転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
第37話 解放者T / 蠢
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「やめ、ろっ」
伸ばした手の先に、彼女はいた。
『早く変身するといい。でなければ、彼女が死ぬことになりますよ』
奴の生み出した水球に顔を覆われ、今にも溺れ死にそうな雫ちゃん。彼女を助ける術は既に俺の手の内にある。
だが、本当にこれを使っていいのかっ!?
『そんなに彼女を殺したいか』
違う、迷うな! 迷っている暇は、ないっ!!
俺はメモリを起動した。
ーーーー数日前ーーーー
「どうやら使っていただけたようですねぇ」
『……あぁ』
既にお決まりになった井坂による診察。今日はとあるビジネスホテルの一室だった。
「『マスカレイド』に『エコー』、『ライアー』と『ジャイアント』ですか。4種類のメモリの併用とは、君の才能はやはり恐ろしい」
『…………』
「しかし、『リバース』は使ってもらえていないようだ」
当たり前だろう。あんたの思惑が伝わってくるんだよ。
俺に『ジャイアント』を使わせて、大丈夫だと思わせておいて本命である『リバース』を使わせる。そんなところだろ。
『そもそも『リバース』はどんなメモリなんだ? それを聞いておかないと使えるものも使えないだろ』
「フッ、一理ある」
薄く笑うと、井坂は俺の体から手を離し、机に向かう。そうして、手にしたのは野球ボール大の真っ黒な球体だった。
「……なんだ、それ」
メモリを体外へ取り出し、訊ねる。見たまんま、野球ボールのようだと口にすると、井坂はそれを肯定した。それは確かに野球のボールだと。
「ただし、裏返っています」
「裏返る?」
「えぇ……どうぞ」
井坂からボールとナイフを受け取り、切ってみると、内側から出てきたのはよく見る野球ボールの柄。だが、俺が切ったところ以外に切り込みはなかった。つまり、これが……。
「そう、『リバース』とは反転の記憶が込められたメモリです。対象を反転させる。つまり、人体に使えば、人間を一瞬にて裏返すこともできる。どうです? 浪漫のある能力でしょう」
「あぁ、その狂った能力……あんたによくお似合いのメモリだよ」
「褒め言葉と、受け取っておきましょう」
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「女子高生連続誘拐事件?」
自宅に帰ると、そこにいたのは昼飯を作っている霧彦とその料理を待つアイナちゃん。それから、雫ちゃんだった。
料理をする片手間で雑談をしているようだったが、なにやら出てきたワードが物騒である。
「そーそー、なんかウチの友達の友達がいなくなっちゃったらしくてさぁ……その友達もかなり落ち込んでてぇ……」
そう言うアイナちゃんも机に突っ伏した状態で明らかに元気がない。そんな彼女を撫でている雫ちゃんはホントに天使。
「……調べてもらえませんか」
と雫ちゃん。
ガイアメモリのことや俺達がそれを使えることを伝えたことで、そんな発想になったのだろう。勿論、雫ちゃんの頼みなら応えてやりたい。
「…………黒井くん」
「あぁ」
キッチンから出てきた霧彦と目配せし、頷く。
普通の犯罪である可能性もある。だが、女子高生というほぼ大人と変わらない体格の人間を複数人誘拐できる人間なんて、そうはいない。いたとしたら、それは恐らくだがガイアメモリに関わる人間だろう。
「分かった。調べてみよう」
「っ! ホント!? ありがとー! 霧彦くぅぅんっ!!」
「っ、や、やめたまえ! 気軽に異性に抱きつくのはーー」
霧彦に抱きつくアイナちゃん。それをたしなめる霧彦。
フッ、前回の一件があって、ずいぶん仲がよくなったようだな。ただ気を付けろよ、霧彦。それ以上は条例違反だぜ!
そんな余計な気を回していた俺だったが、ふと軽く引かれる袖に気づく。それをしていたのは雫ちゃんで。
「秀平さん……」
「ん? どした?」
「み、みみを貸してくださいっ」
「?」
ひそひそ話があるようで、俺は彼女に顔を寄せる。
「し、秀平さん。ああは言いましたけど、無茶だけはしないでくださいね。そ、その………………っ////」
「!」
その一言は耳元でもどうにか聞こえたくらいの声量だった。だが、俺をやる気にさせるには十分である。
「よっしゃぁぁぁぁ!!! がんばっちゃうぞぉぉぉ!!!」
「だ、だからっ! 無茶だけはっ!?」
ーーーーとあるホテルの一室にてーーーー
「おや、来客ですか」
その者たちがホテルのロビーを通った時点で、井坂深紅郎は察知していた。明らかに普通の人間ではない雰囲気と殺気を感じ取っていたのだ。それが今、自室の前で止まった。
「邪魔するぞ」
「ちーっす!」
「……どうぞ」
ホテルはオートロックのため、鍵は閉まっていたはず。それにもかかわらず、部屋に入ってきた2人の男。どちらも特徴のない容姿をしている。作り物のような印象すら受けた。
井坂は2人を招き入れる。勿論、片手にはメモリを備えて、だ。
「井坂深紅郎だな」
「いかにも」
「お前に協力を依頼したい」
「……協力?」
「黒井秀平を捕らえたい。その協力依頼だ」
その申し出から数秒、井坂は黙る。そして、訊ねる。
「彼の体質が目的ですか?」
「……依頼を受け入れてもらえば答えよう」
「協力するにもお互いの情報の開示は必要でしょう? そちらは私のことを知っているようだが」
「…………体質などはどうでもいい。我々は『テンセイシャ』を排除するだけだ」
知らない言葉だったが、それ以上は譲歩したいという意志を感じたため、井坂はひとまずの答えを返した。
「いいでしょう。彼を捕らえればいいのなら、こんなに簡単なことはない」
井坂自身も、ちょうど黒井が『リバース』メモリを使わないことに辟易としていたのだ。捕らえ、使わせる。いや、使わせてから抜け殻になった彼を引き渡せばいいだろう。
邪悪な笑みを浮かべる井坂深紅郎にはひとつの策があった。
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