転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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08 拒絶する世界

ーーーー同時刻・風都タワー第1駐車場ーーーー

 

 

「ほら、悔しかったら追ってきてみやがれ~! ハーッハッハッハッ!!」

 

 

時間的には雫ちゃんが霧彦たちと合流しているであろう時、俺は全力で逃げていた。相手は『NEVER』の一員・堂本剛三と芦原賢だ。本当は4人まとめて引き付けられればいいんだが、流石にそれは欲張りすぎだ。雫ちゃんにも、無茶はしないって言っちまったしな。

 

 

「逃げ足の速い……」

 

「いい気になりやがってェっ!! おい、芦原ァ!」

 

「あぁ」

 

『バレット』

『アイアン』

 

 

ガイアウィスパーが耳に入ってきたことで後ろの2人が本気になったのが分かった。『NEVER』の中でも一段と武闘派な奴等だ。捕まれば命はない。だから、叫ぶ。

 

 

「お前らのボスは大道克己じゃねぇのかよ!」

 

『『ッ』』

 

 

その一言で、またも奴等は動きを止めてくれた。

なるほど、分かってきたぜ。

今の『NEVER』の親玉は決して最初からその地位にいた訳じゃねぇ。恐らくだが、元々の『NEVER』は原作通り、大道克己がボスの組織だったんだろう。そこに『転生者』が成り代わったんだ。たぶん『チート』かメモリの能力でな。

だが、それは完璧じゃない。『NEVER』の奴等の頭のどこかに、うっすらだが大道克己が残っている。だから、それが拒絶反応として出ているのだ。勝機はそこにしかない!

 

 

「時間いっぱい粘ってやるよ」

 

 

あわよくば、大道克己のことを思い出させ、親玉を共通の敵として叩ければいい。勿論、高望みはしない。今は雫ちゃん達が親玉を倒してくれるのを待つのみだ。それまで全力で逃げる! そんな覚悟をしたその時だった。

 

 

ーーザザッーー

 

『剛三、賢。それ以上は追わなくていい』

 

 

またもスピーカーを通して、声が流れてきた。それ以上は、というのだから、恐らくここの様子を監視カメラか何かで見ているのだろう……あった、あのカメラか。

 

 

「おい、『NEVER』の親玉!」

 

 

カメラに向かって、俺は指を差す。奴の注意を一瞬でも長くこちらへ引き付け、雫ちゃんたちの襲撃を成功させやすくする。さぁ、舌戦スタートだ!

 

 

『黒井秀平。君の仲間たちは僕に敗北したよ』

 

「は?」

 

 

動揺。いや、これはブラフだ。監視カメラを見ているのならば、雫ちゃんたちが制御室に向かっているのは奴も知っているはず。そもそも雫ちゃんや霧彦があっさりと負けるはずがない。だから、これは俺を動揺させるためのウソっぱちだろう。

 

 

「馬鹿も休み休み言え! あいつらが簡単にやられるわけねェだろっ!」

 

『信じるか信じないかは君次第だ。けれど、それは紛れもない事実』

 

「ハッ、大道克己に成り代わる辺り、よほど拗らせた『転生者』の言うことなんて信じるわけがねぇぜ」

 

『拗らせた、ね』

 

 

俺の言葉に嘲笑を返してくる声の主。そいつは白服とは違い、煽られることなく冷静に言葉を続けた。

 

 

『それはそちらの方だろう』

 

「あ?」

 

 

『黒井秀平。君はこの世界の『欠陥』だ』

 

 

『欠陥』。

奴はそう言ったが、笑えるぜ。確かに『転生者』である俺は異物ではある。だが、俺にはもう風都での居場所がある。それを知っていて、そう言うのであれば、こいつは相当の馬鹿だな。

 

 

『居場所? そんなもの『欠陥』である君にあるのかどうか甚だ疑問だが』

 

「あ? なんだ、喧嘩売ってんのか? なら、早く姿を見せろよ。殴り合おうぜ」

 

『……物騒なのは嫌いなんだ。君が『欠陥』かそうでないかはきっとこの世界が決めてくれるさ』

 

「は? なに言ってーー」

 

 

そこまで言って気づいた。こちらに向かってきている『そいつ』の存在に。『NEVER』ではない。あれはっ!

 

 

「『ナスカ』!?」

 

『…………』

 

 

青い『ナスカ』ーー霧彦なのか? いや、きっと『T2』で他の誰かが変身した『ドーパント』だろう。くそっ、他人とはいえ、『ナスカ』を送り込んでくるとはな。若干嫌な気持ちになるから止めてほしい。

まぁ、いい。とにかく今の俺は戦えない。撤退あるのみだ。

 

 

『黒井くん』

 

「っ」

 

 

背を向けた俺の足を止めたのは、『ナスカ』から発せられた声のせいだ。エコーはかかっていても、間違えるはずがない。この声はっ!?

