転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
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「はぁぁぁ」
警察に電話した後、俺は近所の公園のベンチに座り、深いため息を吐いた。勿論、さっきとは違う公園である。
隣には、アイスを食べるしずくちゃん。一見平和な光景だが、そんな彼女を見て、自らの不甲斐なさが憎くなる。
……この年齢で収まったからまだよかったんだ。一歩間違えば、あと数秒遅かったら、雫ちゃんは恐らく赤ん坊にされていた……いや、問題はそこじゃない。こうして、愛する人を自分のせいで巻き込んでしまっていること自体に怒りを覚えていた。
「くそ……」
力が足りない。守る力が足りない。
……いいや、力はあるんだ。もう既に持っている。それを咄嗟に使えない自分が本当に嫌になる。
「……しゅーへい?」
その声で気づく。もうアイスを食べ終わったようで、しずくちゃんが俺の顔を覗き込んでいた。
「だいじょぶ? いたい……?」
「いや、大丈夫だよ」
「んっ」
そう答え、頭を撫でてやると少しくすぐったそうに目を細めるしずくちゃん。それを見て、俺はーー
『あらぁ?』
「っ」
突然かけられたエコー混じりの声。目の前にいた。『ヤング』だ。
『黒井ちゃん、不用心ねぇ』
「……お前」
さっきは気づかなかったが、この口調、俺を黒井ちゃんと呼ぶ人物……こいつはもしかして……。
「お前、佐藤か?」
『んーーーっ! 惜しいっ! さ・や・ま・よぉ♡』
そう言いながらクネクネと動く『ヤング』。その気持ち悪い動きが、こちらへ投げキッスをしてきたことだけは理解できた。どちらにしろ気持ち悪いことこの上ないが。
『腕の調子はどうかしらぁ?』
「……お前のお陰でデトックスができたよ。腕の肌艶がいい」
『ウフフ、それはそれはぁ♡ やっぱりあなたは『特別』なようねェ……あなたをショタ化してラブラブする計画はなしになっちゃったけど、まぁいいわァ』
そこまで言って、奴は構える。俺もそれに応じて構えようとして、固まる。
「ダメっ!」
しずくちゃんが俺と佐山の間に立っていたのだ。まるで、俺を庇うように手を広げ、キッと『ヤング』を睨み付ける。
「っ、なにやってんだっ!!」
「しゅーへいを苛めちゃっ……だ、ダメなのっ!!」
「……しずくちゃん」
声も、体も震えていた。それでも彼女は、その姿勢のままで。
『キィィッ! チンチクリンになってまで、まだあたしと黒井ちゃんの仲を引き裂こうとするのねッ』
『もう怒ったわッ!!』
ーーゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾッーー
緑泥の壁を作り出す『ヤング』。それを俺達の周りを囲うように展開してくる。逃げ場はない。
どうする? どうすればいい?
『マスカレイド』では無理だ。『エコー』を使っても、俺の練度ではこの壁は押し返せない。『ライアー』も無意味。
ならーー
『目障りな小娘ッ、跡形もなく戻ってしまいなさいッ!!』
その声と同時に、泥は俺達を包み込んだ。
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「……おや」
「井坂先生……?」
「フフッ、どうやら彼が使ってくれたようだ。私が渡したガイアメモリを」
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『ジャイアント』『アップグレード』
『……………………』
「っ」
俺の体の下にしずくちゃんはいた。どうやら『ヤング』の泥は全て俺の体で防ぎ切れたようで、俺の体で覆われたしずくちゃんにはまったく影響は及んでない。
「しゅー、へい……?」
『………………』
しずくちゃん、さっき見ていたよりもずっと小さい。いや、俺がでかくなっただけか。
『………………』
安心させてやろうと声をかけようとするが、何故か声が出ない。『ジャイアント』の能力のせいだろうか。やけに頭もぼーっとする。
『な、なによ、それ!?』
ゆっくりと体を起こし、声のした方を向く。そこには俺のくるぶしくらいまでの大きさの『ヤング』がいて。だから、俺は
ーーグググッーー
『ちょっ!? ま、まちなさーー』
ーーバンッーー
ただ『それ』を踏み潰した。
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「…………んっ」
目を開けると、そこは知らない天井だった。いまいち状況が掴めず、俺はゆっくりと辺りを見渡す。
病院……か。
ーーキュッーー
「……あ」
右手に感じるぬくもり。俺の手を握っていたのは、雫ちゃんだった。穏やかな寝息をたてて眠っていた。
ーーガラッーー
「あら、気がついたのね」
「……ゆき、えさん」
どうにか声を出す。病室に入ってきた雪絵さんは、片手に花を持っていて、どうやら花瓶の花を変えてくれていたのだとぼんやりとながら理解する。
「その子、恋人? 感謝した方がいいわよ。あなたが眠っていたこの1週間、ずっと看病し続けてたんだから」
「…………雫、ちゃん」
まだ力が入らない右手で彼女の手を握り返す。
思い出してきた。俺は『ヤング』と遭遇して、『ジャイアント』メモリと『強化アダプター』を……そうか、守れたんだな。
本当は左手で頭を撫でてやりたいが、1週間眠っていたせいだろう。体が上手く動かない。
「……よかっ、た」
「…………彼女に起きたことは伝えておくわ。まだ眠りなさい」
「……あ、あ」
安心したからか急に眠気に襲われて……。
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「はっ、はぁっ……」
とある路地裏。
肩で息をしているその男・佐山は、そこで膝から崩れ落ちた。
彼は黒井が複数のガイアメモリを使えることを知っていた。聞いていた。だから、決して油断していた訳ではない。
ただ黒井の力が想像を超えてきただけで。
「……フフッ、いいわ……それでこそわたしの黒井ちゃん……」
不気味に笑う佐山。
彼がそこまで黒井に執着するのは理由がある。それは黒井が佐山と同じ体質ーーガイアメモリの複数使用に耐え得る肉体を持っていること、それへのシンパシーに他ならない。
異質な自分と同じ異質。
それに強く、惹かれ、想い焦がれたのだ。
「終わらないわよ、まだまだァ……」
「いいや、終わりさ」
声は表通りの方から。
佐山が目をやると、そこにいたのはスーツ姿の男だった。逆光のせいで顔までは見えない。だが、その声は聞いたことがあった。
「園崎ーー」
「その名はもう捨てたよ」
ーーガシャッーー
そう言うと、その男は懐からそれを取り出した。ガイアドライバーではない。赤いドライバーで、それは『W』のそれとよく似ていた。さらに、手にしているメモリも『ドーパント』になるためのそれではない。
「まさか『仮面ーー」
「いいや、私が『その名』を名乗るのは相応しくない。まだ私には『罪』が残っている……『その名』を名乗ってしまっては、風都を愛する同志に怒られてしまうさ」
自嘲とも受け取れる言葉だ。だが、そこに卑屈さはない。
何故ならば彼は既に決意している。その力を以て、陰ながら愛する街を守ることを。
「さぁ、これで終わりだ」
『ナスカ』
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その日、彼は『仮面ライダー』となった。
表舞台には一切立たず、陰ながら街を守る『蒼いスカーフ』に。
彼の名は『ナスカ』。
今後も表舞台には決して姿を表さない『仮面ライダー』である。
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『Y』編終了。
大好評、佐山はここで完全退場です。
そして、彼も変身しました。
ただし、ほぼほぼ『仮面ライダー』としては出てこないことをここで明記しておきます。それは彼のポリシーというかプライドみたいなものです。