転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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久々更新。


第42話 愛しきE / 綻び

ーーーーーーーー

 

 

秀平さんの命を狙う人達の1人を倒した。

霧彦さんはそう言いました。ただ、倒した相手がどこにも見つからなかったから、恐らく逃げられてしまったとも。

その結果、秀平さんのお家は大破してしまって。

結局、霧彦さんはアイナさんのお家にお世話になるそうです。

 

 

「……一安心」

 

『じゃねぇだろうが』

 

「そ、そうですよね」

 

 

喫茶店でカフェオレを飲みながら、わたしは『イービル』さんの言葉に肩を落としました。

状況は変わりません。相変わらず秀平さんは見つからなくて……しかも、秀平さんの命を狙う人達も戦いに乗り出した。

 

 

『変わらねぇどころか悪化してるな』

 

「うぅぅぅ……」

 

『……けど、進展もあったじゃねぇか』

 

 

頭のなかに響く『イービル』さんの声。

そうです。わたしもなにもしてなかった訳じゃありません。

この数日間、わたしは人格が反転した後の秀平さんの足取りを辿ってみたんです。霧彦さんの知り合いの探偵さんや雪絵さんの力を借りながら、だけど。

結論からいうと、見つからなかった。けど、少しだけ足取りは掴めました。

 

 

「……えっと」

 

 

スマホの地図アプリを起動して、わたしはチェックを入れた場所を確認します。それから今、調べてきたところの情報も入れて……よし。

 

 

「霧彦さんが探偵さんから聞いたっていう情報を入れれば……」

 

ーーピコンッーー

 

『……ビンゴじゃねぇか』

 

「は、はいっ」

 

 

わたしのスマホには、とある場所が表示されていました。それを確認して、わたしは通話ボタンを押しました。

 

 

ーーーー風都タワー展望台ーーーー

 

 

「こ、こんにちはっ」

 

「…………」

 

 

風都が見下ろせる風都タワーの展望台に、彼ーー秀平さんはいました。けれど、わたしのことを見る目は明らかに『いつもの』秀平さんではなくて、彼がもうひとりの秀平さんなのだと痛感させられます。

 

 

「なんの用だ、女」

 

「話を、しにきましたっ」

 

「話すことなどない。私の前から消えろ」

 

「っ」

 

 

秀平さんの顔。秀平さんの声でそれを言われるのは本当にキツくて。だけど、ここで逃げちゃダメなのは分かってます。

 

 

「わたし、はっ……こんな人見知りで、いつもおどおどしてて、言葉もなかなか出てこなくて……」

 

「話すことなどないと言っている」

 

 

知らない。わたしはあなたに話してない。

 

 

「いろんな、人に愛想を尽かされて……わたし、家族もいないから、ずっとこのままだって、思ってました」

 

「でも、秀平さんは……そんなわたしの言葉を待ってくれて、いつも優しくしてくれた。だから、わたしは変われたんです……ちょっとだけ、だけど」

 

「自分の殻を壊して……秀平さんに好きって言えた……」

 

「……それは本当の黒井秀平ではない。」

 

 

分かってます。霧彦さんからそれはもう聞いてるから。けれど、そんなのっ!

 

 

「それでもっ」

 

「秀平さんは、わたしのことを好きだってっ……答えてくれたんですっ」

 

 

わたしは秀平さんを取り返す。

そう、覚悟してここに来ました。

 

 

「………………私ではない私の話をするな。反吐が出る」

 

「っ」

 

 

わたしの言葉は、届かない。その代わりに返ってきたのはーー

 

 

『リバース』

 

 

ーー変貌を遂げた秀平さんの姿でした。

真っ赤な瞳がわたしを見つめてくる。そのまま彼は床に手を着きます。何をして……?

 

 

ーーグニャリッーー

 

「え……?」

 

 

突然襲われる浮遊感。落ちたと理解したのは落ち始めてからで。

下を見れば展望台の床が反転して、吹き抜けのように床が消え、一階の地面がよく見えます。つまり、このままだと死ーー

 

 

『変われっ』

「は、はいっ」

 

『イービル』

 

 

頭に響く『イービル』さんの声で、わたしはガイアメモリを首に差しました。

 

 

ーーーー『イービル』視点ーーーー

 

 

『……は、はっ……』

 

 

風都タワーの一階エントランスに降り立ったあたしは肩で息をする。壁を利用して、落ちる速度を落としながら、どうにか着地はできた。あたしも『ドーパント』とはいえ、元々の肉体は雫のもの。ギリギリだった。

 

 

『死なないか。目障りだな』

 

 

涼しい顔で着地した『リバース』。あの場に他に人間がいたら完全に巻き込まれてたぞ。

 

 

『……いきなり床抜くとか……てめぇ、頭おかしいんじゃねぇのか』

 

『私の話を聞かない方が悪い』

ーーグググググッーー

 

 

あたしの話を無視して、奴は力を溜めている。反転が、来るっ!?

 

 

ーーグニャリッーー

 

『ッ』

 

 

横に跳び、どうにか躱す。見れば着弾した壁は見事に裏返り、折れ曲がっていやがった。

 

 

『うげっ、自分の女の顔した相手に撃つ攻撃じゃねぇだろ……』

 

 

元に戻ったら一発しばくことを心に決め、構え直す。

……さぁ、どうするか。このままじゃジリ貧だ。とにかく懐に入り込まなきゃ戦えねぇ。

 

 

『………………』

 

 

奴のことだから、もう何発か攻撃が来るかと思ったんだが……。

 

 

『…………』

 

『あ?』

 

 

掌をこちらに向けた姿勢のまま、動かない『リバース』。

なんだ? 舐めてんのか?

……考えても仕方がねぇ、勝機はここしかない!

 

 

『ここで殺るっ!!』

 

 

覚悟を決め、1歩踏み出したその瞬間、

 

 

ーーゴゴゴゴゴゴッーー

 

 

背後から響く音。地鳴りにも似たものだったが、違う。振り返ると、エレベーターの扉に巨大な穴があって、ちょうどその中から人が現れたところだった。

 

 

「お! 黒井ちゃん、発見!」

 

「……騒ぐな。そのために来たのだから、いてもらわなくては困る」

 

 

『!』

 

 

霧彦から聞いていた。あれは黒井を狙ってるっていう男たち。

どうするっ!? 引くか……けど、ここで引いたら、あいつが殺されるかもしれねぇ……っ。

 

 

「お、白髪美少女はっけーん!」

 

『っ!?』

 

 

迷っていたとはいえ、隙を見せたつもりはない。だが、あたしの横にはひとりの男。顔を覗き込み、視線を合わせてくる。

 

 

『このっ!』

 

「暴力はいけないなぁ」

ーーグッーー

 

 

触れもせずに、拳を止められる。そのまま、あたしの顔に指を這わせてきて、

 

 

「結構、かわいいじゃん! オレ好みの顔立ちだぁ!」

 

『止めろッ』

 

「えー、別にいいじゃん? 減るもんでもなーー

 

 

ーーグニャリーー

 

ーーバキッーー

 

 

突然だった。あたしの顔に触れていた男の指が『裏返って』折れた。そんなことができるのはーー。

 

 

『………………』

 

 

あたしの視線も男たちの視線も、あいつを捉えていた。こっちに掌を向けたあいつは、ボソリと呟く。

 

 

『……雫ちゃんに……なにしてやがる……このモブ顔が……っ』

 

『!』

 

 

その言葉でーー

 

 

 

「っ、秀平さんっ!」

 

 

わたしは秀平さんの手をとって、風都タワーから飛び出しました。

 

 

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