転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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本編再開。
『S』編開幕です。
更新頻度は少々下がりますが、お付き合いください。


最弱生存
第49話 Sと共に / 王たる力


ーーーーーーーー

 

 

「失礼します」

 

 

その部屋は、黒井と吉川が戦った地下牢の奥の部屋を抜けて、階段を下った先にあった。地下牢よりも更に地下深く、そこで白服は椅子に身体を預けていた。そんな彼の部屋に、吉川が入ってくる。

 

 

「……随分と時間がかかったようですが」

 

「申し訳ありません。抵抗が激しく、捕獲に当たった5体のうち3体がーー」

 

「そんなことはどうでもいい。代わりはいくらでも作れます。それよりも黒井秀平を早く引き渡しなさい」

 

「……はい」

 

 

白服の命令に従い、もう1人の吉川が、意識のない黒井を引きずって部屋に入ってくる。その吉川には右腕と左の眼球がなかった。勿論、それを見ても白服の表情は変わらず……むしろ、喜びの表情を浮かべていた。

 

 

「あぁっ!! 夢にまで見た光景です! これで私は『王』になれる!」

 

 

立ち上がり、笑い声をあげながら白服はその場で踊るように舞う。

その数十秒後に彼は再び椅子に座り直し、吉川達に指示を出した。黒井秀平を処置室に運べ、と。彼には白服に従う以外の選択肢は存在しない。どんな扱いを受けようと、吉川は主に従う。

 

 

「私もすぐに処置室に向かいます。移植用機材の準備をしておきなさい」

 

「はい」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「……つまらない男、だな」

 

 

処置室への道中、『俺』は吉川に話しかけた。仲間、というよりも自分と同じ顔をした人間が殺されたにも関わらず、無表情な吉川を皮肉る。まぁ、概ね同意見だな。

 

 

「意識が戻ったか」

 

「あんな器の小さそうな男の言いなりとは」

 

「俺は主の命を果たすだけだ」

 

「ふん、生き方までつまらん」

 

 

強気な発言だが、『俺』は引きずられるがまま。シュールな光景である。

……で、黒井さん、黒井さん。勝機はあるのかよ?

あと2人、しかも、片方はボロボロだぜ。今ならどうにかなりそうな気もするけど……。

 

 

「……まだその時ではない。察しろ、頭が悪いな」

 

 

吉川には聞こえないように、かつ吐き捨てるように小声で呟く『俺』。こいつッ、ホントに態度悪いな!?

『リバース』はまだ壊されていない。その気になれば、怪我を反転させて治すこともできるはず。だから、2対1で戦える今、やるべきじゃねぇか。

そう提案しているんですけどぉぉ?

 

 

「…………」

 

 

はい、無視。

あー! 怒った、もう怒っちゃいました、黒井さんは。

分かった。もう助言しねぇよ! そんな態度なら、俺はもう話しかけてあげませんからねぇ!!

 

 

「…………」

 

 

俺の怒りの声は聞こえているだろうに、それでも沈黙を返してくる『俺』。その心中は……穏やかではない。激しい怒りの感情に満ちているのが伝わってくる。

……まぁ、当然か。雫ちゃんのお義父さんと仲良さそうだった。その人を酷い目に遭わせた張本人と対面した直後なんだ。そりゃあぶちギレるわ。

だから、きっと『俺』が『リバース』を使うのはーー

 

 

ーーーー処置室ーーーー

 

 

「さてさて! 遂にこの時が来ましたよ!」

 

 

声を張り上げる白服の目の前には、手術台に寝かされた黒井がいた。そう、手術である。黒井の頭には脳波を計測する機械が、胸は切開する準備ができていた。

 

 

「準備はいいですか」

 

「はい」

 

 

白服の側には手術の助手として、その場にいる2体の吉川。1体は今まで黒井を監視し続けていた吉川で、もう1体は先ほど培養を終えたばかりの吉川。欠損の激しかった彼は既に処分されていた。

手術着の白服の手にはメス。そのメスが黒井の腹にーー

 

 

「ーー捕まえた」

 

「!?」

 

 

黒井には意識があった。白服の腕を掴み、そのまま羽交い締めにする。

 

 

「!!」

 

「動くな、三下共。動けば、こいつの喉を裂く」

 

「ひ、ひぃぃぃっ!?」

 

 

攻撃の体勢に入っていた2人の吉川を牽制する黒井。彼は叫び声をあげる白服の耳元で訊ねる。

 

 

「邪魔の入らない場所へ案内しろ」

 

「っ、連れていったら殺す気でしょうっ!? 教える訳がありませんっ!」

 

「…………私は今、ここでお前を殺してもいいんだが」

 

「わ、分かりましたっ!?」

 

 

喉にかけられた力で黒井が本気であることを察した白服は、観念して言うことに従うことを決めた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

よくここまで上手く事を運んだもんだ。全身ホワイト眼鏡野郎を羽交い締めにしながら歩く『俺』を見ながら、俺は思う。こいつ、態度は悪いし性格も最悪だけど、有能だよな……なんかむかつくなぁ。

そんなことを考えながら地下牢を歩くこと3分ほどで、辿り着いたのはとある牢屋。ここはーー

 

 

「あの男を監禁しようとした場所か」

 

 

『俺』はそう呟く。記憶で見たのが間違いなければ、雫ちゃんの父親が放り込まれた牢だろう。確かに吉川達からは離れたが、ここが邪魔が入らない場所かと言われると疑問だな。すると、こちらの疑念を読んだかのように、白服は答える。

