転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
久々の更新です。少々、長め。
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「くそが……っ」
吐き捨て、両膝を着く黒井。『エコー』にボロボロにされ、彼はもう起き上がることすらできなかった。
「アハッ♡ 流石、シューヘイくん。血塗れになっても色っぽくて素敵♡」
『『フーカ』さん』
「……分かってるって」
そう言うと、『フーカ』は黒井の首を掴み、無理矢理起き上がらせて、その額に人差し指を触れた。彼女はメモリを自らに差さずともメモリ能力の一部を使うことができる『ハイドープ』。彼女がしようとしているのは、彼の額に自らの能力の瞳を埋め込むこと。
「エンゲージリング代わりに受け取ってくれる?」
「クソ喰らえだ、ストーカー女」
「照れちゃって~♡」
『フーカ』は目を閉じて、指先に集中する。だから、彼女は
ーーバギィィッーー
「ーーは!?」
次の瞬間に自分の身に起きたことが理解できなかった。『フーカ』を横から吹き飛ばしたのは、『エコー』で凝縮した音の衝撃波で。
『『フーカ』さん!?』
「これ、は……っ」
「……汚い手でーー」
満身創痍の黒井の目に写るのは、1人の女性。
それは勿論ーー
「ーーわたしの秀平さんに触れないでください」
刃野雫その人である。
催眠状態にあった時とは打って変わって、真っ直ぐ黒井とそれに仇なす敵を見据えていた。
『私の催眠を……! どうやってっ!?』
「『イービル』さんのおかげです。わたしの中に入った『イービル』さんがわたしを引き戻してくれました」
『ッ……ホントに邪魔を……メモリ風情が』
想定外のことに困惑する『エコー』。そして、体をゆっくりと起こしながら吐き捨てる『フーカ』。その声からは怒りが滲んでいた。
そんな2人に構わず、雫は黒井に声をかけた。
「秀平さん、すぐ助けますから」
「……ハハ、あぁ、頼んだー」
彼女の姿を見て、体の力が抜けた黒井はそのまま倒れ込む。
2対1という状況だ。いつもの黒井であれば、這ってでも雫だけに戦わせることなどしない。だが、今の雫には黒井の心配すら跳ねのける謎の説得力があった。
「……いきましょう、『イービル』さん」
『イービル』
鳴り響くは『邪悪』の記憶を目覚めさせる呼び声。彼女は『それ』を腰に装着したロストドライバーに装填した。
「…………変身」
『イービル』
黒色の稲妻が雫の体を走る。稲妻は当たった箇所から姿を変えていく。
やがて彼女は、紫がかった黒のボディと青色の瞳、そして、左肩からなびくローブを身に纏う戦士ーー『仮面ライダーイービル』へと変身を遂げた。彼女は目の前の2人の敵を見据え、告げる。
『全部守ってみせます』
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『「変身!」』
あたしも雫も変身を遂げた。同時にあたしは駆け出す。
『らぁぁっ!!』
『はぁっ!』
ーードッドッドッドッーー
ーードンッーー
回避不能の衝撃波。雫の攻撃は当たる。けど、あたしは止まらない。一気に懐に入って、右拳を振るった。
『喰らっとけ!!』
『~~っ』
ーーバギッーー
お互いの拳がかち合い、火花を散らした。
『おらッ! 目覚ませ、雫!』
ーーブンッーー
『っ、知りませんッ』
あたしの左脚は空を切り、入れ違いに雫の拳があたしの腹を捉えた。そして、
ーードンッーー
『~~~~ッ』
『エコー』の衝撃波が体を走る。だが、この程度なら耐えられる。
『効くか、そんなの!』
ーーバキッーー
カウンターで放つ右ストレート。今度は見事に変身態雫の左頬を捉えた。そのままぶん殴り、振り抜く。
『っ、はぁっ!』
それを雫は完全に体で受け止めやがった。
チッ、効かねぇか。でも、こいつは変だよな。
『おい、雫』
『……なん、ですか……?』
