転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
ーーーー風見埠頭ーーーー
待ち合わせ場所の風見埠頭に行くと、そこには1人の女の人が立っていました。ここからは後ろ姿で顔は分かりません。でも、着ているスーツが似合う長身で、黒髪をポニーテールのようにひとつに縛っていて。まだ顔を見ていなくても分かる仕事ができそうな人、って雰囲気。
「あ、あのっ」
たぶん目の前のこの人だろうと、思いきってその女性に声をかけました。わたしの方に振り返るその人。
切れ長の目とその下にあるほくろ。気の強そうな女の人……って、え?
「お姉ちゃん……?」
「来てくれたのね」
その人はお姉ちゃんーー白音佐奈に瓜二つでした。ううん、お姉ちゃんに最後に会ったのはずっと前だけど、それでも分かる。瓜二つどころかーー
「久しぶり、雫」
「本当にお姉ちゃん、なの……?」
「えぇ」
そう言って、彼女はーーお姉ちゃんは薄く笑いました。涼やかなその笑い方も少しだけ上がった口角も、昔のまま。そんなお姉ちゃんの顔を見た瞬間に、色んな思いが溢れ出て、
「~~~~っ、お姉ちゃんっ!!」
「もう、甘えんぼね」
わたしはお姉ちゃんに飛びついてしまいます。それをお姉ちゃんは優しく受け入れてくれて。
しばらくわたしはそうしていました。それから、お姉ちゃんは改めて話し始めます。
「雫、貴女の力を貸してほしいの」
「わたしの……?」
「えぇ、貴女には力がある。これを……」
お姉ちゃんから手渡されたのは、赤色のドライバー。霧彦さんがいつも使っているようなものではなく、いつか見た『仮面ライダー』が使っているものに近い気がします。
「これは『ロストドライバー』。かつてシュラウドという人物が作り出したオリジナルを『カンパニー』の技術で再現した代物よ。これと純正化したメモリを使えば、貴女は『仮面ライダー』になれる」
「『仮面ライダー』……!」
「えぇ、彼を連れ去ったあの『ドーパント』にも対抗できるわ」
「わたしが……秀平さんを……」
「その力で、貴女の愛しい人を救いましょう」
ーーーー警察病院・『イービル』視点ーーーー
フロッグポットの体しかないあたしでは霧彦を助けられない。そう判断したあたしは、どうにか霧彦の携帯を取り出して、とある人物に電話をかけた。その人物とは、
「いやぁ、これにて一件落着だな」
『悪いな、刃野刑事』
刃野幹夫。雫の保護者であった。
『仮面ライダー』たちにもかけてはみたんだが、どうにも繋がらなかった。それで思い浮かんだのが、彼だった。正直、巻き込みたくないつうのが本音だけどな。
「課長も人が悪いなぁ。こんな便利な機械を開発してたなら、俺にも教えてくれりゃあいいのに……確か『全自動市民救援システム』だったか?」
『あ、あぁ。そんな感じ』
「自動で『ドーパント』の被害に遭った被害者を教えてくれるとは……いやぁ、本当に便利な世の中になった、ハッハッハッ」
『お、おう』
適当にでっち上げた嘘だったが、流石は騙され上手。あっさり騙されて、霧彦のことを助けてくれた。雫の保護者としては不安のある人選だが、今はありがてぇ……あとで謝ろ。
「それにしても園崎霧彦が血塗れになっているもんだから驚いたぜ。課長から彼の処遇は軽く聞いていたからよかったけどよぉ」
