転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
ーーーー鳴海探偵事務所ーーーー
混乱したままの俺を連れ、風華は鳴海探偵事務所にズンズンと入っていく。そのまま客用のソファに寝転がった。
「は~~っ、これこれ~♡ 刑務所のベッドは硬くてサイアクだったんだよね~」
家主不在の事務所で寛ぐ風華。そんな風華に俺は訊ねる。
「なんで、お前がここにいる……風華」
当然の疑問だろう。こいつは刑務所にいるはずの人間だ。
「んー? 『NEVER』が刑務所を襲撃したの知らないの?」
……そういや、ニュースでそんなことも言ってたか。なるほど、それでこいつも出てきちまった訳かよ。
前世では俺を誘拐、監禁し、その上、俺を追って転生しやがった。粘着質が服を着て歩いているような、まさにストーカーの鑑みたいな女。雫ちゃんと俺を引き離そうとした上、雫ちゃんの目の前で、俺にキスしやがったことを思い出しただけで気分が悪くなる。
「クスクス、その雫ちゃんに殺されかけたのにぃ?」
「うるせぇ、黙れ……」
「~~~っ♡♡♡ シューヘイくんに命令されて、ぞくぞくするぅぅ♡♡」
チッ、この女に何を言っても無駄だったな。恐らくなんで鳴海探偵事務所に入れたのかも聞いたところで答える気もないだろう。ともかく助かったのは事実でーー
「ね、シューヘイくん」
「あ?」
「この世界から逃げちゃおっか」
形だけの礼を告げようとした俺の言葉を遮って、風華は微笑んだ。駆け落ちの提案ならお断りだ。そう返すと、風華は首を横に振る。
「言葉通りの意味だよ。持ってるんでしょ、『アナザー』メモリ」
反射的に懐のメモリ『アナザー』に視線を落としてしまった。これじゃあ持っているって答えているのと同じじゃねぇか。
「っ、お前……なんで知ってる……」
「シューヘイくんのことならなんでも知ってるよ♡」
「…………」
「怖い目も素敵♡ ……私の『転生者』としての力は『純正化』。そのせいで『純正化』されてないメモリに敏感なの」
『アナザー』を真希ちゃん伝いに渡したのは照井竜。一瞬、彼と繋がっているかとも思ったが、恐らく違う。『転生者』としての能力については全くの未知数だから、こいつの言う通りことに信憑性も……いや、今はそこはさして重要じゃない。
俺が思考を切り替えたのを察してか、風華は話を続ける。
「この世界の『黒井秀平』と共鳴して、並行世界を繋げるメモリに変異した『アナザー』。それを使えば、元の世界に戻れるはず」
「……俺は『
「うん、シューヘイくんの方がずっと魅力的♡ ま、その点はダイジョブなんだ。『これ』を使えばね」
そう言って取り出したのは『ロストドライバー』。『カンパニー』で製造していた代物だろう。まだ隠し持ってやがったのか。
「私の『純正化』で『アナザー』をシューヘイくん用に作り替えるの。それを『ロストドライバー』に使えば、世界は繋がる。元の世界に戻れるはず」
「…………」
「シューヘイくんは知ってるでしょ。この世界は『仮面ライダーW』の世界。フィクションの世界。でも、そこにいる私やシューヘイくんは、元々この世界の住人じゃない」
「そして、シューヘイくんは今、この世界に否定されたんだよ」
この世界の『欠陥』だと、不意に風都タワーで『NEVER』の現親玉に言い放たれた言葉を思い出す。
分かっていたつもりだった。俺にはこの世界に親はいない。ふるさともない。記憶もここ最近のものしかないんだ。俺自身が、この世界にいた『黒井秀平』に宿った『
ルーツは薄く、そもそも存在していること自体がおかしい。
「……分かってる、はずだったんだがな」
ポツリと呟く。自嘲めいた笑みさえ浮かんでくる。
「でも、私は絶対に否定しない。シューヘイくんのぜーんぶ受け入れてあげる♡」
「ダイジョブ。元の世界でもメモリの力は使えるから、嫌いな奴はみーんな、消しちゃえる。私とシューヘイくんが好きな世界にできる♡ サイコーでしょ♡」
無邪気な笑み。一ミリたりともそれが悪いことだとは思っていない笑顔だ。まぁ、良くも悪くも純粋に俺のことを好いているのだろう。
「……はっ、参った。風華、お前の提案が魅力的に聞こえる日が来るとは思わなかったぜ。悪魔の囁きだな」
「天使の間違いじゃない? それでどーするの、シューヘイくん?」
問いかけ、『ロストドライバー』を差し出してくる風華。俺はその手をーー
ーーーー風都タワー前広場ーーーー
風都タワー前の広場。本来、風都市民の憩いの場であるはずのその場所には今は人っ子一人いない。その中央に、彼は佇んでいた。
『………………』
漆黒の体に真っ赤な目。『仮面ライダージョーカー』ーー左翔太郎その人である。
彼も須藤霧彦や黒井雫と同様に、『エラー』による『欠陥』を引き起こされていた。だが、彼の風都や街の住人への愛は消すことができず、『エラー』による指令『風都への破壊工作』を否定した彼は、代わりに風都タワー前の広場で門番を命じられた。その際も、1人の怪我人も出していないのは、彼の風都への想いの為せる技であった。
