転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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6 浄化

ーーーー風都中心街・マンションーーーー

 

 

『おい! 生きてっか!?』

 

「…………あー、なんとか」

 

 

あたしが黒井の位置をどうにか特定して、そのマンションの一室に乗り込んだ時、黒井は椅子に縛り付けられていた。頬も痩け、ぐったりとした様子で、あたしの問いかけに答える。

 

 

「とうとう俺も終わりか……ちっちゃい雫ちゃんが俺を助けてくれる幻覚とは……俺はロリコンじゃなかったはずなんだけどなぁ……」

 

『っ、現実だ、ボケ!』

 

「口も悪い……最悪だぁ」

 

『うるせぇ! 助けねぇぞッ!?』

 

「冗談です……助けて、助けて」

 

 

衰弱は激しいが、冗談を言う余裕はあるようで、あたしが縄をほどくと、どうにか自力で立ち上が……って、おい!?

 

 

ーーフラッーー

 

『っ! あぶねぇ!』

 

ーーギュッーー

 

 

黒井を意図せず、抱きしめる形になる。

 

 

『重い……』

 

「わりぃ、ちっとこうさせてくれ。ここ数日、何も食ってねぇんだわ」

 

『ったく……しかたねぇな////』

 

 

こんなところを雫に見られたら大問題だぞ。そんな軽口が口を突いて出てこようとしたんだが、止まる。思わず固まる。

 

 

「どうした……?」

 

『っ、雫!』

 

 

部屋の入り口に、雫が立っていたからだ。

 

 

「…………」

 

『雫! あぁ、よかった!』

 

 

ゆっくりと黒井をその場に降ろして、あたしは雫に駆け寄った。両肩をつかんで、顔を見ながら話しかける。

 

 

「…………」

 

『今までどこにっ……いや、わりぃ、それより謝るのが先だよな。黒井が連れ去られて動揺してるのは分かってたはずなのに、あたし……』

 

「…………」

 

『怒ってる、よな。いろいろ……その、言っちまって……言いすぎた。あたしが悪かったから、戻ってきてくれ! な!』

 

「…………」

 

 

誠心誠意謝る。なのに、雫の表情は変わらない。

 

 

『雫……?』

 

「おい、『イービル』」

 

『なんだよ、今、大切な話をっ』

 

「雫ちゃんから離れろ!」

 

『え……?』

 

 

『エコー』

 

 

『は?』

 

 

雫が霧彦から渡されたのと同じドライバーで『仮面ライダー』に変身した。目の前の現実に理解が追いつくのを待たずに、雫はーー

 

 

ーードゴッーー

 

『がッ!?』

 

 

ーーあたしの腹を殴った。その場にうずくまるあたし。黒井が何かを叫んでるけど、聞こえない。まるで音がなくなったかのような錯覚に陥る程の衝撃だった。

 

 

『……し、ずく……っ』

 

『…………』

 

 

 

「おー! やってるやってる!」

 

 

 

耳を突く耳障りな声が部屋に響く。見れば、雫の後ろに誰かがいた。

 

 

「やほやほ、『イービル』ちゃん」

 

『てめぇ……はっ』

 

 

ヒラヒラと軽薄に手を振るこいつは……!

 

 

「っ、風華……お前」

 

「あー、シューヘイくん、縄外しちゃってる! 後でお仕置きだよぉ♡」

 

「っ」

 

 

『フーカ』ーー黒井の元カノを名乗った女の言葉に、黒井は言い返さない。状況的に、こいつが雫に何かをしたのは明白で。それを知れば、黒井はぶちギレるはず。なのに、それがないってことは、黒井もいつも通りじゃねぇってことか。こいつ、黒井にも何かしやがったのか。

 

 

『雫に……何しやがったっ』

 

「んー、何しやがった~は、こっちのセリフなんだけどさ。お人形さん作るのも苦労するんだよ? ま、雫ちゃんを洗脳したのは、私じゃないけどね」

 

 

そう言って、女は雫の方を指差す。そこにいたのは、

 

 

『佐奈……?』

 

 

白音佐奈。雫の実の姉で、あたし『イービル』メモリの元使用者の姿だった。

 

 

「よくやったわね、雫」

 

『うん。わたし、ちゃんとやったよ、お姉ちゃん』

 

 

『仮面ライダー』状態の雫を撫でる佐奈。生きていたのか……って、いや、あり得ない。あいつは死んだはずなんだ。

 

 

「美しい姉妹愛だよね~♡」

 

『……っ』

 

 

目の前で起こる数々の出来事に、あたしの体は動かない。どうにかしなきゃって分かっちゃいるのに、動くことができなかった。そんなあたしの耳に届いたのは、

 

 

 

「『イービル』ッ!」

 

『っ、ああ』

 

 

黒井の叫び声。裏返り、震えていたが、それでもその声はあたしに届いた。お陰で体の硬直が解けた。同時に、黒井に向けて走り出す。見れば、黒井も『ジャイアント』のメモリを起動していた。

黒井の元へ飛ぶ。飛んで、そのまま一旦体勢を立て直してーー

 

 

「は~い、ダメ♡」

 

『「!?」』

 

 

合流しようとしたあたしと黒井の間に、例の元カノは移動していた。こいつ、速え!? そのまま殴り飛ばそうとも考えたが、寸前で止める。嫌な感じがする。

 

 

「シューヘイくん、ダメでしょ。私以外の女に触れちゃ、ね?」

 

 

奴は黒井の手を、自分の指に絡ませる。奴の指は黒井の持つ『ジャイアント』のメモリに触れた。

 

 

ーーバチッーー

 

 

触れた途端に、指とメモリの間に火花が爆ぜる。なんだよ、今の?

