転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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第4話 Nは手を出すな / お願いだから本当に手を出さないで

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「入りなさい」

 

「はいッ」

 

 

部屋から聞こえた女の指示に、俺は声が裏返りながらも返事をした。ノックを3回し、中へ入る。

気分は就活時代。あのときの記憶を呼び覚ませ。さもなくば俺は社会的に死とかではなく、真の意味で死ぬことになる。

 

 

「失礼いたします」

 

 

社長席前の椅子へ。

 

 

「座りなさい」

 

「はい、失礼します」

 

 

その言葉を待ち、俺は椅子に座った。勿論、深く座らず、姿勢も正す。

どうだ、通用してくれ、俺の古い記憶よ!

俺が座るのを見て、ディガル・コーポレーション社長であるその女性も自らの席に座った。傍らにはその夫であるあの男・園崎霧彦もいる。

 

 

「やぁ、この間ぶりだね」

 

「…………」

 

 

……頼む、黙っててくれ。

余計なことを言わなければ、きっと切り抜けられるはずだ。

 

 

「……黒田だったかしら」

 

「黒井です」

 

「……………………」

 

 

くっ、しまった!? つい、即訂正してしまった!?

だが、これは俺悪くないだろ! 社員の名前を間違う方が悪い!

幸いなことに、俺の指摘でご機嫌を損ねることはなかったようで、女社長は話を続けてくれる。

 

 

「そう。黒井、貴方ここのところ会社を無断欠勤しているそうね」

 

「っ、は、はい」

 

「まさか警察にでも駆け込んだりしていないわよね」

 

「いえ、そんなことはありません」

 

「…………そう。まぁ、そうしたところで無駄だけれど」

 

 

無駄。それは警察では手を出せないという意味だろう。

時系列的に、まだ風都署の中でメモリ犯罪を取り締まる超常犯罪捜査課の力は強くない。あと1、2ヶ月も後ならば違うだろうが。

ともかく今は誠実に答え続けろ。

嘘は最低限。真実を伝えて、信用を勝ち取るしかない!

 

 

「それじゃあ、何をしていたのかしら?」

 

「……実は父が他界しまして」

 

 

早速嘘である。だが、仕方がないだろう。まさか記憶をなくして、ここの間ネカフェで生活してました、なんて信じてもらえるか分からない。

 

 

「ん? 君、この間私と会っただろう?」

 

 

んもうっ! 黙ってて!

 

 

「貴方、父親は風都にはいないそうだけれど」

 

「……は、はい」

 

「正直に言いなさい。何をしていたの?」

 

 

父親は風都にはいない。俺に関する新情報をゲットしたのは収穫だが、一転ピンチだ。いや、ずっとピンチだけどさ。

どうする?

どうする、俺!

思考を巡らせることコンマ数秒。俺の脳裏にはひとつの言い訳が浮かんでいた。それはーー

 

 

「調査を、していました」

 

「調査? なんの調査よ」

 

「ガイアメモリが関わっているであろうとある怪現象についてです。恐らくですが、有用なメモリが使われているにも関わらず、被害らしい被害が起きていないのです」

 

「……続けなさい」

 

「はい。数日前、私はとある怪現象に遭遇しました。不可視の人物による襲撃を受けたのです」

 

「不可視……? それは見間違いではなく?」

 

「はい。襲撃後、周りを確認しました。その上、周囲にいた人間も襲撃者を見ていないのです。そう、私は影も形もない人物から襲撃されたのです」

 

 

嘘ではない。俺は確かに襲撃を受けている。トイレを激叩きされたのだ。立派な襲撃だろう。つまりは、物は言い様だ。

そこまで言って、やっと女社長は少し考え込むような表情になった。ふむ、あと一押しか。

 

 

「私も上手く説明できないのが歯がゆいのですが……ともかくあれは恐らくガイアメモリによる襲撃です。襲撃者を特定し、その『不可視』のメモリを上手く使えばーー」

 

 

 

「ーー仮面ライダーを倒せる」

 

 

 

その言葉で、彼女の表情が変わった。

確か今の彼女は、仮面ライダーの存在に苛立っているはずだ。だから、仮面ライダーを倒せる存在を示唆すれば乗ってくるはず。

 

 

「連絡を入れなかったことについては本当に反省しております。しかし、いつ襲撃者が来るか分からない。もしかすると、応援を呼んでしまえば、襲撃者は姿を消すのではないか。そう思っての行動でした。大変申し訳ありませんでした」

 

 

ここまで一息。捲し立てるように言い切った。

どうだ? これで俺の手札は全て切った。これで駄目なら本当に正直に記憶がないことを伝えるしかないが……。

 

 

「分かったわ。今回の無断欠勤は不問としましょう」

 

「!」

 

「ただし!」

 

 

「そのメモリの使用者をここに連れてきなさい。それが出来なければクビよ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

状況は好転した。いや、これはどうなんだ?

組織からしてみれば、無断欠勤するような人間、というよりも情報を漏洩する可能性のある人間というリスクを抱えても、仮面ライダーを倒せる存在を見つける方が優先度が高い。

今の俺は、代わりなど吐いて捨てる程いる存在だろう。だが、もし有能なメモリ使用者を発掘したとなれば、俺の存在は無視できなくなる。

つまり、

 

 

「安定した収入が得られる!」

 

 

ともかく例の襲撃者を見つけ出そう。その人物さえ見つけられれば、俺は安泰だ!

ただしーー

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「なぜあんたもいるんだ……」

 

「冴子からの指令だからね。君の上司として同行させてもらうよ」

 

 

あぁ、止めてくれ。

お願いだから、本当に余計な口も手も出さないでくれ。

頼む、霧彦。

 

こうして、俺のドキドキ襲撃者を見つけ出せ作戦が監視付きで始まったのであった。

 

 

ーーーーーーーー




霧彦さん
いいよね、好き。
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