ともかくこれで彼は治るだろう。安心しな。
目の前のベッドに横たわったままの霧彦を前に、刃野刑事はそう言って、笑う。大丈夫だと伝えるように笑っている。本当に人の良さそうな笑顔だ。
『ありがとよ』
「おう」
彼の笑顔を見ながら思う。この笑顔を曇らせてはいけねぇよな。
刃野刑事が去った後、あたしは改めて状況を整理する。
あたしたちの周りに現れたのは2つの勢力。
ひとつは『フーカ』という女。
自称黒井の元カノであいつを連れ去った張本人。そして、『アイズ』のガイアメモリを使っていた。恐らく黒井と同じ『転生者』ってやつだろうが……。
もうひとつは『カンパニー』という組織。
電話の女曰く、『転生者』を監視するという組織。黒井を支援対象として、救出したいと言い、協力を求めてきた。このタイミングで出てきたんだ、怪しいことこの上ねぇ。ただ立場だけを見れば、こちらの味方だ……けど、
『『カンパニー』の狙いは雫、だったな』
霧彦が意識を失う寸前に告げた言葉。それが本当だとしたら、黒井だけじゃなくて、雫も危ないことになる。
……どちらにしろ、今のあたしには戦える体がない。
『雫のこと、言えねぇよな』
戦える力がないなんて、雫には言ったけど、それはあたしも同じ。あいつがいないとあたしも何もできない。改めてそれを思い知る。
『……くそっ』
ポツリと溢れた言葉は、
ーーゾゾゾゾゾッーー
『っ!?』
空間に穴が開く気色悪い音に消される。
それは突然のことだった。病室の天井から人影は降ってきた。
『っ、てめぇらはっ!?』
『…………』
『…………』
『…………』
『…………』
いつか見た黒井を狙っていたという男、たしか『吉川』という名前だった。そんな同じ顔の奴が4人、天井に穴を開けて降ってきていた。状況から察するに、霧彦と戦い、重傷を負わせたのもこいつらに間違いないだろう。
ただ、そんな思考は一瞬でどこかへ消え去った。何故なら、
『って、な!?』
男たちの後から降ってきていた1人の姿に目を奪われたから。
女の子だ。華奢な体つきの少女。綺麗な黒色の長髪。あれはーー
『雫……?』
『…………』
ーー間違いない。見た目こそ幼いが、雫だ。
なんだ!? もしかして、例の『カンパニー』に『ヤング』メモリでも使われて……いや、この『吉川』って奴らはたしか、複製された人間だって言ってたっけな。
ということは、この『雫』も……? なんのために雫を……。様々なことが頭を過る。だが、今はそんなことを考えても仕方がねぇ!
『悪趣味な野郎だっ』
毒づいても状況は変わらず、むしろ悪転していく。『吉川』たちは、ベッドに横たわる霧彦を引きずり出そうとしていて。
『っ、おい! 止めろっ!』
『…………』
『…………』
そう言われて、止まるような奴らではない。今、まさにあたしの目の前で霧彦は連れ去られようとしていた。
『っ、くそっ! どうしたら、いいっ!?』
こうなった以上、頼れる相手はいない。黒井、雫、その上霧彦までいなくなったらいよいよどうしようもなくなる。絶体絶命の状況。
そこで目に入ったのは、あの『雫』の姿だった。これは直感だ。可能性の話でしかねぇが、もし複製兵士とやらが複製元となった人間のメモリ適正まで引き継ぐのであればーー
『っ』
あたしは飛び出していた。一縷の望みに賭けて。
行けッ!
