転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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1 4ヶ月後

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財団X職員『転生者』白服との戦いから4ヶ月。

 

『仮面ライダー』たちの活躍によって、ミュージアムは壊滅し、財団Xもガイアメモリ事業から手を引いた。だが、街にはまだミュージアム製のメモリが残されており、その裏取引も密やかに行われている。ガイアメモリによる犯罪は撲滅していなかった。

さらに、メモリの魔力に取り憑かれ、ミュージアムを継ごうと考える裏社会の人間もおり、ガイアメモリを取り巻く状況は、よくなっているとは決して言い難いのが現実だ。

 

そんな中、またひとつガイアメモリに関わる組織が台頭し始めていた。

 

 

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「首尾はどう?」

 

 

風都にあるマンションの一室にて。

室内だというのに、白いコートを着て、フードを目深に被った女。彼女はソファーで寛いでゲームをしながら、目の前で跪く男たちにそう訊ねた。だが、返ってきたのは、彼女にとって芳しくない答えで。

 

 

「そ」

 

 

男たちに大して期待をしていなかったのか、その返事に感情は感じられない。

 

 

「使えないのは分かってたし」

 

 

ポツリとそう言うと、彼女はゲームを放り出して立ち上がる。そうして、テーブルに置いてあったPCの電源をつけた。画面に映っていたのは、2人の人間の写真。

1枚は、黒井秀平のもの。

もう1枚は、刃野雫のもので。

 

 

「しかたないなぁ、私が動くしかないじゃん」

 

 

彼女はイタズラっぽい笑みを浮かべながら、2枚のうちの1枚にキスをしたのだった。

 

 

ーーーー雫の自宅マンションーーーー

 

 

「秀平さん、あーん」

 

「あーん♡」

 

「おいしいですか?」

 

「うん♡ おいしー♡」

 

 

わたしの家でのお夕飯。

あーんしたハンバーグを、秀平さんは美味しそうに食べてくれます。ふふっ、可愛い。美味しそうに食べてくれて、作った甲斐がありました。

 

 

『きもちわりぃ……』

 

 

と水を差すような発言をするのは、もうお馴染みになったフロッグポットに入っている『イービル』さんでした。気持ち悪いって……!

 

 

「っ、もう! 『イービル』さんっ」

 

『いやよぉ……成人男性が「おいしー♡」はきもちわりぃだろ。キモいを通り越して、きもちわるい……』

 

「そんなことありませんっ!! 可愛いじゃないですかっ」

 

『お前……はぁ、いいわ、言っても無駄だったな』

 

 

ため息を吐く『イービル』さん。

まったく……気持ち悪いなんて、酷いことを言わないでほしいです。だって、こんなにも……。

 

 

「はぁぁぁ、幸せだぁ」

 

「ふふふ」

 

 

秀平さんは今日も可愛いです。

 

 

ーーーー黒井の自宅・黒井視点ーーーー

 

 

「『カンパニー』? なんじゃそりゃ……会社?」

 

 

俺は最近買った人をダメにするソファーに身体を預け、ゲームをしながら、キッチンにいる霧彦に問い返した。料理を続けたまま、霧彦はそれに答える。

 

 

「そうだね。会社……とは言っても、裏社会の会社のようだが」

 

「……ガイアメモリ関係かよ」

 

「あぁ。どうやら風都中のガイアメモリを秘密裏に集めているらしい」

 

「秘密裏に、ねぇ」

 

 

今は一介の主夫である霧彦に、存在と活動を知られている時点で、それはもう秘密裏にはなっていないんじゃねぇか?

そう聞くと、霧彦は

 

 

「それほどに蒐集の仕方が強引になっている、ということさ」

 

 

そんな風に答えた。勿論、俺たちにもメモリ関連の情報を仕入れる伝手はあるのだが、それを抜きにしても強引だということだろうな。

……ま、それはそれとして、だ。

 

 

「ふーん」

 

「興味はなさそうだね」

 

「まぁ、そりゃそうだ。そんな奴らは星の数、とは言わねぇけど、それなりにいただろ」

 

 

ミュージアム壊滅後、メモリの力目当てかはたまた資金目当てかは分からないが、その後釜を狙おうという勢力は相当いると、某探偵からも聞いていた。その悉くを2人の人物が潰してきたことも。

だから、どうせ今回も同じ結末をたどるだろうと思っているのが、正直なところだ。興味はないし、関係もない。対岸の火事ってやつだな。

 

 

「そんなもん『仮面ライダー』に任せればいいじゃねぇか」

 

「いいや、残念ながら彼らは今、動けない」

 

「あ? なんで?」

 

 

霧彦曰く、『仮面ライダー』両名とも、『カンパニー』とやらとは別のメモリ密売組織の壊滅に乗り出しているらしい。

 

 

「治安悪すぎねぇか、この街」

 

 

ついそんな本音も出てしまう。

 

 

「そんなことはないさ。人間は欲深い生き物だからね、自らを『超人』へと変えてくれる『魔性の小箱』があれば、手を出さずにはいられない。だから、決して風都の人間が特段、悪い人間というわけではないさ」

 

「いや、元ミュージアムのお前が言っても説得力ねぇよ」

 

「…………うっ」

 

 

勿論、元密売人の俺が言うのも違う気がするけどな。

ともかく俺達もミュージアム壊滅と共に、その業界からは完全に足を洗った。お咎めに関しても、例の白服を倒したことやら何やらで、風都署の警視様から多少の信頼を受けており、保護観察の身となっている。

 

 

「コホン! つまり、だよ? 黒井くん」

 

 

ばつの悪そうな表情をしていた霧彦は一度、調理の手を止め、リビングへ出てくると、ひとつ咳払いをして懐からそれを取り出した。どこで売っているのかも分からない赤い封筒。俺達の事実上の上司に当たるあの人を思い出すような赤い色のそれが表すのは、

 

 

「そりゃあ……俺たちが動けって話かよ」

 

「御名答」

 

「うげぇ……」

 

 

嫌々ながら、俺は手渡された赤い封筒を開けた。

 

 

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