そんな彼の元へ近づく影がひとつ。
「やぁ、翔太郎」
『……フィリップ』
左翔太郎の相棒・フィリップは、丸腰のまま彼に歩み寄る。
「何をしているんだい、君は」
『邪魔すんじゃねぇ、俺はここを守らなきゃいけねぇんだ』
「守る? 一体何から?」
『それは…………』
フィリップの質問に、翔太郎は固まる。その答えを持ち合わせていないからだ。
「事の顛末は黒井秀平から聞いた。翔太郎、君は敵の洗脳を受けているんだ。目を覚ましたまえ」
『…………』
「言っても分からない、か。なら、君の流儀に従おう」
そう言うと、フィリップは懐から『ロストドライバー』を取り出した。
「黒井秀平にああ言った手前、僕も僕にしかできないことをするとしよう」
黒井から聞いていた情報によれば、敵の洗脳は完璧ではなく、故に近しい者であれば揺さぶることもできるだろう、と。だから、左翔太郎の目を覚まさせるのは、相棒である自分にしかできないことだと自負していた。
『サイクロン』
『変身!』
風が纏わりつく。魔少年の姿が変わる。
緑色のボディと赤い複眼をもつ『仮面ライダーサイクロン』へと。
『殴り合って、仲直りといこう』
『ーーーーーーーー』
ーーブンッーー
開幕と同時に、『ジョーカー』が動いた。『サイクロン』の懐に入り、大振りの拳を叩き込む。
『くっ!?』
突然の攻撃に吹き飛ばされる『サイクロン』。そのままだと受け身も取れず壁に激突する。そこへ追撃をするために『ジョーカー』は駆ける。だが、
ーービュォォッーー
突風が吹き、『サイクロン』の後方へ風のクッションを作り、体を包み込む。風を操る『サイクロン』ならではの能力は、『ジョーカー』の想定外で。
『甘いよ、翔太郎!』
ーーガシッーー
突っ込んできた『ジョーカー』の腕を、体勢を整えた『サイクロン』が掴み、放り投げた。同時に、脚に纏わせた風で距離を詰める『サイクロン』。
『ハァッ!』
『っ、おらぁっ!!』
両者同じタイミングで放ったパンチ。体勢の差だ。腹を狙った『ジョーカー』の拳は『サイクロン』には届かず、受け止められる。一方で、風を纏った拳は『ジョーカー』の脇腹に入っていた。
『ハァッ!!』
『っ』
好機を逃さない連続攻撃。
フィリップらしからぬ勢いに任せた攻撃には理由がある。格闘能力や戦闘技術は、圧倒的に翔太郎の方が上だ。それを理解しているフィリップは、攻撃する暇を与えないという選択をしたのだ。その上、意識はあるとはいえ洗脳状態である翔太郎は、使用者の精神状態が性能に大きく影響する『ジョーカー』の本来のスペックを引き出せていない。
だからこその勢い任せの攻撃だ。尚も畳み掛ける。
『フッ!』
ーーザンッーー
『っ』
『サイクロン』が風を纏わせた手刀を、首筋に叩き込んだ。強化されたとて、首は人体の急所である。一瞬、ひるんだ隙を見逃さず、次々に攻撃を繰り出す『サイクロン』。だが、
『……甘いのはそっちだ、フィリップ』
『!』
『ジョーカー マキシマムドライブ』
ほんの一瞬の隙だった。戦闘経験値の高い『ジョーカー』は攻撃と攻撃の繋ぎ目に隙を見つけ、マキシマムを発動した。そして、
『ライダーパンチ』
ーーバギィィッーー
『サイクロン』の攻撃の勢いを利用した、カウンターパンチは『サイクロン』の腹を捉えた。クリーンヒット。メモリの力を最大限に高めたパンチは、肺に入った空気をすべて吐き出させ、意識を刈り取った。
『終わりだ』
『ジョーカー マキシマムドライブ』
再びのマキシマムは『ジョーカー』の脚へ。意識のない『サイクロン』に襲いかかる。
『ライダーキック!』
『…………そう。君はここぞという時に左足で決めにくるんだ』
『なっ!?』
『サイクロン』メモリの特性。それは風を取り込むことで使用者のスタミナを回復するというもの。
そう。風を、空気を取り込むのだ。『仮面ライダーサイクロン』にとって、酸欠による失神はあり得ない。
ライダーキックをギリギリで躱し、メモリをメモリスロットへ。
『サイクロン マキシマムドライブ』
マキシマムは『ジョーカー』を直撃。雌雄は決した。
勝敗を分けたのは、フィリップの翔太郎への理解度の高さと感情が抑制される洗脳による『ジョーカー』の性能不足。
「ギリギリだったよ、翔太郎」
「くそっ」
倒れ込んだ翔太郎の懐から『ダブルドライバー』を取り出し、彼に装着させたフィリップは『エクストリーム』を呼ぶ。『エクストリーム』にかかれば、洗脳を無効にできるだろうと考えてのことだった。この読みは正しく、この後、洗脳は解ける。
ひとつ息を吐いたフィリップは、空を見上げて呟く。相棒同士の対決の裏で、自らのすべきことを全うしているであろう男の名を。
「後は任せたよ、黒井秀平」
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