転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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第39話 解放者T / すべてを懸けて

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『オォォォォォ!』

 

 

雄叫びをあげながら、俺は『ウェザー』に殴りかかる。巨大な拳は奴を捉えーー

 

 

『甘いッ!!』

ーーググググッーー

 

 

違う。拳は奴に当たらず、その間の分厚い雲によって阻まれていた。ならば!

 

 

『エコー』

 

 

瞬時に『ジャイアント』を排出し、『エコー』に変える。そのまま、音撃を繰り出した。

 

 

『……それも私に効くわけがないっ!』

ーービュォォォーー

 

『くっ』

 

 

今度は風で音が散らされる。なら次は!

 

 

『ライアー』

 

『お前は重力に押し潰されるッ!』

 

 

嘘の針を飛ばす。だが、今度は突如現れた氷の壁で届かない。

くそっ!! ならーー

 

 

『マスカレイド』『アップグレード』

 

 

『マスカレイド』は低いとはいえ、肉体強化のメモリ。それを『強化アダプター』で3倍まで膂力を引き上げ、正面からねじ伏せるしかない。

 

 

『らぁぁっ!!』

ーーブンッーー

 

 

命中、した。腹にもろに入ったはずなんだ。だが、それでも井坂は倒れない。

 

 

『くっ、化け物がっ!』

 

『君も大概だろう』

 

『…………はっ、違ぇねぇ!』

 

 

『ライアー』『エコー』『ジャイアント』

 

 

3本のメモリを起動して、すべてを首のコネクターへ。

これで4本分だ! 押しきれるっ!!

 

 

『らぁぁぁぁっ!!!』

ーーググググッーー

 

『メモリの4本同時併用とは……面白い』

 

 

『だが、君は本当に愚かな男だよ』

ーーバチバチバチバチッーー

 

 

『がぁぁぁッ!?!?』

 

 

雷鳴と同時に、全身に激痛が走る。『ウェザー』の雷が自分の体を駆け抜けたと分かるのは、倒れてからで。

 

 

「ぐ、あぁ……うっ……」

 

 

痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。

激痛で叫びたいのに、声すら出ない。

どうにか自爆前に変身は解除できたものの、体がバラバラになりそうだった。

 

 

『……見なさい。これが私と君の力の差だよ』

 

「っ、は…………っ」

 

『メモリを複数本使い、それらを合わせたとしても、所詮はゴミメモリ。私の『ウェザー』の足元にも及ばないッ』

 

「…………か、はっ」

 

 

倒れる俺を踏みつけてくる『ウェザー』。皮膚が爛れてしまっているからか、触られるだけでも強烈な痛みがある。そんな俺に構わず、井坂は言葉を続ける。

 

 

『唯一、私を倒せる可能性があるとすれば、『リバース』のみ。さぁ、使え、黒井秀平ッ!』

 

 

激痛に耐えながらも、俺は『リバース』を触る。

いいのか、本当にこれを使っても……。そんな考えがよぎる。だが、ここで使わなくちゃあ……。

 

 

『そうですか……そんなに使いたくないのならっ』

ーーバシャッーー

 

「か……っ」

 

 

そう言うと、奴は右手で作り出した雨を球体にして、雫ちゃんに向かわせた。球体は雫ちゃんの頭を包み込んでーー

 

 

「やめ、ろっ」

 

 

伸ばした手の先に、彼女はいた。

 

 

『早く変身するといい。でなければ、彼女が死ぬことになりますよ』

 

 

奴の生み出した水球に顔を覆われ、今にも溺れ死にそうな雫ちゃん。彼女を助ける術は既に俺の手の内にある。

だが、本当にこれを使っていいのかっ!?

 

 

『そんなに彼女を殺したいか』

 

 

違う、迷うな! 迷っている暇は、ないっ!!

俺はメモリを起動した。

 

 

『リバース』

 

 

俺はそのメモリを首のコネクターに差し込んだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

『リバース』のガイアウィスパー。

それが聞こえたと同時に、雫という女を包んでいた私の水球が裏返り、霧散した。

 

 

『これはっ!』

 

 

待望の時だった。

黒井秀平は『リバース』を使用した。彼に過剰適合するであろうそのメモリを。

あとは彼が死ぬのを待って……。

 

 

ーーグニャリーー

 

『なっ!?』

 

 

彼を踏みつけていたはずの私の足に感じた鈍痛。それは私の足が裏返り始めていた痛みだった。

 

 

『チィッ!』

ーーバチバチッーー

 

 

足元の彼に雷撃を喰らわせ、能力の解除を図る。だが、そこに彼は既にいなかった。

どこに!? 周りを見渡すと、その姿は彼の恋人のところにあった。

 

 

『………………』

 