『イービル』。あたしの特性は対象への敵対心で能力が変動する。つまり、あたしが雫を『敵』と認識していない以上、『イービル』の攻撃力は上がらない。そこは雫のもつ『エコー』とは決定的に違う。
……そう、違う。
今のあたしが雫と互角な訳がねぇんだよ。
『お前さ……あたし相手に手加減してるじゃねぇか』
『そ、そんなこと……ありませんっ!』
『『カンパニー』の敵は、お前の敵じゃなかったのか? あ?』
『そう、そうですっ! わたしは『
『ーーじゃあ、なんでッ』
『っ!?』
ーーバキッーー
『こんなに弱えんだよ』
『っ』
あたしの言葉に、雫は一瞬固まる。
『図星だろ。お前、思っていたよりずっと出力が出てなくて焦ってる』
『そんなことは……』
『ある。分かんだよ。言っただろ、あたしはお前の心の中が分かるんだ。一心同体だからな』
ここが雫の精神世界だというのなら尚更だ。
迷いも、戸惑いも、不安も、全部伝わってきてる。
だからーー
『あ、あ……ああぁぁぁぁッ!?!?』
『!? おい、雫やめろ!』
キャパシティオーバー。頭の中で感情を制御しきれなくなったのか、雫は頭を地面へと叩きつける。いくら変身しているとはいえ、このまま全力で頭をぶつけていれば、身体がもたない。雫が壊れてしまう前に、あたしは彼女の両手を掴む。
『止めろ…………止めてくれ、雫』
あたしの言葉は届かない。雫は依然として叫んでいて、あたしが手を離せば、彼女は相反する感情の狭間で壊れていく。
まぁ……そう上手くはいかないよな。全部取り返してハッピーエンドなんて。あたしじゃ雫は倒せない。かといって、雫もあたし相手じゃ戦えない。このまま戦い続けても埒が明かない。
……あぁ、分かってる。分かってるさ。この状況であたしが出来るのはひとつだけ。
『雫』
叫び続ける雫に、あたしは静かに語りかける。
『あたしはお前が嫌いだった』
『いつもメソメソして、佐奈の姿を探してすがって。そりゃいじめられるのも理解できるぜ』
『けど、いじめられ続けてたお前が唯一意地になったのが『あたし』を溝に捨てられた時だったよな。ハッ……あの時のお前はすごかった、なんせ躊躇なく溝に飛び込むんだからよ』
『その上、見つかるまで何時間も探し続けて……やっとの思いで見つけて泣いてやがってよ。また、やり返さずにメソメソと……そう思ってたよ』
『でも、お前、その時泣きながら言ってたんだ』
『「守ってあげられなくてごめんなさい」って』
あたしは佐奈から雫へ送られた『お守り』だった。弱い雫を守るための『お守り』。
だけど、あたしは気づいたんだ。
こいつはただの泣き虫じゃねぇ。大事なものを守るために戦おうとする心をもってるって。
その時から、あたしはお前のことを嫌いじゃなくなって。近くで見ているうちに、いつの間にか大好きになったんだ。
だからよーー
『守るんだろ、大事なものっ!』
『なら、こんなとこにいつまでもいるんじゃねぇよッ!!』
あたしは雫のドライバーに手をかける。そのまま『エコー』のメモリを強引に引き抜いた。同時に、あたしのドライバーからも『イービル』を抜いて、
『あたしの全部、お前にやるから』
きっとそうしたらあたしはお前を守れなくなる。直感がそう言ってる。けど、それでいいんだよな。
『もう……大丈夫だよな、雫』
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『……大丈夫です』
わたしは目を閉じ、ポツリと呟きました。その言葉は空に消え、霧散する。
『戦闘中に目を反らすなど!』
ーーブンッーー
目を開ければ、そこには『エコー』ドーパント。音の衝撃を付与された拳をわたしに向けて振るってきました。けど、遅い。遅いし、弱い。
ーーガシッーー
『な!? 受け止めてーー』
『……邪魔です』
ーーーーーーバギィィィィッーーーーーー
『かはっ……!?』
その一撃で、『エコー』は動きを止めました。完全に入ったのが拳から伝わります。
