転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
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「メモリの名は『エコー』。音を反響、増幅させて攻撃する『ドーパント』だ。姿が見えなかったのは、姿を消していたのではなく、視界の外から攻撃していたからだろう」
「以上が僕たちの調査結果だが、満足してもらえたかな」
「
「…………はい」
携帯電話から聞こえてきた少年の話に、俺はただ返事を返すしかできなかった。
俺の目算は本当に甘かったのだ。
公衆電話からかけた一本の通話という僅かな手がかりから、俺の存在を突き止め、俺ですら開けない携帯電話に連絡を入れてきた。もう降参である。
「では、こちらの質問にも答えてもらおうか。君は一体何者だい?」
何者、ね。
「……それも、もう調査済みなんだろ?」
「黒井秀平。風都市風吹町6丁目在住の29歳。恐らくガイアメモリを流通させている組織の一員だということは分かっているよ」
「だが、それだけさ。それ以上は『検索』できなかった」
なるほど、そういえばそうだったな。
この段階では、彼はミュージアム関連の『検索』はその程度しかできない。検索に閲覧制限がかけられているからだ。
ならばーー
「ふっ、そこまでは分かっているか。流石は『地球に選ばれた魔少年』だな」
「……君は、何か知っているのかい?」
「あぁ、知っている。組織のこと、ガイアメモリのこと、そして勿論、君のこともね。フィリップ」
「!!」
「だが、今は止めておこう。君も今は深入りをしない方がいい。直に時は来る」
「っ、待てっ!」
彼の言葉を遮るように、俺は携帯電話の通話終了ボタンを素早く叩いた。
「っ、ぷはぁっ!! ヤバかったっ!!!」
息を吐く。どうにか誤魔化せたか?
正直な話、ここまで早く俺に辿り着くとは思っていなかった。組織に関することは、閲覧できる範囲が限られているとはいえ、これ以上深入りされれば、俺個人はきっとガイアメモリ不法所持の罪で逮捕される。こちらは『マスカレイド』しか使えないのだ。『仮面ライダー』に来られれば詰む。
だから、ハッタリをかましたのだ。大物ぶることでそれ以上踏み込むのは危険だとあの魔少年に判断させた。
その辺は我らが組織のボスを参考にさせてもらった。警察が園崎家をグレー視していてもいまいち立ち入れないのは、あのボスの雰囲気があるからだろう。無論、俺のやった大物ごっこは、あの人からは格段劣るけどな。
まぁ、それはともかく……。
「たしか、風吹町6丁目だったな」
メモリの正体以上の収穫があった。
『ドーパント』の方は『仮面ライダー』がどうにかしてくれる。それよりも、俺は自分の住所を知ることができたのだ!
これで家に入れる! 柔らかいベッドで眠れる!
ウキウキ気分で、俺は自宅の鍵を握りしめ、スキップをするのだった。
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「あんまりだぁ……あんまりだぁ……」
泣き崩れる俺。目の前には警察の家宅捜索を受ける自宅。
あんまりだぁ……。
『マスカレイド』になって、俺の家を家捜しするあいつらをしばいてやろうかとも考えるが、止めておこう。そんなことをしたら、先ほどのハッタリの意味がなくなる。
「はぁ、仕方ない。またネカフェ生活をーー」
ーードンドンドンドンーー
「っ!?」
自宅を背にして歩きだそうとしたその時、あの音が三度聞こえてきた。同時に、周囲を警戒する。
どこだ! どこから攻撃してくる!?
「ちっ、見つけられるほど近くにはいないよなっ」
残念ながら、ここからじゃあ見えない。だが、相手の種は割れている。
『エコー』……つまり、反響させるものが近くになければ、攻撃は来ないはずだ。
トイレの時は、コンビニの店内に。
2回目の襲撃では、路地裏の建物に。
それぞれ音を反響させて攻撃していたのだろう。ならば、開けた場所にいる今ならば、あの打撃音のような音こそ聞こえても、攻撃はーー
「きゃぁぁっ!?」
「ぐぁっ!?」
「いてぇぇっ!?」
ーードゴンッーー
「がっ!?」
殴られたような衝撃が俺を襲う。同時に聞こえてきたのは、家宅捜索する警察を眺めていた野次馬たちの悲鳴だった。
メモリの正体を知っていたから、俺でもその光景の意味を瞬時に理解できた。こいつは……。
「人間を使って……音を反響させやがったのかよ……」
暴挙。そう言っていいだろう。
霧彦曰く、『エコー』に襲われた黒服が持っていたアタッシュケースーーガイアメモリは無事だったという。
もしメモリ密売人を襲い、強力なメモリを手に入れるのが目的ならば、メモリが現場に残っているのはおかしい。
つまりは、メモリ密売人を襲う行為自体が目的、そう考えるのが自然だ。だから、『エコー』は他の人間には被害を及ぼすことなく、俺達だけを襲っていた。
なのに、今は街の人間を無差別に襲っている。俺を襲うために。
メモリの毒素が回っているんだろうな。
「くそっ」
俺は走り出した。
あてはない。とにかく人気のない場所に!
