転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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8 対峙

ーーーーマンションーーーー

 

 

「雫、ちゃんっ」

 

「…………」

 

 

黒井は雫へ手を伸ばす。だが、彼女は無反応で、当然その手を取ることはない。その姿は『サナ』による催眠が完了していることを物語っていた。

 

 

「ムダムダ~、その娘もう完全に意識はないから。ただのお人形さんだよ~」

 

「風華っ、てめぇッ」

 

「~~~~っ♡ シューヘイくんのその目、ゾクゾクくるぅぅ♡」

 

 

黒井の必死の思いを茶化すように、『フーカ』は身悶えする。

 

 

「もうその娘はダメだし、早く諦めなって」

 

「……ハッ、冗談はてめぇの頭の中だけにしろよ。これ以上、雫ちゃんに何かしやがったらーー」

 

「アハっ、シューヘイくんのメモリはぜーんぶ純正化しちゃったし、もうシューヘイくんに戦える力はないってば。なのに、強がっちゃってカワイイなぁ♡」

 

「……触んな、俺に触っていいのは雫ちゃんだけだ」

 

「ふーん。でも、ほら。雫ちゃんはシューヘイくんと元カノの私のイチャイチャを見ても何も思わないみたいだけど~?」

 

「………………」

 

 

そう言って黒井の頭を撫でる『フーカ』を見ても、なんの反応も示さない。指示がない。だから、動かない。本当にその姿は人形か何かのようで。

 

 

「…………っ」

 

 

黒井の中に怒りが込み上げてくる。自分への怒り。目の前のストーカーへの怒り。

 

 

「てめぇはーー」

 

 

 

ーーーーーーガシャァァァンッーーーーーー

 

 

 

黒井の怒りが声として発される瞬間、彼の声は掻き消される。マンションの窓が再び割られた音が彼の怒りを察したかのように響いたのだ。

その場にいた雫以外の人間の視線が窓の方へ集まる。そこにいたのは1人の女。黒井は笑い、彼女に言葉を投げる。

 

 

「遅かったじゃねぇか、『イービル』」

 

『ちょっと昼寝してたんだ。多目に見ろよ』

 

「あぁ、いいぜ。その分、働くならな」

 

 

『イービル』の視線は雫へ。そして、『サナ』へ。最後に、この騒動の元凶『フーカ』へ移って。

 

 

「……なにしに来たの、メモリに生まれた別人格(バグ)風情が」

 

『やり忘れたことがあんだよ』

 

「シューヘイくんならーー」

 

『んな奴はどうでもいい』

 

「は? ならーー」

 

 

 

『雫を守りに来た。それだけだ、ごらァァ!!』

 

 

 

ーーーー『イービル』視点ーーーー

 

 

言うと同時に、あたしは地面を蹴り、奴に膝をぶちかましにかかる。

 

 

ーーガシッーー

 

『………………』

 

 

それを止めたのは、『仮面ライダー』に変身した雫だ。

 

 

『雫!』

 

『…………』

ーーブンッーー

 

 

そのまま投げ飛ばされ、距離を離された。

 

 

ーードッドッドッーー

 

『この音はっ!』

 

 

それはいつだか黒井から聞いていた『エコー』の能力。必中攻撃のための呼び水。体の内側からこの音が鳴った時点で、攻撃の命中は確実だ。回避はできない。ならーー

 

 

ーーグッーー

『よう、雫。元気そうでなによりだッ!』

 

『…………』

 

 

ーードゴンッーー

 

 

『かーーッ』

 

 

距離を詰めて、雫の両肩を掴む。その瞬間、『音』があたしの体内で破裂した。想像以上の威力に吐血しちまう。既にあたしの体はもうボロボロで限界寸前だ。きっとあと少しでも攻撃を喰らったら、動けなくなっちまう。だけど、

 

 

ーーガシッーー

 

『離すわけねぇだろ!』

 

 

離れない。離さない。

あたしは雫の左肩を掴んだまま、右手で雫のドライバーに手をかける。バチンと火花が散るけど、そのまま掴み続ける。

 

 

『~~~~っ』

 

『…………』

 

『目、覚ませよ、雫ッ!』

 

 

お前の大切な奴を奪おうとしてるんだぞ。

お前の大切な思い出を踏みにじられてるんだぞ。

なのに、

 

 

『黙って、あんな奴等に従ってんのかッ、ああっ!?』

 

『…………』

 

 

雫は答えない。

 

 

「ムダだって。その娘の意識はもうないって言ってーー」

 

『うるせぇっ!!』

 

「…………っ」

 

『あたしは雫と話してんだよっ! 邪魔すんじゃねぇ』

 

 

一喝。馬鹿女が邪魔すんじゃねぇよ!