込められた感情は怒り。
お姉ちゃんの姿を騙ったことへの怒り。わたしを操り、『イービル』さんと戦わせたことへの怒り。そして、秀平さんを傷つけたことへの怒り。わたしの中に渦巻く『負の感情』は爆発する。
『終わりです』
『イービル マキシマムドライブ』
ドライバー右のマキシマムスロットにメモリを装填した瞬間、拳にエネルギーが集まっていくのが分かります。それは黒色の稲妻へと変換され、一気に
ーーーーーーバチバチバチバチッーーーーーー
炸裂した。
ーーパリンッーー
「か、は……っ」
『エコー』は彼女の体外へ排出されて、破壊されました。お姉ちゃんと同じ顔をした彼女を見る。けれど、彼女への憎しみはもうありません。
「へぇ……負の感情を全てマキシマムに変換したってワケ」
『そう、みたいですね』
わたしの戦いを見て、『フーカ』さんはそう言いました。わたしもよく分かっていませんが、恐らくその通りなのでしょう。だから、今のわたしには胸の中で泥々と渦巻いていた『エコー』の彼女への感情はない。
「ふーん。ま、元々、シューヘイくん以外はどーでもいいし、あの娘がやられちゃっても支障はないケド」
そう言って、彼女は懐からメモリを取り出しました。
『アイズ』
メモリを飲むように舌へ差す彼女。不気味な目玉が彼女の体を覆い、やがて彼女はいつか見た姿へと変貌を遂げました。
『さ、決めようか♡ シューヘイくんの彼女に相応しいのはどっちかをさ』
両手を広げ、空を仰ぐように言い放つ『アイズ』。わたしは彼女の言葉にこう返しました。
『いいえ、秀平さんはそもそもわたしの恋人です』
『…………はぁ?』
それはただの事実です。紛れもない真実。
『秀平さん!』
「え、あ、はい?」
『一応確認ですが、この人とは何もないんですよね』
「あぁ、何もないさ。前世では幼馴染だったこともあるが、今じゃあ、そいつはただのストーカーだ」
『だ、そうですが?』
秀平さんに再確認をして、もう一度彼女へ伝えます。秀平さんの彼女に相応しいのはどちらか、でしたっけ?
『言っておきますが、貴女とは最初から勝負になっていませんから!』
『~~~~~~ッ』
声にならない声をあげる『アイズ』。顔は見えなくても完全にキレているのが分かりました。
まったく……キレたいのはこっちです! 人の大事な恋人を盗ろうとして、挙げ句の果てに傷つけて。
『許せる訳がありませんっ!!』
ーーブンッーー
最短距離へ拳を打ち込みます。
ーーガシッーー
けど、その攻撃は受け止められました。不意打ちで完全に避けられなかったはずなのに、読まれてる。これがもしかして、『アイズ』の能力……?
『ざ~んねん。バレバレよ』
『っ、はっ!!』
ーードゴッーー
死角からの回し蹴りも止められます。
『なら、これでどうですか!』
ーーブンッーー
『見えてるってばァ!』
ーースッーー
突き上げるような形で放った拳を、今度は最小限の動きで避けられてしまいました。やっぱり、こちらの動きを完全に見切っているみたいです。
「雫ちゃん! 『アイズ』は予備動作でこっちの次の攻撃を読んでくる! だからーー」
『分かりましたっ』
わたしの身を案じ、秀平さんはそう言ってくれました。そんな彼の言葉に頷いて、わたしは次の攻撃へ移る。
『はぁぁぁっ!!』
ーーブンッーー
『アハッ、シューヘイくんの話聞いてたぁぁ?』
ーーグッーー
再び殴りかかる。勿論、『アイズ』はそれを予知して、止めようとしてきました。だけど、そんなの関係ありません。だって、
ーーバギバギバギバギッーー
『~~っ!? 腕、がっ!?』
受け止められても、それを上回るパワーで防御ごと壊しちゃえばいいんですから。
わたしが目の前の彼女へ向ける怒りがあれば、『イービル』の力はどこまでも上がっていく。その攻撃力に上限はない。
『な、んでっ!! 私は『ハイドープ』! 『アイズ』の能力も使いこなしてるはずなのにっ』
『このメモリには……『イービル』さんの思いが詰まってるんです。貴女の薄っぺらい力で受け止めきれる訳がありません!』
