転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
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「……離せ、女」
どのくらい走ったでしょうか。手を振り払われたことで、ずっと手を繋いでいたことに今更ながら気づきました。
「あっ、ご、ごめんなさい……」
「なぜ私を連れて逃げた」
「……そ、それは、あのままだと危ないって思ったから……です」
「あの程度の輩など……」
正直に伝えます。『リバース』ってメモリは強いと『イービル』さんは言っています。けど、霧彦さんから聞いてたあの人達も強いから。
「無理、してほしくなくて……」
それが本心でした。
いつか秀平さんに言ったこと。あのときはアイナさんもピンチだったから、秀平さんに無理してほしくないっていうのが自分の身勝手な気持ちに思えて、耳打ちをしたんだけど。結局、なぜか秀平さんはやる気を出しちゃってました。
「ふふっ」
「何がおかしい」
「あっ、そ、その……すみませんっ」
こんなときに思い出し笑いなんて……。
『おい、雫』
「え、あっ」
『イービル』さんの声で、本当に聞きたいことを思い出しました。そうだ、そうでした。
「そ、その……なんで助けてくれたんですか。それにっ、わたしのこと……雫ちゃんって呼んで……」
「………………」
彼はわたしに背を向けて、答えてはくれません。
時間にして5分。その沈黙の後、
「……消えろ」
返ってきたのは、その言葉だけ。わたしはその場を後にするしかありませんでした。
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よう、俺。
「…………お前が黒井秀平を騙るな」
騙るなって言っても、俺は俺だし。つーか、俺からしてみればお前の方がなんなんだよ。
「そもそも私がオリジナルだ。お前に文句を言われる筋合はない。黙っていろ。もうすぐ終わる。出てくるな」
……あの状況で出ていかない訳がねぇだろ。そして、雫ちゃんのことを無碍にすんな。あの娘は俺の愛しの愛しの恋人ぞ?
「…………」
早く終わらせろよ。俺は少しでも早く雫ちゃんとイチャイチャしてぇんだ。
「…………」
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「雫ちゃん! 黒井くんはっ?」
「……い、いえ」
事の経緯を聞いて飛んできた霧彦さんでしたが、先ほどの場所に戻っても、秀平さんはいませんでした。もうどこかへ行ってしまったんでしょう。
「すまない。怪我はないかい?」
「は、はい。『イービル』さんが守ってくれましたから。それに……」
「それに?」
「たぶんもうひとりの秀平さん、もわたしを殺す気はなかったような……」
根拠はありません。でも、そこまで怖くなかったから。
『……タワーの上から落とされてんの忘れんな』
「あっ、ごめんなさい」
『あたしが上手く衝撃を殺したからどうにかなっただけだ。あいつは敵だ、間違いねぇよ』
「…………」
『イービル』さんの言葉に、わたしは上手く答えることができませんでした。その代わりに、わたしは霧彦さんにある提案をしました。
「霧彦さん」
「……なんだい?」
「わたしをーー」
「ーー鳴海探偵事務所に連れていってもらえませんか」
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わたしは霧彦さんに書いてもらった地図を頼りに、鳴海探偵事務所を訪ねました。ドアをノックすると、中から聞こえてきたのは、明るい女性の声。
「お待たせしました~! ご依頼ですか?」
出迎えてくれたのは、鳴海亜樹子さん。この事務所の所長さんで、今回わたしからの電話を受けてくれた人でした。だから、連絡したものですと伝えると、すぐに中へ通してくれました。
中にいたのは、スーツ姿の男の人。事務所の奥のデスクに座っていたその人は、わたしを見て、近寄ってきます。
「この事務所の探偵、左翔太郎だ。『トワイライト』事件の時にあったよな。とはいっても、君はあの時、彼のことで必死だったから覚えてないかもしれないな」
「す、すみません」
左さんのいう通り、わたしは左さんのことを覚えていなかった。左さんによると、わたしが井坂先生に誘拐され、秀平さんに助けられたあの時にもその場にいたそうです。
覚えていないことを謝ると、左さんは構わないさと返してくれました。それより、と話を進めてくれる左さん。
「は、はい。電話でお伝えした通り、黒井秀平さんのことを教えてほしいんです」
「……確認するが、それは君の恋人の方じゃなくて」
「はい。もうひとりの秀平さんです」
「…………分かった」
わたしの表情を見てから、左さんは事務所の壁へわたしを招く。その壁を少し押すと、扉になっていることが分かりました。
「ここは……」
「この先に俺の相棒がいる。黒井のことはきっとそいつに聞けば、全部分かるはずだ」
「…………わ、わかりました」
扉の向こうはすぐ階段になっていて、そこを下りると『相棒』がいました。
わたしよりずっと年下の少年。彼が
「来たね」
「あなたが……左さんの相棒の……」
「フィリップだ。初めまして、
久しぶりにその名前で呼ばれました。それは昔のわたしの名前……家族がいた頃のわたしの名前でした。
なぜその名で呼ばれたのかは分かりません。でも、なんとなく、そのことが『彼』と繋がっている。そんな気がしていました。
「白音雫、黒井秀平」
「君達の共通項……つまり、君の家族の話をしよう」
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