 

 

「…………せっかく忠告してあげてるのに。『サナ』ちゃん、あいつ邪魔」

 

「はい、排除します」

 

 

『エコー』

 

 

佐奈擬きは『エコー』に変貌を遂げて。

2対1。上等だ。かかってきやがれ。

 

 

「『イービル』!」

 

『っ』

 

 

迎撃のために『エコー』共に向き直ろうとして、その声に止められる。少しだけ視線をやると、『エコー』とあたしらの間に立ち塞がるように立つ黒井の姿があった。

 

 

「雫ちゃんを……頼む」

 

『任せたぜ、馬鹿野郎』

 

 

ポツリと呟き、あたしは再び雫のドライバーに力を込めていく。その間にもあたしに『音』を飛ばして、雫も必死に抵抗してくる。痛い。苦しい。だが、血反吐を吐いたってこの手は離さねぇよ。

あたしはお前を守るんだ! 絶対に!

 

 

『イービル』

 

 

決意と共に、あたしの意識は体を飛び出して、『イービル』メモリへ移る。意識が遠退く。『純正化』まで時間はないだろうってことが分かった。それでも止まらない。

 

 

『雫っ!!』

 

 

本来、コネクターがある首へ、あたしは駆けて。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

気づけば、真っ白な何もない空間にあたしは立っていた。ここが雫の中だということは直感的に分かる。そして、そこにはあたし以外に、もう1人だけ存在していて……。

 

 

「………………」

 

『……雫』

 

 

自分の体を抱くように、体を丸める雫。よく聞くと、ブツブツと何かを呟いていた。そんな彼女の後ろ姿に、あたしは声をかけた。

 

 

『こうして会うのは初めてだな』

 

「……『イービル』、さん?」

 

『あぁ、迎えに来た』

 

 

虚ろな目があたしを捉える。

 

 

『外は大変なことになってる。帰るぞ』

 

 

手を差し伸べる。だけど、一向にその手に重さは感じられない。

 

 

「…………」

 

『雫……?』

 

「ねぇ、『イービル』さん。わたしはどうしたらいいんでしょうか」

 

「わたしが大事なのは家族ーー『カンパニー』だけ。それ以外は敵。そのはずなのにっ」

 

『……っ』

 

 

奴の催眠の影響が心の中にまで出ているのが一目で分かった。深層意識すら『カンパニー』を家族だと錯覚してやがる。あの偽者がッ!

雫は頭を抱えて踞る。なんでなんでと呟きながら、またあたしの顔を見上げた。

 

 

「おかしいんです。お姉ちゃんを邪魔してるあの男の人を見ると、『フーカ』さんと対立してる貴女を見ると、心がざわついて……ぐちゃぐちゃになるッ」

 

 

『エコー』の催眠はより深く、雫の意識を奪うまできていた。なのに、目の前の雫はあたしや黒井の姿に混乱している。それはきっと雫がまだ必死に抵抗している証だ。

大丈夫。まだ引き戻せる。

 

 

『雫、あたしはーー』

 

「貴女はわたしの、『カンパニー』の敵ですよね……?」

 

 

あたしの言葉を遮るように放った問い。それはあたしが敵であると認識するためのもの。誤魔化す意味もない。あたしは憔悴した雫にハッキリと告げる。

 

 

『あたしは『カンパニー』の敵だ』

 

 

『カンパニー』は潰す。佐奈の思いを踏みにじった奴等を許すわけにはいかない。けど、

 

 

「っ、なら、わたしのーー」

 

『でも、お前の味方だよ、雫』

 

 

それだけは変わらない。

 

 

「~~~~っ、やめてくださいっ」

 

 

雫は嫌々と首を振りながら後退り、あたしとの距離を取った。そして、あたしを見据えて、告げる。

 

 

 

「……『イービル』さん、わたしは貴女がずっと嫌いでした」

 

 

 

雫の口から出たのは拒絶の言葉だ。催眠によって言わされてる……だけじゃねぇよな、それは。

 

 

「勝手にわたしの中に入ってきて、勝手に体を使って」

 

「勝手にあの人と仲良くなって……」

 

「わたしにはできないのに……ずるい…………嫌い……大嫌い」

 

 

きっとそれは雫の本心でもあるんだろう。だから、あたしも本心で応える。それが礼儀だろ。

 

 

『奇遇だな、あたしもだ』

 

『あたしも大嫌い(大好き)だよ』

 

 

偽らざる本心。

あたしはお前の煮え切らない態度が嫌いだ。

あたしはお前のウジウジしたところが嫌いだ。

あたしはお前の優しい心が好きだ。

あたしはお前の穏やかな笑顔が好きだ。

 

あたしはさ、全部含めて、お前が大切なんだよ、雫。

 

 

「……ここで決着をつけましょう」

 

『あぁ』

 

 

2人で同時にドライバーを装着する。そして、お互いのメモリを起動した。

 

 

『エコー』

『イービル』

 

 

 

『「変身!」』

 

 

 

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