転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
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『オォォォォォ!』
雄叫びをあげながら、俺は『ウェザー』に殴りかかる。巨大な拳は奴を捉えーー
『甘いッ!!』
ーーググググッーー
違う。拳は奴に当たらず、その間の分厚い雲によって阻まれていた。ならば!
『エコー』
瞬時に『ジャイアント』を排出し、『エコー』に変える。そのまま、音撃を繰り出した。
『……それも私に効くわけがないっ!』
ーービュォォォーー
『くっ』
今度は風で音が散らされる。なら次は!
『ライアー』
『お前は重力に押し潰されるッ!』
嘘の針を飛ばす。だが、今度は突如現れた氷の壁で届かない。
くそっ!! ならーー
『マスカレイド』『アップグレード』
『マスカレイド』は低いとはいえ、肉体強化のメモリ。それを『強化アダプター』で3倍まで膂力を引き上げ、正面からねじ伏せるしかない。
『らぁぁっ!!』
ーーブンッーー
命中、した。腹にもろに入ったはずなんだ。だが、それでも井坂は倒れない。
『くっ、化け物がっ!』
『君も大概だろう』
『…………はっ、違ぇねぇ!』
『ライアー』『エコー』『ジャイアント』
3本のメモリを起動して、すべてを首のコネクターへ。
これで4本分だ! 押しきれるっ!!
『らぁぁぁぁっ!!!』
ーーググググッーー
『メモリの4本同時併用とは……面白い』
『だが、君は本当に愚かな男だよ』
ーーバチバチバチバチッーー
『がぁぁぁッ!?!?』
雷鳴と同時に、全身に激痛が走る。『ウェザー』の雷が自分の体を駆け抜けたと分かるのは、倒れてからで。
「ぐ、あぁ……うっ……」
痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。
激痛で叫びたいのに、声すら出ない。
どうにか自爆前に変身は解除できたものの、体がバラバラになりそうだった。
『……見なさい。これが私と君の力の差だよ』
「っ、は…………っ」
『メモリを複数本使い、それらを合わせたとしても、所詮はゴミメモリ。私の『ウェザー』の足元にも及ばないッ』
「…………か、はっ」
倒れる俺を踏みつけてくる『ウェザー』。皮膚が爛れてしまっているからか、触られるだけでも強烈な痛みがある。そんな俺に構わず、井坂は言葉を続ける。
『唯一、私を倒せる可能性があるとすれば、『リバース』のみ。さぁ、使え、黒井秀平ッ!』
激痛に耐えながらも、俺は『リバース』を触る。
いいのか、本当にこれを使っても……。そんな考えがよぎる。だが、ここで使わなくちゃあ……。
『そうですか……そんなに使いたくないのならっ』
ーーバシャッーー
「か……っ」
そう言うと、奴は右手で作り出した雨を球体にして、雫ちゃんに向かわせた。球体は雫ちゃんの頭を包み込んでーー
「やめ、ろっ」
伸ばした手の先に、彼女はいた。
『早く変身するといい。でなければ、彼女が死ぬことになりますよ』
奴の生み出した水球に顔を覆われ、今にも溺れ死にそうな雫ちゃん。彼女を助ける術は既に俺の手の内にある。
だが、本当にこれを使っていいのかっ!?
『そんなに彼女を殺したいか』
違う、迷うな! 迷っている暇は、ないっ!!