『ぐ、ぅぅぅあああぁっ!! 離れろォォ!』
宙に浮く2つの目玉を、こちらへ飛ばしてくる『アイズ』。目玉が光ると同時に、こちらへビームを放ってきます。でも、それも効きません。わたしはビームを殴り、軌道を反らしてそれを防ぎ切る。そして、一気に距離を詰めてーー
『これでーー
『イービル マキシマムドライブ』
ーー終わりです!』
それを発動します。再び右拳に集約される黒い稲妻。それをわたしは振り抜いた。
ーーブンッーー
けど、拳は空を切ってしまう。避けられた。
『ア、ハハハハハッ! そうっ、いくら攻撃力が高くても当たらなきゃ意味ないよねっ!』
『…………』
『アハハッ♡ このまま避け続けてあげるぅ♡』
『…………』
『避けて避けて避け続けてッ! 雫ちゃんが疲れたら倒せばいいッ! そうしたら、雫ちゃんの目の前で、シューヘイくんをじーっくり私のモノにしてあげーー』
得意気に、そう言う『アイズ』。こちらを煽るような笑い声。それが堪らなく腹立たしくて。
『ーーうるせぇよ』
思わず口を突いて出た言葉。それはまるで『彼女』の言葉のようで。だから、思わず笑ってしまいました。
『何、余裕かましてるのッ! そっちの攻撃は私には当たらない! 当たらなきゃ勝てないでしょうッ!?』
『そう、ですね』
ーーバチッーー
当たらなきゃ勝てない。避けられ続けたら勝てない。
なら、答えはひとつだけです。
ーーーーーーバチバチバチバチバチバチーーーーーー
『避けられない広範囲攻撃。これならどうですか』
黒い稲妻は前へ突き出した拳の周りで肥大化していく。それは避けたとしても確実に巻き込まれるほどの出力です。
『っ、そんな、イヤッ、今度こそシューヘイくんを私のモノにしたかっただけなのにッ』
『ーーさようなら』
『エコー マキシマムドライブ』
『イービル』で蓄えた稲妻は、『エコー』のマキシマムドライブによって撃ち出されてーー。
ーーーーーーーー
「……ふぅ」
全部、終わりました。
マンションに空いた巨大な穴から見える空を目にしたせいか、体から一気に力が抜け、わたしは倒れてしまいます。
「あ、あれ……?」
急激に押し寄せてくる眠気と疲労感。同時に感じるのは、
「お疲れ、雫ちゃん」
「しゅうへい、さん……」
倒れたわたしを膝枕してくれる秀平さんの体温で。
怪我してる。その呟きに、秀平さんはお互い様だと返してくれて、もっとあったかい気持ちになりました。
「ありがとな、助かった。たぶん雫ちゃんが助けてくれなかったら、俺は一生あいつに監禁されてただろうよ」
「それは、イヤですね……」
「あぁ、最悪だ」
「……この間のデートとどっちがイヤです?」
「……雫ちゃんに嫌われるよりは監禁の方がマシかもな」
「ふふっ」
何気ない会話を交わすわたしたち。
……よかった。秀平さんを取り戻せて、本当によかった。じんわりと浮かんでくる安堵の気持ちに浸りながら、ボーッとする頭で彼を見上げていると、不意にーー
ーーつうっーー
「あ、あれ……なんで、涙なんか……」
ーー涙が流れてしまう。両手でそれを拭うけど、溢れてきて止まりません。
おかしいですよね。秀平さんを取り戻せて、悲しい訳なんてないのに。嬉しいはずなのに。
そんなわたしの頭を秀平さんはひとつ撫でて、静かに一言だけ。
「…………2人のおかげだ」
その言葉のせいで、わたしの涙は止まらなくなる。
わたしは、大好きでこれから隣を歩いていきたい大切な人を守れた。
でも、その代わりに、今までわたしを大事にして守ってきてくれた大切な人を失った。
「ーーーーっ」
ーーーーーーーー
ごめんなさい。
大丈夫って、わたしは言ったけれど。
貴女に安心してほしくて、そう強がったけれど。
それでも今だけは。
泣き虫なわたしのままでいいですか。
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次回、エピローグ。