転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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第46話 Aを取り戻せ / 過去と向き合う者達

ーーーー以下回想ーーーー

 

 

私にはおおよそ家族と呼べる者がいなかった。

 

幼い頃に両親は離婚し、親権を得たはずの母親は私を放って、若い男の家に入り浸り、録に学校にも行かずに育った。その事実が児童相談所に発覚した頃には、私の人格形成もほぼ済んでおり。

 

自分さえ生きることができれば、それ以外はどうでもいい。

 

そんな価値観が出来上がっていた。勿論、それで同年代の子供と上手くいくはずもない。私は引き取られた養護施設でも、孤独に過ごした。

居心地の悪い生活だ。必然的に、私は働ける年齢になると同時に、施設を出て、1人で暮らし始めた。幸いなことに、私自身の能力は決して低くはなく、日雇いの仕事をこなしながら、独学で知識をつけ、見事にIT企業であるディガル・コーポレーションに入社した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

私がディガル・コーポレーションに勤め始めた頃、ある噂が出回っていた。

 

この街には人を『超人』に変える代物が存在する、と。

 

ネットやゴシップ紙、はたまた同僚の間でも、そんな下らない噂は広まっていた。確かに妙な事件や事故の話は耳に入ってはいた。だが、私はあくまでも現実主義だ。自分の目で見ていない噂は信じるつもりはなかった。

 

だが、その日、私の目の前で、人が呆気なく死んだ。『怪物』ーー後に知る『ドーパント』に襲われたのだ。

 

その後、私は『怪物』の噂を調べ、やがて辿り着いた。ガイアメモリの存在に。そして、それを流通させていたのが、ディガル・コーポレーションの裏の姿、ミュージアムであることに。

その時、私は当時の社長に二者択一を迫られた。

ガイアメモリを流通させる側に回るか。

それとも、秘密を知ったことで殺されるか。

 

私は前者を選んだ。

当然だ。私が生きれば、それ以外はどうでもいいのだから。

それからの私はただただ後ろ暗いものをもった人間に声をかけ、ガイアメモリを売りつけるだけの人間になっていた。

 

それを続けること2年間、私は1人の男に出会った。

 

白音(しらね)三郎(さぶろう)

働いていた工場が潰れ、ディガルに再就職したという冴えない中年男性だった。彼は私の部下として、ディガルに入ってきた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「なぁ、黒井くん。これから飯でも行こう」

 

 

その人物を一言で表すならば、どこにでもいる普通の人間だ。どちらかといえば善性寄りで、メモリを売ることに特段何も感じない私とは対極にいる。

 

 

「気安く話しかけるな」

 

 

きっと真実を知れば、耐えきれないだろう。だからというわけではないが、私は彼とは一定の距離をとろうと思っていた。上司と部下。それ以上の接点をもつのは、合理的ではない。だが、

 

 

「まぁまぁ、いいからいいから!」

 

 

そんな風に、彼は強引に私との距離をつめてきた。前時代的だと、よく私は彼に伝えていた。その上、上司へのため口はいかがなものかと。それにも関わらず、彼は私の話を聞いてくれない。

強引に彼がよく行くという飲み屋に付き合わされ、飲んだこともない酒を飲まされ、吐く。そんな合理的でない日々を送った。

この男とは関わるメリットがない。理屈ではそうだ。だが、彼の裏表のない性格に接して、話をしている内に、悪くはないとも思うようになっていた。

 

 

「いやぁ、うちの娘がな~、モデルをやってるんだよぉ」

 

「佐奈ってんだけど、べっぴんさんなんだぁ」

 

「雫はかわいくてなぁ」

 

「恥ずかしがり屋だけど、優しくてなぁ」

 

「嫁さんになぁ、小遣いをもう少しだけ上げてくれって頼んだんだぁ……ダメだとよぉ」

 

「再就職してから少し経ったんだから、いいいだろうに……」

 

 

