転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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第9話 Bの不文律 / 子供と大人

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原作で見たゴリラの巨大像がある通称ゴリラ公園に、俺と霧彦は来ていた。

そこには数人の中学生と思われる子供が何人かいて。物陰からその様子を窺う我々はまさに不審者そのものである。

だが、勿論、その怪しげな行為には理由がある。今ここで彼らに会うのはまずい。

 

 

『子供がそんなもん使いやがって! あぁっ!?』

 

 

そう。

俺たちの目の前には『仮面ライダー』がいた。ちょうど今、『彼ら』が『バード』を使った中学生と戦い、変身解除まで追い込んだところだ。

普通ならこれで終わり。だが、

 

 

「ゆういち、パスだ!」

『バード』

 

「なにっ!? メモリを使いまわししていやがったのか!」

 

 

1人の少年からメモリを受け取り、それを腕に差すもう1人の少年。瞬く間に『バード』へと姿を変え、『仮面ライダー』から逃げるように飛び立っていった。

 

 

「まさか! メモリを使用するにはコネクタ手術が必要だ。1つのメモリを複数の人間が使用できるはずがない」

 

「…………」

 

 

驚愕する霧彦とは対照的に冷静な俺。

なぜなら俺はその真相を知っているからだ。

 

彼ら中学生に『バード』メモリを渡したのは、園崎冴子、つまり、霧彦の妻だ。組織のボスから新しいメモリを増やすよう圧をかけられていた彼女は、未成熟な精神が及ぼす『ドーパント』への影響に目を付けた。

結果として、『バード』の本来の使用者であるバーバー風の一人娘は、自身が所属する陸上部のライバルたちを襲うことで、『ドーパント』として成長を果たしていくのだ。

勿論、『仮面ライダー』によって助けられるのだが。

 

ともかく園崎冴子の行動は、風都の未来を案ずる霧彦とは真逆の思想で、彼が望まない結末を生む。既に……いや、元から2人の思いはすれ違っている。

 

 

「さぁ、なんでだろうな」

 

「……っ」

 

「おい、どこに行くんだよ」

 

「決まっているっ! この件は明らかなルール違反。冴子に報告し、子どもたちにメモリを渡した売人を粛清する」

 

「……そうか」

 

 

それだけを返し、俺は霧彦の後ろ姿を見送った。

 

 

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霧彦が向かったのは、ディガル・コーポレーションで間違いないだろう。その目的は、社長である冴子に『バード』の話を報告し、調査してもらうためだ。

だが、無駄なことは分かっている。俺の選択は放置だ。

 

そんな俺が向かったのは、

 

 

「お待たせしました、生ビールです」

 

 

居酒屋・風花。

風花町にある昔ながらの居酒屋で、最近同僚が教えてくれた店であった。お通しと一緒に届いた生ビールを流し込む。

 

 

「ふぃぃぃ……生き返る」

 

 

渇いた喉を潤してくれるその一杯に、思わず親父くさい声が出る。昔はビールの良さなんて分からなかったが、今なら分かる。この一杯のために生きているという言葉が生まれる程度には、こいつは旨い。

 

さて、次はお通しである。普通、注文した料理が出てくるまでを繋ぐのがその役割だが、ここのお通しはひと味違う。素材がいいのか、大将の腕がいいのか。とにかく俺の味覚にぴったりハマるのだ。

 

 

「大将、今日は冷奴?」

 

「…………」

 

 

カウンターごしに大将は静かに頷いた。おっと、無口な大将に聞いたのは間違いだったな。ここは……。

 

 

「女将さん、上に乗ってるのはなんだい?」

 

「あぁ、玉ねぎとみょうが、それにツナだねぇ」

 

「ほう……それはそれは」

 

 

人当たりのいい笑みを浮かべる女将さんの言葉を受けて、改めて目の前のお通しと向き合う。そして、その冷奴に箸を入れ、口へ運ぶ。

 

 

「これはっ!」

 

 

絹ごし豆腐の柔らかな食感。そこにシャキシャキとした玉ねぎとみょうががアクセントとなっている。醤油もただかけただけではなく、少量のおろし生姜を混ざっている。香味野菜ということもあり、味のバランスがちょうどいい。

 

 

「……はい、こっちはタコの唐揚げね」

 

 

女将さんから出された次なる料理は、俺が席に座ると同時に注文した代物だ。シンプルながら旨いタコの唐揚げ。

早速、ひとつ摘み、口へ放り込んだ。

 

 

「!!」

 

 

口に入れた瞬間に、サクッとした食感を楽しめる。無論、タコ本来の歯ごたえもある。下味は恐らくだが醤油と少々の酒。それだけだろう。だというのに、この味の深みはなんだ。タコや油の旨味も生かした逸品の完成度の高さたるや称賛するしかない。

 

そんなこんなで小一時間俺は一人晩酌を楽しんだのだった。

 

 

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ほろ酔い気分で帰路に着く。帰路、つまり、自宅への帰り道である。

幸いクビの危機を回避した俺は、数日前に新たな住居を手に入れていた。勿論、組織から支給された築うん十年のボロアパートではあるが、それでもネカフェ暮らしよりは金もかからず気兼ねなく過ごせるというものだ。

住む場所もある。ひとまず仕事も安泰。金は少々心許ないが、それでも新しく作った銀行口座に給料も入った。酒も旨くて夜風も気持ちいい。

いいこと尽くめだ。

 

 

「………………」

 

 

ーーお前の、お前のせいでっ!ーー

ーー私の家族は死んだんだッ!!ーー

 

 

「ホント、いいこと尽くめ……だよ」

 

 

くそ……夜風に当たったせいか、酔いが覚めてきちまった。

だから、余計なことを考えてしまう。俺の過去のことや霧彦がこれから辿る未来。

そのなかで、不意に思い出したのは、ゴリラ公園でたむろしていた中学生たちの顔だった。

 

 

「…………大人の特権だよな、こういう自由って」

 

 

大人は色んなことに縛られて自由のない……いや、そう思い込んでいる子供たちとは違う。

酒を飲むのも自由。夜遊びするのも自由。そんな下らない自由な大人に子供たちは憧れるもんだ。

だから、きっと『悪いもの』に影響される。『悪いもの』に手を出そうとしてしまう。

そんな誘惑から守ってやるのは、大人の義務だろう。

 

 

「……はぁ、仕方ねぇか」

 

 

ひとつため息を吐く。

これは別に霧彦のためとか、贖罪のためとか、そういうんじゃない。

 

 

「大将のとこの娘さんも陸上部だって言ってたもんな」

 

 

強いて言うなら、俺のためだ。

俺が旨くて、楽しい酒を飲むためだ。

 

 

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孤独のグルメかよ。
個人的にはたこわさと日本酒が好きです。
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