた、一体っ!?」

 

 

目の前で『マスカレイド』に変身したせいだろう。未だに混乱する雪絵さんに声をかける。事情は後で話すからと。

今はとにかく逃げるしかない。あの『ヤング』とかいうメモリが『オールド』と対極にあるのならば、あれはヤバい。調整次第で、老人を子供、いや、赤ん坊にまで戻せるはずだ。

いち早く逃げるにはーー

 

 

『ライアー』

 

『! お待ちなさい! 黒井ちゃんっ!』

ーーゾゾゾゾゾゾッーー

 

『っ、お前は目が見えない』

 

 

『マスカレイド』から人間に戻り、『ライアー』へ。逃げるための嘘を針にして『ヤング』へと撃ち出し、それが命中したのを確認して、俺達はその場を逃げ出した。

ただし、俺の腕には緑色の泥が付着していて。すぐに振り払ったが、このままだと俺も……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「…………説明して、兄さん。そして、黒井秀平」

 

 

どうにか自宅に辿り着いた俺達だったが、雪絵さんは霧彦と俺にそう言って詰め寄ってきた。

まぁ、当然か。正直、彼女にはガイアメモリに関わってほしくなかったというのが本音だが、目の前で起こっちゃあ仕方ないよな。俺は隣に座る霧彦に目配せをして、頷いた。

 

 

「雪絵。実はこの風都にはーー」

 

 

霧彦はこの風都にガイアメモリが流通していることを話した。それが人間を『ドーパント』に変え、彼らが人を襲っていること、それから俺達が流通させていたことも、だ。全てを伝えた。

それを聞いた雪絵さんは黙ったまま俯いている。当然の反応だろう。自分の兄がそんなものの片棒を担いでいたのだから。

 

 

「すまない。本当は伝えるつもりだったんだ」

 

「…………」

 

 

彼女は答えない。その代わりに、

 

 

「いもうとをかなしませたらダメでしょ! きりひこくん、おにーちゃんでしょ! めっ!」

 

 

しずくちゃんが霧彦にそう言った。可愛い。

……いや、違う違う。ほっこりしてる場合じゃないんだよ、俺。

 

 

「……とにかく俺はちょっと電話でもしてくる」

 

 

原作になかった展開だが、『ヤング』が『オールド』と同じ性質をもつのなら、『仮面ライダーアクセル』・照井竜にはあの泥が効かないはず。だから、警察に『ヤング』の情報をたれ込めば、どうにかしてくれるはずだ。

 

 

「じゃ、じゃあ……よろしくな、霧彦」

 

「…………あぁ」

 

「しずくもいくー!」

 

 

俺の背中に飛び乗るしずくちゃんを連れて、俺は自宅から退散した。

……別に、この雰囲気に耐えられないとか言う訳じゃない。俺はそんな無責任男では談じてない。

 

 

ーーーー黒井のいないその場にて・霧彦視点ーーーー

 

 

「顔をあげて、兄さん」

 

 

妹からかけられた声は意外にも穏やかだった。それに応じて、私は顔をあげ、雪絵を見る。

 

 

「もう話していないことはないの?」

 

「……そう、だな。もうないはずーー」

 

「ーー女子高生には手を出してないのね」

 

「っ、あれは、黒井くんのっ!」

 

「………………ぷっ!」

 

 

吹き出す雪絵を見て、私はやっと気づく。雪絵はもしかして最初から……?

 

 

「えぇ、兄さんが何かを隠していることくらいは分かってたわ。そんな想像もできない絵空事みたいな話だとは思わなかったけれど」

 

「……軽蔑しただろう」

 

「ううん」

 

 

私の問いに、雪絵は首を横に振った。

 

 

「私の研究している分野も一歩間違えば危険なものよ。使い方と使う人次第で、どんなものも人を傷つけるものになる。『仮面ライダー』だっけ? それもきっと源流は同じなんでしょう」

 

「…………あぁ」

 

「事実を知った。だから、兄さんはそれを止めようとしてる。愛した人を裏切ってまで」

 

「それは……」

 

「それに、兄さんが風都を傷つけようとしていた訳ではないのは分かってるわ……兄さんは誰より風都を愛していることもね」

 

 

雪絵はそう言って、微笑んだ。

ふと思い出したのは、いつか『彼ら』から投げかけられた言葉。

私の『罪』。

それは愛する風都を壊しかけたこと。知らなかったで済まされる訳はない。私の贖罪はまだ終わってない……いいや、始まってすらいない。

 

 

「……ありがとう、雪絵」

 

「どういたしまして、格好つけの兄さん」

 

 

カチリと。

何かが私の中でハマった音がした。

 

 

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