 

 

「強引にでも押し切るぞ!」

 

『おい、止めとけッ! 今、何かされただろ』

 

「言ってる場合か!」

 

 

『ジャイアント』

 

 

今、奴を倒せるなら、何が起きても構わない。黒井のそんな決意が伝わってくる。起動したメモリは首へ吸い込まれるよう、に……。

 

 

「…………は?」

 

 

何も、起きない……?

 

 

「そんなはずはっ!」

 

『ジャイアント』

 

「…………くそっ、変身できねぇ……なんでだ!?」

 

 

起動はしてる。だが、コネクターに差しても、メモリが体に入っていかないんだ。

 

 

「そりゃそうだよぉ。だって、そのメモリ、私が触れることで毒素を抜いて『純正化』したからね~」

 

「『純正化』……?」

 

「うん、それが私の『転生者』としての能力なの。どお、毒素に苦しんでるシューヘイくんを助ける、まさに私にピッタリの能力……ふふっ、運命だね♡」

 

 

『純正化』される。それはつまり、『ドーパント』になれないってことだ。女曰く、雫が変身に使っているメモリもミュージアム製のメモリを『純正化』したものだという。

 

 

『最悪だな』

 

「……あぁ」

 

 

『純正化』されてしまえば、こちらは戦う力を失う。それどころか、あたしの存在自体がメモリによるものだから、能力で変質させられてしまえば、どうなるか分からねぇ。

 

 

「……引くぞ」

 

 

苦渋の決断だ。雫を置いていくことを提案した黒井の横顔は酷くものだった。だが、それしかねぇ。あたしも頷き、ジリジリと後退る。部屋の入り口には奴等が陣取っている。だから、このまま窓をぶち破って、黒井の他のメモリで逃げるしかない。

 

 

「させないって言ってるじゃん?」

 

『「ッ」』

 

 

あたし達が動き出す。その本当に直前に、女は既にあたしらの懐に入っていて。

 

 

ーーピタッーー

『ぐっ!?』

 

「『イービル』っ! くそっ!!」

 

『マスカレイド』

 

 

『マスカレイド』になった黒井が、女を抱え込む。

 

 

「あ~んっ♡ シューヘイくんったら大胆♡ みんなが見てるのに、そんなギュッと抱きしめられたら、私ぃぃぃ///」

 

『逃げろ、『イービル』ッ』

 

『~~~~~~っ』

 

 

あたしは黒井に背を向けて、窓へ走り出した。黒井のお陰で、あたしは窓をぶち破った。顔を庇った両腕に感じる割れ刺さるガラスの感覚。痛い、だけど、それ以上に悔しい。

 

 

『くそ……っ』

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「『フーカ』さん、『フーカ』さん」

 

「あ~~~ッ♡」

 

「『フーカ』さん」

 

「あぁぁぁ……ぁ…………んっ」

 

 

『サナ』の再三の呼びかけで、『フーカ』はやっと我に返った。当然、視線は未だに彼女の体を捕らえたままの黒井へ向く。彼は既に意識を失っていた。気を失い、変身も解除されて尚、黒井は『フーカ』をこの場に留めたのだ。

 

 

「ありゃりゃ、シューヘイくん、意識失ってるね~」

 

「食事も録に与えてなかったなら当然では?」

 

「むぅ……だって、私以外の人間が作った料理でつけた肉だったからさ~、一回ぜんぶ落とした方がいいと思って」

 

 

そう言って、痩せこけた黒井の頬を撫でる。愛おしそうに。

 

 

「ごめんね、シューヘイくん。もう少ししたら、私特製のご馳走を作ってあげるからね~♡」

 

 

『フーカ』は気を失った黒井を抱きしめて、彼の唇に顔を寄せていく。顔の距離があと数センチで重なるという時だった。

 

 

『………………ッ』

 

ーーブンッーー

 

 

『彼女』は蹴りを放っていた。それを間一髪で避ける『フーカ』。

 

 

「な!?」

 

「……『サナ』ちゃん、催眠は完了してるんだよねぇ?」

 

「も、もちろんです」

 

「じゃあ、なんで……雫ちゃん動いたのかなぁ」

 

 

『…………』

 

 

黒井と『フーカ』の間に割り込んだ形になったまま、『彼女』は動かない。

 

 

「……もちょっと強めに『エコーノイズ』かけといてね」

 

「は、はい」

 

 

その後、『サナ』は再び『エコー』となり、彼女の指示通りに変身を解いた雫に催眠をかけ直した。だが、あくまでも催眠は弱まってなどいなかった。

 

 

「この娘、一体なぜ……」

 

 

ベッドに横たわる雫を見ながら、『サナ』は1人呟いた。

 

 

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