 

 

「霧、彦?」

 

『…………あぁ』

 

「おいっ、ここでなにしてんだ! 雫ちゃんは!? お前と一緒に制御室で『NEVER』の親玉をーー」

 

 

ーーザンッーー

 

 

「なっ!?」

 

 

間一髪だった。俺の目の前を剣が切った。一歩間違えば斬られていた。本気の攻撃。霧彦も『NEVER』の奴等みたいに洗脳されてんのかよ!

 

 

「くそっ! おい、霧彦! しっかりしろ!」

 

『黙りたまえ』

ーーブンッーー

 

「っ」

 

 

洗脳。その言葉で脳裏を過るのは、1年前の雫ちゃんの姿。だが、あの時とは全く違う。霧彦は明らかな敵意をもって、俺を殺そうとしている。それでも『NEVER』同様に、突破口はあるはずだ。霧彦の記憶に俺が少しでも残っているなら!

 

 

「思い出せ、霧彦! 俺とお前は仲間だろっ」

 

『ふんっ!』

ーーザンッーー

 

 

なんでだっ!? なんで俺の言葉が届いてねぇんだよっ!

『NEVER』の奴等は大道克己の名前だけで、記憶を刺激することができてたじゃねぇか! なんで、なんで……俺の言葉が響いてねぇんだよ……。

 

 

『逃げるなッ』

ーーザンッーー

 

ーーガクンーー

「っ」

 

 

『NEVER』から逃げ続け、霧彦からの攻撃も避けて避けて。既に限界は来ていたんだ。だから、急に脚から力が抜け、その場にへたり込む。

 

 

「くっ……俺だ、黒井だって! 霧彦っ!!」

 

『…………』

 

 

何の反応もなく、霧彦はこちらへ向かってくる。俺は座り込んだまま後退って。

 

 

ーードンッーー

 

 

何かに当たった。壁じゃない。人の温もり。しかも、俺がよく知っている彼女の……。

っ、怖い怖い怖い怖い。この状況だ。それが何を意味するかは容易に予想できてしまう。けど、それだけは嫌だ。この人だけはーー

 

 

「秀平くん」

 

 

耳元で、彼女は囁いた。優しく、それでいてどこか艶やかな声だ。聞き慣れた安心できるはずの声。なのに、今は俺の心をザラザラと削るような錯覚すら覚えてしまう。

 

 

「ねぇ、秀平くん」

 

「雫ちゃーー」

 

 

 

「死んでください」

 

 

 

言っただろ、俺の悪い予感は当たるんだ。

……あぁ、分かってるさ。霧彦と同じだ。洗脳されているだけ。だから、その言葉が本物でないことくらいは。けれど、俺は彼女の方を振り返れない。それでも俺の耳元で彼女は囁き続ける。

 

 

「っ、止めろ」

 

「いいえ、あなたはここにいちゃダメなんです」

 

「違うっ、雫ちゃんはそんなこと、言わないッ」

 

「わたしはわたしです。あなたは死ななきゃいけない」

 

「止め……雫ちゃん、俺は君が大好きだ……君もそうじゃねぇのかよ……っ」

 

「関係ありません。あなたはここにいちゃいけない」

 

「っ……頼む、頼むから……止め……てくれ……」

 

「お願いです、秀平くん」

 

 

 

「この世界から消えてください」

 

 

 

何かが崩れる音がした。

お願いだから止めてくれ。これ以上はもう聞きたくない。耳を塞ぐ。うずくまる。けれど、塞いだはずの耳にまだ声が入ってくる。

 

 

『君の存在は風都を汚している。私が排除する』

 

「止めろ……霧彦……止めてくれっ」

 

 

この世界で最初に俺を認めてくれた友人。

彼は今、俺の存在を否定している。

 

 

「なんで死んでくれないんですか、秀平くん。仕方がないですね。死んでくれないんなら、わたしが殺しますね」

 

「雫ちゃん……お願いだ……」

 

 

俺を愛してくれて、家族になってくれた最愛の女性。

彼女は今、俺を殺そうとしている。

 

 

「っ、なんでっ……なんでこうなっちまうんだよ……」

 

 

自分の体を抱きうずくまったまま呟いた言葉は、2人には届かない。俺自身も何も聞きたくないと頭が耳から入る音を否定し始める。何も聞こえない、無音の世界で喉元に触る『ナスカ』の剣の冷たさだけが伝わって。

 

 

「……嫌だ」

 

 

だから、

 

 

 

ーーブゥゥゥゥンッーー

 

 

 

『「!?」』

 

「………………は……?」

 

 

その轟音にも気づかなかった。突如として現れたバイクが、俺の目の前にいた『ナスカ』を吹き飛ばしたのだ。呆然としていた俺に、バイクに乗ったその人物が手を伸ばす。

 

 

「乗って!」

 

「っ」

 

 

俺は反射的にその手をとり、その場を離脱した。

 

 

ーーーー風都署ーーーー

 

 

放心状態で連れてこられたのは、風都署だった。俺がバイクから降りたのを確認したその人は、ヘルメットを取る。

知らない女性だ。ショートカットで活発そうな人。

 

 

「あんたは……」

 

「あたしは銀野真希。竜兄の指示で、あんたを助けに来た」

 

 

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