俺はメモリを起動した。
『リバース』
俺はそのメモリを首のコネクターに差し込んだ。
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『リバース』のガイアウィスパー。
それが聞こえたと同時に、雫という女を包んでいた私の水球が裏返り、霧散した。
『これはっ!』
待望の時だった。
黒井秀平は『リバース』を使用した。彼に過剰適合するであろうそのメモリを。
あとは彼が死ぬのを待って……。
ーーグニャリーー
『なっ!?』
彼を踏みつけていたはずの私の足に感じた鈍痛。それは私の足が裏返り始めていた痛みだった。
『チィッ!』
ーーバチバチッーー
足元の彼に雷撃を喰らわせ、能力の解除を図る。だが、そこに彼は既にいなかった。
どこに!? 周りを見渡すと、その姿は彼の恋人のところにあった。
『………………』
こちらに背を向けており、顔は見えない。黒と白の後ろ姿。上半身は白く、腰の辺りでその色は反転して黒くなっている。
……彼が振り向く。顕になるその顔に輝くのは、真っ赤な2つの複眼とそこから頬へ、体へ繋がっている切れ目のような紋様。それはまるで目から流れる涙のよう。胸の中心には巨大な渦があり、渦はそこに吸い込まれそうな存在感を放っていた。
『それが『リバース』ッ! 私にその力を見せてみろ!』
いずれ私のものになるメモリ。まずはその力を観察し、後に屈服させ、奪い取ってやりましょう。そうすることで、メモリは力を増した状態で、私の手中に入ってくる。
『ふんっ!』
ーーバチバチッーー
夕暮れの空に手を掲げ、呼び寄せた落雷を、彼に向けて放つ。だが、
『…………』
ーーグニャリーー
『ノーモーションで……!』
雷は彼とその後ろの女性を避けるように、逸れていく。ならば、次は避けられぬ雨の塊。先ほどの彼女のように、溺れ死んでもらいましょう!
ーーザァァァーー
『溺れ死ねっ、そして、これも追加です!』
ーーバチバチッーー
さらに、それに雷撃を這わせた。全方位からの攻撃ならば、反転のさせようがあるまい!
ーーグニャリーー
『……っ、ごぼっ!?』
次の瞬間、私の放った攻撃は私の身に返ってきていた。一瞬理解が追い付かないが、どうにか理解する。
これが『リバース』……攻撃の方向や範囲すら関係のない。私は反転を甘く見ていた。しくじったのは、私の方だ。
「ぐっ……」
息が続かず、堪らず『ウェザー』を解除する。幸いなことにそのお陰で、能力が解除されて、私は溺れ死なずに済んだ。
「…………仕方がありません。ここは撤退しましょう」
合図を送ると空間が歪んでいく。『トワイライト』の空間が解体されているのだ。そうすれば、ここにいた人間はこの場から排出され、逃げられる。屈辱ではあるが、同時に自分の目利きが正しかったことを痛感する。
『リバース』は本当に強いメモリだ。あれをいずれ私の手に……。
景色はぼやけ、夕暮れは沈む。
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「おい、おい!」
左翔太郎は異空間から戻ってきた黒井に声をかけ続けていた。その傍らには先ほど目を覚ました彼の恋人・雫の姿があり、弱々しい声ではあるが、彼の名前を呼び続けていた。
「……例の『黄昏の街』で何があったか分からないが、彼を病院へ」
「あぁ、分かってる!」
翔太郎がフィリップの言うように、黒井を担ぎ上げようとしたところで、その彼の体に力が戻ったことを感じた。だから、声をかけたのだが……。
「おい、黒井! 目が覚めたのか!」
「…………降ろせ。私に触るな」
背中から返ってきたのは、冷たい声。反射的に言われた通りに彼を離すと、背中から降りた黒井は自分の足で立っていた。
その姿を見ると、確かに黒井秀平本人だ。だが、翔太郎は、いや、その場にいる全員が彼の様子が変であることを察知していた。
「…………」
おちゃらけた雰囲気ではない。
刺すような、殺意にも近い雰囲気だった。
「し、しゅうへい、さん……」
そんな彼の手を取ったのは、彼の恋人の雫。確かに雰囲気は違っていても、黒井は彼女にとってかけがえのない愛する人だ。今まで意識を失っていた彼を心配するのも当然といえる。
だが、その手はーー
ーーパシッーー
ーー払われた。黒井本人によって。
「………………え?」
あまりのことに呆然とする雫。
当たり前だ。今まで黒井は彼女を本当に大切にしていた。彼女にとって、黒井秀平という男は、ふざけているけれど、優しくて、頼りがいのある恋人だった。
その黒井が自分の手を払うなど……あり得ないことが目の前で起きた。理解が追い付かない。そんな彼女に追い討ちをかけるように、あろうことか黒井は吐き捨てた。
「気安く私に触れるな、反吐が出る」
暴言を吐き、彼はその場を後にする。
その場に残ったのは、鳴海探偵事務所の3人と、
「な、ん……で……」
ただ涙を流す雫だけであった。
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『T』編閉幕。
次回更新は少し間が空くかもしれません。
それまで病まないでね。