転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
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ハッキリ言うと、相手は小物だ。だが、力をもってしまった小物なのが厄介で、まるで自分の力を見せつける子供のように、複数本のメモリ能力を使ってくる。それをどうにか躱す。躱す。
「これならいかがですッ!」
『ビースト』
『ライトニング』
『チッ……!』
2本のメモリ能力の同時併用。獣の俊敏性と雷の破壊力を合わせた攻撃が俺を襲う。間一髪だが、しゃがんで躱す。
「ならば、次はこちらですよッ」
『ウェーブ』
『オクトパス』
『ジュエル』
『ッ』
白服野郎は波を召喚し、それに蛸の能力を得た状態で、硬化した拳を叩き込んでくる。足を取られるのは厄介だ。だから、俺はわざと波に身体を預ける。こうすれば、波による推進力はなくなり、奴自身の加速だけが攻撃に乗るからだ。
ーーバキッーー
『ぐ、がっ!?』
命中。だが、思惑通りに攻撃力自体は減衰している。
『痛ぇ……なっ!』
ーーブンッーー
「甘い! そんな苦し紛れの攻撃などーー」
『コックローチ』
「ーー当たるわけがないのです」
『ちょこまかと……』
複数のメモリの同時併用だけじゃねぇ。この白服野郎、1本1本のメモリ能力を把握しながら、使い分けてやがる。
『前言撤回だ。小物の癖によくやるじゃねぇか』
「強がりを……これならどうですッ!」
『ホール』
『っ、それはやべぇっ!?』
身をもってその能力を理解しているから、俺はその場から跳んで離脱する。幸いなことに、今までの『マスカレイド』よりも身体機能は向上しており、距離を離すことには成功した。
だが、
『な!?』
ーードプンッーー
くそっ!? 失敗した……。
『穴』に気を取られた隙に、『黄昏』ーー『トワイライト』に呑まれた。『黄昏の街』に……落ちる。
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『……2回目だ、この夕焼けを見るのは』
げんなりする色だ。気分を滅入らせるような夕焼け。それを背に、奴はいた。
「あそこでは少々手狭でしたからねぇ、広く使いましょう」
『地下牢に閉じ込めたのはお前だろうがよ』
さしずめ『エターナル』の能力で、あの『永遠』の地下牢を作り出したはいいが、自身も解除できなかったといったところだろう。だから、場所を変えたのだ。
……ふむ。
『ぷっ、やっぱり使いこなせてねぇじゃねぇか』
「~~~~~~ッ」
俺の一言に白服はキレた。キレて、またメモリを複数使用してくる。
『ファクトリー』
『クォーツ』
『フェニックス』
俺に向けて放たれた工場排水と水晶と火の鳥。範囲も広い。その上、殺傷力が高そうだ。
……仕方がねぇ!
『ジャイアント』
俺はメモリを起動して、『ドーパント』状態で首に差し込んだ。体組織が変わる。そのまま体を丸めて、攻撃を防ぐ。『ジャイアント』は巨躯による膂力は勿論だが、防御力も相当に高い。だから、そう簡単には突破できないはずだ。
「メモリを変えたところで無駄ですよぉぉ!」
『ドクター』
ーーヂグッーー
『ッ!?』
さっきまで受けていた攻撃とは別種の刺激。首の後ろに、まるで注射を刺されたような感覚に気づいた時にはもう遅い。
『あっ、うっ……』
体に力が入らなくなっていく。
「筋弛緩剤の成分を数十倍にしたものを貴方に打ち込みましたぁ。いくら巨人とはいえ、『ドクター』の毒素には勝てないでしょう?」
「っ、はぁっ……くそ」
強制的に変身が解除させられる。同時に、地面に倒れ込む。腕を動かすことすらできない。
そんな俺の様子を見て、逃げることは不可能と判断したのか、白服は『トワイライト』を解除した。夕焼けは消え、代わりに殺風景な場所に出る。ここは地下牢じゃない……地上に出たのか。
「『トワイライト』も使いにくい。いちいち屋外に出されてしまいますからねぇ。これは廃棄、でしょうか」
「…………」
お前がそのメモリを使いこなせてないだけじゃねぇのか、と煽ってやりたいが、残念ながら口も動かない。
くそ……このままじゃ……。
「さて、それでは麻酔代わりの薬品も効いていることですし、もう一度地下へ戻りましょうか」
ーーパチンッーー
「そういえば、吉川は全て破壊されたのでしたね……チッ」
ーーバキィッーー
「か……っ」
憂さ晴らしとばかりに、俺の腹を蹴る白服。
てめぇ、覚えてろよ、この野郎。
「っ、重っ……この私が、わざわざ運ばなくては……いけないとは……本当に腹立たしいッ」
動けない俺をどうにか担いだ白服は、よろよろと地下へ続く扉へ向かう。
あぁ、くそ……万事休すか。
俺は目を閉じた。こんな奴に運ばれたくねぇよ……。
「くっ、このっ……なんでこんなに重いんですかッ」
せめて、せめて運ばれるならーー
『手を貸してやろうか? モヤシ男』
ああ、思ったより強い薬を打ち込みやがったな、あの白服。遂には幻聴も聞こえてきた。
この声は……愛しい愛しい彼女の声だ。けれど、こんな乱暴な口調は彼女にはあり得ない。だから、これはきっと幻聴なんだろう。
…………え?
「な、なんですか、貴女はーー
ーーバキィィィィッーー
白服が正体を訊ねる前に、その人物は俺を抱える白服を殴り飛ばした。反動で、俺は宙を舞う。
『っと、おい、待て待てッ』
「!」
ーーギュッーー
投げ出された俺の体は地面に転がらず、その人物に抱き締められた。まだ薬は効いているせいで、声は出ない。だが、空中浮遊と抱きとめられたその部位の柔らかさで、さっきよりは頭は覚醒していた。
白服を殴り飛ばし、俺を抱き締めた人物。それはーー
「お、お前は何者だァァァァッ!?」
『こいつの恋人だ、ごらぁぁっ!!!』
雫ちゃんーーいや、『イービル』の姿がそこにはあった。
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