『イービル』
一瞬、視界がブラックアウトした後に、意識が浮上する。
目の前には、複製兵士『吉川』たち。霧彦を運ぼうとする奴等の後ろ姿が見える。そこへ手を伸ばす。
『止めろよ、そいつはあたしの友達だ』
ーーバキッーー
肩を掴み、後ろへ倒した『吉川』の顔面に拳を叩き込んだ。当たった感覚。同時に、『吉川』の一体が床に叩きつけられて、跳ねる。
『……できた』
成功だ。複製されたであろう『雫』の体に入れたのだ。
ーーバギィィッーー
『おらぁぁっ!!』
不意を突いて、もう一体の『吉川』を全体重を込めて蹴り飛ばす。そこで奴等も状況を把握したようで、あたしに向き直る。
『…………』
『…………』
『2対1……上等じゃねぇか!』
ーーブンッーー
大振りの一撃を躱す。体は軽い。たぶんいつもの雫よりも体が小さいからだろうな。勿論、この体重差だ。一撃でも喰らったら終わり。だが、
『らぁぁっ!』
ーーバキッーー
ーードゴッーー
体重を込めて、殴る。殴り続ける。
いつもよりあたしの攻撃は軽い。その分、数でカバーして。
ーーグラッーー
『っし! あと一体ッ!』
『…………』
飛び込んでくれば、カウンターの要領で攻撃を叩き込めるんだが、流石に警戒しているのか近づいてこない。勢いをつけず、ジリジリと間合いを詰めるあたしと『吉川』。やがて、その時は訪れる。
ーーグンッーー
こちらの間合いの3歩分外側から、奴は蹴りを放ってきた。
『っ!』
ーーフッーー
当たる寸前で、重心を落とす。あたしの体は、奴の足元。目の前には奴の軸足。そこを払って、
『落ちろォォ!!』
ーーバギィィィッーー
体勢を崩した『吉川』の脳天へ、そのまま体重を込めた踵落としを喰らわせた。
奴はそのまま倒れて、床へ伏せる。
『……っ』
思わずガッツポーズ。これなら、戦える。黒井も、雫も取り戻せる。
『……待ってろよ、雫』
あたしの呟きは4体の大男が転がる病室に静かに消えた。
ーーーーとあるマンションーーーー
「あ、やられちゃった」
ベッドに体を投げ出していた彼女・『フーカ』は、『吉川』からの信号が途絶えたのを見て、呟いた。そして、
「作戦しっぱ~い。ざーんねん。そう思わない? シューヘイくん」
捕らえてきた黒井に同意を求める。
「……俺をどうするつもりだ」
勿論、黒井はそれを無視する。彼は身体を縛られ、椅子に拘束されていたが、強気で彼女を睨み付ける。
「どーするって……言ったじゃん、シューヘイのぜんぶを奪いにきたって♡」
「はるばる、異世界までご苦労なこった」
「うん、苦労したよ? だから、責任をとってよね♡」
「責任、だ? ストーカー風情がほざくじゃねぇか、ああ?」
「幼馴染みで元カノ、でしょ? 間違えちゃヤだよ」
「っ」
そう。『フーカ』は黒井の幼馴染みである。そして、ストーカーでもあった。ただそれは前世での話。だから、ここに彼女がいること自体がおかしな話なのだ。
「なんでここに私がいるんだ~、って顔してる」
「っ」
「図星、でしょ? 私はシューヘイくんのことなら、なんでも分かっちゃうんだよぉ♡ あの女と違ってね?」
「それは……雫ちゃんのことか」
「そ」
軽く頷くと、『フーカ』はベッドから跳ね起きた。そのまま、椅子に拘束されている黒井の首に腕を巻きつける。
「ッ、離れろ」
「え~……イ・ヤ♡」
「…………てめぇ、雫ちゃんに手を出してみろ。そんなことしやがったら、俺はてめぇをーー」
『ーーどうするの?』
「っ」
彼女のその声を聞いた途端に、黒井の体が硬直する。それは雫の前でキスをされた時と同じ反応だった。口を、体を動かそうとしても動かない。吐き気と寒気。まるで恐怖に支配されたような感覚だった。
「フフッ、まだ『覚えてる』みたいでよかった~」
「……っ」
黒井の脳裏に蘇るのは、悪夢の1ヶ月の出来事。
前世で彼女に監禁された時の、口にするのも憚れる於曾ましい記憶。
「大人しくしててね、シューヘイくん♡ お人形さんもやられちゃったみたいだし、私が動かなきゃいけないの」
「逃げようとしてもムダだからね? カワイイ『おめめ』でいつでもシューヘイくんを見てるから♡」
そう言って、彼女は部屋のドアに手をかける。部屋を出る直前、思い出したかのように『フーカ』は振り返りーー
「あの女を始末したら、い~~っぱい『イイコト』しようね♡」
ーー無邪気に笑った。
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