転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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14 交渉

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超能力兵士『クオークス』を育成するため、ドクタープロスペクトにより作り出された施設『ビレッジ』。その実態は、『村』という名前から想像もつかない弱肉強食かつ無慈悲な実験施設だ。強力な超能力に覚醒した者が地位を確立し、弱い者を支配して、力ない者はただ野垂れ死ぬ。その上、逃げ出そうとした人間は処分って……まさにディストピアだ。死んでも行きたくないね、そんな場所。

 

だが、俺はそんな危険な場所・世界線に飛んだ。

ミーナという少女の救出。それが俺の目的だからだ。

 

 

「という訳で協力しろ、大道克己。そうすればミーナを救える」

 

 

『NEVER』の親玉・大道克己にそう告げる。その脇には俺に警戒する羽原レイカの姿もあった。

 

 

「話は分かった。だが、お前を信用することはできん」

 

「あ?」

 

「まず、なぜお前が『NEVER』のことを知っている? 次に、敵の目的や主要戦力を知っているのも怪しい。そもそもお前は何者だ?」

 

「ずいぶんと俺に興味津々だな」

 

「俺は俺が認めた奴の言うことしか聞く気がないだけだ」

 

 

腕を組み、唯我独尊なことを仰る大道克己。その言動からは嫌味ったらしさや傲慢さを感じることはなく、むしろ威厳すら感じるのは、流石は大道克己といったところか。脱獄犯や極道など癖の強い『NEVER』隊員をまとめ上げるだけはある。この風格はあの『白服』や今回の偽親玉には出せるはずもない。

さて、ここが勝負どころだろう。包み隠さず全てを伝えるのはリスクがある。だから、何を話し、何を隠すべきかが重要だ。

 

 

「俺は……」

 

 

考える。思考、思案。その結果導き出されたのは、

 

 

「俺は未来から来た。だから、この『ビレッジ』が迎える結末も知っている」

 

「…………」

 

 

正確ではない。だが、完全に嘘ではない回答だ。俺を値踏みするような視線。

 

 

「過去が消えていくあんたが求める明日は、あんたの手にはねぇよ。今のままじゃあな」

 

「お前の手の内にはあると?」

 

「……あぁ」

 

 

半分はハッタリだ。だが、俺にはこういう戦い方しかできない。

……どうだ? 沈黙は時間にして1分ほど。その後に大道克己は席を立った。

 

 

「無駄な時間だった。行くぞ、レイカ」

 

「っ、待てよっ!」

 

 

その場を去ろうとする彼を呼び止める。ここで話が終わってしまってはまずいんだ。このままじゃあ、こいつを味方に引き込めない。大道が少しだけ心を許したミーナが彼の目の前で一度死に、それを完全なる死だと錯覚した彼は地獄に堕ちる。

人は皆、悪魔だと。そう思い込み、最後に残った人間性を捨ててしまう。今がその分水嶺なんだ。だからーー

 

 

「待ってくれっ」

 

 

今一度立ち塞がる。だが、

 

 

「レイカ」

 

「命令するな」

ーーガッーー

 

 

大道の言葉にそう答えつつも、俺を取り押さえ、跪かせるレイカ。くそっ、右肘の関節がキまってて動けねぇ!?

 

 

「5秒だ。5秒以内に諦めろ。でなければ、このまま腕を折る」

 

「っ」

 

「………………レイカ」

 

ーーバギィッーー

 

「がぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

 

宣言通り、彼女は俺の右肘を折った。激痛。だが、耐えろ。

 

 

「はぁ……はっ、痛ぇな……死体のあんたらとは違って、こっちは生きてんだ。ちっとは加減してくれよ」

 

「お前っ! 調子に乗ってッ!」

 

「止めろ、レイカ」

 

 

俺の挑発に乗り、もう一本の腕も折ろうとした羽原レイカを大道は止めた。憤る彼女を制し、大道は続ける。

 

 

「……次は脚を折る」

 

「はっ、やってみやがれ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「………………やめだ」

 

 

手を軽く挙げ、俺への拘束を解かせる大道。

 

 

「聞くだけ聞いてやろう。ミーナを救うにはどうすればいい」

 

「簡単だ。今、ドクタープロスペクトの屋敷に財団の人間が来ている」

 

「ほう」

 

「そいつが持っている『エターナル』を奪って、ドクターの『アイズ』メモリを無効化しろ。そうすりゃ、あいつらに刻まれた悪趣味な眼は閉じる」

 

「……『エターナル』」

 

 

俺の言葉を聞き、大道は思案する。自分達の競合相手であったガイアメモリを使うことへの葛藤はあるのだろうが……。

 

 

「大丈夫さ。そんな迷いなんてどうでもよくなるくらいに、あんたと『エターナル』は強く惹き合うはずだ」

 

「…………」

 

 

しばらく黙っていた彼は静かに頷いた。よし、あとはミーナたち『クオークス』の避難だ。これは原作通りに。

 

 

「羽原、君は他の『NEVER』と合流して、『クオークス』連中を連れて避難してくれ。ただし、合図があるまでは、くれぐれも『ビレッジ』から出ないこと」

 

「……ふんっ」

 

 

顔を背ける彼女だが、恐らく大丈夫だろう。

 

 

「おい、さっきお前は協力と言ったな。なら、お前に役割がないのはおかしいだろう」

 

「情報を教えたんだ。俺は高見の見物といかせてほしいぜ」

 

 

厳しくなる視線を冗談だと言い、かわす。なにもないに越したことはねぇが、やらなきゃいけないことはある。

 

 

「俺は大道、あんたと一緒に行く。そして、あんたが『アイズ』と戦ってる間に、ある男の相手をするさ」

 

「ある男?」

 

「あぁ」

 

 

大道克己がドクタープロスペクトと対峙する上で、避けては通れない相手だ。この悪趣味な箱庭の出資元。そう。

 

 

 

「『ユートピア』……財団Xの使者・加頭順」

 

「そいつを倒す」

 

 

 

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次回、第一決戦。

可能性の話ですが、見たい主人公は……。

  • 黒井(暗い方)
  • 霧彦
  • 風華
  • モブ顔三人衆
  • 白服

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