転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
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「秀平さんがいなくなっちゃいました」
私は茫然自失とした雫ちゃんからそんな連絡を受け、彼女を彼らから引き取った。その時に当然、風都を愛する同志に再会したが、さすがにその場ではなにも言えず、私は彼女をマンションまで送った。
あれから数日、黒井くんは姿を消したまま、帰ってこない。
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「依頼したい。黒井秀平を探してほしい」
私はその日、意を決して鳴海探偵事務所へ向かい、そう依頼した。
黒井くんを探してくれ、と。
「……まずはお前がここにいることを驚くべきなんだろうけどな、霧彦」
「感動の再会は後回しだ、翔太郎」
以前は敵対していた『W』の2人とこうして顔を合わせていることは私にとっても思うことはある。だが、フィリップくんの言う通りだ。今はなによりも、黒井くんを探すことを優先したい。
「あー、なんだ。あの変な奴は、お前の友達ってことなのか」
「そう。彼は私の大切な友人だ。そして、その恋人である雫ちゃんも」
「……雫。あの場にいた彼女か」
「あぁ。今は酷く衰弱しているようでね。君達が言う『黄昏の街』にいたことによる体へのダメージ以上に……心の傷が酷いようだ」
本当にいたたまれない様子だった。
アイナちゃんや雪絵に頼んで、今は一緒にいてもらっているが……。
「私は彼を探し、連れ戻したい。これが依頼だ」
「……分かった。引き受けるぜ」
翔太郎くんは二つ返事で答えてくれた。頼もしい。
その後、様々なことを彼らに伝えた。
黒井くんとの出会い。彼の性格。これまでに彼の周りで起こったこと。彼の持つメモリと彼の体質。そして、井坂深紅郎や例の男達との関係についても。
「………………」
翔太郎くんに事細かく話しているのを、フィリップくんは黙って聞いていた。というよりも、彼の雰囲気は……?
「どうだ、フィリップ。検索の結果は」
「……黒井秀平。彼については以前に検索していた。その時は組織の阻害があり、十分な検索ができなかった。だが、『エクストリーム』に到達した今は検索ができた」
そう言うと、彼は何かを壁に書き出した。
そこには一言『黒井秀平の本は2冊』、そう記されていた。
「これは異常だよ。本来、その人物に関する本は1冊だけ。それが2冊あるってことは……」
「二重人格、ってことか?」
「……それに近いだろう。少なくとも彼は2人いる」
「2人?」
彼の言葉を問い返す。黒井くんが2人いるとは一体どういうことかと。
フィリップはさらに壁に書き連ねていく。
「この間、僕たちが見た冷酷な雰囲気を纏った黒井秀平。暫定的に黒井Aとしておくが、彼に関しては生まれてから今までのページがあった。勿論、まだすべてのページを確認した訳ではないけれど、まぁ、これが普通だよ」
「だが、彼や僕らが知っている黒井秀平。黒井Bに関する本にはここ最近のページしかない。そして、その期間に関する記載が黒井Aの本には存在しない」
「つまり、黒井Bはイレギュラーな存在で、ここ最近、黒井Aの中に生まれた、というわけだ」
本やページの意味はよく分からなかったが、はっきりしたことがひとつ。今の黒井くんは、以前の彼ではないということ。
「……フィリップくん、聞いてもいいかい」
「あぁ、僕に分かることなら」
「彼はーー私の友人の黒井秀平は戻ってくるのだろうか」
フィリップくんは目を閉じた。
答えは「分からない」だそうだ。
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「なぁ、吉川ぁ」
「なんだ、田岡」
「例の『テンセイシャ』である黒井は消えたんだろ? なら、どーすんだ? この件からは手を引く感じ?」
「…………まだ判断はできない、だそうだ」
「ふーん、そっか。じゃあさ~、オレちょっと遊んできてもいいか~?」
「好きにしろ」
「はいはーい」
ーーーー雫の自室・雫視点ーーーー
「………………」
今は一体、いつでしょう。わたしは何をしてるんでしょう。
秀平さんがいなくなってから、どのくらいがーー
「っ」
彼のことを思い出すと、涙がこみ上げてきてしまう。そんな日が何日も続いていて。たぶん今の顔では秀平さんには会うことができないな……。
でも、どうせ会うこともできないっ、わたしなんかじゃ……っ。
ーーふらっーー
不意に眩暈を感じた。そう言えば、今日なにも食べてませんでした。もうアイナさんや霧彦さんの妹さんは帰ってしまった。
「何かあった、かな」
ふらふらとわたしはキッチンへ向かって、その途中であるものが視界に入った。
これは……お守り。
あとからこれがガイアメモリなんだって知ったけれど、わたしには使った記憶がなくて。だから、そのうち秀平さんに相談すればいいだろう、なんて思っていた。
「っ」
ふとわたしの中で、怒りに似た感情が沸き上がってくる。秀平さんがいなくなっちゃったのは、ガイアメモリのせいだってことはなんとなく分かっていた。
こんなものがなければっ!
