転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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09 捨てる神あれば

ーーーー風都署地下ーーーー

 

 

風都署内にあるそのエレベーターは地下へと降りていく。やがて着いたのは、研究所のような施設だった。いや、まさに研究所なのだろう。しかも、いくつも設けられた厳重な認証付きの扉を見れば、ここが重要機密を取り扱っていることは想像に難くなかった。

4枚目の扉の認証が終わり、その部屋に入った真希と名乗る彼女は、改めて俺に向き直り告げた。

 

 

「ようこそ、G研へ」

 

 

G研。ガイアメモリ調査研究所。

ガイアメモリに関して俺に協力をしてほしいと、雫ちゃんを通して依頼があったのがそういえばG研だったな。

 

 

「そ、ここでガイアメモリの調査や解析をしてるんだ」

 

 

そうは言っても、今は解析担当が皆出払ってて、実働部隊のあたししかいないけど。

真希ちゃんはそう言って笑った。きっと誰もが好印象を抱く笑顔なのだろう。だが、今の俺の心には響かない。

 

 

「……助かった、ありがとう」

 

「助かったって顔してないな」

 

「いや、本当に助かったよ」

 

 

あのまま霧彦と雫ちゃんから拒絶され続けていたら、きっと俺はどうにかなってしまっていただろう。だから、助かったんだ、本当に。

 

 

「あんたのことは竜兄から聞いてる。黒井警部補の旦那さんで、協力者の1人だって」

 

「…………あぁ」

 

 

彼女の言葉に、静かに頷く。

 

 

「……あんた、大丈夫か?」

 

 

大丈夫、なんて言えるわけがない。あれは奴のメモリ能力か何かで、彼女たちの本心ではないと頭では分かっている。けれど、流石に堪える。

 

 

「すまねぇ、少し……そっとしておいてくれ」

 

 

俯いたまま俺は彼女に頼む。だが、

 

 

「ごめん。そうもいかないんだ」

 

 

俺の願いはあえなく却下されてしまう。

 

 

「あたしが風都タワーに行ったのは、竜兄からのメッセージが届いたからなんだ」

 

「メッセージ?」

 

「うん。『これからに街にばら蒔かれたメモリの捜索に向かう。もし俺からの連絡がなかったら鳴海探偵事務所を頼れ。そして、もしそこにも探偵がいなければーー』」

 

 

言葉を区切り、彼女はスマホを俺に渡してきた。画面に目を落とすと、そこには俺の顔写真が写っていて。

 

 

「この人を探せってさ」

 

 

力のない俺を? 疑問に思い、思わず顔を上げた。だが、その答えを彼女ももっていないようで、首を傾げるばかり。

俺は再びスマホの写真を見つめる。たぶんこの写真は俺と雫ちゃんの結婚式の写真を拡大したものだろう。少し画像が荒いのがその証拠だ。しかし、謎だ。なぜ照井竜がこの写真を持っている? 勿論、雫ちゃんの直属の上司だから式には招待していたが……。

……ダメだ。思考が散らかっていて、何も考えられねぇ。

 

 

「ん?」

 

 

画像から目を離そうとして、ふとあるものが目に入る。写真の右端。そこにかなり小さな文字で何か書いてある。式場にはそんな文字はなかったから、後で加工したものに違いはないが。

 

 

「A19……? なんだこれ」

 

 

心当たりの全くない文字と数字だった。

何かの住所? それとも暗証番号の類いか? どちらにしろ手がかりが少なすぎて分からない。

と、そこで何かに引っ掛かっていたような表情の真希ちゃんが小さな声で呟いた。

 

 

「もしかして……?」

 

 

そう言って、G研の奥の部屋へ進んでいく。俺もなんとなくその後ろに続く。カードによる認証とパスワードを入れ、そのドアを開けた真希ちゃん。開いたドアの先には、大量のケースが所狭しと並んでいた。

 

 

「なんだ、ここ……?」

 

「ここには、今まで押収してきたガイアメモリ、その中でも解析や調査が済んでないメモリが保管されてるんだ。正直、解析担当じゃないあたしには縁遠い場所だけど……あ、あった」

 

 

キョロキョロと何かを探すように歩く彼女の視線が、一点で止まった。俺もその視線を追い、見つける。『A』の文字。

 

 

「これ、メモリの頭文字か」

 

「うん。メモリは頭文字で分類するしかないんだってさ……そんで……これだ」

 

 

真希ちゃんが手に取った箱には『A19』とプリントしたシールが貼られていた。写真が現しているのは、これなのか? 迷うことなく、彼女はその箱を開けた。そこにはーー

 

 

「っ、なんでここに……このメモリが……?」

 

 

 

ーーーー風都署エントランスーーーー

 

 

ーー秀平くん、電話ですよーー

 