酔うと彼は家族の話をよくした。同じ話をそれはもう数え切れないほど話す彼。

仕事をなくした頃は苦労して、やっと家族を養えるくらいの給料の出るディガルに再就職したのだ。私など放っておいて、その家族のところに帰ってやれ。それが私の常套句だったのだが、

 

 

「それはそれ。これはこれよぉ」

 

「黒井くんと飲むのも楽しいから仕方がねぇんだぁ」

 

 

駄目な親父だ。そう言うと、彼は違いないと笑った。

それからよく言っていたのは、

 

 

「娘にも……特に、佐奈には苦労をかけたんだ……あいつには幸せになってもらわねぇとなぁ」

 

「そうだ! 黒井くん、今、付き合ってる相手はいるか?」

 

「いない? そうかそうか! なら、佐奈はどうだ? 俺が言うのもなんだが、べっぴんさんだぞぉ?」

 

「今度、紹介してやろう!」

 

 

本人がいない席で、写真を見せ、挙げ句の果てには恋人候補にされる。本当に駄目な親父だ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

運命が変わったのは、彼が真実を知ってからだ。

どこでその真実を知ったのかは分からない。だが、私達が販売している代物がガイアメモリだということ、そして、それが街を脅かす『ドーパント』を生み出しているのだと知ってしまった。

 

 

「黒井くん……俺達は、なんてことを……」

 

 

善性である彼が罪の意識をもつのは当然のことだった。

 

 

「気にするな。私達はただガイアメモリを売るだけだ」

 

「だがっ!!」

 

「……今、止めたら家族を養えなくなるだろう」

 

「っ」

 

 

脅しのつもりではなかった。ただの事実を述べただけ。私らしくもないお節介のような助言だったと思う。

 

 

「っ、駄目だ。俺は……家族に顔向けができない……っ」

 

「……止めるつもりか」

 

 

そう訊ねると、彼は頷いた。さらに、続ける。

 

 

「知らなかったとはいえ、俺はとんでもないものの片棒を担いでいたんだ。止めるだけじゃあ償い切れないっ」

 

「なら、どうする?」

 

「……黒井くん、社長に会いたい。君ならどうにかできるんじゃないか」

 

「…………」

 

 

それは合理的ではない。下手をすれば、始末される可能性もあるだろう。だから、私はそれを断った。

それから数日は彼は無断欠勤していた。組んでいた彼の欠勤自体は私が誤魔化したが……。

 

後日、ディガルに特別顧問という立場の人物が来訪するとの話が流れた。それを聞きつけた彼は、その人物に会いに行ったらしい。

その日を境に、彼は再び私と共に仕事に勤しむようになった。

ただし、彼は酷く怯えた様子で、今までの面影はどこにもなかった。まるで『恐怖』を植え付けられたような顔だった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その日、私の携帯に彼からの連絡が入った。

ディガル・コーポレーションが所有するとある孤島まで来るように、と。

不審に思いながらも、私はその指示に従い、孤島に渡り、社長室の扉を叩いた。中にいたのは、1人の女性。たしか最近就任したという女社長。それから、

 

 

「初めまして、私はミュージアムに出資しています財団Xの者です」

 

 

張り付いたような笑顔の眼鏡をかけた白服の男だった。その側には白音三郎がいた。なるほど。この2人が彼の携帯電話を使い、私を呼び寄せたというわけか。

 

 

「ここに貴方を呼んだのは他でもありません。ここにいる白音さんの進退についてのご相談がありまして」

 

 

社長は興味がなさそうに、窓の外を眺めている。それを見るに、恐らく用事があるのは、この白服の方だという訳か。

 

 

「……社長さん。このお二人を私に預けさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「勝手になさい」

 

「ありがとうございます。では、行きましょうか、黒井さん」

 

 

そうして、連れられてきたのは、ディガルにあるという地下施設。そこはまるで地下牢のようだった。

 

 

「……ここは?」

 

「ミュージアムには財団が出資していますからね。スポンサー特権でしか入れない場所もあるのですよ」

 

 

答えにはなっていない。だが、ここがトップシークレットである場所であることは察しがついた。

少し歩くと、空いた牢屋に辿り着く。そこに三郎を放り込む白服。

 