このお守りに当たるのは違うっていうのは分かってる。それでもーー
「こんなものさえなかったらっ!!」
ーーガンッーー
床に叩きつけられたメモリは衝撃の弾みで、
『イービル』
起動して
「え?」
そのままわたしの首筋に入っていった。
って、え? えぇ!? これ、わたしもあの『ドーパント』っていう怪物になっちゃうの?
『ならねぇよ』
「え……な、なに?」
首筋を抑えてながら慌てていると、突然声が聞こえた。誰かが部屋の中にいるのかと思って、見渡してみても誰もいない。じゃあ、今の声は空耳?
『違ぇっての、ホント鈍いな、こいつ』
「……この声、わたし……?」
『それ以外に誰がいんだよ、ボケ』
「????」
『……あたしは『イービル』。お前の中にいるメモリに宿った人格だ』
「え、え? えぇ??」
わたしが落ち着くのはそれから30分後。時計を見れば、日付は変わっていた。
「貴女は、わたし」
『はぁぁぁ、やっと理解したのか。長かった……よく付き合ってられるな、あのボケは』
頭の中でため息を吐く『イービル』さん。もしかして、
「あ、あの……」
『あ?』
「『イービル』さんも秀平さんに会ったことがあるんですか」
『……まぁな。お前、何かと巻き込まれ体質だろ。その都度、あたしが表に出て、それで何回か会っただけだ。お前が心配するようなことは何もねぇよ』
「そ、そうなんですね……」
わたしの姿で、『イービル』さんは秀平さんに会っていたと知って、少し不安になってしまいました。姿はわたしなら、もしかして……。
『だからねぇって。ちっとはあのボケを信用しろよ』
「……ほ、本当に……?」
『あぁ。誓ってねぇよ』
その言葉に胸を撫で下ろす。
……って、わたし何を心配してるのでしょう。もう彼はいないのに……。考えて余計に辛くなる。彼のいない現実に叩きのめされてしまいます。
『ウジウジウジウジと……うるせぇ』
「え?」
『言っただろうが……あたしはお前の中にいる。お前の心の声はこっちにも駄々漏れだ。だから、うるせぇって言ったんだ』
「…………そ、そんなこと言ったって……」
『はぁぁぁ。だったら、とっととあんな奴のこと忘れちまえばいいだろうが。お前のことを捨てたひでぇ男なんてよ』
「っ」
『イービル』さんがため息混じりに言った言葉。その言葉を聞いて、わたしはーー
「そんなことないっ! 秀平さんはっ、酷い人なんかじゃないもんっ」
自分でも驚くほど大きな声が出た。慌てて口を塞ぎます。
『……でも、お前を捨てたんだぞ』
「…………そ、それでも秀平さんは優しい人、です」
『…………』
「…………」
にらみ合いみたいな時間があって。それから、
『はっ、本当に……』
『イービル』さんは笑いました。
『お前、ホントにあいつのこと、好きなんだな』
「うん……好き」
その質問には即答できる。わたしは秀平さんが好きだ。
『あー、ヤダヤダ、聞いたこっちが恥ずかしくなるッ』
「な、なら、聞かないでくださいっ////」
数秒の沈黙の後、ため息を吐いた『イービル』さんが茶化すように言いました。そして、彼女はわたしに告げました。
『あのボケはお前を嫌っちゃいねぇよ』
「!」
『お前に酷い言葉をかけたのは、別人格だ。あの頭の悪いボケじゃねぇ……きっと何かのメモリの影響だろうな』
「な、なら、霧彦さんにーー」
そこまで言って、その言葉を引っ込める。
……違う。違うよ、わたし。
『イービル』さんの言葉を信じるなら、きっとわたしは何度もガイアメモリに纏わる事件に巻き込まれてる。その度に、秀平さんはわたしを助けてくれた。
なら、今度は……。
「ね、ねぇ、『イービル』さんっ」
『なんだよ』
なんだよ、なんて聞くの意地悪……ううん。
さっき心の声が聞こえるって言ってたから、きっとわたしの決意だって聞こえてたんだよね。それでも聞いてくるのは、きっと臆病なわたしを奮い立たせるため。
『イービル』さんも優しい人。そんな彼女の優しさに答えるために、わたしはそれを口にします。
「わ、わたしがっ、秀平さんを助けますっ」
「協力、してくれますか……?」
『仕方ねぇなぁ』
こうして、わたしは、秀平さんを連れ戻す決意を固めたのでした。
……それはそれとして。
「秀平さんのこと、ボケって言うの止めてくださいっ」
『……ボケはボケだろうが』
「ダメっ!」
『はぁ、分かったよ』
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お気づきですか。
『T』編から雫→黒井が名前呼びになっていることに。