転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
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最初の5体は簡単に撃破した。パワー型の『ドーパント』が多かったこともあり、次の5体も苦戦はしたが、倒した。問題はそこからだった。こちらの動きに慣れてきたのだろう。攻撃を躱され、逆に攻撃をもらうようになった。それでもどうにか倒して。20を超えた辺りからは数える余裕などない。とにかく周りの攻撃を躱して、攻撃を入れて。その繰り返し。勿論、これを繰り返せばいつかは全滅させられる。だが、ダメージは確実に蓄積していく。
そして、
ーーガクッーー
『っ』
ーーバギィッーー
肉体が限界を迎えた。足が、膝が、腕が言うことを効かず、その隙にいいのを貰ってしまった。
くそっ!? おい、俺のメモリ持ってるだろ! それ使え!
『っ、必要ない』
殴られるがままの『俺』は否定する。
だが、言っている場合かよっ! ここで殺されれば終わりだぞ! 『ライアー』なら多少は隙を作れるし、『ジャイアント』で薙ぎ払うことだってできるだろ!
『…………いいや』
それすら拒絶される。このっ……とぶちギレかけて、頭に流れ込んできた『俺』の声に冷静さを取り戻す。
……って、おい待て。それはーー
『その選択が合理的だろう』
お前、それじゃあーー
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「だいぶ静かになりましたね」
黒井に吉川達を当ててから約15分。50体の『ドーパント』の壁の向こうには、変わり果てた黒井の姿があるだろう。殺せではなく、捕獲しろと言ってあるから、彼の力を自らに移植するのは問題なく行えるはずだ。
『………………』
「どきなさい」
『………………』
「チッ」
何故か白服の指示を聞かず、動かない吉川達。苛立ちながら人混みをかき分け、白服は進む。そして、それを抜けた先にいたのは、
「は?」
「…………また会ったな」
黒井秀平だった。しかも、『ドーパント』体ではなく、人間の姿の彼の手には、ガイアメモリが握られている。
「『リバース』、メモリ……?」
「あぁ、お前が言ったんだろう。私は『ハイドープ』になり得ると。これでお前の兵士を全て反転させた」
「ち、違う! そんなはずは!? 貴方の『リバース』との適合率は高くなかったはずです! 私はそれを以前調べてーー」
「…………私は一度、生死を反転している」
「っ、それで適合率を上げたというのですかッ!?」
予想外の出来事に白服はたじろぎ、後退る。
「おいっ! この男を、早く捕らえなさいっ」
『………………』
白服の命令は届かない。何故なら、彼らは既に絶命しているからだ。
『リバース』。
反転の記憶を宿すガイアメモリ。本来は対象の物質を反転させるという強力なメモリだが、黒井自身が生死を反転し、現世に蘇ったことで適合率が急激に上がり、その結果、メモリ自体が命の状態すら反転させる能力に覚醒していた。
だが、その副作用は勿論ある。反転は止まらない。
「くっ……」
「……ハ、ハハ……それはそうです。そんな強力なメモリを使って、副作用がない訳がありませんっ! 見たところ、そのメモリは貴方の命も反転させている……フフフッ、貴方、死にかけていますね」
膝をつく黒井。そして、それを見て、彼を見下す白服。白服は自らの優位を確信し、高笑いをした。
「残念でしたねぇ! 私にはまだ駒があります。培養室には、裕に100体! それらを起動して、貴方の人生をいち早く終わらせて差し上げましょう! 大丈夫ですよ、貴方は私の中で生き続けるのですから!」
「…………はぁ……はっ」
「これで終わりです!!」
ーーパチンッーー
白服は手を掲げ、指をひとつ鳴らした。それは合図だ。培養室で待機している吉川へ、複製兵士を培養機器から取り出す合図。
だが、
「……?」
ーーパチンッーー
「な、なぜです!? なぜ駒が来ないのですかっ!?」
「言っただろう。お前の兵士を『全て』反転させた、と」
『リバース』の反転。その対象は『吉川』という個体。能力の範囲はこの施設全域にも及ぶ。
黒井秀平の選択。それは自らの命と引き換えに、白服の戦力を0にすることだった。
「~~~~~~ッ」
「……フッ」
声にならない声をあげて、発狂する白服。それを見て、黒井は軽く笑いーー
「先に地獄で待っているぞ」
『リバース』
ーー最期にメモリを起動した。
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「これでよかったのか」
あぁ、合理的な選択だ。
「っ、そういうことじゃねぇ! お前、仇を討ちたかったんじゃなかったのかっ! 雫ちゃんの父親を実験台にしたあの野郎を自分の手で殺したかったんじゃなかったのかよっ」
……そうだな。それが私の唯一の目的だった。
「なら、何で他のメモリを使わなかった! それでどうにかなったかもしれねぇだろ!」
かもしれないな。だが、そうしたとしても、恐らくこの身体は限界を迎えるだろう。そうなれば、この肉体に入っているお前まで死ぬ。
「は? お前、それ……っ」
あの男ーー白音三郎という人間は、いつも家族の話をしていた。自慢の家族だと、家族のいない私に話していた。配慮の足りない男だったよ。
だが、あの鬱陶しいくらいの人柄を嫌いにはなれなかった。あの男と過ごす日々は悪くなかった。
「………………」
お前が執着している『雫』という女は、あの白音の娘なのだろう。それとお前は恋仲だ。お前が死ねば、あの娘は悲しむ。それを白音はきっと望まない。
だから、私は選択しただけだ。私と引き換えにお前を生かす。実に合理的な判断だろう。
「どこがだよ」
いいや、合理的だ。合理的で感情的な選択だ。
……おい。
「……なんだ」
私の友が大切にしていた者をよろしく頼む。
あとはお前に託す。『黒井秀平』。
「……っ、バカ野郎」
あいつの満足げな声を聞きながら、俺の世界は再び反転した。
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「よう、全身ホワイト眼鏡野郎」
「……あ"ぁ?」
戻ってきた俺の目の前には、我を取り戻した奴の姿があった。恨みと怒りに満ちた表情でこちらを睨み付けてくる。
「睨むなよ、おっかねぇな」
「貴様は……許さなイッ! 『王』の邪魔をした貴方は死刑デス!」
「…………」
「死になさイ! 黒井秀平ィィ!」
「…………はぁぁぁ」
せっかく身体に戻れたというのに、気分が晴れない。
……そうだな。それもこれも目の前のこいつのせいだ。
俺はただこの世界で楽しく生きられればよかったんだ。ほどほどの生活をして、雫ちゃんと楽しく過ごして。
なのに、身の丈に合わない重いものを託されちまった。本当にーー
「…………おい、覚悟しろよ」
「お前は俺が……いや、『黒井秀平』が完膚なきまでに叩き潰してやるからな」
俺は懐から1本のメモリを取り出した。
シルバーランクのガイアメモリ。俺に適合率が最も高いというそれを、俺は起動した。
『マスカレイド』
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黒井(暗い方)退場。
最終決戦は佳境へ。