 

こちらに背を向けており、顔は見えない。黒と白の後ろ姿。上半身は白く、腰の辺りでその色は反転して黒くなっている。

……彼が振り向く。顕になるその顔に輝くのは、真っ赤な2つの複眼とそこから頬へ、体へ繋がっている切れ目のような紋様。それはまるで目から流れる涙のよう。胸の中心には巨大な渦があり、渦はそこに吸い込まれそうな存在感を放っていた。

 

 

『それが『リバース』ッ! 私にその力を見せてみろ!』

 

 

いずれ私のものになるメモリ。まずはその力を観察し、後に屈服させ、奪い取ってやりましょう。そうすることで、メモリは力を増した状態で、私の手中に入ってくる。

 

 

『ふんっ!』

 

ーーバチバチッーー

 

 

夕暮れの空に手を掲げ、呼び寄せた落雷を、彼に向けて放つ。だが、

 

 

『…………』

ーーグニャリーー

 

『ノーモーションで……!』

 

 

雷は彼とその後ろの女性を避けるように、逸れていく。ならば、次は避けられぬ雨の塊。先ほどの彼女のように、溺れ死んでもらいましょう!

 

 

ーーザァァァーー

 

『溺れ死ねっ、そして、これも追加です!』

 

ーーバチバチッーー

 

 

さらに、それに雷撃を這わせた。全方位からの攻撃ならば、反転のさせようがあるまい!

 

 

 

ーーグニャリーー

 

『……っ、ごぼっ!?』

 

 

 

次の瞬間、私の放った攻撃は私の身に返ってきていた。一瞬理解が追い付かないが、どうにか理解する。

これが『リバース』……攻撃の方向や範囲すら関係のない。私は反転を甘く見ていた。しくじったのは、私の方だ。

 

 

「ぐっ……」

 

 

息が続かず、堪らず『ウェザー』を解除する。幸いなことにそのお陰で、能力が解除されて、私は溺れ死なずに済んだ。

 

 

「…………仕方がありません。ここは撤退しましょう」

 

 

合図を送ると空間が歪んでいく。『トワイライト』の空間が解体されているのだ。そうすれば、ここにいた人間はこの場から排出され、逃げられる。屈辱ではあるが、同時に自分の目利きが正しかったことを痛感する。

『リバース』は本当に強いメモリだ。あれをいずれ私の手に……。

 

景色はぼやけ、夕暮れは沈む。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「おい、おい!」

 

 

左翔太郎は異空間から戻ってきた黒井に声をかけ続けていた。その傍らには先ほど目を覚ました彼の恋人・雫の姿があり、弱々しい声ではあるが、彼の名前を呼び続けていた。

 

 

「……例の『黄昏の街』で何があったか分からないが、彼を病院へ」

 

「あぁ、分かってる!」

 

 

翔太郎がフィリップの言うように、黒井を担ぎ上げようとしたところで、その彼の体に力が戻ったことを感じた。だから、声をかけたのだが……。

 

 

「おい、黒井! 目が覚めたのか!」

 

「…………降ろせ。私に触るな」

 

 

背中から返ってきたのは、冷たい声。反射的に言われた通りに彼を離すと、背中から降りた黒井は自分の足で立っていた。

その姿を見ると、確かに黒井秀平本人だ。だが、翔太郎は、いや、その場にいる全員が彼の様子が変であることを察知していた。

 

 

「…………」

 

 

おちゃらけた雰囲気ではない。

刺すような、殺意にも近い雰囲気だった。

 

 

「し、しゅうへい、さん……」

 

 

そんな彼の手を取ったのは、彼の恋人の雫。確かに雰囲気は違っていても、黒井は彼女にとってかけがえのない愛する人だ。今まで意識を失っていた彼を心配するのも当然といえる。

だが、その手はーー

 

 

ーーパシッーー

 

 

ーー払われた。黒井本人によって。

 

 

「………………え?」

 

 

あまりのことに呆然とする雫。

当たり前だ。今まで黒井は彼女を本当に大切にしていた。彼女にとって、黒井秀平という男は、ふざけているけれど、優しくて、頼りがいのある恋人だった。

その黒井が自分の手を払うなど……あり得ないことが目の前で起きた。理解が追い付かない。そんな彼女に追い討ちをかけるように、あろうことか黒井は吐き捨てた。

 

 

「気安く私に触れるな、反吐が出る」

 

 

暴言を吐き、彼はその場を後にする。

その場に残ったのは、鳴海探偵事務所の3人と、

 

 

「な、ん……で……」

 

 

ただ涙を流す雫だけであった。

 

 

ーーーーーーーー




『T』編閉幕。
次回更新は少し間が空くかもしれません。
それまで病まないでね。
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