 

「彼には少々メモリの実験台になっていただいておりまして」

 

「は?」

 

 

初耳だった。

確かに彼の様子はおかしかった。だが、それも罪悪感からくるものだろうと思っていたから。だが、それは違っていたのだ。彼はガイアメモリの実験台になっていた。

 

 

「『転生者』というものをご存知ですか」

 

「…………知らないな」

 

「でしょうねぇ」

 

 

人を馬鹿にするような口調が妙に腹立たしかった。

白服曰く、『転生者』とは別の世界で一度死んで、また別の世界に生まれ直した人間のことらしい。『転生者』は往々にして、前世での記憶を保持したまま、なおかつ特殊な能力を持ち合わせていることもあるとか。

 

 

「まぁ、私がそうなんですけれども」

 

「…………それがどうした。自慢なら他でやってくれ」

 

「まあまあ、そう仰らずに聞いてください。私はね、ガイアメモリを知っていたのです。遠くない未来に、財団がガイアメモリ事業から撤退することも」

 

 

白服は語る。

この組織の行く末とガイアメモリの可能性を。そうして、告げる。

 

 

「勿体無いと思いませんか。ガイアメモリは素晴らしい。集めれば、強靭な軍隊を作り、世界を掌握することすらできるのに」

 

「だから、私は作ることを決めたのです。私のための組織を」

 

「裏の街に先駆けて、『ハイドープ』になり得る可能性を秘めた人間を集めて、ここに収容する。謂わば、ここは私のための実験施設で、養成所です」

 

 

滔々と語る白服。自分自身に酔っているようであり、嫌悪感がする。話を終わらせたい私は、訊ねる。

 

 

「それを私に話してどうするつもりだ」

 

「…………言ったでしょう?」

 

 

『グリフォン』

 

 

「っ!?」

ーーガシッーー

 

 

気づいた時には遅かった。背後に現れた『ドーパント』に、私は掴まっていた。

 

 

「『ハイドープ』になり得る人間を探していると。貴方がそうなんですよ、黒井さん!」

 

「そのためにその男を実験台としていたのです。貴方に合う強力なメモリを探すために!」

 

 

反射的に牢に放り込まれた彼を見る。倒れ込んだことで露になったのは、腕に無数につけられたコネクターの跡。それが白服の言うことが本当だと証明していて。

 

 

「…………」

 

「そして、遂に見つけました! 見なさい、これをっ!」

 

 

白服が持っていたのは、金色のガイアメモリ。今まで見たことのない色のメモリだった。

 

 

「つい先日、偶然精製できたというゴールドランクのガイアメモリです。スポンサー特権で頂いてしまいました」

 

「名を『アナザー』。彼で試したところ不発でした……ただ、もう我慢ができません! だから、貴方を今日呼んだのです。今、ここでこのメモリを試すために!」

 

 

拘束されたままの私の首に、白服はコネクター手術を施した。そして、

 

 

『アナザー』

 

 

そのメモリは私の首に差し込まれた。

熱い。熱い、首がまるで焼け爛れるようだった。どのくらいの時間が過ぎたのかは分からない。だが、どうやら私の姿は変わらないようで。

 

 

「……ふむ、どうやらこのメモリは不良品のようですね。残念ですがーー」

 

 

ーーバキィッーー

『ぎゃぁぁぁぁっ!?』

 

 

「は?」

 

 

頭に霧がかかったようだ。思考がまとまらない。

だが、いつの間にか私を拘束していた『ドーパント』はいない。どうやら私が抵抗したことで、腕を折られたようだった。

……白服が何か喚いているが、理解できない。私はよろよろと牢に近づき、中にいる白音を担ぎ、歩き出した。

私の頭の中にあったのはーー

 

 

「家族のところへ帰るといい……」

 

 

ーー飲み屋で話した彼の笑顔ととりとめのない話が、私の頭の中に浮かんでは消えていった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

