転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
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私には家族がいた。
工場に勤めていた父と専業主婦の母、そして、6歳下の妹。私を含めて4人家族。決して裕福ではなかったけれど、幸せな家庭だったといえる。
私が高校生の時、転機が訪れる。
私はモデルにスカウトされたのだ。両親も妹も喜んでくれた。学業と仕事の両立は大変だったけれど、それでも充実した毎日を送っていた。
なのに、
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「工場が……?」
「あぁ……すまない、すまない……」
父さんは泣きながら謝っていた。父さんのせいなんかじゃない。だから、母さんも働きに出て、私もモデルの仕事に前以上に打ち込んだ。結局、私は高校を中退して、モデルに専念することにした。
幸いなことに、私の仕事は順調で、高校を卒業する歳には、家族を養うに十分な稼ぎになっていた。
そして、嬉しいことは続く。
「聞いてくれ! 就職が決まったんだ!」
「ほんと!? どんなところ?」
「それがな! 大手のIT企業だよ! 聞いたことがあるだろう、ディガル・コーポレーションって会社」
聞いたことがあった。風都でも有数の大企業。
なんで工場勤務の父さんがそんなIT企業に就職できるのかとか疑問はあったけど、父さんの笑顔や母さんの喜びに水を差すことは言えなかった。
「おめでとう、父さん」
だから、私は笑顔で応じたんだ。
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ディガル・コーポレーションに入って少しして、父さんは少しずつ狂っていった。
最初は飲酒の量が増えただけ。次は眠れないと深夜に大声を張り上げて。最後は母さんを殴り、私や妹にも手を上げた。あまりの父さんの変わりように、母さんはノイローゼになり、私も身体に痣が増えたせいで、モデルの仕事を止めた。妹も学校に通えなくなった。もう限界だった。
そんなある時、私は父さんが会社の人間と思われる人と電話しているのを聞いた。
「あぁ……ダメだ。オレはもう限界だっ……許してくれ、もう……」
「頼む。黒井くんっ……オレのことをーー」
なんの話かは分からない。だが、父さんが『黒井』という人間に許しを乞うているのは分かった。
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「…………父さん? 母さん?」
その日の夜、家に帰ると、電気がついていなかった。スイッチを押しても、照明はつかない。仕方がないから、壁伝いで家の中を歩いて、辿り着いたキッチンで、私はその光景を目撃した。
「は……はぁっ……」
「……父さん、何をして……っ!?」
「はは、は……はははははっ」
暗闇に目が慣れてきたせいで、見えてしまった。
母さんの身体には無数の刺し傷。
そして、父さんの手には刃物が握られていて。
状況が物語っていたのだ。父さんが母さんを殺した、と。
「母さんっ!!」
「なぁ、オレが悪いのか……? オレは仕事をしただけなんだ……」
そう言うと、父さんは上着のポケットから複数のUSBメモリーのようなものを取り出そうとして、床にばらまいた。それを必死にかき集める父さん。私はその隙に母さんの近くに駆け寄った。母さんの息はなかったけれど、私は必死に呼びかける。
「母さんっ! 母さん、しっかりしてっ!!」
「ちがう……オレは違うんだ」
「何を言ってるのっ!! 救急車、呼んでよっ!」
「ああ……ダメだ。オレは……もうっ」
私の声は届いていない。
父さんはダメだダメだと呟きながら、散らばったUSBメモリーを一本取り上げてーー
『ソード』
ーー次の瞬間、父さんが『怪物』に変わった。
「……な、に、なんなの……っ」
『ハハハッ、これが……これがガイアメモリの力っ!』
「ガイア……メモリ……?」
『素晴らしい。あぁ、罪悪感なんて感じる必要なんてなかったんだ。超人になった感覚……そうか、そもそもオレはあんな思いをしないでよかったんだ!』
高笑いを続ける父さん……いや、『怪物』。
母さんを殺しておきながら、笑う『それ』はもう私の家族なんかじゃあない。
「……なに、笑ってるのよ」
『あ……?』
「母さんを殺したのにっ!! 『怪物』がッ!!」
『……怪物? オレが?』
「お前なんてっ!」
ーーガンッーー
近くに転がる鍋や包丁を投げつける。けど、『怪物』はまったく動じていなかった。『怪物』はゆっくりと近づいてくる。
そして、
ーーガシッーー
「痛っ!?」
髪を掴まれた。そのまま持ち上げられ、ブチブチと髪がちぎれる音がする。
『あ、あ……悪い子だぁ』
「やめ、ろっ! 離せっ!」
『父さんのことを『怪物』なんて……母さんも悲しむぞぉ』
「っ、その母さんを殺したのは誰だっ!!」
『あ? あー、そう、かっ、あぁあぁぁっ』
私の言葉に反応して、取り乱す『怪物』。急に髪を離されて、私は床に放り出される。
母さんは殺された。もう父さんはいない。どうなってもいい。
そう思っていた私の脳裏に浮かんだのは、妹の笑顔。今は親戚のところに預けられてる妹が、こんな光景を見ないでよかった。そう思うと同時に、ここで死んだら妹はどうなるのか考えてしまって……。
ーーカツッーー
「……これ」
力なく横たわる私の手の先に触れたもの。冷たい金属の感触。
それは『怪物』が使った『ガイアメモリ』というものだった。
「っ」
その時の私に選択肢はなかった。
今、掌の中に収まった『それ』を使わなくては、きっと私は死ぬ。死ねば、妹はどうなる。私の唯一残された家族のために、私はーー
「あぁぁぁぁぁッ!!!」
私は雄叫びを上げながら立ち上がり、手中の『それ』を起動した。
『イービル』
