転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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3 不協輪音

ーーーー黒井家ーーーー

 

 

よろよろと覚束ない足取りで辿り着いた黒井家。秀平さんから預かっていた合鍵で部屋に入ります。秀平さんのことを霧彦さんに相談するためだったのですが、そこに彼の姿はありませんでした。

 

 

「どこに……?」

 

『買い出しかなにかかもしれねぇな。とりあえず電話してみようぜ』

 

「はい」

 

 

フロッグポットに戻った『イービル』さんの言う通りに、スマホから霧彦さんに電話をかける。3コール、4コールと待ちますが、一向に出る様子はありません。結局、10コール目で通話を切りました。

 

 

「出ませんでしたね」

 

『律儀な霧彦が留守電も設定せずに……? 妙だな』

 

「……何かあったんでしょうか」

 

 

秀平さんのことを考えると、どうしても悪い方向に考えが向かってしまいます。この4ヶ月、平和そのものだったから尚更、不安が募ってしまって……。

 

 

ーープルルルルーー

 

「っ」

 

 

突然鳴る着信音。霧彦さんからの折り返しかと思って画面を見ます。残念ながら、そこに映っていたのは、知らない番号でした。

 

 

「誰、でしょう?」

 

『今は忙しいんだ。とりあえず出て、すぐに切っとけ』

 

「は、はい」

 

ーーピッーー

 

「もしもし、刃野ですが……」

 

 

『こんにちは』

 

 

電話先から聞こえてきた声は勿論、霧彦さんのものではありません。女性の声。

 

 

「え、えっと……どちら様ですか」

 

『白音雫さん、の番号でいいわよね』

 

「! ……はい、そうですけど」

 

 

白音ーーそれはわたしの昔の名字。隠している訳ではないけれど、公言もしていないから、それを知っている人は限られています。つまり、この電話の相手は、わたしの過去を知ってる人物ということ。

 

 

『単刀直入に伝えるわ。私は『カンパニー』という組織に属している者よ』

 

「『カンパニー』……?」

 

『えぇ。私は『転生者』を監視して支援、時として排除する組織、『カンパニー』の使者』

 

「っ、それって……!」

 

 

『転生者』についての話は、4ヶ月前のいざこざが終わった後に、秀平さんから聞いていました。秀平さん自身がそうであることやわたしたちが倒した白い服の人が『転生者』であることも。

だから、すぐにピンときました。電話の相手が今回の秀平さんの件に関わっていることは。

 

 

「っ、秀平さんを返してくださいッ」

 

 

わたしには珍しく声を張り上げる。でも、そんなわたしの反応も想定していたようで、特段驚きもせずに彼女は話しかけてきます。

 

 

『いい? 落ち着いて聞いて』

 

「落ち着いてなんかいられませんっ」

 

『大丈夫。私は貴女たちの味方、貴女と黒井秀平くんの味方よ』

 

「っ…………」

 

 

宥めるような落ち着いた口調。つられてわたしの熱も少し冷める。

 

 

「す、すみません……大きな声出したりして……」

 

『いいえ、恋人の一大事だもの。貴女の反応が正常よ。大切なのね、彼が』

 

「っ、は、はい……」

 

 

わたしの返事で、電話先の彼女が微笑むのが分かりました。

な、なんでしょうか、この感覚……不思議な感じ。

 

 

『話を戻しましょう』

 

 

そう区切って、彼女は話を続けます。

 

 

『私達『カンパニー』は、『転生者』黒井秀平を支援対象として見ているわ。彼はこちらの世界を乱すことはしない、むしろ秩序を正す側。『カンパニー』にとっては、彼ほどの支援対象はいないわ』

 

「支援対象……」

 

『だから、今回、彼が謎の女性に連れ去られたことは『カンパニー』にとっても不利益なの。つまり、黒井秀平を救出したいと考えている』

 

「! それって……!」

 

『えぇ、私達の利害は一致しているわ』

 

 

 

『だから、協力してくれる、雫?』

 

 

 

客観的に見れば、この状況でこの申し出は胡散臭いことこの上なくて。疑ってかかるのが普通なんだと思います。けれど、わたしはその誘いに何故か頷いてしまったんです。

きっとそれは、どこか懐かしいその声のせいで。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

『止めとけよ。怪しすぎるだろ、ありゃ』

 

 

会う約束をしてから通話を切った後、『イービル』さんはそう言いました。

 

 

「そうなんですけど……」

 

『だろ? とりあえず霧彦が来るのを待って、あとは任せればいい』

 

「……でも、わたしにも出来ることがあるならしたいんです」

 

『止めろ止めろ。そもそもお前には力がないんだぜ? あたしの力がないとーー』

 

 

「っ」

ーーバンッーー

 

 

『雫?』

 

「……すみません」

 

 

『イービル』さんの言葉に少しカチンときて、思わず机を叩いてしまう。こんな八つ当たりみたいなこと良くないことです……でも、なんだか妙に心がざわついてしまっています。

 

 

「なにか手を探さなきゃいけないのは事実ですから。『カンパニー』の使者の方に接触して話を聞いてみるのも、悪くはないはずです」

 

『お、おい!』

 

「待ち合わせまであと30分」

 

『ち、ちょっと待て! 今のはあたしが悪かったから、少しはあたしの話を聞けよ!』

 

「……『イービル』さんは来なくていいですから。わたし一人で大丈夫です」

 

『お、おい、しずーー』

 

 

わたしはそのまま玄関を開け、黒井家を後にしました。

 

 

 

ーーーー『イービル』視点ーーーー

 

 

『……なんなんだ』

 

 

雫が出ていった黒井家で、あたしの声だけが響く。

……まぁ、確かに。雫には力がないとか言って、あいつを心配している雫に対してデリカシーがなかったとは思うけど。でも、あの態度は……チッ。

 

 

『勝手にしろ』

 

 

ポツリと呟く声も、誰もいない部屋に消えた。

 

 

ーーガンガンガンガンーー

 

『あ?』

 

 

と思っていたら、外から聞こえてきたのは、誰かが乱暴に階段を上がってくる音だった。ハッ、なんだかんだ言っても、雫はあたしを頼るんだよな。たく、しゃーねぇなぁ。

 

 

ーーガチャ、ガチャーー

ーーバタンーー

 

『忘れ物かよ、しず…………く?』

 

 

部屋に入ってきたのは、雫ではなかった。勿論、黒井でもない。となれば、残るはただ1人。あたしの目の前で、倒れ込むようにドアを開けて、入ってきたのはーー

 

 

「や、やぁ……『イービル』」

 

『霧彦! おまえ、なんでそんな血塗れでっ!?』

 

「……黒井、くんは……?」

 

『あいつは今、いねぇよ! って、それどころじゃねぇだろ! どうしたんだよ、おいっ!?』

 

「伝えて……くれ」

 

 

霧彦は息も絶え絶えになりながら言葉を続ける。

 

 

「『カンパニー』……の狙いは、雫ちゃんだ」

 

 

『な!? おい、どういうことだっ!』

 

「これ、を……彼に…………」

 

『霧彦、おい! しっかりしろっ!!』

 

 

あたしの目の前で意識を失う霧彦の手の中には、赤色のドライバーが握られていたのだった。

 

 

ーーーーーーーー

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