どうやってそこを出たのかは覚えていない。一種のトランス状態だったのだろう。とにかく私は気づけば、孤島から脱出し、自宅のある風吹町にいた。近くに白音がいないことから、彼をどこかに隠してから、ここに辿り着いたのだろう。

まずは病院か? 治療をしてから、白音を探そう。それで彼を連れてどこかへ逃げようか。いや、彼のことだ。家族も連れて逃げなくてはな。

 

 

「おい」

 

 

よろよろと歩く私の背後からかけたれた声。

振り返ろうとするが、それは叶わない。なぜから私の胸は背後から突き刺されていたからだ。

 

 

「か……っ」

 

 

胸から血が流れ、口の中も血の味がする。致命傷、だろう。

 

 

『ありゃ、思ったよりも簡単に死んだね』

 

「こいつもただの人間だ。簡単に死ぬ」

 

『そりゃそうか……ん? な、なんだ?』

 

 

音が遠くなる。身体の感覚もなくなっていく。

だが、首筋だけが妙に熱くて……。

 

 

「……メモリが反応している?」

 

『ど、どうする、こいつ』

 

「主の元へ連れていき、判断を仰ぐ。それだけだ」

 

 

そのうち、首の熱さも感じなくなり、私は死んだのだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

記憶は戻ったか?

 

 

「私には漠然とある人物を殺さなくてはならないという思いがあった。だが、今、すべて思い出した」

 

 

ま、それは共有してたから分かってたけどよ。

ずいぶんキツイ人生だったんだな、お前。

……なるほど、それでお義父さんに救われたんだな。確かにありゃあいい親父さんだ。

 

 

「……黙れ」

 

 

悪い悪い。茶化す意図はねぇんだ。

とにかく記憶が戻ったなら、お前の倒す相手もハッキリしたじゃねぇか。あの白服が元凶なんだろ。俺と同じ『転生者』だって言ってたが。

 

 

「私が死んだ後、お前が私の身体に入ったんだろう。それを白服の命令で、あの男達が同僚として監視していた訳だ。死人を生き返らせるメモリなど、自分の組織を作ろうとしていた白服からしてみれば、喉から手が出る程には欲しいだろうからな」

 

 

ふむ。だから、モブ共も『転生者』云々って話をしてた訳か。

……て、え、じゃあ、なにか? 俺の生活をあたたかーい目で、あのモブ顔たちが見守ってたのかよ。うげぇ、寒気がするぜ。

 

 

「お前が『転生者』だと分かったことで、排除しに乗り出した。そんなところか。自分以外にこの世界の知識がある人間が生まれたら、自分が不利になると思ったんだろう。浅ましい……反吐が出るな」

 

 

あぁ。なにより許せねぇのが、雫ちゃんの父親を酷い目に合わせたことだな。つーか、お前、自分に近づけないように雫ちゃんに冷たく当たってたのか? お義父さんのこともあって。

 

 

「記憶はない。無意識だ」

 

 

ふーん、どうだか? 言っとくけど、雫ちゃんはあげねぇからな! 俺の恋人だからな!!

 

 

「……お前はそればかりだな」

 

 

あ? 悪いか?

 

 

「……フッ、勝手にしろ。もう私の人生は終わっている。奴を殺したら……後はお前の人生だ」

 

 

…………早くイチャつきてぇんだ。

早いところケリをつけようぜ、あの全身ホワイト眼鏡野郎をしばいてよ。

 

 

「あぁ」

 

 

ーーーーーーーー




『アナザー』
本来の能力は分裂した2体の『ドーパント』になるというもの。
2体を同時に撃破しなければ倒せない。
ただし、『転生者』の介入によって、並行世界と繋げるメモリに変質を遂げていたため、死んだ黒井秀平の肉体を媒介にして、別世界の人間の魂を呼び寄せた。

その結果が、もう一人の黒井秀平。

元の彼に戻るのはまだ先になりそうです。なぁ、おふざけ成分足りなくないか?

  • 思いっきりふざけてくれ
  • そんなもん書いてるなら続きをくれ
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