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「はっ、はぁっ……」
肩で息をして、どうにか整える。辿り着いたのは工事現場。休工中のようで、人の気配はない。
ただ1人、『そいつ』を除いては。
『…………見つけた、見つけた』
『エコードーパント』。
中世の音楽家のような服装の体とは対照的に、複数の音波が常に響き合って形作られているような不定形の頭部は、凡そ生物のそれとはかけ離れていて、奴が『ドーパント』であることを物語っていた。
フラフラとした足取りだが、確かに1歩ずつ俺に向かってくる『エコー』。10メートルほどで止まり、瞬間、頭部が震え始めた。
ーードンドンドンドンーー
「っ、またかよっ」
例の音は頭部から……いや、これは俺の中から響いてるのかっ!?
『その音はお前の心音を拡大したもの……反響する音を集約させるための的だ。私から放たれた音波は、その音に共鳴し向かっていく』
「丁寧な解説、どうも」
軽口は叩くが、非常にまずい。
この音が攻撃の的ならば、音を聞いて避ければいいと思っていた。だが、これは奴が拡大した俺の心音ーーつまり、心臓を止めない限りは鳴り続けるものだ。言ってしまえば、回避不能。
「……っ」
『マスカレイド』
今まで姿を見せなかった奴が現れたのだ。しかも、能力解説のおまけつきで。
それはつまり、ここで確実に俺を殺すという意志の現れだろうよ。メモリの格差は分かっていても、変身しておかなきゃ恐らく一撃で死ぬ。どちらにせよ死ぬなら、少しでも可能性がある方に賭けるしかない。
ーーゴンッーー
『くっ!?』
衝撃は左腕へ。当たった瞬間に跳び退き、ダメージを少しでも減らす。
ーードンドンドンーー
ーーバキッーー
『~~っ』
次は右肩。跳び退く。
次は……その繰り返しになるだろう。
キリがない。いいや、きっと先に限界が来るのは俺の方だ。『マスカレイド』の自爆機能や攻撃能力の低さを考えても、それは明らかだった。
ほら、相手さんも全然余裕で……。
『はぁっ……はっ』
よく見れば、奴の様子は変だ。こちらからは一切攻撃をしていないというのに、肩で息をしている。
それではまるで……。
『お前、メモリの毒素にやられてるのか……』
『うるっ、さいっ!!』
ーードンドンドンドンーー
ーードゴッーー
『か、はっ!?』
俺を黙らせるかのように、腹にくる衝撃波。息ができなくなり、思わず膝をついてしまう。
まずい。そう本能が叫んでいる。恐らく次にもう一撃もらってしまえば、俺は死ぬだろう。
そんな事情も知らず、いや、知っていたとしても奴には好都合なのか。ともかく、奴は覚束ない足取りで、俺に近づき、その首を掴んだ。
『苦しいかっ! なぁ、苦しいかっ!!』
『……あ、あぁ、やめて……ほしいね』
『っ、誰が止めるものかっ! やっと、やっとお前を探し当てたんだっ!!』
『エコー』の声にこもった感情は、首を絞められ朦朧とし始める俺でも読み取れた。
それは『憎悪』だ。
こいつの目的は……そうか。メモリの密売人を襲うことじゃない。俺を襲い、殺すことだ。
『お前はっ、私のこの手で……うぅっ』
『!』
首を絞める手が緩み、俺はその隙を突いて、逃れる。
自らの首を撫でながら咳き込んでいると、目の前で『エコー』が変身を解いた。
女、だった。
長身で切れ長の目。見た目から気が強そうな印象は受けるが、美人であることは間違いない。
その美人が膝と手を地面につき、ぜえぜえと呼吸している。苦しんでいるようにしか見えない。やはりメモリが身体に合っていないんだ。毒素で身体が蝕まれている。
「お前は殺す、殺さなきゃ……っ」
『なんで、そこまで俺を……?』
「なんで、だとっ!」
俺にとっては当然の疑問。だが、それが彼女にとっては逆鱗に触れる行為だったようで、這いながらも俺の方へ向かってきて、
ーーガッーー
胸倉を乱暴に掴まれた。至近距離で彼女の目を見る。メモリに蝕まれる前はきっと綺麗な目だったろう。だが、今は隈もできて、血走った目をしていた。
「お前の、お前のせいでっ! 私の家族は死んだんだッ!!」
激情を俺にぶつけて、彼女はそのまま息絶えた。
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今回の一件で、俺が手に入れたもの。
1、『エコー』のガイアメモリ。
2、自身の過去への猜疑心。
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N編終了。
次回、新章。