 

 

「ここは特別製なのです。少々、よろしいですか」

 

「…………余計なことはするなよ」

『リバース』

 

 

メモリを起動して脅す。その後、奴から手を離した。

白服は牢の奥の壁に手を触れる。それに合わせて、壁の一部がへこみ、地鳴りがし始めた。それが収まったかと思ったら、牢の床に階段が現れたのだった。

 

 

「ずいぶんと手が込んでいるな」

 

 

同感だ。てか、地下牢の下にさらに地下を作るとか……奴の部屋も階段を下りたところにあったし、どんだけ地面の下が好きなんだ、こいつ。モグラかよ。

 

 

「疑り深い性格でして……ここは私しか開けられないようになっているのです」

 

 

白服に先導させ、階段を下りていく。勿論、奴の首を後ろから『俺』は掴んだ状態でだ。体感で2階分、そのまま下っていくと、また部屋が現れた。いや、これは部屋というよりも……。

 

 

「倉庫か」

 

「えぇ。ここには私が転生してから今までに蒐集したガイアメモリが保管されています。『ホール』や『グリフォン』、『エンジェル』といった強力なメモリも私が蒐集したものの一部なのです」

 

「…………さて」

ーードンッーー

 

 

話もそこそこに、『俺』は白服を押し飛ばし、奴は力なく床に崩れ落ちた。

本題に入ろう。そう言って、『俺』は言葉を投げかける。

 

 

「白音三郎を覚えているな」

 

「……白音……?」

 

「……私の同僚だった男だ。お前が私に『アナザー』を使う前、メモリ実験をされていたはずだ」

 

「……………………あ、あぁ、思い出しました。彼ですか」

 

 

本当に忘れていたのだろう。こいつにとって、雫ちゃんの父親はその程度の価値だと暗に言っているようで……。

 

 

「………………」

 

 

無言。だが、激しい怒りを感じていた。

 

 

「何故、あの男だった?」

 

「…………」

 

「何故、あの男を実験台にした?」

 

「…………」

 

 

「ッ、答えろッ!!」

 

 

『俺』は叫ぶ。

しばらくの沈黙。その沈黙は当時を思い出しているのか、それとも激情に駆られる『俺』を宥める言い訳を探しているのか。

『俺』の声の残響が聞こえなくなった頃、白服は口を開いた。

 

 

「誰でもよかった」

 

「あ?」

 

 

その口元は酷く歪でーー

 

 

「そんなの誰でもよかったに決まっているでしょうッ! 私以外の有象無象に価値などないのですからねェェッ!!」

 

 

ーー邪悪そのものだった。

次の瞬間、

 

 

ーーゾゾゾゾゾッーー

ーーゾゾゾゾゾッーー

ーーゾゾゾゾゾッーー

ーーゾゾゾゾゾッーー

ーーゾゾゾゾゾッーー

 

 

倉庫内に響いたのは、無数の騒音。それは聞き覚えのある『穴』を発生させる音だった。つまり、

 

 

「待っていましたよぉ! 流石にこの数が揃うのには時間がかかりましたが、間に合いましたねぇぇ!」

 

「ハハハハハッ、この倉庫の隣に培養室があるのです! 貴方は私を追い詰めたつもりでしょうが、実のところは逆! 私がここに貴方を誘い込んだのですよ!」

 

 

辺りを見渡すと、先程の比ではない。10、20……いや、50はいるか。モブ顔だから余計に不気味だぜ。そいつらが今、一斉にメモリを起動した。

 

 

『コックローチ』『バイオレンス』『グリフォン』『ジュエル』『ティーレックス』『アンモナイト』『アノマロカリス』『コックローチ』『バード』『アイスエイジ』『アノマロカリス』『バイオレンス』『バイオレンス』『ビースト』『コックローチ』『エレファント』『サラマンダー』『バイオレンス』『トライセラトップス』『フィッシュ』『ビースト』『アイスエイジ』『ユニコーン』『サラマンダー』『アンモナイト』『グリフォン』『ビースト』『エイプ』『アームズ』『コックローチ』『ビースト』『ビー』『コックローチ』『バイオレンス』『フィッシュ』『ビー』『ビー』『エイプ』『サラマンダー』

 

『『『『『『『『『『ホール』』』』』』』』』』

 

 

「どうですっ!! これが私の力です! 無数の『ドーパント』を従え、蹂躙する私こそ『王』に相応しいッ!!」

 

「…………反吐が出る光景だな」

 

 

目の前に広がるのは、化物オンパレード。今までに見たこともない数の『ドーパント』の群れだ。いやぁ、壮観だぜ、この光景はよ。

なぁ、これを見てもまだやるのか、『俺』。下手をすると……いや、下手しなくてもこりゃ死ぬぜ?

そんな俺の質問にも、『俺』は即答する。

 

 

「私は元々死んでいる。ここで引く理由はない」

 

 

目の前の怪人軍団を前にしても、『俺』は怯まない。恐怖はない。

今……いいや、記憶を取り戻してからずっと『俺』の心中にあるのは、『ドーパント』の壁を作って高笑いをしているあの全身ホワイト眼鏡野郎を殺すという強い意志だけ。それだけで『俺』は動いている。

 

 

『リバース』

 

 

1本のメモリを起動する。

1対50。地獄のような戦いの火蓋がここに切って落とされた。

 

 

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