 

G研から地上へ戻ると、着信を知らせる雫ちゃんのボイスが鳴った。ドン引きしている真希ちゃんに構わず、スマホの画面を見る。知らない番号だ。こんな状況だから、奴等からかかってきた電話かと警戒しながら通話ボタンを押した。電話口から聞こえてきた声はーー

 

 

『黒井秀平の番号で間違いないね、僕だ。フィリップだ』

 

「っ」

 

 

フィリップであった。

 

 

「ッ、今までどこに行ってやがったッ!」

 

『すまない。羽原レイカの襲撃を受けて監禁されていた。母さんを人質に取られていたから下手なことはできなかった』

 

「…………っ、そうかよっ」

 

 

そう言われてしまったら、何も言えなかった。怒りの感情を抑えながら、静かに伝える。

 

 

「……お前と照井がいない間に、風都は大変なことになってる」

 

『照井竜もか。翔太郎とも連絡が取れない。黒井秀平、今の状況を教えてくれないか』

 

 

俺はひとつため息を吐き、エントランスの椅子に腰を掛けた。怒りや後悔を彼にぶつけないように、今は冷静に。状況をひっくり返すには、フィリップの力が必要だ。

 

ひとつひとつ話す。

『NEVER』の襲来と使っていた『T2ガイアメモリ』の種類。本来の親玉である大道克己の消息が分からないこと。そして、俺を襲った霧彦と雫ちゃんのこと。

 

 

『洗脳の類いの能力か。状況から考えて、照井竜も僕同様に監禁されているのだろう。僕や照井竜は精神干渉系能力への耐性がある。それを警戒した。とすると、翔太郎も敵の手に落ちている可能性が高い』

 

「……ずいぶん落ち着いてるんだな」

 

 

思った以上に、フィリップは落ち着いていた。元々クールな奴ではあるんだろうが、相棒のことになると感情を顕にするのが彼だと思っていたから意外だった。そんな俺の質問に、彼は答える。

 

 

『洗脳ということは殺される心配はないはずだ。勿論、心配はしているさ。けれど、同時に彼を信じてもいる』

 

「…………」

 

『君もそうじゃないのかい?』

 

 

霧彦や雫ちゃんを信じていないのか。そう問われている。責められている気すらしてくる。

勿論、信じているさ。だが、俺は元々この世界の人間じゃない。家族も友人もあいつら以外にいない。過去もない。居場所はそこにしかなかったんだ。そいつらに拒絶されることのキツさは、きっと俺にしか分からない。

 

 

『君はどこか人を喰ったような男だと思っていたから、ここまで動揺する姿は僕としても想定外だ。今回の事件についても、何か知っているんじゃないのかい?』

 

「知ってる訳……ねぇだろ」

 

 

『運命のガイアメモリ』は知っている。だが、既に現実はそこから解離している。もし友人や最愛の人が敵に回ることを知っていたら、今、こんなに動揺してねぇよ。

 

 

「……知らないことだらけだ」

 

『僕もさ』

 

 

少しだけ沈黙が流れ、電話口の彼が話を再開させる。

 

 

『……話が逸れたね、続けよう。ともかく、僕は残念ながら戦えない。『ダブルドライバー』も『ロストドライバー』も翔太郎が持っている。母さん曰く『ロストドライバー』も短時間で作るのは難しいそうだ』

 

「…………なら、照井しかいねぇだろ」

 

『あぁ、彼は僕たちで探そう。ドライバーは使えなくても、『ファング』も『エクストリーム』もある』

 

「じゃあ、俺は何をしたらいい」

 

 

そう問うた。何か役割をくれと。やることがあれば、このぐちゃぐちゃになった心とも向き合わなくて済むはずだ。

 

 

『何もしなくていいさ』

 

 

その期待は見事に裏切られる。何もしなくていいだと?

 

 

『あぁ。そもそも君は戦う力をもっていない。知識はあるが、一般人と変わらないんだ』

 

「だがよっ!」

 

『戦えない人間をこれ以上危険に晒すことは、僕はともかく相棒が許さない。彼と連絡が取れない僕は、翔太郎の信条を元に動く』

 

「…………」

 

 

俺は何も言えなかった。そんな俺の心情を少し読み取ってくれたのか、彼は言葉を続ける。

 

 

『……もし、できることがあるとすれば』

 

『君にしかできないことがあるんじゃないかな』

 

 

「俺にしか、できないこと……」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

戦う力もなく、唯一の取り柄である原作知識も現実とは大きく解離してしまっている。

そんな俺になにかできることがあるのだろうか。

 

左翔太郎やフィリップのような主人公でもない。

照井竜や大道克己、鳴海荘吉のような覚悟ある戦士でもない。

 

この世界で、俺はただのモブだ。

 

 

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