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気づいた時には『怪物』は消え、父さんは息絶えていた。その後、近所の人の通報で駆けつけた警察の人が、私のことを保護してくれて。
その後、数年間はその刃野って刑事さんのところに妹と一緒にお世話になっていた。私の心の傷が癒えたことで、私は刃野家を出た。妹を置いていくのは辛かったけど、妹を巻き込むわけにはいかなかったから。
「お姉ちゃん……ホントに出ていっちゃうの?」
「うん。私もやりたいことを見つけたんだ。いつまでも幹夫さんに甘えっぱなしじゃあ、ね」
「……じゃあ、わたしもっ!」
「高校生のうちは頼っていいって、幹夫さんも言ってくれたでしょ?」
「で、でもっ!」
「……分かった。卒業して、2人ともちゃんと働き始めたら一緒に住もう?」
「ホント……?」
「うん」
嘘だ。私はもう後に引くつもりはない。
あの事件の直後に、父さんの携帯にきたメッセージを私は見てしまっている。
『黒井』という人間が送ってきた『仕事は順調か』という文章で、私は確信していた。その『黒井』が何かを知っている、と。
父さんがディガル・コーポレーションで働き出してからおかしくなった。そして、『怪物』を生み出したガイアメモリ。きっと何かがある。それを暴いて、復讐を遂げるのが、これからの私の生き方だ。それにこの娘を巻き込みたくない。だから、これでお別れ。
「…………」
寂しそうに俯く妹。
もうこの娘と一緒に暮らすことはない。でも、彼女が心配なのは本当で。だから、私は……。
「これ、お守り」
「……え」
「これがきっと私に代わって守ってくれるから」
そう言って、妹の手にあの夜の『ガイアメモリ』を手渡した。
『怪物』の存在からこの娘を守ってくれますようにと願いを込めて。
「お姉ちゃん……」
「幸せにね、雫」
私は最期にそれだけを告げて、雫の前から姿を消した。
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「それが刃野雫……いや、白音雫と黒井秀平と結ぶ……君の姉・
フィリップさんの話は、わたしの知らない事実。父さんと母さんは事故で死んだって、幹夫さんからは聞いていたけれど……。
「……っ」
「大丈夫か。ショック、だよな」
そう言ってくれる左さん。少しよろけたわたしを所長さんも支えてくれていた。
「ご、ごめんなさいっ」
「無理もねぇさ。いきなりこんな話を聞かされちゃ……おい、フィリップ!」
左さんが吠えるも、わたしは彼を止めました。わたしが望んだことだから、と。そして、フィリップさんに訊ねます。
「お姉ちゃんは……今、どこに……?」
「残念ながら」
「っ、そうですか……」
ショック。だけど、まだわたしには確かめなきゃいけないことがある。
「秀平さんと……お父さんは……」
「詳しいことは分からないけれど、君の父親と黒井秀平はディガル・コーポレーションで同僚として働いていたのは事実なようだ。真実は……」
「秀平さんだけが知っている」
「あぁ、そういうことになるね」
「………………」
正直な話、理解が追いついていなかった。たくさんのことを知って、どうすればいいか分からなくなっています。ただ、今のわたしが思うのは……。
「復讐、なんて考えるなよ」
「……え?」
色々考えていたわたしに、左さんが声をかけてくれました。
「……君のお姉さんは確かに復讐を考えていた。けど、君を巻き込みたくはなかった。だから、置いていったんだろ。だから、君はーー」
「……分かってます」
うん、分かってるよ、お姉ちゃん。
確かに真実は知りたい。知らなきゃいけないと思います。それがどんなものだったとしても。
だけど、それとこれとは別。
「秀平さんは秀平さん、だから」
わたしの想いはきっと変わりません。
「そっか……まぁ、にしても、刃さんも水くさいよな。こんな可愛い娘がいたなら、言ってくれればよかったのにな!」
「いやぁ、翔太郎くんには話したくないでしょぉ」
「なんだとぉ!? それはどういう意味だ、亜樹子」
「ふふふっ」
真実を知った。けど、わたしの心は穏やかだ。
ーーーーとある回想ーーーー
その少女が知り合う以前にその男に会ったのは2回。
2度目は社会人になってから、酒癖の悪そうな2人にサラリーマンにナンパされていたところを助けてくれた時。その時の彼は、少女がよく知る彼の性格のようだった。
そして、1度目は、
「いた……っ」
高校生の時。
風都タワー花火大会に出掛けていた彼女は、一緒に来ていた刃野幹夫とはぐれてしまって。さらに履いていた下駄が足に合わずに、歩くのも厳しい状況で、近くの神社でおろおろとしていた。
そんな時に、男に出会った。
「……こんなところで何をしてる」
目付きの悪い、怖い人だと思った。実際、彼はその場所にガイアメモリの取引に来ており、あながち彼女の勘は間違ってはいない。
「あ、あの……その……っ」
「…………」
おろおろとする彼女を男は観察し、その原因を理解した。
「……はぁ、すぐそこの診療所でいいな」
「え……?」
それだけを言って、男は彼女を背中におぶり、近くの診療所まで運んだのだ。怖い人かと思ったけれど、優しい人だった。そんなことを思いながら、彼女は大人しく男の背中に身を預けた。
そんな記憶を、彼女は今になって思い出したのだった。
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『E』編終了です。
次回から新章に入ります。
明らかになった黒井と雫の繋がり。
そして、黒井の過去。
物語は終幕へと近づいていく。
元の彼に戻るのはまだ先になりそうです。なぁ、おふざけ成分足りなくないか?
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思いっきりふざけてくれ
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そんなもん書いてるなら続きをくれ